約40年ぶりに相続に関する民法改正が行われました。
あらたに作られたのが、配偶者の居住権です。これは高齢化社会に対応した改正で、想定されているのは、高齢の夫が亡くなり、妻と子どもがその相続人というケース。
遺産を分ける場合、妻が1/2、残る1/2を子どもの人数により按分することになりますが、その遺産の大部分を占めるのが自宅不動産で、後は現金(預金)が少しという場合に問題があったのです。不動産は分割できないので、妻が自宅をまるまる相続するとなれば、家の評価額が大きいために1/2の法定相続分がかなり埋まってしまいます。
すると、現金で受け取れる額が少なくなり、これだと住まいはあっても、老後の生活費が手元に残らないということに。さらに、もし預金がほとんどないという場合だと、家を処分して子どもに遺産分割をしなくてはならないこともあり得ます。高齢の妻が自宅にそのまま住み続けられるようにと、「配偶者居住権」が導入されたのです。
生涯自宅に住むことはできるけれど、売却はできない
「配偶者居住権」は、文字通り「住む権利」で、所有権ではありません。そのため、家の評価額を低く抑えることができ、そのぶん相続できる現金が増えます。家に住み続けながら、一定の現金も手にできるというわけです。ただし、居住権だけでは勝手に家を売ったり、人に貸したりはできません。妻が将来、自宅を売ったお金で介護施設に入りたいと考えた時には、問題になってくる可能性が。新しい制度なので、今後どういうケースが出てくるか慎重に見極める方がよさそうです。
また、親の介護に尽くした人に関わる改正もあります。これまでは老親の介護を息子の妻などが献身的に行った場合でも、息子の妻は法定相続人ではないため遺産相続の対象にはなれませんでした。今回の改正では、そういうケースにも救済措置を盛り込んでいます。親が亡くなったあと、その財産の中から「特別寄与料」として、相続人に対し金銭の支払いを求めることができる、というもの。実際には親族間で話し合いをして決めていくという流れになると思われます。
とはいえ、なかなかすんなりとはいかないのが相続問題。法律通りに分割しましょうと言ってもスッキリ解決できないことも多いもの。ざっくばらんに話し合える親族関係であることが、もちろん望ましいのですが…。なお、これらの改正は2020年までに施行される予定です。
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松崎のり子 Noriko Matsuzaki
消費経済ジャーナリスト
消費経済ジャーナリスト。雑誌編集者として20年以上、貯まる家計・貯まらない家計を取材。「消費者にとって有意義で幸せなお金の使い方」をテーマに、各メディアで情報発信を行っている。