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私以外みんな不潔

  • yuki*

2019.04.30

  • 4

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久々の読書感想です。能町みね子さんの「私以外みんな不潔」。

帯に書いてあるように、私小説らしきものであると思われます。

 

私が能町さんを好きになったきっかけは、いつものパターンですが、ラジオです。
2012年に始まった、オールナイトニッポンZEROという番組(いわゆる二部の枠です。夜中の3時からですよ・・)に、漫画家の久保ミツロウさんとコンビを組んで彗星の如く現れた、まさにラジオ界のニュースターでした・・!

この二部の枠は、おもに新人のミュージシャンや芸人さんが一部昇格を狙って入る枠だったんですが。ちょうどこの年に、ニッポン放送が新しい試みとして、二部の枠に入る新人パーソナリティをオーディションで一般公募したのです。
久保さん能町さん組のほかに、オーディションを勝ち抜いて見事に枠を獲得した中には、まったくのド素人の就活大学生コンビもいました。珍しい試みだったのでよく覚えています。

その後、お二人の番組は一部に昇格。人気の番組だったと思うので、その後数年にわたり、枠移動したりして続きましたが、ある時なぜか終了。。いつか復活してくれないかな、と諦めきれないでいます・・。

さて、ラジオトークがあまりに面白かったので、能町さんがどういう本を書いているのか気になって、あるときエッセイを図書館で手に取ったら、ハマっちゃったのです。借りたり返したりしているうちに、これは買ってちゃんと著作を集めようと決意。

確か最初に読んだのは、性別適合手術を受けるまでの会社勤めの様子を書いた「オカマだけどOLやってます。」。それからその続編とも言える、タイで受けた手術にまつわるあれこれを書いた「トロピカル性転換ツアー」。
まだLGBTという言葉がここまで一般的になる前に書かれたものです。語り口はいちいち笑っちゃうくらい面白いんですけど、細部に至るまでとってもリアルなんですよ。とても頭のいい人なんだろうな、と思い、大好きになりました。

ほかに、作者が偏愛するものを語る感じの著作も幾つかあります。古い建物や鉄道、大相撲など。読む前は対象に興味がなくても、読んでいるうちに引き込まれて、ちょっと好きになってしまうような、不思議な説得力というか・・魅力があるのです。
あとは、気になる何かを客観的に分析したようなもの。いろんな雑誌の、主な読者層ってこんな感じかもしれない・・と思わせる「雑誌の人格」は面白いです。たしかまだLEEは取り上げられてないはず(ちょっとコワイ・・)。

能町さんのエッセイは、かなりスパイスが効いています。ちょっとシニカル。思い当たることを突かれた時は、ちょっと痛いなーと苦笑いもしてしまうけど、それに対してまじめに腹を立てたりムキになったりするのは、かなりダサいというか、無粋。
彼女は、とっても粋な人なのです。

 

 

さて、今回の作品は、そんな能町さんの書いた私小説。年末くらいに買って、つい最近ゆっくり読みました。

とても不思議な小説です。私小説なんだろうな、間違いなく。

 

 

こちら、この本の裏帯。

語り手は5歳のこどもという設定なのですが、語彙力は完全に大人のそれなので、読み始めてしばらくは慣れないかも。すごくマニアックなところに着目して深く観察したり、自分がなぜそれを気に入って好きなのかを説明してくれるのですが、独特だったり突拍子もないようでいて、語りにきっちりと脈絡がある。

そりゃそうだ、実際は大人が書いたものなんだから当たり前じゃないの。・・と思っちゃうような人は、最初から読まないほうがいいかも。読んでいるうちに、奇妙なリアリティがある気がしてくるのです。

 

話は、語り手である5歳児が、生まれた北海道の地から、東京近郊(だと思う)のベッドタウンぽいところに引っ越すところから始まります。
その子は利発で頭が良く、独特の視点や表現力がある早熟なこどもである一方、強めのこだわりや偏食があり、夜尿がいつまでも治らない自分に苛立ち、誇りが傷ついて癇癪を起こしたりする。母親の視点で読むと、少し発達にばらつきがあるわけです。

新しい街で、新しい幼稚園に通うことになるのですが、それがもう、嫌で嫌で憂鬱で仕方がない。自分以外のこどもがうるさくて汚くてたまらなくて、戦慄する5歳児。帯を見るだけでわかると思うんですが、大人にとって取るに足らないような諸々のことが、あまりに切実な大問題なのです。

でも、おそらく周りの大人には、集団の中でちょっと扱いにくい、あまり自己表現をしない子だと思われているんだろうなと。何百人という子を見てきたであろう幼稚園の教諭の中にも、この子のような子がいることを理解して目線を合わせようとするベテランの先生と、そうでない先生とがいます。

親となるともう、きっと途方にくれるだろうなと思う。自分も11年親をやってきた後では、そう思います。

でも、一方でこの子の切実さもわかる。それは、扱いにくいこどもだった長い長い時期が、自分にもあったからです。

 

 

個人的な話をします。

じつは、この主人公の夜尿やお漏らしにあたるものが、幼い頃の自分にもあったのです。それは、落ち着かなくなると、とにかく身近なものを噛みちぎってしまうことでした。

特に、行きの園バスの中では常に緊張状態で、合皮でできた(たぶん)黄色い通園ポシェットの、幅2センチほどの肩紐を、端から端まで3ミリずつくらい噛みちぎってしまっていました。それはまるで、ネズミがかじったみたいにボロボロ。

いくら叱られても、ものを大事にしろとなじられても、悪いことだとわかっていても、どうしてもどうしてもやめられなかったのです。苦しかったし、辛かった。ある程度大きくなるまで、爪も鉛筆もハーモニカも、すべてがボロボロでした。

いつの間にかボロボロになってしまっていて、ハッと気づいた時にはいつも穴に入りたいくらい恥ずかしかったし、情けなかった。
そして、この主人公ほどではないにしても、どちらかというと利発なほうでした。興味を持って読んだものは大体すぐに内容を理解できたし、そこそこ覚えも良く、質問にもしっかり答えられる子でした。そういうことを大人に褒められると得意になったし、嬉しかった。

だから、この5歳児が満足と嫌悪、肯定と否定との間を、来る日も来る日も行ったり来たり、行ったり来たりしている感じが、とても他人事とは思えなかったのです。
幼稚園どころか、小学生になっても中学生になっても、毎日集団教育のもとに通うのが、嫌で嫌で仕方なかった。

 

・・・そんなふうに、何十年も前の自分に、とつぜん引き戻されるような感覚を味わったわけですが。そんな読後感も冷めやらぬ、翌日のこと。
本当にたまたまなんですが、いつも聞いているお昼のジェーン・スーさんのラジオ番組「生活は踊る」の相談のコーナーで、ちょうどこの本の内容について少し触れられていたのです。

相談は、「幼稚園に行きたくない」と登園拒否を始めた子のお母さんからでした。
スーさんもちょっとお薦めしていましたが・・繊細でいろんなものが見えすぎたり、発達に飛び抜けた部分があったりして、集団に入るのをかたくなに拒否するような子って、必ずいると思うんです。そういう子を抱えて、どう対処していいのか途方にくれているような親がいたら、ちょっと本作を読んでみてほしいと私も思いました。

 

 

先に言っておきますが、読んだからって、たぶん解決はしません。そういう子はそういう子だと思うし、生きにくさもひとりひとり、千差万別だと思うから。なんの明確な答えも書いてません。

でも、たとえ傍目にはおとなしい内向的な自己表現の少ない子だったとしても、または、落ち着きがなく扱いにくい子だったとしても・・・その内面は、深淵だったりします。驚くほどに深く、迷宮のように広い。
そしてきっと、子供との距離が近ければ近いほど、そのことは見えにくいものなのです。

その深淵の有り様を、この作品はとてもリアルに描いていました。

たとえ理解できなくても、解決してあげられなくても、子の中に広がるその深淵の存在を、親が認識しているのとしていないのとでは、まったく違う。
育児において、知っておいて決して悪いことじゃないと思うのです。それが、先ほどこの本を読んでみてほしいと言った理由です。

 

これをまるで絵空事のような、作りごとのような、大人目線で後付けして作り出した、ちょっと風変わりで個性的な天才児の話みたいに思う人もいるかもしれません。でも、この話は、絶対に、あの孤独を経験した者にしか書けない。
だから、大人になった今は頭から信じられなくても、決して軽んじてはならんのです。

ともかく、いい本でした。これまで読んできたいろんな能町さんの著作と同じように、この本も好きになれて、よかったです。

 

yuki*

39歳/夫・息子(11歳)/手づくり部、料理部/横浜在住、大阪出身。港が見えそうで見えない丘の上の古い一軒家で、息子と年上の旦那さんと猫のリサと一緒に、楽しく暮らしています。本とラジオと美しい布が好き。がま口のお店をやっています。一度しかない美しい日々を、あたたかく綴りたいと思います。Instagram:@yukiiphone

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