映画ライター折田千鶴子のカルチャーナビアネックス

天才ダンサー、ロイ・フラーの波乱の半生――。 映画『ザ・ダンサー』の監督×主演ソーコ インタビュー

 

世界を熱狂させたダンスを忠実に再現したシーンも必見!

ソーコさんは見事、ロイ・フラーのダンスパフォーマンス、その舞台を、自身の肉体をもって体現してくれています。それはもう、蝶が浮かび上がるような、ため息がでる幻想的な美しさです。ところが彼女の息遣いも含めてリアルに描き出される、うっとり見惚れてしまうダンスは、実は身を削って可能になる過酷なダンスでもあったことが私たち見る者も体感させられます。

 

大成功を収めたロイは、若きダンサーたちを集めて団を主宰するまでになりました。伯爵のルイが持つ森の中の大邸宅で団は暮らし、日々研鑽を積んでいました。

監督「ダンスにまつわるシーンについて、映画で描いたことはすべて真実なの。彼女は一度舞台で踊ると、2日は踊れなくなったそう。45分間の舞台を終えると失神したように体に力が入らなくなり、倒れ込んでしまうシーンが映画にもあるけれど、あれも真実よ。それほど体力も気力も消耗するダンスだった」

ソーコ「「2ヶ月間、毎日訓練を積み上げて初めて、やっと彼女のダンスを踊れるようになったの。遂には、自分を鳥のように感じることもできた。ロイ・フラーを演じるにあたり、呼吸困難の苦しさ、衣装が汗臭いことも含め、自分の体で感じることが重要だったわ」

監督「最もすごいのは、彼女のダンスがエリートのインテリ層も大衆も、その双方をも惹きつけた点。“フォリー・ベルジェール”は大衆的な劇場でしたが、彼女のために一大リニューアルして、そこにみんなが集まって熱狂した。1万フランという、当時にしては破格のギャラを受け取ってもいたの。そう、彼女は当時のパリの、大スターだったのよ!」

実際に踊ったソーコさんの感想は、と言うと、「かなりのハードコアな体験だったわよ!」とエネルギッシュに笑いました。

ソーコ「彼女が踊っていた舞台の高さは3メートル。しかも周りは真っ暗で、その中でくるくる回っていた。方向感覚も失うし、非常に危険を伴う舞台なのよ。でも代役を使わず、私も頑張って自分ですべて踊り切ったわ」

ソーコ「撮影中は、このドレスが第二の皮膚のようだった。衣装を身につけて初めて役の気持ちになれることがあるけれど、特にこのロイという役に関しては、まさしくそうだった。ドレスを身につけたことで、彼女は“このドレスなしでは何者でもない人間だ”と感じていた、ということを私は感じたの

 

ロイはかなり複雑な内面を持つ女性でした。伯爵のルイとの関係も、友情以上恋人未満、同時にソウルメイトのような、誰にも分からない理解と絆で結ばれていたようにも感じられます。ちなみに、この伯爵ルイの存在だけは、フィクションとして登場させた人物とのことです。でも、きっとこんな人物も周囲にいたかもしれない……と興味を掻き立てますよね!

ソーコ「つまり、このドレスに自分を隠し、抽象的な形を作ることによって、このシルクの向こう側にはどんな女性がいるのかを妄想させる芸術でもあった、と。彼女は自己評価が極めて低い人間でもあったと思うわ

 

2人の天才ダンサーの情熱と愛の行方は――。

ロイのダンスに魅せられ、友人となった伯爵ルイのお金を勝手に拝借し、フランスに単身渡ったロイ。その無謀とも思える情熱と意志や大胆さに、同じ女性として尊敬の念を覚えずにいられません。今とは全く違う時代背景を考えると、その尊敬も倍増しますよね。

パリに着いた彼女は、突撃のように劇場<フォリー・ベルジェール>に直談判に訪れるのですが、当然ながら無名の彼女に支配人は剣もほろろでした。でも、そこに救いの手を差し伸べるのが、同じ女性であるガブリエルという劇場マネージャーです。以降、ガブリエルは影となり日向となり、ロイを支え続けるのです。

個人的には、ロイと伯爵ルイ、そしてガブリエル、さらには成功したロイの団に入ってくる、若く美しいイサドラ・ダンカン(ロイと対照的に彼女は、研究書も多数出版されている有名なダンサー)との確執、その4人が繰り広げる愛憎を交えた、非常に複雑な関係や互いへの心情が、最も見応えがありました!

ロイの団に入ってきた、新人ダンサーのイサドラ・ダンカン。ロイとは対照的に若く美しく、一目でその姿が周囲を魅了してしまう天性のスター性があったようです。演じるのはリリー=ローズ・デップさん。ジョニデの愛娘として、今、世界で最も注目されている女優さんですよね!

監督「その人間関係こそが、本作の核であり、そこを中心に描く、私のスタンスでもあったの。誰が誰を愛しているか否か、または善か悪か、白黒ハッキリさせることは当然ながらできなかったわ。だって人生って、すべての要素が絡み合っているものでしょ」

監督「ロイはいわゆる同性愛者でしたが、自己破壊への欲求や興味的なものでルイとも深く結ばれていた。でも、本作における真のカップルを選ぶとしたら、ロイとガブリエルね。だってガブリエルが居なかったら、ロイという人は存在しなかったのだから。一方でロイは、イザドラ・ダンカンのおかげで、自分のフェミニティを受け入れることができたとも思う」

 

 

監督・脚本:ステファニー・ディ・ジュースト
パリの高等装飾学校を出た後、ミュージック・クリップの分野で活躍。その後、モード誌、ファッションショー、テレビ局の美術、大手企業の広告デザインも手掛けるなど、多方面で活躍。本作で長編映画監督デビュー。カンヌ国際映画祭<ある視点>部門に出品される。また、セザール賞の第一回監督賞にもノミネートされた。

監督の言葉を受けてソーコさんが、ロイに対する共感を口にしました。

ソーコ「芸術に人生を捧げている人って、人間関係や恋愛において、満たされないことがよくあるわ。私自身ノンストップで芸術に身を捧げているから、ロイと同じことを経験してきたわ。パーソナル・ライフが満たされないのも致し方ないことだな、と私も思っている節があるわ」

そして最後に、ロイ・フラーが自身を犠牲にしてまでも身を捧げた“芸術”に対して、2人とも熱く語ってくれました。

監督「今のこのバイオレンスな時代で、私たちの敵は、まさに“無知”だと思うの。それに唯一対抗できる手段が、芸術だと私は信じていて。大抵の場合、全体主義や独裁の最初の段階でやることって、本を焼くわよね。つまり創造=自由だから。今、多くの人がそのことを忘れていて、文化の価値を見失っている時代だと思うわ。できるだけ多くの人が文化にアクセスして、それによって魂を育てるべきなのよ!!」

ソーコ「私はもう芸術がなかったら死んじゃうわ(笑)。私にとって、退屈=死だから。いつもやるべきことに囲まれて、たくさんのことを成就させないと、生きていると感じないの。日本の女性にも、自分のポテンシャルを100%発揮して、真実を生きて欲しい、と言いたいわ。自分が幸せを感じることは、躊躇せず、どこまでも追及すべきよ!」

監督「そうね、私の知っている日本人はみんな確かにシャイな人ばかり。ロイのように、自分の直感に従って生きて欲しいと、声を大にして言いたいわ(笑)! あ、それにはまず、映画『ザ・ダンサー』を観てもらわなきゃ(笑)!」

とってもエネルギッシュで楽し気な2人が印象的なインタビューでした。なるほど、こんな2人の“本気と情熱”が詰まっているからこそ、観る者の心に迫るような映画が出来たのだなぁ、と唸らされます。

映画はもうすぐ公開になります。ぜひ劇場で、ロイ・フラーという一人の天才ダンサーの人生に、思いを馳せる大航海に出てください!

 

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Writer Profile

折田千鶴子

映画ライター/映画評論家

Chizuko Orita

栃木県出身。LEE本誌で映画&DVD紹介ページやインタビューを担当。その他、各種雑誌やWEBメディア、映画パンフレットなどで映画コラムや批評、取材記事を執筆。夫と10歳の双子男子の4人暮らし。愛犬を亡くし、家族でペットロス中。

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