「人形劇」というと、小学校の体育館で観た以来という方も多いのではないでしょうか。新宿に劇場を構え、子ども向けに人形劇を上映し続けている「人形劇団プーク」。慣れ親しんで育った子どもが親になり、二世で楽しむひとの姿も多いといいます。なぜこんなに息長く愛されるのでしょう。そのわけは、どうやら芝居作りに秘密があるようで……。
こだわり抜いた、子どものための人形劇
人形劇団プークは1929 年に創立、1971年に劇場をひらきました。人形劇専門の劇場をもつ劇団は日本でただひとつだけ。土日祝日、春・夏・冬休みを中心に、子どもに向けた公演を続けています。プークの舞台は、各分野の熟練したクリエイターが集まり、たくさんの時間と手間をかけて作り出される、珠玉の作品。もちろん人形も人の手によるもの。脚本、演出や美術、音響、照明、音楽といった細部までこだわり抜き、ようやくひとつの劇が完成します。そこに役者たちが加わると、人形に命が吹き込まれ、まるで生きているよう。なめらかでダイナミックな動きに、子どもたちからは「ハッ」「ワッ」といった声が漏れてきます。これは、人形劇でしか感じられない特別な体験!
人形や大道具には、子どもたちを夢中にさせるユニークな仕掛けが。背景が人形の動きに合せて動いたり、瞬時に回転することで、人形がどの方向に進んでいるのか、位置関係が理解しやすい。子どもに寄り添って作られているのがよくわかります。
芝居の前も後も、ゆっくりと過ごせる
劇場が新宿の地に根を下ろしたのは1971年のことだといいます。プークの名が彫られたビルはあたたかみに溢れた、愛らしい建物。劇場は地下のホール100席。劇場内は飲食禁止ですが、カフェでコーヒーやオリジナルクッキー、子ども向けのドリンクなどを求めることができるので、芝居の前後や幕間に休憩することが可能。キッチュな魅力が爆発したショップは、世界中から集められた指人形やバッジ、マグネットなどがずらり。人形劇関連の書籍も並んでいます。
今は手に入らない児童文学の名作を上映
2019年新春、プーク創立90周年を記念するお正月公演『怪じゅうが町へやってきた』が、新宿・紀伊国屋劇場を舞台に上演されます。原作は、フランク・ストックトン(1927)による児童文学で、 往年の人気絵本『かいじゅうたちのいるところ』のモーリス・センダックが、挿絵を手がけています。残念ながら原作本は、版権の問題で絶版となってしまい、入手が困難な状況……。アメリカ文学史に残る傑作で、児童文学の先駆けと言われている一冊だけに、この作品を埋もれさせてはいけないという強い想いも込められています。
ちょっぴり怖いけど、本当はやさしい怪じゅう
何千年もの時を孤独に生きてきた怪じゅう「グリフィン」が、町にやってきて大騒ぎするところから物語が始まります。上半身がワシ、下半身がライオンという、ちょっぴり恐ろしいルックス。でも本当は純真な心の持ち主なんです。人間との交流を通して、怪じゅうが町に残したものとは……。家族や大切な人を思い、自身の価値や、人としてあるべき姿をそれぞれが自分に問いかける。子どもにも大人にも強く響く作品です。
迫力いっぱいの怪じゅうが舞台をかけまわる!
この作品の見所は、何といっても怪じゅうの存在感。体長 3メートル以上のグリフィンが、翼を広げ風をきり舞台を駆け回る。その迫力と臨場感は圧巻です! 重さ約60kgだという大きな怪じゅうを一人で操る技術も、プークで受け継がれてきた技。一体、中はどうなっているの?と、気になってしまうほどです。
繊細な心の動きに感動する
プークの舞台では、泣く、笑う、怒る、悲しむ、といった心の動きを表す演出にこだわり、できるだけ繊細に描いているといいます。感受性の強い子どもたちは、表現の差に敏感なもの。演出によって、感情移入の度合いも変わるのだといいます。一緒に泣き、笑える人形劇は、映画や絵本とはまた異なる刺激的な経験になるはず。90年もの間、子どもたちの夢を育んできたプーク。ぜひ、皆さんも体験してみてください。
プーク公式ウェブサイトはこちらから
プーク人形劇場90周年記念・お正月公演「怪じゅうが町にやってきた」は、新宿・紀伊国屋劇場にて、2019年1月3日から上映。詳しくは特設サイトにて
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峰典子 Noriko Mine
ライター/コピーライター
1984年、神奈川県生まれ。映画や音楽レビュー、企業のブランディングなどを手がける。子どもとの休日は、書店か映画館のインドアコースが定番。フードユニットrakkoとしての活動も。夫、5歳の息子との3人家族。