公開日にすぐ行ってきました、映画「居眠り磐音」。
松坂桃李が磐音役で映画になると制作発表されてから、どれだけこの日を楽しみにしてきたか・・・!あの、息子氏が幼児時代に大変お世話になった殿(シンケンレッド)が、10年の時を経て、坂崎磐音になるとは。。
時代小説好きとしてはもう、感無量です・・・!!
朝から桜木町まで行ってきました。
原作は、佐伯泰英先生の「居眠り磐音 江戸草紙」シリーズ。全51巻に渡る長編です。わたくし、何を隠そう図書館で全51巻を読破後、2周目も突破いたしました(笑)
さて今回、原作ファンとしては絶対に手に入れておきたい、すばらしい物が入場者特典としてついてきます。それがこちら。
特別文庫「居眠り磐音 劇場版00」。佐伯先生の書き下ろし短編小説「闘牛士トオリ」、シナリオ全文、本木克英監督と松坂桃李の対談が入った冊子です。これが欲しかったゆえに、初日の朝から見に行ったわけです!ぶじ手に入ってよかった〜〜。
シアターは、さすが初日だけあって、平日の割には結構たくさんの人がいました。しかし、驚いたことに、その6割は年配の男性がた・・。残り3割が男性に同伴して来ている年配の女性。老夫婦と言っていいでしょう。
最後の1割は、桃李君のファンと思しき中年女性のグループ。2組ほど見かけました。パンフレットもしっかり事前に買ったらしく、熱心なようです。おそらく自分も傍目には、ここに属する感じに見えているのでしょう・・好きだけどさ。
ともかく、ぼっちで来ている30代以下の女性は自分だけ。もっといるかと思ったけどな。どうやら時代小説ファンとしては、若年に属する稀な層らしいということがわかりました。土日ならきっと、もっとそういう人がいたと思うんですが。
つまり、9割がた高齢者層なわけです。おそらく私が最年少と思われました。
物語は、主人公・磐音を含む幼なじみ3人組が、他の門弟とともに、江戸神保小路の佐々木玲圓道場で打ち合い稽古をしているところから始まります。
坂崎磐音、小林琴平、河出慎之輔。それぞれの剣には個性があります。琴平はとにかく自由奔放な感じの攻めの剣、対して慎之輔は実直な剣風。
そして磐音は、実はめっぽう強いんですが、師匠の佐々木玲圓に「春先の縁側で日向ぼっこをして、居眠りしている年寄り猫のような」と評される、一風変わった剣風の持ち主です(ここが映画でどう表現されるか楽しみでした)。
豊後関前藩(大分県あたりと思ってください)から勤番で江戸にやってきた3人ですが、江戸にて経験を積んで成長し、任期を終えて関前に帰る日が間近に迫っています。
3人の若者は、未来への期待に溢れていました。
当時は参勤交代制で、藩主が頻繁に長期の留守をするので、国で私腹を肥やそうとする悪い重臣が現れがちだったわけで・・。
関前に帰って城勤めの任についたらば、それぞれの立場から力を合わせ、澱みきった国許の藩政を改革しようと話し合っていたのです。
彼らには他にも、帰る日が待ち遠しい理由がありました。
慎之輔は、関前で結婚してすぐに江戸勤番になったので、新妻の舞を国に残していました。この舞が、琴平の上の妹です。
そして下の方の妹の奈緒は、磐音と子供の頃から夫婦になる約束をし、結納まで済ませていました。関前に帰ったら、翌日には祝言を挙げることになっていました。
磐音と慎之輔が、琴平の二人の妹を娶ることで、3人の結束はただ幼なじみのそれよりも、より強固なものとなるはずでした。
はやる気持ちを抑えて、足取り軽く関前に向かう3人でした。
が、帰着したその日の夜に、すべてを暗転させる悲劇が起こります。
全てを捨てて心を失くし、脱藩して浪人の身となってしまう磐音。江戸に戻り、一度は剣の道も捨てて、深川の長屋に住まうようになります。食べるのに困り、昼は鰻屋で鰻を割く仕事につきます。
どんな人に対しても分け隔てなく心優しく、春風のように柔らかい物腰で礼節を重んじ、大人にも子供にも好かれる磐音。やがて長屋の差配・金兵衛さんが、娘おこんが奥女中を務める両替商・今津屋での用心棒の仕事を紹介します。
昼は包丁を振るう鰻職人、夜は剣を振るう用心棒というわけです。
そんな風に、心の奥底に哀しみを隠して、身過ぎ世過ぎを立てていた磐音でした。が、ある時、貨幣の流通をめぐる陰謀に今津屋が巻き込まれ、騒動が起こります。
江戸で出会った人たちを守るために、剣を振るう磐音。胸に隠した大きな哀しみを、乗り越えて生き続けることを選んだ彼は、このまま前に進むことができるのか。
そして、愛する人は今・・・!?
・・・と、これが全51巻中の、だいたい1巻目までの話です(一部、4巻にあたる場面もあり)。
なんて気の長い話なんだ!全部とは言わないけど、せめてあと2回は映画化してほしいもんです。
そんなベストセラー時代小説、待望の映画化だったわけですが。普段、好きな小説や漫画なんかが映像化されると聞いた際、自分はあまり期待をしすぎないようにしてます。別物として見ないと、納得いかないことが多いので。
誰しもそうだと思うんですが、自分なりに頭の中で思い描いている登場人物の様子(姿形を含む)というのがあるので、まずキャストを聞いた時に「!?」となることが多いんです。
自分の場合は、ここが最初にして最大の壁だと思うんですが、逆に言えば、ここで納得できる人選だなと思える場合、かなりの確率で違和感なく鑑賞できるってことで。
(最近でいうと「きのう何食べた?」なんかがそうです。もう毎週見てますよ!!)
今回の場合も、まず松坂桃李くんが心優しい坂崎磐音役にぴったりってことで、楽しみにしてました。
それから、忘れちゃいけない、ヒロインも大事です。許嫁の奈緒役に芳根京子ちゃん、今小町と呼ばれる深川の町娘おこん役に木村文乃さん。どっちもいい!
特に、文乃さんのおこんは、観る前からとっても楽しみにしてました。
しかし、実際に観た後では、足を運ぶまでそこまで期待してなかった芳根京子ちゃんが、すばらしかった!
奈緒役は、純真無垢な武家娘で、なおかつ傾城の美女じゃないといけないので、難しいんです。どんな華のある女優さんが演じるのかと思っていたら、ずいぶん若々しい人を選んだなと。いやすいません、若いと思ってなめてました。波乱万丈に様子が二転三転するのですが、どの芳根さんもすごかった。
さて。キャストの違和感を乗り越えられたとしても、決められた2〜3時間の枠内に収めるために、だいたい話の筋に大幅な改変があったりするもんです。
しかし、今回の作品に限っては、そこが素晴らしかった!アレンジした部分が、すべて原作の良さを生かしつつ、2時間の映像作品として良い方向に作用していて、原作ファンも大満足できる内容となっていました。
もしかしたら次に繋げられる可能性もありかな・・!?という絶妙な納め方(笑)なんでもかんでも、原作に文字で書いてあることだけに忠実に作ればいいってもんでもないんだなーと、目から鱗が落ちたような思いです。
「行間を読む」ということについて思いを馳せました。読み手(この場合は映画製作者サイド)が作品世界をを理解し、作者の意図をきちんと汲み取っていれば、新しく生まれた台詞や設定やシーンの全てが活きてくるんだなあと。感服しました。
ネタばらしにならない程度に、どこが良かったのか、ちょっとだけ具体的に言います。
☆原作では自分の胸のうちについて語らない磐音が、心中を吐露する場面があった!
この場面における松坂桃李がもう、素晴らしかったんです。
そうか、そりゃそうだよな、と思わず涙がポロリ。それは、ある呪いの言葉を吐いてくる悪者(柄本明)とのシーンだったのですが、見る者をここに誘導する映画ならではの仕掛けが、素晴らしいと思いました。
見終わった後、皆が傷心の磐音を応援したくなってしまうと思います。心優しく、強く穏やかでかっこいい。松坂磐音は、まさに令和のニューヒーローにふさわしい♡
☆奈緒の視点で描かれた場面がいくつかあり、クライマックスの美しいシーンが納得できるものとなった。
原作では磐音サイドで起きた事件については色々描かれているのですが、奈緒の人となりに関しては、手紙くらいしか手がかりになるものがなく、あまりどういう人物なのかよくわからないのです。状況から様子を察することはできるんですが(その分、生き生きと描かれているおこんの方に肩入れする原作ファンも多いのでは)。
☆柄本親子の快演・怪演が光る。
小林琴平役の柄本佑、本当に悲しい役なんです。明るく楽しいやつなのに悲しい運命をたどるってとこが、本当に悲しい。
全51巻の長い物語に、実際に登場するのは1作目だけ。ですがそれだけに、主人公の心の中に長く長く残り続ける人物です。だから、とても重要な役柄だと思っていました。柄本さんのお兄ちゃん味がすごくて、ぴったりでした。さすが。
映画でも主な登場は前半だけなのですが、最後は血まみれになっていました・・。
さて、お父さんの柄本明は、陰謀の首謀者の両替屋・阿波屋の主人役。あばただらけの特殊メイク(たぶん)で、得体の知れない悪いじじいの役を演じていましたが、迫力あったな。前述の、磐音に呪いの言葉を吐くシーンは圧巻でした。
☆ピエール瀧から奥田瑛二に撮り直したらしいけど、よく短時間でこれだけのシーンを作り直したなと感嘆。
実は、今作にはあまりその部分は描かれてなかったけど、こいつが悪の親玉なんです。巻によってはラスボス扱いの人物なので、ピエールさんの事件のニュースが流れた時に、最初に思ったのは「こんな公開を楽しみにしてたのに、どうしてくれるんだ・・・!!(涙)」だったのですが、びっくり仰天、延期もせずに公開されました。
それでも、かなり大変だったと思います。パンフレットとか、ポスター用の画像とかも全部差し替えたってことですよね。苦労しただろうな・・。
よく間に合ったなという印象ですが、さすが奥田瑛二。悪かった〜〜!!
今作では、関前サイドの陰謀については描かれなかったんですが、代わりに(?)前述の、原作にない奈緒視点の場面がいくつかあった中のひとつが、奥田さんとのシーンで。もう、めっちゃ悪かった。急に代役としてやることになったとは思えないくらいの悪ですよ、悪。・・・ピエール版もちょっと見てみたかった気がしますが、言っても仕方のないことですね。。
☆佐々木道場のシーンから始まったことで、磐音の心の原点が剣の道にあるということがより明確になった・・気がする。
一巻「陽炎ノ辻」がどう始まったのか、ちょっと記憶があやふやなんですが。映画は、佐々木蔵之介演じる佐々木玲圓先生の佐々木道場(ややこしいな)から始まるのです。
原作の方では、51巻を通して仲間や後輩たちと切磋琢磨し、磐音の心のベースとなる大きな場所。ですが、なんせ51巻は長い。その存在が当たり前になりすぎてる感じなのです。
でも、今回映画がこの場所から始まったのを見て・・・佐々木道場は主人公磐音にとって、まだ若くて人生における何の悲しみも知らない、ただただ目の前に開けた前途への希望に満ち溢れた仲間との日々が、かつての自分に確かに存在したということのよすがとなる、とっても重要な場所だったんだなーと。
それに、ある時を境に人生が一変した者にとって、剣の「道」が自分の前にも後にも揺るぎなく続くのだという確かさは救いになるかもしれないと思いました。
☆佐々木道場、両替商今津屋、鰻屋宮戸川、深川六間堀の金兵衛長屋。文字での描写を読んでぼんやりとイメージしていた世界が、はっきりとして目の前に広がる贅沢さ!
これは原作を読んだ人にしかわからない感想だと思うんですが、ページに広がる文字でおなじみの世界が、イメージを壊さずそのまま映像化されてる喜びというものがあるんですよ。これは、現代劇の映像化にはない味わいです。
長屋の軒先、両替商の土間・・・そこに集まる、活気のある人たち。細部まで作り込まれたセットに唸りました。もう、さぞかしお金かかってるだろうな。そりゃ十分わかってるけど、できれば続編作ってくれないかなあ。。ヒットしますように。
長らく図書館から貸し借りを繰り返した「居眠り磐音 江戸草紙」、それに息子空也の活躍を描いた「空也十番勝負」の2つのシリーズは、双葉文庫でしたが。
版元を文春に変えて、新しく「居眠り磐音 決定版」として加筆修正されつつ、今年から順に刊行されています。
まあ、たしかに51巻中に、辻褄が合わないこともいくつかあります。(当初こんなに長くなるとは思わず、わりと行き当たりばったりに書いたようなことを佐伯先生が何かで言ってらしたような・・・)
今年に入ってから月に2冊くらいずつ出始めたのですが、いい機会だから買い集めようかどうしようかな・・と迷い中です。文庫本、昔は安かったけど、今は結構一冊いいお値段するからなあ。
788円が51巻か・・・いけないいけない、考えてはいけない(笑)!
ともかく、それと同時に、スピンオフ作品が新しく出ました。そっちは後先考えず、買いましたよ。
生まれたての奈緒と、兄の親友だった磐音との出会い。そこから江戸に出ることが決まって一旦別れるまでの、長きにわたる初恋を描いた「奈緒と磐音」。
それから、佐々木道場での弟弟子たちの人間模様を描いた「武士の賦」。
全51巻もあるんです、読んでる方はみんな途中からおこんさんを応援し出すに決まってるんですよ。明るく可愛く賢くて、生き生きとした健気なヒロインなんだもの。
一方その間、奈緒は磐音のそばにはいないのです。かわいそうだとは思うけど。。
でも、前述のように映画でしっかり奈緒の人となりが描かれたことで、流されるままではなく、最後には自分の意思で身の振り方を決めたのだということに気づかされました。
そして、このスピンオフで磐音との関係が改めて描かれたことによって、悲しみが際立ちます。ごめんね奈緒!悲しかったよね、思いやってあげられなくてごめんよ!
映画に数回出てくる、印象的な南天のエピソードがあるのですが、それは原作には存在しません。実はこれが、全編を通して一番素晴らしい脚色だと思いました。
・・・・・・・・・・
ぜひヒットして、三部作くらいにはなってほしいです。。
居眠り磐音は素晴らしい。きっかけはなんであれ、磐音の世界に触れたら最後、そのうち51巻全部読むことになると思います。たぶん。そして、松坂桃李だと思って読んでください。読む前に磐音のビジュアルが松坂桃李だと思っていた方が、かっこよくて楽しさ倍増です(ほんまかいな)。
普段あまり時代小説を読まない、LEE世代の女性読者にもぜひお勧めしたい!読み始めたら、みんな心は若い娘になって、磐音に恋しちゃうと思うな。
一旦読み始めたらとまらない!それくらい魅力的な、エンタメ時代作品です。いうわけで、みなさんもよかったら劇場へ!または図書館か書店へ!(笑)
yuki*
39歳/夫・息子(11歳)/手づくり部、料理部/横浜在住、大阪出身。港が見えそうで見えない丘の上の古い一軒家で、息子と年上の旦那さんと猫のリサと一緒に、楽しく暮らしています。本とラジオと美しい布が好き。がま口のお店をやっています。一度しかない美しい日々を、あたたかく綴りたいと思います。Instagram:@yukiiphone
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yuki*