
昔話の力を今によみがえらせ、想いを伝えるファンタジー

『雲上雲下』朝井まかて ¥1700/徳間書店
「昔むかし、ある所に……」という決まり文句から始まる昔話では、人と自然が当たり前のように言葉を交わし合い、現実にはありえない夢もかなう。作り話と片付けられることもなく、長い年月を語り継がれてきたのは、そこに人々の尽きせぬ想いがこめられているからだ。『雲上雲下』は、そんな昔話の力を見事に現代によみがえらせた一冊である。
穴に落ちていった団子を追いかけて金持ちになったおじいさんとおばあさん、水神さまに祈りを捧げ田た螺にしの子どもを授かった夫婦、乙姫の病気を治すため猿の生き肝を取りに行く亀……巻末に参考文献や民話の語り部たちの名が挙げられているが、おそらく「草どん」がこの本の中で語る物語には、著者が新たな息吹を加えているはずだ。これが抜群におもしろい。夢中になって筋を追ううち、かつての子どもたちと同じように、胸ふくらませ、時に涙し、あるいは恐れおののきながら、いつしか昔話の世界に取り込まれてしまう。
いくつもの謎が解き明かされる壮大なクライマックスからは、物語を紡ぐ著者自身の強い想いが伝わってくる。時間に追われ、ゆったりと昔話を楽しむことを忘れた今の世界は、代々受け継がれてきた贈り物を取り戻すことができるのか。その答えは、きっとこの本の中に見つけることができるだろう。読むほどに惹き込まれずにはいられない、深く心に残るファンタジーだ。
RECOMMEND

『口笛の上手な白雪姫』
小川洋子 ¥1500/幻冬舎
表題作をはじめ「先回りローバ」「亡き王女のための刺繍」「盲腸線の秘密」等々、ただタイトルを眺めているだけで豊穣な小説世界へ誘われていく8つの短編を集めた一冊。粒よりの宝石のような言葉で精緻に組み立てられた一編一編を、決して急いで読んではいけない。美しい装丁も含め、濃密に凝縮された小説の魅力に浸るひとときは、限りなく贅沢だ。

『七色結び』
神田 茜 ¥1500/光文社
くじ運が異常に悪い鶴子はくじ引きで息子が通う中学校のPTA役員に選ばれてしまった。不毛な忙しさに振り回される中、PTA会長が不倫騒動で辞任、鶴子がその後任を引き受けることに。ある秘密を心の支えに、しがらみと前例に縛られたPTAを変えようと、鶴子は無鉄砲に突き進んでいく。日々頑張る母たちへのエールが聞こえてくるような小説だ。

『私が変わる、家族が変わる時間術』
鈴木尚子 ¥1277/オレンジページ
ライフオーガナイザーとして活躍中の著者。片付けやファッションの整理はできるようになっても、時間を整理することは難しく、かつては“天敵”ととらえていたとのこと。「何のために時間を作るのか」、自分自身を見つめ直すことで見えてきた、時間を味方につける方法。手帳のつけ方、忘れ物をしない工夫など、たくさんの小さなヒントが見つかりそう。
取材・文/加藤裕子
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