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LIFE

古川はる香

「フリーが保育園に入りづらい現状を変えたい!」フリーランスで働く女性たちが動き出した

  • 古川はる香

2018.03.14

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何年経っても思い出す「不承諾」通知の絶望感

2月に入ったあたりから、身のまわりで「認可保育園入園の承諾・不承諾」の話題を耳にするようになりました。

ああ、今年もそんな時期か……と思いながら、自分が「不承諾」通知を受け取ったときの何ともいえない絶望感がよみがえってきます。

受験における「不合格」は「勉強が足りなかったんだ」、就職試験における「不採用」は「研究が足りなかったんだ」、または「相性がよくなかったんだ」という落としどころがあります。でも、保育園の「不承諾」は「自分が選び、誇りを持って貫いてきた働き方が認められなかったんだ」という落としどころしかなく。積み重ねてきたキャリアを全否定された気持ちになりました。

 

認可保育園の入園にあたっては、就労状況、家庭環境などを指数化して、「指数が高い」=「より保育を必要としている」家庭から入園が決まるというシステムが取られています。

指数の内容は自治体によって異なりますが、多くの自治体で、一般的な会社員家庭よりフリーランスで働く家庭の指数が低くなるように作られています。フリーライターの私の場合もそうでした。

 

「育休」のあり・なしが認可保育園の入りやすさに大きく影響

 

会社員よりもフリーランスのほうが指数が低くなる要因に「育休」があります。

これは各自治体がそれぞれ独自に考えてそういった設定にしているのかと思っていましたが、なんと国からの通達によるものなのだそうです。

平成26年9月10日付で内閣府・文科省・厚労省の連名で出された「子ども・子育て支援法に基づく支給認定等並びに特定教育・保育及び特定地域型保育事業者の確認に係る留意事項等について」において「(2)優先利用に関する基本的考え方」として「育児休業を終了した場合」が保育所(保育園)の優先利用の対象とされているのだとか。

 

この通達に至るまでの事情も多々あるとは察しますが、育児休業を終了した人が、そうでない人よりも優先されるということは「フリーランスよりも育児休業を取得している会社員のほうが保育を必要としている」と国の偉い人たちに認識されているのだと思います。

では、本当にフリーランスは会社員よりも働かなくていいのでしょうか? いや、そんなことはありません。

 

どんどんお金が減っていくフリーランスの産後

一般的な会社員をはじめ雇用関係にある人は、予定日を基準として産前6週間、産後8週間のいわゆる「産休」があり、その後子どもが1歳になるまでの希望する期間、育児休業=「育休」が取得できます。

また、出産に際して会社が加入している健康保険組合から「出産手当金」がもらえ、育休期間中は条件を満たせば雇用保険から「育児休業給付金」が支給されます。

そして、会社員なら産休・育休中は免除になる社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料)も、国民健康保険、国民年金は免除の制度がないため、これらに加入しているフリーランスは支払い続けなければいけません。(※2019年4月より、国民年金保険料は出産予定日の前月から4カ月間免除されることが決まっています。大きな一歩!)

つまり、出産に伴って休んでいると、お金が入るどころか減っていくわけです。

これはガンガン働かなきゃ!!

それなのに認可保育園の申請に向かうと、「保育の必要度が高いのは、フリーランスよりも育休中の会社員です」となってしまう現実。

 

この状況に昨年末、動きが見られました。

内閣府と厚労省から全国の自治体に向けて「育休明け会社員を優先利用対象とする場合、育休制度を利用できない自営業者が自主休業を終了する場合も同様に取り扱うよう取り組むこと」など認可保育園入園の利用調整について、通知が出されたのです。



「フリーランス・経営者が妊娠・出産・育児しやすい社会の実現」に1万人以上が賛同!

 

――認可保育園入園において、雇用関係によらない働き方をしている人が不利にならない配慮を。

この通知が出された背景には、フリーランスのためのインフラづくりや環境整備を目指す「フリーランス協会」が厚労省の関係者や国会議員に向けて、フリーランスの保活の実態を伝えてきたことがあったそうです。

 

フリーランスに限らず、経営者や弁護士など雇用関係によらない働き方をしている人たちの妊娠、出産、保活を含む育児における制度改善を求める動きは、さらに広がりを見せています。

「フリーランス協会」の理事の方や弁護士、実際に妊娠、出産を経験した女性経営者などによって立ち上げられた任意団体「雇用関係によらない働き方と子育て研究会」が、Change.orgで2月より開始したキャンペーン「フリーランスや経営者も妊娠・出産・育児しながら働き続けられる社会の実現を応援してください!」

こちらはSNSを中心に拡散され、3月1日までに1万人を超える賛同が集まっています。

画像:「雇用関係によらない働き方と子育て研究会」Facebookページより

 

「雇用関係によらない働き方と子育て研究会」は昨年末に「20歳~50歳までのフリーランスまたは法人経営者等であり、雇用関係にないため産休・育休を取得できず、働きながら妊娠・出産・育児をした経験のある女性」に向けたアンケートを実施していました。

私も該当するフリーランスのひとりとして回答に協力し、今後の展開に期待していたところ、このキャンペーンに伴い、記者会見が行われると聞き、参加することに。

「雇用関係によらない働き方と子育て研究会」発起人の面々。

 

記者会見で公表されたアンケート結果で衝撃だったのは、回答した353名のうち「産後2カ月以内に仕事復帰をした人が59.0%、産後1カ月以内でも44.8%」だったこと。

労働基準法で産後休業期間が2カ月に定められているのは母体を保護するため。出産経験のある方ならわかると思いますが、産後1、2カ月といえば、まだ産後から心身とも完全に回復せず、頻回授乳によって万年寝不足状態が続く頃。例え在宅でできる仕事だとしても、その状態で仕事を再開するのはかなりキツイことが想像できるはず。

そのほか、自ら保険料を払っている人が63.1%いたにもかかわらず、出産手当金の給付を受けたのはわずか19.3%など、アンケート結果からは雇用関係によらない働き方をしている人の妊娠、出産、育児にまつわる厳しい現状が浮かび上がってきます。

アンケートの全データはChange.orgの「フリーランスや経営者も妊娠・出産・育児しながら働き続けられる社会の実現を応援してください!」キャンペーンページ(www.change.org/working-and-parenting)で見ることができます。

 

フリーランス、経営者の「優遇」ではなく、「平等」になることを求めていく

発起人のひとりである小酒部さやかさんに話を聞くことができました。

小酒部さんはNPO法人マタハラnetを設立し、マタハラ防止に取り組んできた人物。そこから非正規雇用の女性の出産、育児にまつわる問題に取り組み、今回フリーランスや経営者の出産、育児について動き出すことに。

「私たちがまず政府に求めていきたいことは、産前産後休業期間と同等の期間中、社会保険料を免除してもらうこと。そして、多くのフリーランス、経営者が加入している国民健康保険で任意給付となっている出産手当金を一定以上の保険料を納付している女性には支給してもらうことです。フリーランス、経営者など雇用関係によらない働き方をしている女性にも”産休”を認めてもらいたい」(小酒部さん)

 

フリーランスや経営者になって働きながら、世の中に対して要望を出すことは、「自分で選んだ道なんだから、デメリットがあっても自己責任でしょ?」と言われてしまうかもしれません。

「自分たちが覚悟して選んだ道なので、仕事上のリスクを取らなければならないのはわかります。なので私たちは現時点では”育休”まで求めるつもりはありません。でも、生命・身体のリスクまでは取りようがないんです」(小酒部さん)

「育休」取得を求めないまでも、「育休」がないことで不利益を被りやすい保活に関しては、

◆会社員と同様かそれ以上の労働時間であれば、保育園の利用調整においてどの自治体においても被雇用者と同等の扱いをしてください。

◆認可保育園の利用料を超える分は、国や自治体の補助が受けられるようしてください。それが難しければ、ベビーシッター代を必要経費もしくは税控除の対象として下さい。

ということを政府への要望として伝えていくそうです。

 

 

「現状、待機児童問題が解決しておらず、認可保育園入園にあたっては、”イス取りゲーム”のような状態になっています。そんな中で、フリーランスや経営者を育休を取得している会社員と同等に扱うとなれば、会社員を中心に反感の声があがるのはしかたないことだと思っています。けれども、どんな問題もまずは声をあげることが重要です。今回のようにネット上のキャンペーンで賛同を集めることによって、今まで声をあげずに黙っていた人たちがどれだけ多いのかを浮き彫りにできたのではないかと」(小酒部さん)

キャンペーンに集まっているコメントやSNSでの反応を見ると、フリーランス、経営者など当事者の方だけでなく、自身は被雇用者で「雇用関係によらない働き方をしている人がこのような問題に苦しんでいたのを知らなかった」という声も見られました。

 

「私たちが求めているのは、会社員と同等の働き方をしている人たちを、その働き方によらず平等にあつかってほしいということ。決して”優遇”を求めているわけではありません」(小酒部さん)

 

「いろんな働き方」が認められる社会は、きっとみんな幸せになれるはず

今やフリーランスで働く人は日本全体で1122万人、女性では550万人といわれています。

会社員でも在宅勤務やテレワークを導入する企業も増えており、多様で柔軟な働き方はこれからも広がっていくはず。その流れの中でフリーランスの道を選ぶ人もいるでしょう。

また、政府は女性起業家育成にも力を入れており、起業を選び経営者となる女性も増えています。そんな動きに反して、働き方によって「産休がない、所得補償がない、保活で不利」とリスクを負ってしまう状況は、「働き方改革」の動きと反するものではないでしょうか。今はフリーランス、経営者でない人も、社会制度が変わることで自由な働き方を選べるようになるとしたら、「会社員は無理だけどフリーランスなら」と働き続ける人を増やすことにつながります。

 

「雇用関係によらない働き方と子育て研究会」発起人のひとりで、アユワ株式会社の代表取締役である渡部雪絵さんの記者会見での発言で、印象に残った言葉がありました。

妊娠中に勤務先を辞めざるを得なくなり、起業という働き方を選んだという渡部さん。

「子どもを産みたいフリーランスや経営者、本当は組織を離れてやりたいことにトライしたい会社員にとって、出産や育児にまつわる現状が足かせになっているかもしれない。この状況が少しでも前進して、女性が本当に成し遂げたい仕事に従事できるとしたら、社会が活性化して、経済にもよい影響があるはずです」(渡部さん)

 

保活でいえば、認可保育園に金銭的支援が集中していることや、保育士不足など、さまざまな問題の積み重ねが認可保育園入園の限られた枠をみんなで奪い合うことにつながっていると思います。小酒部さんのお話にあったように、そこで制度が変われば、今までのルールなら「勝てる」はずだった人たちから反感の声があがるのは当然ではあります。

でも、一番大事なことは誰もが「選びたいものを選べる」社会になることではないでしょうか。フリーランスや経営者の出産、育児にまつわる状況が変わることで、選びたい働き方をした人たちが、子どもを産むことができ、出産後も仕事を続けることができるようになれば、その恩恵を受けるのはフリーランスや経営者の人たちだけではないと信じたいです。

 

私もフリーランスのひとりとして、これからの女性の働き方を広げる「雇用関係によらない働き方と子育て研究会」の活動に注目していきたいと思います。

 

古川はる香 Haruka Furukawa

ライター

1976年、大阪府生まれ。雑誌・Web等でライフスタイル、カルチャー、インタビュー記事を執筆。現在のライフテーマは保活と子どもの学び、地域のネットワークづくり。家族は夫と6歳の娘。

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