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LIFE

ママの詫び状

【ママの詫び状 第10回】子どものSNSチェックはどこまであり?

  • 河崎環

2018.09.15

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「ネットは怖い」ですか?

厚生労働省の最近(2018年8月)の発表によれば、ネット依存が疑われる日本の中高生は93万人。主な原因はスマホのオンラインゲームやSNS。2013年の前回調査からその数は倍増し、男子よりも女子の方がハマりやすいという点も気になるところだ。「最近の子どもはとんでもない!」「スマホ撲滅!」「ウチの大事な〇〇ちゃんにはスマホは絶対買い与えないワっ!」って怒っちゃう? いやいや、この発表を聞いた多くの大人もまた、自分の生活をどこか振り返りながら「そりゃ無理もないわー」なんて感じているんじゃなかろうか。

他人事のように書く私だって、日々の暮らしに少しでも隙があればいつの間にか手の中にスマホを握りしめている。仕事のメールだとかの「本当に必要な作業」はごく一部。あとはニュースをボーッとブラウズしたり、人のSNS投稿にコメントというほどでもない無意味なちょっかいを出したり、オンラインショッピングで実に無駄な浪費をしたり、イケメン画像やイケメン動画やイケメンブログを見たり。私はあの手のひらサイズの便利な小箱に、実に”生産的”な時間を毎日水栓全開気味に注ぎ込んでいる。

でもそのネットなるものをハードもソフトも作り上げて内容豊かにしてきたのはまさに自分の世代だし、その業界に携って、自分の家庭を持って、今まさに子育てをしているのも自分の世代。ネットのシステムや文化の供給者でありながら消費者でもあり、便利さと面白さと、怖さもわかっている大人だ。おっと、そういえばそもそも私だってネットの物書き業だ。

デジタル世代の子育てをする私たちは、いまどき「ネットは怖い」なんてひたすら蚊帳の外にいることで息を潜めて保身するのではなくて、デジタルサヴィ(デジタルな世界をよくわかっている)でクールな大人、でありたい。でも、クールな親でいるって、結構難しい。

「隠し事をさせないように子どものSNSの投稿を全部見る」親って、イヤかも……

インターナショナルスクールで、ママ友が集まってのコーヒータイムを楽しんでいたときのこと。大学生から幼稚園児まで、子どもが5人もいるアメリカ人のママが、椅子に座るのに飽きてキィキィ言い出した末っ子にオレンジジュースのパックを差し出しながら言った。

「子育ての秘訣? トーク、トーク、トーク。とにかく親子で話すことよ。学校やプライベート、どんな友達と付き合っているかも、隠し事はさせないわ。私は自分の子どものSNSアカウントとは全部繋がって、投稿は全部見てるわよ」

2010年、大人からティーンエイジャーまでFacebookが全盛で、Twitterがヒップ(最先端のオシャレ)なものとして徐々に広まっていた頃だ。

とっさに「げっ」と思ったのは、「子ども側」に自分を置いてみたからかもしれない。「親子で話す」のはそりゃいいと思うけれど、だからって「隠し事をさせないように子どものSNSの投稿を全部見る」必要はないような気がする。隠し事がある/ないはまず置いておいて、子どものSNS投稿を全部「監視」しなきゃ親子で話せないものだろうか?

それって、自分の子どもを信頼していないってことだよねぇ……。そんな風に親が子どものことを全部監視・把握しようとする親子関係で「さあ、親に向かってなんでも話せ」って言われても、私なら秒でグレる自信がある。いや、家出かもなぁ……。理不尽な監視からは逃げたくなるのが、健全な人間の心理というものだ。恋愛と同じで、人は追いかければ追いかけるほど逃げるのである。

ということは、このアメリカ人ママは子どもをくまなく監視することで、わざわざ子どもに「もっと隠したくなる、逃げたくなる」心理を植え付けていることになる。うーん、子育てのさじ加減って難しいなぁ。ドヤと言わんばかりに自信ありげな彼女の顔を見ながら、私は複雑な気持ちでコーヒーをすすった。

子どもって、親に隠し事をして育つものじゃない?

子どもって、こっそり買ったしょーもないアレコレとか、とても親に見せられない試験の答案とか、友達と計画するちょっとヤバい冒険とか、絶対親がいい顔をしないような異性とのドキドキとか、親に隠し事をして育つものだと思うのだ。というか、隠し事もない、しない子どもはあんまり面白い大人、クリエイティブな大人に育たない。

隠し事にこそ人生の真実があり、知恵の攻防があり、味と香りがあり、そして実は「善悪の倫理」がある。善悪の別を意識しているからこそ、それが「きっと親に怒られるだろうな……」と思うのであり、だから隠すし、バレたときのために「悪(ワル)度」が薄まるよう自分なりの善悪基準と相談して諸々の調整をしたりする。

「先に悪いニュースを伝えてから、すかさずいいニュースでフォローして、最終的にポジティブな印象で会話を終わらせる」「聞かれないことは答えない」なんていうオトナの外交力も、こういうところで身についていく。そこに思春期のアート(良さとか、味わいや趣とか、洗練された技術とか)があると思うのだ。

いや、思春期の意義と言ってもいい。思春期はガタガタ悪あがきしまくっていい。そんな思春期の出口で手にしている一番の宝物って「自分という輪郭と、周りの環境との平和的調整技術」じゃないかなー、なんて、ガタガタした自分のかつてをぼんやり思い出す。

子どもを信頼して、ガタガタするのをそっと見守れるクールな親になりたい。私自身は子どものSNSは「それはキミの独自の世界だから私は見ない」主義で、逆に自分のも「それは私の独自の世界だからキミは見るな」という主義。とはいえやっぱり自分の子がSNSに没頭している姿が視界に入ると、世間で言われている「SNSのいろんな危険」が頭をよぎって、「もっと生産的に生きるべし! SNS中毒するくらいならスマホ取り上げるわよ!」なんて小言を言ってしまうのだった。

「保護者のためのInstagram利用ガイド」日本語版がローンチ!

Instagramを既に自分も使ってるよ、というサヴィなLEE読者は結構多いのではないだろうか。Instagramの月間アクティブアカウント数は全世界で10億、日本だけでも2000万アカウントにものぼるという。

写真や動画を投稿して繋がるビジュアルコミュニケーションプラットフォームの代表格で、セルフィー(自撮り)なんて言葉もインスタをはじめとするSNSの台頭で頻繁に使われるようになった。ここ数年のファッションやムーブメントをインスタと切り離して語ることはできない。ざっくり言うと比較的若い子が使う四角いオシャレ写真のSNSという印象だけれど、やはりアーリーアダプターとして10代がその利用を牽引しているし、「本アカ」「裏アカ」なんて、複数のアカウントを使い分けるのも彼ら流だ。

ところがそのインスタに、13歳以上の年齢制限があるってご存知だろうか? 実はインスタはティーンにならないとアカウントを作れない、コミュニケーションの自発性と自律性を重んじるSNSなのだ。そのInstagramが「保護者のためのInstagram利用ガイド」日本語版をローンチ。Instagramを現在利用している、あるいは今後利用する可能性がある子どもを持つ保護者に向けたもので、ティーンエイジャーが利用者同士のやり取りで傷ついたり、不適切な投稿をしてしまったり、楽しすぎて中毒したりすることのないよう、安心・安全にInstagramを利用するために知っておくべき機能や、写真や動画をシェアする際に気をつけるべき点などを分かりやすく紹介している。中でも、利用時間制限の導入はInstagramFacebookSNS業界で先駆的に取り組んだそうだ。

「保護者のためのInstagramガイド」日本語版
監修:Connect Safely
協力:認定NPO法人カタリバ、NPO法人キッズドア、NPO法人東京シューレ シューレ大学、
NPO法人ストップ!いじめナビ、認定NPO法人育て上げネット、認定NPO法人 3keys

ツールに「使われる」のではなく、意図的かつ創造的に「使う」側へ

左から:Instagram アジア太平洋地域 公共政策マネージャのヘレナ・レルシュ氏、明治大学 総合数理学部 准教授 五十嵐悠紀氏、認定NPO法人育て上げネット 理事長 工藤啓氏、NPO法人キッズドア 理事長 渡辺由美子氏

この日本語版ガイドローンチイベントで、Instagram アジア太平洋地域 公共政策マネージャのヘレナ・レルシュさんが「利用者が安心して自己表現ができるプラットフォームを実現することはInstagramにとって最優先事項。これをきっかけに親子でオンライン習慣について話し合う機会を持ち、ティーンエイジャーにInstagramを意図的、創造的に使いこなして欲しい」と語っていたのが印象深かった。つまり、親の介入は子どもとSNSの使い方の基本的な取り決めをしたり、安全について語り合ったりするところまでで、それ以降は子ども自身が自分の頭で考え、自分で「SNSの歩き方」を学び取っていくことが、むしろ子どもの成長には大切なのだと思う。

日本語版ガイドの制作に協力した国内NPO法人の代表および有識者によるパネルディスカッションでも、「現代の子供たちにとって、SNSはコミュニケーションツールを超えた異質な重要性のあるもの。無闇に禁止するのではなく、ツールをどう上手く使っていくかにシフトしたい」「自分がフォローしている人は自分に近い考え方なので、その狭いSNSコミュニティの中だけで過ごすと視野が狭くなる。そのフィルターバブルの存在を意識できているかが大切なこと」「親も自分でSNSをすることで利便性とリスク責任を知ることができる。親が子を管理するのでなく”一緒に”という姿勢が、この時代には最も大切なのではないか」との指摘があって、大人も子どもも共にネットを「使う側」になれとのメッセージを感じた。

利用者がツールに使われるのではなく、皆ツールを自覚的に使うことで、まさにヘレナさんたちInstagram側の思い描く「思いやり溢れる安全なプラットフォーム」が実現するのだろう。子どものSNSを監視しているとドヤ顔であのママが語った頃から8年、SNS文化も様変わりし、すっかり進化・深化した。隠し事をさせない、失敗をさせないなんて、子どもの周りで常にドローン状態でホバリングして監視するのはクールじゃない(そんな鬱陶しいのが自分の親だったら私だってイヤだ!)。

ルールや倫理などの押さえるべきところはしっかり押さえて、あとは子どもを信じて自立させられる子育てというのは、サヴィ(知識がある)な自分に自信があるクールな親だからできること。私たちはそこを目指していきたい、よね。

河崎環 Tamaki Kawasaki

コラムニスト

1973年、京都生まれ神奈川育ち。22歳女子と13歳男子の母。欧州2カ国(スイス、英国)での暮らしを経て帰国後、子育て、政治経済、時事、カルチャーなど多岐に渡る分野での記事・コラム執筆を続ける。2019秋学期は立教大学社会学部にてライティング講座を担当。著書に『女子の生き様は顔に出る』(プレジデント社)。

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