【嶋津輝さん『カフェーの帰り道』】心あたたまる物語。どこかに自分を見出せる作品です【読書記録】
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066 あまなつ
2026.04.01
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嶋津輝さん『カフェーの帰り道』(東京創元社)を読みました
装丁の美しさと直木賞受賞作ということで惹かれて手に取った本作品。
物語の舞台は大正から昭和にかけて上野にある「カフェー西行」。女給として働いた女性たちの姿を描いています。
湯島、本郷、神田……学生時代に歩いた街が舞台になっていることもあり、物語が遠い過去の話ではなく、今と地続きにあるノンフィクションのように感じられました。
東京の東側に所縁のある方は、より物語を身近に感じるかもしれません。
■ かつての自分を重ねて。紙の本だからこその演出に震えて。

(以下、少しだけネタバレを含みます)
全5話の連作短編集ですが、私がもっとも心を動かされたのは小説家を目指す主人公・セイの物語である「出戻りセイ」。セイは高等女学校を卒業し小説家という夢を追いながら「カフェー西行」で働いていましたが、彼女が小説家になりたかったのは小説を書きたいからではなく、自分の才気を示したかったからということに気がつきます。
その不器用で、少し脆くて、でも一生懸命な姿に、かつての自分を重ねずにはいられませんでした。どうか彼女には幸せになってほしいと、祈るような気持ちで読み進め、ページをめくった最後の一文。
自然と涙が溢れていました。
映像でもオーディオでも決して味わえない、紙の本だからこそ仕掛けられる演出。
嶋津さんあるいは版元の意図的な組み方なのか、偶然なのか……とても気になるところです。

■ ファッションやメイクは、今日明日の自分を決して諦めないことの証
主人公たちが、ファッションやメイクを探求して自分に似合うものを見つけようとする姿も印象に残りました。
着物の色に合わせて変える白粉や頬紅、口紅。
ほんの少し着物の襟を抜いてみる、着こなしの工夫。
ファッションやメイクを探求することって、悲しみや苦しみの中であっても、少しでも前向きな気持ちがなければできない行為ではないかと思うんです。
大正から昭和という激動の時代。戦争の影が忍び寄る中で、決して悲観せずに今日明日を生きていこうとする彼女たちの意思は、言葉や行動だけでなく、こうしたファッションやメイクの描写にも感じられます。
私が今、ファッションやメイクを愉しんでいることは、今日明日を決して悲観せず、自分や未来を信じているという証なのかもしれないな、と自分の行動心理にも向き合うことができました。
既婚、未婚、老いも若きも、どんな立場の女性であっても、どこかに自分を見出せる一冊です。嶋津さんの綴る美しい日本語の一つひとつをゆっくりと味わったあとは、カフェであたかい飲み物をいただいたかのように、心があたたまりました。
拙い感想となりますが、どなたかの参考になれば嬉しいです。
No.066 あまなつ
066 - あまなつ
会社員 / 愛媛県 / LEE100人隊
35歳/夫・娘(2歳)・息子(0歳)/手づくり部・美容部/育児休暇取得中の会社員です。好きなことは、読書、観劇(お休み中)、国内の史跡めぐり。LEEで紹介される丁寧で上品な暮らしが、永遠の憧れ。現実は毎日くたくたになり、ひーひー言いながら生活をまわしています。家族の笑顔が何よりの活力です。LEE100人隊でのご縁を大切に、みなさまの暮らしに少しでもプラスになる情報をお届けできるよう、精一杯努めてまいります!身長158cm、骨格はストレート。
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