早霧せいなさん、宝塚退団後に男役を演じることへの葛藤は?【舞台『るろうに剣心』主演インタビュー前編】
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高見澤恵美
2018.09.13
シリーズ累計発行部数6000万部を超える大人気コミック『るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-』(和月伸宏・作/集英社)。アニメ化や実写映画化を経て、2016年には宝塚歌劇団で上演され、大ヒットした本作品が、この秋、新橋演舞場と大阪松竹座で舞台化されます!
主演をつとめるのは、宝塚版でも緋村剣心役を演じた早霧(さぎり)せいなさん。元・雪組のトップ時代は、主演した大劇場5作品すべてにおいて稼働率100%超えを達成するという、宝塚歌劇団初の偉業を成し遂げた彼女。その“伝説のトップ”に、本作品への意気込みやLEE読者へのメッセージなどをうかがってきました。
宝塚を退団後、再び男役の剣心を演じることについて
――2017年に宝塚歌劇団を退団され、現在は女優、タレントとして活躍中の早霧さん。男役のトップスターが退団後に男性役を演じるのは異例とも言われますが、今回、再び剣心を演じることに戸惑いや不安はありますか?
早霧:お話をいただいた時は、宝塚や男役を卒業してもなお男性を演じるのはどうなのか……とすごく悩み、覚悟を決めて剣心役を引き受けました。
退団して約1年。時が経った今は、だいぶ気持ちが変わりましたね。宝塚の男役時代に力んでいた部分がいい意味で抜けてきたと感じています。
先日出演させていただいたミュージカル『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』では、女性の役を演じて、「人を演じる上では男性も女性も関係ない」という経験ができ、「私というひとりの人間が、剣心という人を演じるんだな」と自然に思えて、抵抗がなくなりました。今はむしろ、「もう1回剣心を演じられるんだ、うれしい! ラッキー!」ぐらいの感覚にまでなっています。
――過去のインタビュー等では、宝塚を退団直後は“やり切った”気持ちもあった、と表現されていましたが?
早霧:自分の夢は宝塚の男役を演じることで、その宝塚を充実した気持ちで退団できたので、確かに「やり切った」と思いましたし、それ以上に望むものはなかったんです。でも、退団後に舞台などで表現するお仕事をいただいて挑戦するうちに、表現することは、宝塚時代と変わらず、自分にとって喜びを得られるもの、幸せな気持ちを得られるものだと分かってきたんです。今では、「なんでもやってみなきゃ分からない!」という気持ちですね。
トップ時代とはガラッと変わったプライベートの過ごし方
――退団後、濃密な時間を過ごせているということ?
早霧:濃密さは宝塚時代のほうがありましたが、今はそこから解き放たれた解放感の中で過ごせているので、柔軟になりましたね。宝塚では「自分は男役だから」「宝塚の生徒として」……と、いい意味での枠を作っていたんですが、枠を卒業した状態が今。その枠をはずした景色が、今の自分にとっては、とても心地いいんです。前と同じ世界にいるのに、全然違った景色に見える。視野が広がったと感じています。
今は「せっかくの人生だからいろんなことに挑戦したほうが仕事もプライベートも楽しいよね」と思えるようになりました。
――プライベートでは人づき合いなどに変化はありましたか?
早霧:宝塚の頃は目の前のことをこなすのに日々一生懸命で、人づき合いに関しては消極的でしたね。割と忙しかったので、「もう家に帰って早く寝たい!」「オフの時間は人と会いたくない!」とか思ってました(笑)。特に退団間際はとても忙しく、舞台と稽古だけの毎日だったのですが、その頃にくらべると、今は生活スタイルがガラッと変わりましたね。朝起きて、夜寝るまでの時間が全部自由というか。退団しても舞台の仕事はやっていますが、それ以外にオフの時間がたくさんあるので。時間ができたおかげで、新しい物や人との出会いを前向きに捉えられるようになったと感じています。
――どんな新しいことに出会いましたか?
早霧:時間ができたので、やりたいことを考えてみようって思ったら色々出てきて。以前だったら、「けがしたくない」「風邪をひきたくない」とアクティブなことは敬遠していましたが、今はラフティングやキックボクシングに挑戦したり。「ずっと登りたかった山に今年こそは登りたいな」とか「ボルダリングにも挑戦しよう!」とか。今は“やりたいことリスト”にあることを、時間を見つけてやるのが楽しいです。
ディズニーランドの席取り、何時間でも待てる自分に
――甥っ子くんとも以前より会えるようになったとか?
早霧:そうなんです! この間は一緒にディズニーランドに行ったんですけど、自分の変化にびっくりしました。
前は、絶叫系のアトラクションが好きだったけれど、甥っ子はまだ2歳で乗れないわけで、アトラクションの種類が完全に変わりましたね。それに私はパレードよりも乗り物が好きだったのに、今回はパレードの席取りからしてみたりとか。パレードは一列目で見なきゃな! と思って席取りしたんですけど、それも全然苦にならなくて。甥っ子と一緒だと待ち時間が全然気にならないことに驚きました。何時間でも待っていられる! と(笑)。
――甥っ子くんにゾッコンですね!
早霧:子どもはね、もともと好きだったんですよ、私。赤ちゃんや子どもの反応って、芝居として勉強させてもらえることがめちゃくちゃ多いと感じていて。最近ね、甥っ子が嘘を言うようになってきたんです。覚えたての童謡の歌詞をわざと間違えて、私が「間違ってるよ」と指摘すると喜ぶんですよ(笑)。本当は正解を知ってるのに、大人の反応が見たくて、間違え続けるんです。あ、2歳の小さな子どもでもウケを狙ってる、反応を楽しんでるんだ、と思ったら、すごく興味深く感じて。嘘を使って大人を騙していく様子に、「あ、これも芝居に使えるな(笑)」と思って見てます。
――今度の“るろ剣”の舞台にもいかされるかも?
早霧:そうですね! すごくいかされると思います(笑)。
役作りで新たに試してみたいこと
――役作りになってますね(笑)。殺陣のシーンなどの練習はしていますか?
早霧:一度制作発表のための稽古をしました。久しぶりだったので、感覚が思い出せるのか不安を感じつつ取り組んだんですけど、いやいや、それがどっこい楽しくて! 感覚がまったくにぶっていないと感じられた喜びもあったし、こうやって剣心として着物と袴を着て立ち回りできることが、さらに楽しみになりました。
――共演の神谷薫役の上白石萌歌さんや、加納惣三郎役の松岡充さんにお会いして、どんな印象でしたか?
早霧:神谷薫も、加納惣三郎も、おふたりにピッタリだなぁと第一印象で思いましたね。役の扮装を拝見して、おふたりの宝塚版とは違う演じ方で役が膨らむんだろうなぁと思って。
他のキャストの皆さんともご一緒するのが楽しみですね。
――共演者と一緒に過ごしていて、気になることは?
早霧:舞台を見ていると、役者さんが初日に向けてどう役を作っていくのかがとても気になって。稽古場を見たい! といつも思うんです。自分が出演する作品では、堂々と稽古場にいられるじゃないですか(笑)。だから、皆さんがどうやって役に取り組まれるのかには興味津々で、いつも注目してます。
この間ミュージカル『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』でご一緒した今井朋彦さん、春風ひとみさんといった先輩がたには、どうやって役を作られるのかおうかがいして、今度実践したいなぁと思ったり。おふたりとも、台本を100回黙読するという点が共通していたんですよ。
私自身は、台詞を声に出して読んでいたのですが、黙読で100回読むと、全体像がとても冷静に見えてくるそう。なるほど! と思って、一回試してみたいなと思っています。
終始笑顔で、時には熱く、仕事観や役作りについて語ってくれた早霧さん。
後編ではコンプレックスについての考え方や、LEE読者へのメッセージをお届けします。
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高見澤恵美 Emi Takamizawa
LEEwebエディター・ライター
1978年、埼玉県生まれ。女性誌を中心に女性の性質や人間関係の悩みに迫り、有名無名千人超を取材。関心あるキーワードは「育児」「健康」「DIY」「観劇」など。家族は夫と4歳の息子。