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夜明け告げるルーのうた

  • yuki*

2017.06.29

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先週末に息子が宿泊学習に行ってきたので、今週の月曜日は、その代休で学校はお休み。2人で映画を見に行ってきました。

「夜明け告げるルーのうた」

映画館で予告を見て、漫画家のねむようこさんのキャラクターデザインが可愛かったのと、どうやらテーマ曲に斉藤和義の「歌うたいのバラッド」が使われてるらしいってことで、時間があれば見に行きたいなと思っていました。

しかし、予想に反して横浜ではあまりに早く上映が終了してしまい(!)あっ、と思った時にはもう行ける範囲内にやってる劇場がなくて・・。涙を飲んであきらめようとしたのですが。

と、ここで素晴らしいニュースが。なんと、海外の映画賞でグランプリに輝いたらしく、いくつかの映画館で凱旋再上映が決まったのですー!!

しかも、けっこうすごい賞です。アヌシー国際アニメーション映画祭の、長編部門コンペティションで、クリスタル賞。
審査員賞や観客賞はちょくちょく日本の作品がとってるみたいですが、最高賞のクリスタル賞を日本の作品がとるのは、かなり久しぶりとのことで。「紅の豚」と「平成狸合戦ぽんぽこ」以来3度目だそうです。

上映リストの中で行けそうなのは、新宿、池袋、錦糸町の3館。再上映の始まった週に、息子の代休が重なるなんて・・!これはもう、見に行くしかない!

ってことで、錦糸町のオリナスに入っているTOHOシネマズまでビューンと行ってきました。平日ですが、同じようなことを思った人がたくさんいたらしく(?)けっこう客席は埋まっていました。

・・・・・

物語は、とある田舎の漁港町に住む、ふてくされた中学生男子の日常生活から始まります。彼は、もともと東京に住んでいました。両親の離婚で、父方の実家に移住することとなり、無愛想な祖父と父親と、3人で暮らすことになったのです。

鬱屈した彼は、同級生にあまり馴染まず、学校では「東京から来たやつ」という目で見られています。「日無町」というその町の名前は、湾にそびえる大きな岩によって日が遮られ、入り江が陰っていることに由来します。
昔人魚がいたという伝説のある以外、とりたてて特徴のない町。今も昔も、町の若者は皆東京に出たがっています。

彼の父母も、元々はこの寂れた町で生まれ育ち、夢を持って都会に出て、そこで一緒になったのですが。夢を追ううちにすれ違い、いつのまにか夫婦仲は壊れ、父親だけが田舎に帰り、地元の水産会社に職を見つけ暮らすことを選んだのです。
そんな親の事情に息子は全く納得いってないんですが、かと言って不満を爆発させるようなこともなく。母親からくる手紙は、封を切らずにたまってゆくばかり。

そんな彼の唯一の楽しみは、自分で作った打ち込み系の音楽を動画サイトにアップすること。ある日、男女2人のクラスメイトがそのことに気づきます。そして自分たちのバンドに誘うのですが・・あまり彼は乗り気ではありません。

彼らのバンドの練習場所となっているのは、町の伝説で近づいてはいけないとされる「人魚島」。大きな岩の向こう側にあり、かつては人魚をコンセプトとした遊園地があったのですが、廃園して久しく、今や誰も近づかないので大きな音で練習ができるのです。

そこに行ってみたかった彼は、しぶしぶ同級生のバンド練習に付き合うことに。しかし、田舎ではそこそこイケてると天狗になっているボーカル女子に、歌い方のダメ出しをして怒らせてしまいます。すると、そこに幼い人魚の少女が現れ・・・!

・・・・・

という感じの話なんですが(ここまで、多分15分くらい?)。続きが気になった人は観に行ってみてください。
さっきシアターリストをチェックしたら、なんと首都圏の上映館がさらに増えていました!本当に嬉しいです。だって、ものすごく良い映画だったから。
7月から上映が始まる地方もありますが、首都圏以外は明日(6/30)までの映画館が多いみたいです。なんで夏休み上映じゃないんだーっ!!もっと、たくさんの人に見て欲しいです。。

今までアニメ映画賞をとってきたような数々の大作に比べ、緻密に作ってあるかと言われれば、そうでもありません。絵とか動きとか、設定までもがけっこう大雑把です。細かく丁寧な説明もありません。
でも、それがいいんです。おおらかで明るくて、大胆で。ポップにデフォルメされたキャラクターたちの動きが、ものすごい躍動感なんです!音楽もすごくいい!

この映画を作った人たちが伝えたかったことが、画面からまっすぐ胸にズドンと飛び込んできます。作り手の計算や作為を感じさせない、ある種の潔さのようなもの。掛け値なしの情熱に、胸打たれる作品なのです。

じつは恥ずかしながら、すごく久しぶりに映画館で泣きました。子連れなのに!
エンドロールと斉藤和義の流れる中、あたりを憚りながら涙を拭う37歳(主婦)。ひとつ空けて隣に座っていたヨソのおじさんは途中で寝たらしく、ごおごおイビキかいてるのに。。
人によって感動のツボが違うのかも・・・。でも、息子は楽しめたらしく、良い映画だったねと言っていました。本っ当に見逃さなくてよかったと、心から思える一本でした。

この作品には、若いころ抱いた夢をあきらめ、故郷で生きることを選んだ人が何人か出てきます。思い描いた未来とは違う、地に足のついた生活を送る人たち。そのことを決して否定的に描いていないところが、とても素晴らしいと思いました。

バンドを組んでデビューを目指したり、ダンサーやモデルとして名声を得たり・・。そんな大きな夢を見ている子達からすれば、穏やかにさびれゆく町の生活を少しでも明るくしていくための希望なんて、小さくつまらないものに見えるのかもしれません。
狭い町で都会に憧れる子達は、出戻った大人のことを見て「ああはなりたくない」と思っています。でも、彼らは決して仕方なく戻ってきたわけじゃないんです。そのことがちゃんと描かれているところが、個人的に胸に響きました。

それから・・。

海によってもたらされた大きな自然災害から数年を経て、こういう映画が今この国で上映できるということは、人々の心がまた海に向かって開かれるようになったことの証のような気もします。
天災に限らず、ときに弱者の生命が理不尽に奪われること。おそらく見た人皆がそのことを思い起こさずにはいられないような描写が、いくつか出てきます。愛する者が大きな力にさらわれ、奪われていった時・・人は絶望に沈んで頑なになり、何かを憎まずにはいられないでしょう。
ですが、この物語の最後には、とても優しい救済があるのです。本当の意味で、夢のある話でした。

長々と語ってすみません!最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。

言いたいことを胸に秘めた少年と、歌と踊りを愛する純真無垢な人魚の物語。子供も大人も楽しめる素晴らしい作品です。ぜひ劇場へ・・!

yuki*

39歳/夫・息子(11歳)/手づくり部、料理部/横浜在住、大阪出身。港が見えそうで見えない丘の上の古い一軒家で、息子と年上の旦那さんと猫のリサと一緒に、楽しく暮らしています。本とラジオと美しい布が好き。がま口のお店をやっています。一度しかない美しい日々を、あたたかく綴りたいと思います。Instagram:@yukiiphone

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