死んだ夫は別人だった? 生きること、愛することへシリアスに斬り込んだ話題の長編
2019.01.20 更新日:2019.03.13

愛に過去は必要? 人を愛し直せる? 夫婦愛に斬り込む衝撃作

『ある男』 平野啓一郎 ¥1600/文藝春秋
「もしも別の人になって人生をやり直せたら」。誰だってほんのささいな瞬間に、こんな空想を膨らませたことがあるかもしれない。しかし実際にそんなことは可能なのだろうか? もしも可能だとしたら、人は別の人生をどう“生き直す”のだろうか? 前作『マチネの終わりに』で大人の恋愛模様を描き、大きな話題を呼んだ著者の最新刊は、生きること、愛することへシリアスに斬り込んだ話題の長編だ。
九州の小さな街で実母と再婚した夫、子ども二人と暮らしていたヒロインの谷口里枝。ところが夫の大祐は突然の事故で亡くなってしまう。大祐の一周忌ののち、里枝の元へやってきた義兄の口からこぼれたのは「男は自分の弟、谷口大祐ではない」という衝撃の事実だった。
混乱する里枝から真相解決の相談を受けたのが、かつて彼女の離婚裁判を担当した、弁護士の城戸だ。彼は里枝が再婚していた相手(作中では“X”と仮名が与えられる)が、なぜ「谷口大祐」になったのかを探る行為にのめり込んでいく。そしてXの足跡をたどるうちに、城戸もまた、自分と妻の間に横たわっていた心の溝に直面することになる。経済的にも一児にも恵まれている彼ですら「もしも別の人生を生きていたら?」と、思う部分が心の奥底にあったのだ――。
“Xが谷口大祐になるまで”の過程は、思わぬ展開の連続。だがそれ以上に注目したいのが、城戸の心の揺れ動き方だ。結婚して月日がたつうちに、妻にさめた気持ちを持ち始めていた城戸が、Xの生き方をなぞっていくうちに、愛に対する理解を深めていくところが、LEE世代的には最大の読みどころともいえるだろう。そして「別の人生を生き直したかったX」が、夫・大祐としてヒロインの里枝や家族に込めた思いへ触れた瞬間に、自身を生きる大切さと、他者との関係をつくっていくことへの希望がわき、なんとも言えない感動が胸を打つ。タイトル『ある男』も意味深く、自分やパートナーとの愛情をいま一度見つめ直してみるのきっかけとなる一冊になりそう。
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取材・原文/石井絵里 本誌編集部
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