六本木ヒルズの蜘蛛のオブジェ『ママン』作成アーティスト 「ルイーズ・ブルジョワ展」に行ってきました
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053 ブルー
2025.01.21
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こんにちは!
053 ブルーです。
2025年も行きたい美術展がたくさんで、何にいつ行こうか考えるだけでもワクワクするのですが、
今回ご紹介するのは、2025年1/19まで六本木ヒルズ内の森美術館で開催されていた「ルイーズ・ブルジョワ展 地獄から帰ってきたところ 言っとくけどすばらしかったわ」。
「ルイーズ・ブルジョワ」の名前を聞いてぴんとこなくとも、六本木ヒルズのシンボルとなっている蜘蛛のオブジェをご存知の方は多いと思います。
ルイーズ・ブルジョワは、その蜘蛛のオブジェを作った女性のアーティスト。

このルイーズ・ブルジョワ展について、昨年末いつもお世話になっているネイリストさんから「今年行った美術展の中で一番よかった」と聞き、興味がふつふつと湧いてきました。
それを聞いた翌日にLEE100人隊 052 アオさんも行かれたということを知り、「これはもう行くしかない!」と決心!
善は急げとすぐさま、私も足を運んできました。
「ルイーズ・ブルジョワ展 地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、すばらしかったわ」

この展覧会には去年行ったというのに中々ブログにアップできなかったのは(アップ時には終了しているという失態…すみません。。)、
あまりにも心に刺さることや考えることが多すぎて、中々自分の感情を言葉に出来なかったからでした。
まず、ルイーズの人生について。
パリでタペストリー修繕工場を営んでいた両親の次女として誕生したルイーズ。ルイーズの父親が、「次こそは」と待ち望んでいたのは、後継ぎとなる男児。
ルイーズは「女に生まれた」ということで、父親から蔑まれ続けました。
そんな父親の不貞、二度にわたる世界大戦、母親の病・死。
名門大学で数学を学んでいましたが美術の道を志すようになり、彼女は複雑な家庭環境や激動の世界情勢の中で生まれた負の感情を、作品に投影しました。アメリカ人美術史家と結婚後NYに移住し、3人の子どもの母となり、72歳の時に開いた個展をきっかけに再評価されるようになりました。
今回の展示会においては、こういったルイーズの家庭環境や歩んできた軌跡を、鑑賞前にある程度予習していったことが功を奏しました。

正直「ルイーズ・ブルジョワ展」は、グロテスクであったり、性的な描写があったり、衝撃を受ける作品が多々ありました。
もちろん作品横に詳しい解説があるので特にその背景を知らなくても問題はないのですが、
知っていると作品の重々しい空気に飲み込まれ過ぎず「こういう体験をした時に作成したのかな」と受け入れられ、作品に正面からじっくりと向き合えました。
展覧会は「第1章 私を見捨てないで」「第2章 地獄から帰ってきたところ」「第3章 青空の修復」の全3章で成り立っていました。
ルイーズの「母親」像
第1章では、母親をモチーフにした作品が中心になっていました。スペイン風邪にかかった母を長く看病し、母親に全力で甘えたくても甘えられなかったルイーズは、生涯にわたって見捨てられる恐怖にさいなまれていたようです。
母親・母性という響きからは、優しく温かいイメージが連想されがちですが、第1章で展示されているルイーズの作品では、母親の多面性が表現されていました。
「母親」、また自分も母親の「子ども」という、両方の立場を持つ私の印象に残ったのは以下の作品たち。

六本木ヒルズのシンボルとなっている蜘蛛のオブジェのタイトルは、フランス語で「お母さん」を意味する『ママン』ということをご存知ですか?
壊れた巣を何度も直す習性をもちながら、周りの生物からは恐怖の目で見られる蜘蛛。
「崩壊しそうになる家を修正し守り続ける一方で、テリトリーを守るために暴力性を見せる」そんな異なる側面をもつ蜘蛛は、ルイーズにとって自身の母の象徴でした。
『かまえる蜘蛛』は躍動感があり、鋭い細い脚から感じられるのは攻撃性。暗い部屋という演出も手伝い、同じ蜘蛛でも『ママン』より遥かに、敵意をむき出しにした近寄りがたい姿に映りました。

ルイーズの家族(生まれ育った家族と、結婚後に築いた家族)の人数をあらわす「5」つの胸。それは表から見える表情で、作品の背面を見ると大きな刃を忍ばせていることがわかります。
家族を守るために、母親は暴力的な面もあわせもつことを示唆している両作品。自分も同じかもしれない、そもそも家族を守るために攻撃的な面は必要なのか不要なのか?、恐怖を感じさせる一面を不要な場面で我が子にも見せていないか?という問いが自分の頭の中を張り巡りました。

乳房につながれた、家族を象徴する「5」本の白い紐。私には、母乳のようにも見えるし、彼女を「母」として束縛する鎖のようにも見えました。
本当の意味での『良い母』を表したのか。ルイーズにとっての理想なのか、皮肉なのか。「母親から見捨てられたくない」と渇望していたルイーズは、どちらの意味も込めたのかもしれないな、と考えながらこの作品を鑑賞していました。
「地獄」の中にいたルイーズの、胸がえぐられるような作品たち
第2章は、展示会のタイトルともなっている「地獄から帰ってきたところ」。
ブルジョワにとっておそらく最大のトラウマとなった、支配的で差別的な父親との関係。
「地獄」で感じた憤りや恐怖を表現した作品が展示されていました。
このゾーンは一番グロテスクで、暴力性の高い作品が並んでいました。(ショックが大きかった作品の写真は、ブログ内には掲載していません。)ルイーズは心の内に渦巻いている怒りや憎悪を家族に向けないよう、作品として表現するようになりました。
ルイーズが父親にされたことを知り「それはつらかっただろうな」と少しでもわかったかのような気持ちになっていたのですが、作品を見ると、ぞわっと身の毛がよだつ思いがしました。
彼女の感じた恐怖、怒り、絶望。それらがダイレクトに作品に表現され、言葉で聞くよりもずっと彼女の記憶や感情が心に刺さります。


衝撃的な作品の後に、亡くなった夫が使用していたハンカチに施された刺繍作品『無題(地獄から帰ってきたところ)』が展示されています。

ルイーズの「地獄」を作品を通して感じた後に、この皮肉めいた表現が鑑賞者の心まで少し軽くしてくれました。
一筋の光が差すような第3章
ここまで重々しい空気が流れていましたが、第3章にはルイーズが精神分析や治療を受け、
過去のトラウマに向き合い、心の傷を修復しようと試みるような作品が並んでいました。
展示されているのは、またしても『蜘蛛』。

ただ、こちらの蜘蛛はどうでしょう。お腹に三つの卵を抱えるこの蜘蛛は、第一章の『かまえる蜘蛛』とは異なり、ケージを守ろうとする母親の愛情が感じられます。
ケージに入っているのは、ルイーズが大切にしていた品々。表面にかかっているのは、生家のタペストリー。

ルイーズが「自分の過去を永遠のものにしようとした」作品とのことですが、
「自分が大切にしてきたことは誰からも侵されない。母が、または母となった自分が守っているから大丈夫。」
そんなメッセージも込められているのかな?と勝手に想像していました。


ルイーズが「自由と解放を意味した」青色が使われた作品が多いのも、第3章ならでは。私自身も心が浄化されていくような感覚に陥りました。
女性の在り方に異議を唱える
1章と2章の間の「コラム」では、ブルジョワの初期の作品が並んでいました。
女性と家が一体化した「ファム・メゾン(女・家)」シリーズは、家に縛られる女性の在り方への批判や窮屈感が胸に刺さるように伝わりました。

ここで私が驚いたのは、これらのフェミニズム的な作品たちをルイーズが作成したのが、1940年代であること。
彼女は「女性が家を守る」という意識がまだ根強かった約80年前から、その慣習に作品を通して異を唱えてきたのです。
実際にルイーズのフェミニズム的な作品が世に広まったのは彼女が70代になって個展を開いてからなのですが、女性の役割に疑問を感じ、ブルジョワのように声をあげてくれた方々のおかげで、女性の活躍の場が大きく広がった現代。とはいえ未だ残る課題。
このシリーズの絵画を鑑賞していると、女性の地位向上のために活動してくれた先人たちに感謝しつつ、私自身も次の世代に自信をもってバトンを渡す責任を背負っているのだと、ブルジョワから言われたような気がしました。
現在は主婦の私ですが、自分が家庭外でできること・やりたいことに改めて向き合い挑戦していきたいと奮起させてもらいました。

改めて『ママン』を鑑賞してみると…

展覧会を見終わった後に会場の外に出て、改めて『ママン』を鑑賞しました。
たくさんの卵をお腹に抱えた蜘蛛のオブジェ。
六本木ヒルズの象徴『ママン』と、展覧会に展示されていた蜘蛛の作品との違いは、足先の鋭さ。
解説を聞くと『ママン』は屋外にあることから倒壊を防ぐために「靴」を履かせているとのことで、安定感があります。

良くも悪くも色んな面を持ちながらも、「何があっても大丈夫だよ!」とどっしりと構えた、子どもにとって安心感のある母親でありたいな、と『ママン』を眺めながら考えていました。
ルイーズの人生をたどったような『ルイーズ・ブルジョワ展』。
女性として。母親として。両親の子どもとして。
「この作品がすごくよかった!」とアートの美しさに見入るというよりも、作品に込められたメッセージ性の強さに息が苦しくなるような、今も胸に重く響く、忘れられない展覧会になりました。
もう展覧会自体は終了してしまったのですが、六本木ヒルズに行けばいつでも『ママン』に会うことができます。
ルイーズの表現した母親像を、今までなんとなく見ていた方(私もそうだったのですが)。是非六本木ヒルズに行かれた際、じっくりとご覧になってみてください。「母親像」だと意識することで、新しい気付きがたくさんあるかもしれません。
053 - ブルー
主婦 / 神奈川県 / LEE100人隊
38歳/夫・息子(9歳)・娘(5歳)/料理部・美容部/岡山県出身・神奈川県在住。パン屋さんめぐり、旅行&お土産を買うこと、美術鑑賞(特にゴッホの作品)が趣味。きれいめカジュアルを軸に「自分にとって心地いいファッション」を模索中。子どもたちとのお出かけ&旅行、おいしいもの、ファッション、自分の心が動いた出来事。丁寧な生活とはほど遠いバタバタな毎日の中で見つけた「あ、これいいな」と感じたものを、皆さんと共有したいと思います。3年目もどうぞよろしくお願いします!身長156cm&イエベ秋。
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