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犬と山を愛する著者ならではの描写に魅了され、生きることのシンプルな幸せを感じられる一冊、他3編

2018.10.03 更新日:2019.06.11

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犬とともにいる人生の幸せが伝わる、すがすがしい成長物語

『雨降る森の犬』馳 星周 ¥1650/集英社

タイトルからわかるように、犬がモチーフの物語である。犬が好きな人はもちろん、そうでない人も、ぜひ読んでみてほしい。犬とともに生きることの幸せを、あふれるように感じずにはいられないだろう。そしてその幸せは、人が生きていくために、きっと必要なものなのだ。

主人公の雨音は中学3年生。父が亡くなった後、母は新しくできた恋人を追ってニューヨークに渡ってしまった。そんな母に反発する雨音は、信州の山麓に住む伯父・道夫とともに暮らすことを選ぶ。独身の道夫は愛犬・ワルテルと一緒に住んでいるが、雨音は初対面のワルテルから手厳しい挨拶を受け、深く傷つく。日がたつにつれ、少しずつワルテルと信頼関係を結べるようになりつつあったある日、隣家の別荘に年上の美少年・正樹がやってきた。人をいら立たせる正樹の行動に腹を立てる雨音だったが、正樹もまた複雑な家庭環境に悩み、行き場のない想いを抱えていた。やがて、ふたりは、山岳写真家である道夫に導かれながら、山の自然に親しんでいく。

自分勝手で強引な母との関係、将来の進路のこと、荒れる正樹への心配……雨音が不安に押しつぶされそうになるたび、ワルテルは雨音をさりげなく気遣うかのようにそばに寄り添い、そのぬくもりを伝える。言葉などなくても、ただそれだけのことが、雨音の心を慰め、困難に向き合う勇気を与えてくれるのだ。そんなふうに誰かを愛せるのは、「純粋に生き、純粋に仲間を愛する」犬だからこそできることなのかもしれない。人間はつい見返りを求め、自分にとって何が得かを考えてしまう生き物だ。だから、まっすぐな犬の生き方に憧れずにはいられなくなる。

犬と山を愛する著者ならではの描写に魅了され、道夫の大人としての厳しくも包容力のあるたたずまいにしびれ、折々に登場する料理のレシピにもそそられる。若い雨音や正樹とともに、生きることのシンプルな幸せをかみしめたくなる、すがすがしい一冊だ。

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取材・原文/加藤裕子

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