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2019年10月のお題

ものの見方を変えてくれる(かもしれない)漫画2作品

  • yuki*

2019.10.29

  • 8

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月刊トップブロガー、今月のお題は「漫画&本」。読書の秋ですね。

いろいろ紹介したい本はあるけど、せっかく今回は漫画と銘打ってくれてるので、いま一番面白いと思っている漫画2作品を選びました。どちらも月刊誌で連載継続中の作品です。

小学館、Flowersに連載中の「ミステリと言う勿れ」。
祥伝社、 FEEL YOUNGに連載中の「違国日記」。

そもそも、いまはどの漫画雑誌も電子化されているものを買っているので、コミックスを紙の現物で本屋まで行って買ってもいいほど好きな作品なんて、かなり限られます。
この2作品も、1・2巻くらいまで現物を持っていましたが、あとは電子書籍で揃えようかななんて思ってました。

でも、せっかくこのお題をもらったんで、久々に本屋に行って紙の本を買いました(笑)電子の書影を勝手に引っ張ってきて使ったりしちゃいけないんで。(まあ、それ以外にもほかにいろいろ縛りがあるわけです)
電子書籍の書影をわざわざ取り込んで、自分や家の備品なんかの画像と合成する・・なんて不自然なまねもしたくないし。それにやっぱり自分は、単行本は紙派です。

さておき、この2作品には共通点があります。それは、ものの見方や考え方、捉え方を白から黒、黒から白へとひっくり返しうる、オセロのような作品だということ。ありきたりで世俗的な、よく言えば「当たり前で普通」のものとは別の方向へ、価値観を反転させるような力を持っていると思うのです。

 

では、まずはこちらから。

 

 

「ミステリと言う勿れ」田村由美さんの作品です。

学生時代からかなり長いことフラワーズを購読しているので、同じ作者の前の連載をなんとなく追ってはきたんですが。途中、ついていけなくなっちゃって。近未来が舞台の・・壮大で重たい感じの、代表作2つのイメージが強い作家さんですよね。

今回のは設定が現代で、わりと日常生活に近いところから始まるストーリーで、閉鎖的な空間を舞台にした会話劇という感じの作品なので、入りやすかったです。

 

 

ミステリと言う勿れ、というタイトルなんですが、内容は推理劇といっていいと思います。主人公は、表紙のもじゃもじゃ頭、久能整(ととのう)。
整くんは、二十歳の大学生です。一人暮らしをしていて、あまり社交的ではなく、家に来るような友達も恋人もいません。趣味は美術鑑賞、好きな食べ物はカレー。

彼が毎回、その鋭い観察眼をもって、独自の視点で謎を解明していくわけです(名探偵コナンでいう、江戸川コナンのパートに当たる役割の人ですね・・)。

そういう内容なんで、ミステリといえばミステリなんですが、「と言う勿れ」というのにはもちろん理由があって。この作品の本当の面白いところは、謎解き部分ではなく、その過程において主人公が話す内容だと思うのです。

毎回事件に巻き込まれてはそれを解決の方向に誘導していく、その過程で整くんが語る、これでもかというくらい長いセリフの数々。目からウロコを落としてくれるような珠玉の名言が次々と出てきますよ。

その、具体的な名言は、著作権を侵害するので書きませんけども。

でもたとえば、こんな身近な問いに対する、いわゆる模範解答ではないけど、しっかり腑に落ちる答えが書いてあります。

「奥さんがキラキラネームを子供につけたがるが、どうしたらよいか」

「娘が反抗期で、臭いとか洗濯物を分けろとか言い出した。自分は子煩悩な方だし、学校やなんかの行事にも積極的に参加して、かわいがって育ててきたのに・・」

「不妊を姑に責められる日々。どうしても子供が欲しいので、可能性のある体外受精にトライしたいが、そんな不自然なことをするなら離婚して出て行けと親戚中から反対された。そんなにいけないことか」

そして
「どうして人を殺してはいけないのか」。

 

人間の持つ根源的な問いに対する、作者なりの答えがいろいろと言語化されています。こういう考え方もあるな、と胸がすくような感じがします。それから、自分の持っている偏見や思い込みについても気づかされる。痛快なんですよ。

これは、うまく自分の価値観にフィットすれば、子育ての役にも立つかもしれない。人が人の命を奪ってはいけない理由って、本当のところどういうことなんだろうと、いつか尋ねられた時なんかに。

 

ちなみに、自分がこの作品の1巻を絶対買おうと思ったのは、真実はひとつなんかじゃないということが書いてあったからです。(コナンとだいぶ違うな・・)

当時、あることで本当に思いつめていて、めちゃくちゃ悩んでいたのです。いったい何が真実なのか、頭がぐちゃぐちゃになり、いろんな人のことを疑いました。

真実は人の数だけある。他人の真実はいくつもあって、事実はひとつ。なら、その事実を受けての、自分の真実はいったいなんなのか。そして、関わる人間の数だけある別々の真実の中で、誰の真実を一番大切にしたいのか。
その答えが出た時、これでいいんだと、スッと心に落ちたんです。

きっと、私が救われたのと同じように、他のたくさんの読者のことを救っている作品なんじゃないかと思います。

もし興味が沸いたら、ぜひ。おすすめです。特にこの、いつもの長たらしい私の投稿を、好きで毎回最後まで読んでくれるような人には。

 

さて、2作目は・・・

 

 

「違国日記」ヤマシタトモコさんの作品です。

こうやって並べると、服がちょー可愛いな。

 

 

3巻の服が一番好きかも。カーディガンがめっちゃ可愛い。

 

 

歩み寄る女王(35歳、人見知りな小説家、槙生)と、子犬(15歳、高校1年生、朝)。二人は、叔母と姪の関係です。

槙生は、群れをはぐれた狼のような目をした少女小説家。朝は、槙生の姉が生んだ娘です。槙生は姉のことを心底嫌っていたので、長年会っておらず、姪の朝とも疎遠でした。

朝が中3の、卒業を間近に控えた頃。両親が突然の事故で他界してしまいます。槙生は連絡を受けて早朝から警察に行き、母(朝にとっては祖母)に頼まれ、諸々の手続きが済むまでの間、朝を預かることになります。

コーヒーショップで2人で朝食をとりながら、朝に悲しいかと尋ねる槙生。心が麻痺したのか、まだよくわかっていないらしい朝は、槙生ちゃんは悲しいかと聞き返します。

槙生は、嘆かわしいことに全く悲しくないけども、あなたを気の毒だと思う分悲しいと答えます。悲しくなる時が来た時に悲しめばいいと。
私が変なのかと思った、と安心する朝に、へんかもしれないが、あなたの感じ方はあなただけのもので、それを侵害する権利は誰にもないのだという槙生。

叔母、姪である関係性を考えると、たしかにありきたりではないやりとりだとは思うけれど、個人対個人のやりとりだと考えると、なんだかとっても納得がいくというか・・・とても誠実で、嘘やごまかしがないなあと思うのです。

そして槙生は朝に、日記をつけることをすすめます。この後やってくる目まぐるしい状況の変化の中、誰が自分に何を言ったか、言わなかったか、何を感じ何を感じないか、書き留めておくことが後々意味を持つかもしれない。

翌日の葬儀では、さっそく無責任な人々が好き勝手に、口さがなく、いろんなことを言うわけです。故人の生き方への揶揄から始まり、責任の押し付け合いを経て、朝のたらい回しが始まった、そのとき槙生は・・・!

と、ここから先は、興味ある人は読んでみてください。年の離れた2人の同居が始まるわけです。
いまなら無料で最初の方だけ読めるっぽいですよ、pixivコミックで。このくだりもしっかり入ってます。好きな人は、ぐっと心を掴まれます。そうでなければ、まあ、合わなかったということで・・・。

 

 

この、槙生の姉がめっちゃ嫌な女なんですよ、確かに。嫌いなのわかるわ。

人と違うことは恥ずかしい。世で普通とされていることができない人は、できる人より劣っている。そういう自分の価値観が絶対に正しいと信じて疑わず、支配的で高圧的で・・周囲に馴染めないことを叱責し、それを「あなたのために言ってるのよ」と正当化する姉。読んでるだけでぐったりしてきます。自分にこういう姉がいたとしたら、さぞ嫌だろうなあと思う。
でも、姉には姉の感じ方や言い分がきっとあったはずなのです。

単に、考え方やものの受け取り方が、まったく違う。血が繋がってようといまいと、同じ環境で育っていようといまいと、違うものは違うんですよ。そのことを当たり前と思えるか、思えずに押し付けるかの話です。

姉は・・・自分も子を持つ母親である身なので、その目線で見たら、対外的に恥ずかしくないだけのことを娘にしてやっていて、決して悪い親ではなさそうな感じである。
にもかかわらず、こういう母に産み育てられたらと思うと、ぞっとするのです。ある時、自分がずっと支配されていたことに気づいたら・・いや、気づかないまま大人になれたら、それが一番幸せかもしれないなあ。でもよほどうまいこと歩いていかないと、そのうちきっと頭打ちする時が来るだろうと思う。

朝は、もちろんその母の価値観に沿って育てられ、本格的な反抗期らしいものが到来する前に死別したので、とってもいい子なんです。守られていたから、反抗する余地がないくらい母が正しい感じの人だったから・・・
しかし、ある時そこから放り出されて、徐々にいろんなことが見えてきます。その時には、もう母はいないわけです。そして、かなり独特の価値観の、母とはまったく正反対とも言える槙生と暮らすことになる。

執筆に入ったら昼夜関係ないし、ふつう庇護者ならこうしてくれるだろうと思うようなことはしてくれないし、大人なのに友達と学生みたいな(きちんとしてない)言葉遣いで話して笑ったりようなところを自分に見せるし、部屋はめちゃめちゃに散らかっているし。
へんな人だなあ、と思いながら生活するんですが。槙生の言うことは、人と違うなりにしっかりと筋が通っていて、一個の生き物として、とっても自然に思えるんですよ。だから、朝も徐々に槙生との暮らしに馴染んでいき、それが日常になり・・・やがて、自分に起きたことを心が受け容れ始め、そこではじめて、親を亡くしたということへの実感が湧いてくるのです。悲しみには、その人にしかわからない、いろんな形があるから。

これは前述の「ミステリと言う勿れ」の主人公とも共通して言えることなんですが。
槙生は、昔子どもだった時のこと、その頃感じた世界に対する違和感みたいなものを、大人になってもしっかり覚えていて、だから子どもに対して、都合の悪いことをごまかしたり、大人であることを振りかざしたり、見下したり、そういう卑怯な真似を絶対にしないんです。どんな疑問にもしっかり答える。

そういう日々の様子を読み進めていくと、やがて、かつては自分も・・いや今だって、ただ一個の純粋な生き物であったということを思い出します。

保護者ってこういうもの、被保護者はこういう態度であるべき。という一般的な思い込みに縛られず、ただ少し年かさの個人として、年若い個人に接することができたなら。親子だって、本当はそういう視点を忘れず、親であるということと合わせ持っているといいのかもしれないなあと思うのです。

 

 

ちなみに、これの1巻を買おうと思った理由は、いくつかあります。

まずは、葬儀の際に槙生が親戚たちに(じゃないか、)切った啖呵(でもないか、)がすっごくかっこよかった。
そして・・たとえ血縁関係であっても、相手とどうしても合わず、思い出すたびにいやなくらいとことん嫌いなら、死んでもそんなに悲しくない。そういう、他人には薄情だと白い目で見られそうな価値観も、堂々と世に存在していいんだなあと思えたから。

それから、槙生が朝に日記をつけたらいいという場面を読んで、なるほどと思ったからです。たしかに、そうだなあと。

子どもを亡くした時、実際はとてもそれどころではなかったけれど、日記をつけていればよかったなあと、ずいぶん後になってから思ったのです。

当時は大切な友人だと思っていた人が弔問にきてくれたのですが。産後の体のために、来てくれた親族に心配をかけないために、頑張って食事をとろうとしていた自分に・・・その人は、「意外と元気やねえ、よかったー。ご飯食べられてるやん」と言った。そのことを、しばらく忘れていたのです。心が麻痺しすぎていて、スルーしたかったんだと思うんですが。
そのあとも何年か交流はあったけれど、結構、その種のことを平気で言う人だった。

この人と会ったあとは何かがいつもおかしい・・と違和感を覚えつつ、「戸籍にも入れることができなかった子どもの葬儀に、わざわざ来てくれた友人がいる」という事実の方を信じたくて、そのことを大事にしたすぎて、会うたびに心が傷だらけになっていく自分のことを自覚できてなかったんですね。
むしろ、こんな恩のある人のことを少しでも悪く思うなんて、自分はなんてひどい人間なんだろうって思ってました。

日記をつけていれば、きっとその後の人生の指針になったはず。自分が何を許せて、何を許せない人間なのかが、もっと早くにわかったんじゃないかと。

本当に、事実は一つだけど、真実は人の数だけある。そして、後になってから何が自分にとっての真実なのかわかることも、多いんじゃないかなと思います。

 

そんな、おすすめ漫画2作品でした!

本当に・・毎回本のこととなると、ダラダラと長い感想を書いてすみません。

今まで幾度となく書いてきましたが、毎度読んでくださってたって方がもしいらしたら、どうもありがとうございました〜。

 

yuki*

39歳/夫・息子(11歳)/手づくり部、料理部/横浜在住、大阪出身。港が見えそうで見えない丘の上の古い一軒家で、息子と年上の旦那さんと猫のリサと一緒に、楽しく暮らしています。本とラジオと美しい布が好き。がま口のお店をやっています。一度しかない美しい日々を、あたたかく綴りたいと思います。Instagram:@yukiiphone

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