もしもピカソとアインシュタインが出会っていたら?
ピカソとアインシュタイン。アートと物理でジャンルは違いますが、20世紀を代表する超天才同士。彼らが現れなかったら、その後のアートや物理の世界はきっと全く別のものになったでしょう。同時代に生きた二人ですが、実際に会ったことはなかったそう。でも、もしも彼らが出会っていたら? しかも、パリで当時サロン的な役割を果たし、芸術家たちが集った、あの「ラパン・アジール」で――。想像するだけでワクワクする設定の舞台『ピカソとアインシュタイン~星降る夜の奇跡~』が4月25日から開幕します。
俳優としても有名なスティーヴ・マーティンの作品で、日本では19年ぶりの再演となりますが、前回のキャスト、岡本健一さん(ピカソ)、川平慈英さん(アインシュタイン)以外に、ダブルキャストで三浦翔平さん(ピカソ)、村井良大さん(アインシュタイン)が加わりました。それだけではなく、どちらかがピカソとアインシュタインを演じる回では、どちらかがまた別の役を演じるスイッチキャストという、これまたワクワクする仕掛けのお芝居です。
そこで、今回は三浦さんと村井さんのお二人に今回の舞台にかける意気込みを伺ってきました。
――三浦さんは『髑髏城の七人』への出演も記憶に新しく、村井さんは舞台経験豊富でいらっしゃいますね。いずれにしても、映像作品と生の舞台では演じる側の心構えも違うと思います。ちなみに、観る側としては舞台をどんなふうに楽しんでいますか。
三浦:まだ本格的な稽古が始まっていないので、今はどう演じようか考えているところです。観る側としてはエンタメ作品が好きです。この作品もエンタメとしてすごく面白そうだから、楽しみにしています。
村井:僕はたとえば、今回のように歴史が大きな要素となる舞台を観る時は、時代背景をなんとなく把握してから観ます。そうすると舞台を倍、楽しめる。ただそれと同時に、あまり調べすぎないようにもする。というのは、舞台は結局“おはなし”ですから、必ずしも史実に沿っているわけじゃない。歴史の授業でもないし、純粋に舞台を楽しみたい。だから、半分くらい時代背景を頭に入れておく、ぐらいが僕はちょうどいいですね。
――今回の舞台も時代背景や人物像ははっきりしていますが、ピカソとアインシュタインが出会う、というのはフィクションですものね。
村井:そうそう。だから、ピカソとアインシュタインってどういう人だったっけ、とWikipediaなどでふわっとおさらいする程度で(笑)、観ていただくのが楽しいんじゃないかな? それは演じる僕も同じ。ピカソもアインシュタインも史実としてたくさんの記録が残っている人物ですが、史実に沿ったピカソ像、アインシュタイン像を気にしてしまうと、あまり面白くなる気がしません。だから、演じる僕も、史実の把握や役作りという意味では、半分半分でいきたい、と思っています。
三浦:先日、スペインとパリに行き、ピカソ美術館を訪ねてきました。これまでピカソといえば、それこそ“変な絵を描いた人”というイメージしか持っていなかったけれど、ピカソという画家の背景を知ることができたし、“変な絵”だけを描いていたわけではないこともわかりました。ただ、僕も村井くんと同じで、あまり実際のピカソ像にとらわれないようにしたいです。それに、僕が感じたピカソとみんなが感じたピカソだって違うでしょうから、極論ですが、「これが僕のピカソだ!」と言ってしまえば、僕のピカソ像としてはそれが正解になる(笑)。
村井:アインシュタインを調べるうちに、これまでぼんやりと想像していたイメージと違う一面にも気づかされました。アインシュタインというと、舌を出している陽気な写真が有名でしょう? でもあれは彼にしては珍しい唯一のおどけている写真で、他に残っている写真は笑っていないんですって。ユニークで奇想天外な発想をする明るい人だったのか、と思っていたので、意外でした。寡黙な人だったとわかったら、ちょっと身近に感じた。天才というより数学が何より好きな努力家だったんじゃないか、と。それで演じるのがより楽しみになりました。頭でっかちにならずに、僕なりのアインシュタインをお見せできたらいいですね。本人が楽しめていないとお客さんも楽しめない。だから、とにかく楽しみつつ、演じます!
1作品で2作品を演じるような舞台
――19年ぶりの再演で今回は前回のキャスト、岡本さんと川平さんがピカソとアインシュタインを演じるのがROSEチーム、お二人はBLUEチームですね。それだけなら普通のダブルキャストですが、今回の舞台はピカソとアインシュタインを演じない回では、それぞれシュメンディマン、未来からの訪問者という別の役柄を演じることになっているとお聞きしました。想像しただけで大変そう、と思ったんですが、出演の依頼があった直後のお二人の心境はいかがでしたか?
村井:「大変そう、でも面白そう!」かな?
三浦:僕もそう。そして「メリットしかない」と思いました。
――ええ~! メリットしかない……!
三浦:だって、そうでしょう? こういう作品、そうそうないです。確実に経験値が上がるはず。絶対、やりたいと思いました。
村井:1つの作品で2作品分の価値があるよね(笑)。三浦くんが演じる「未来からの訪問者」が誰かはまだ内緒。
三浦:舞台上でもズバリの名前は出ないけれど、観れば誰であるか、全員がわかる人です。未来からやってくる設定で登場するんですが、そちらの人物についても、下調べをしているところです。ピカソとアインシュタインにしても、その内緒の誰かにしてもそうですが、成功する前の時期です。ピカソだって飲み代を絵で支払っているような時代の話。未来を信じている時期を演じるのは楽しいだろうな、と思います。
村井:最近、考えるっていいな、と改めて思うんです。気になることを考えて、なんらかの答えを導き出す。仕事や育児など「やらなければいけないこと」は誰にでもあるけれど、それも含め、とことん考えて工夫して自分なりの答えを見つけていくという行動が「生きている」ということを実感させるんだと思う。そして、気になることを追求している人たちが集まると会話も弾むし、楽しい。そういう場はそこかしこにあると思いますが、今回の舞台はまさにそんな場所でのお話。今、自分は生きている!とお客さまと一緒に感じたいです。
三浦:僕も友達と集まって語り合うことはあります。楽しい時間ですが、まあ、結論はないんですよね(笑)。僕は押しつけがましいのが苦手なので、「それは違うと思う!」と相手を否定するようなことは言いたくないし、言われても困る。結局、自分の考えを再確認するんですが、最終的に「なぜ人類は生まれてきたのか」という話になる(笑)。
村井:そこ、行く!? すごいとこに行くなあ。壮大だね(笑)。
三浦:壮大なとこ行っちゃうのよ(笑)。もちろん、結論なんて出るわけない。でも、それでいいんだと思う。芝居も同じじゃないかなあ。結論を求めすぎずに、演じたり、観たりすると良いバランスになる気がする。
村井:三浦くんは未来より、過去を考えるほうが好きなの?
三浦:ああ、そう言われればそうかも。だって、未来はわからないもん。
村井:過去は起こった事象はハッキリしているから、「なぜそれが起きたのか」と「なぜ」を考えやすいかもね。
三浦:そうそう。誰が最初にウニを食べてみたの?とか、不思議なことが過去をたどっても、いっぱいあるじゃん(笑)。
村井:ウニねえ、確かに(笑)。そう考えると、今の常識だって、未来では変わっているんだろうしね。
ハッピーな空気を”押し風”にして生きていきたい
――演出のランダル・アーニーさんが「ここ数カ月と数年の世界の様子を振り返るにつけ、私は今回の再演はとても良き事だと感じます。なぜなら、私たちみんな、笑いが必要だから! そして何より、辛辣さを使わず、人間の本質的な善良さを信じる(そして、期待する)スティーヴの姿勢が今の世の中の栄養になるし、それは必要で、歓迎されるはず」というメッセージを寄せています。
三浦:ランダルさんが言うように、ハッピーな舞台をハッピーに演じれば、お客さんも喜んでくださると信じています。人間、いつだって、できれば笑っていたいじゃないですか。僕たちはいつか必ず死ぬんだから、生きている間はできるだけ、笑いましょうよ。
村井:僕もハッピーな空気を”押し風”にして生きるほうが好きですね。重い内容を重く演じてお客さんに重い気持ちで帰ってもらいたくはないかな。実際の社会では嫌な出来事が起こっているわけで、せっかく観ていただく舞台ではハッピーな空気を届けたいです。
――最後に、先輩であり、同じ役を演じる岡本さん、川平さんの演技を間近で見ながら一緒に舞台に立つ心境についてお聞かせいただけますか。
三浦:先輩たちの演技を目の前で観られるなんて、ラッキー!と思っています。自分とは違う部分や似た部分をその場で観て体感できる、こんな貴重な機会はなかなかありません。ラッキーとしかいいようがないです。
村井:僕は同じ役を演じるのが川平さんなので、あの強烈なキャラに引っ張られすぎて、自分らしさをなくさないように気を付けたい。ふだんから、キャラが濃い方なので、そこだけ心配です(笑)。
――昼夜と公演がある日もたくさんありますし、お体に気を付けて、舞台、がんばってください。楽しみにしています。今日はありがとうございました。
三浦・村井:こちらこそ、ありがとうございました!
取材・文=中沢明子 写真=植田修子
三浦さん:スタイリスト/根岸豪 ヘアメイク/清水恵美子
ジャケット¥290000・パンツ ¥96000・シューズ ¥106000(すべてエトロ)/エトロ ジャパン(TEL.03-3406-2655) その他スタイリスト私物
村井さん:スタイリスト/吉田ナオキ ヘアメイク/森かおり
『ピカソとアインシュタイン~星降る夜の奇跡~』
2019年4月25日(木)~5月9日(木)
東京都 よみうり大手町ホール
2019年5月12日(日)
大阪府 森ノ宮ピロティホール
作:スティーヴ・マーティン
演出:ランダル・アーニー
翻訳:香坂隆史
出演
ROSE:岡本健一、川平慈英/ 水上京香、吉見一豊、間宮啓行、香寿たつき、松澤一之 /三浦翔平、村井良大
BLUE:三浦翔平、村井良大 /水上京香、 吉見一豊、間宮啓行、香寿たつき、松澤一之 / 川平慈英、岡本健一
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中沢明子 Akiko Nakazawa
ライター・出版ディレクター
1969年、東京都生まれ。女性誌からビジネス誌まで幅広い媒体で執筆。LEE本誌では主にインタビュー記事を担当。著書に『埼玉化する日本』(イースト・プレス)『遠足型消費の時代』(朝日新聞出版)など。