自問しながら観てほしい、ミステリアスな魅惑の恋愛映画
『寝ても覚めても』
同じ顔の男2人と恋に落ちる、一人の女――。
この映画、鑑賞後の反応が、特に女性が分かれるという。なるほど、すごくよくわかる!
ヒロインの言動を許せるか否か。芥川賞作家・柴崎友香の恋愛小説を独自のアレンジをきかせて映画化した本作は、自分の心の動揺を感知しながら観てほしい、そんな作品だ。
大阪・牛腸茂雄の写真展の帰り道、朝子(唐田えりか)は、サンダル履きで鼻歌を歌いながらフラフラ写真を観ていた男と再び出くわす。目が合った2人は、瞬時に恋に落ちる――。絶対に泣かされる、と親友に警告されたとおり、その男・麦(東出昌大)は、ある日、「靴を買いに行ってくる」と出かけたまま、どこかへ消えてしまった。
2年後の東京。喫茶店で働く朝子は、コーヒーの出前を届けに行った近くの会社で、麦と瓜二つの男、亮平(東出)と出会う。激しく動揺し、意味不明なことを言って逃げ出す朝子のことが、亮平は気になるように。やがて口をきくようになり、まっすぐに思いを伝える亮平に、朝子は戸惑いながら惹かれていく。そして結婚も意識し始めた矢先、思わぬ形で麦が朝子の前に姿を現す――。
同じ顔をした、対照的な2人の男。放浪癖がある危うげな麦と、誠実で堅実な亮平。女性たるもの十中八九、危うげな男に、疼くようにどこかで惹かれるものではないか!? だが、そこに安らぎはない? いや、それ以前に、自分は何をもって人を好きになるのか。顔? 心? フィーリング? 朝子の言動に「自分なら」と自問しながら、ドキドキ息を詰め、恋や思いの行方から目が離せない!
観終えて何を思うかも含め、人の、自分の心の不可解さに深く入り込んでいくような、魅惑的な作品。近年、演技に磨きをかける東出の2役も素晴らしいし、内気なのか奔放なのかわからぬ朝子をふわふわと生々しさを絶妙な配分で演じた唐田もいい。被災地・東北を訪れる映画独自のエピソードもきき、いろんな人のいろんな思いが詰まった、見逃せない一作だ。(テアトル新宿ほか全国公開中)
万人の人生を包み込むような傑作ドキュメンタリー
『顔たち、ところどころ』
『5時から7時までのクレオ』などで知られるアニエス・ヴァルダが、54歳年下のアーティストJRとフランスの田舎を旅しながら、出会う人々の顔を撮り、壁や岩に巨大なポートレートを貼り出していく。合間のおしゃべりや呟きにも、心を浮き立たせるマジックが。いつまでも見飽きない!(9月15日よりシネスイッチ銀座ほかにて公開)
取材・原文/折田千鶴子
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