夫婦のバランスが崩れゆく様に冷や汗のヒューマンサスペンス
『天才作家の妻 −40年目の真実−』
夫婦には、夫婦にしかわからない、事情や関係性があるもの。“好き”で結婚し、普段は気づかないフリをしていても、実は不満や鬱憤がたまっている人って、意外に少なくないのでは? ましてや長年連れ添った本作の夫婦には、いろんな複雑な思いがあって然るべき。さて、その不穏な足音は、何と栄えある“ノーベル文学賞”を夫が受賞すると決まり、式典が近づいてくると同時に大きくなりゆくのだった――。
巨匠作家ジョゼフ(ジョナサン・プライス)の元に、ノーベル文学賞受賞という吉報が飛び込んでくる。電話を受けた彼は、妻ジョーン(グレン・クローズ)と抱き合って大喜び。早速、マスコミが押し寄せ、ジョゼフはスピーチで妻への感謝を述べ、ジョーンは温かく見守っていた。ほどなく夫婦は駆け出し作家の長男を連れ、式典が行われるストックホルムに旅立つ。到着後、専属カメラマン付きでパーティやらリハーサルやら、有頂天のジョゼフに反し、ジョーンは無神経な夫の世話に辟易し始める。そこへ一人のジャーナリスト(クリスチャン・スレーター)が現れ、夫婦のある秘密を探り出そうとする――。
子どもみたいに夫婦がベッドで飛び跳ねて喜ぶ姿がほほえましいだけに、その後の展開に驚愕しつつ目が離せない! 父親に劣等感を抱く長男への夫の態度にイラッとするのも、妻は常に夫に同行すべきという態度の夫にカチンとくるのも、有頂天の体で美人カメラマンに色目を使う夫に情けなくなるのも、すべてに激しく共感! さらに夫婦の秘密や過去がわかり始めると、妻の複雑な胸中に思い至り、胸を掻きむしりたくなる。元祖・オカルト級に怖い女(『危険な情事』)グレン・クローズの演技が素晴らしく、その冷たい視線に肝が冷え、余計に心くすぐられる。一方、秘密には当時の時代背景が大きくかかわるだけに、女性としては歯痒くてたまらない。果たしてコトの顛末は――。ノーベル賞舞台裏を覗き見られるお楽しみもついた、なかなかに夫婦・家族ドラマとして味わい深い一作だ。(1月26日より全国ロードショー)
青春のきらめきと残酷を刻みつけた疾走感あふれる青春映画
『チワワちゃん』
取材・原文/折田千鶴子
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