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藤原千秋

「ボツリヌス」の誤解に気をつけて!

  • 藤原千秋

2017.05.09

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子どもたちの大好きなハチミツ、だけど……

パンケーキに、とろ〜り金色ハチミツ、想像するだけでもうっとり……。それからそれから、プレーンヨーグルトにひとたらし。フレッシュな苺などのフルーツをマリネしても良し。

子どもってハチミツが大好きですよね。きっと子どもだけじゃなくて、ママも。

なんとなく白いお砂糖よりも身体に良さそうなイメージもありますし、栄養も豊富……。でもそんなハチミツを、生後5ヶ月の赤ちゃんが離乳食として飲むことで、乳児ボツリヌス症になり、亡くなるという痛ましい事故が先ごろ起きてしまいました。

「赤ちゃんにハチミツはNG」ということは、ぼんやり母子手帳などで聞き及んでいても、じゃあ1歳のお誕生日が来れば大丈夫なの? 3歳なら危険ではないの? 等、迷ったり不安になった方も多いのではないでしょうか。

また、「ボツリヌス」というワードの、ややおどろおどろしい響きは大変印象深いために、どこかでチラと耳にした「辛子レンコン」「食中毒」といった話題と一緒に頭の中で混ぜこぜになっていたりしませんか?

そんなこんなの混乱を解くべく、子どもの食に詳しい一般社団法人 母子栄養協会 代表理事で管理栄養士の川口由美子先生に、お話を伺うことにしました。

「ボツリヌス菌」って何?


川口 由美子 先生
一般社団法人 母子栄養協会 代表理事
管理栄養士
女子栄養大学 生涯学習講師
「子どもの身長ぐんぐんメソッド」(主婦の友社)等、著監修書多数


藤原
 白砂糖などと比べて「身体にいい」イメージのハチミツが原因になった事故ということで、気になるのが、この「乳児ボツリヌス症」になる原因の物質というか菌のようなものって、いったい何なのか? どんなハチミツにも含まれているものなのか? ということなんです。

川口 誤解が多いところなので最初にお伝えしたいのですが、今回の「乳児ボツリヌス症」の原因となった「ボツリヌス菌」は「芽胞(がほう)」としてハチミツに入っていて、食中毒を起こした「辛子レンコン」などには「毒素(胞子)」として入っているということです。

同じ「ボツリヌス菌」を原因にした病気で「ボツリヌス症」とまとめられますが、潜伏期間や症状の出方などが異なるので、注意してください。

藤原 「ボツリヌス菌」というのはそもそもどういった菌なんでしょうか。

川口 べつに珍しい菌ではないんですよ。ごく普通の土や、泥や、川や海に分布しています。ただ大きな特徴がいくつかあって、そのひとつが空気を嫌う性質があること(「嫌気性」)。

それから熱に強い「芽胞(がほう。一部の細菌が作る、極めて耐久性の高い構造。種のようなイメージ)」を作ること。

その「芽胞」は、低酸素の状態におかれると「発芽」「増殖」を起こすのですが、その際に大変強い毒素を産生するということです。

ボツリヌス菌の「芽胞」が危ない

藤原 そんな危ないものがハチミツには含まれているということなんですね。

川口 絶対含まれているとは言いませんが、その可能性が数%あるので、厚生労働省からは1歳未満まで避けるよういわれています。腸管が発達した1歳以上の子どもや、大人は基本的に心配いりません。

藤原 1歳未満の子どもが「芽胞」入りのハチミツを食べると、どうなってしまうんでしょうか?

川口 腸管の中で「芽胞」が発芽して、菌が増殖します。そのとき産生した「毒素」が吸収されて「ボツリヌス菌」による症状を起こすことがあるんです。

「芽胞」を摂取してから、3日〜30日後、症状が始まります。

便秘、脱力、表情がこわばる、といった、「麻痺」の症状が特徴です。

藤原 なるほど、「乳児ボツリヌス症」って、出方が、いわゆる、私たちが想像する「食中毒」の症状とは、かなり異なるわけですね。

川口 混同されがちな保存食品などの「ボツリヌス食中毒」の場合は、「毒素」入りの食品を食べた8〜36時間後に吐き気、嘔吐、視力障害や言語障害などの症状が現れます。その後、神経症状、「麻痺」がやはり出てきます。



ハチミツ入りの加工品は安全?

藤原 でも市販の「ハチミツ入りドリンク」や、優しい甘さの「ハチミツ入りお菓子」なら、加熱もしてあるし食べさせてもいいような気がするのですが。

川口 加工品であっても、やはり1歳までは避けたほうが望ましいです。加工する際の温度などがわからないからです。

藤原 確かにわからないですね。ちなみにどれくらい加熱すれば「ボツリヌス菌」って死ぬものなんでしょうか?

川口 「ボツリヌス菌」は熱に強い「芽胞」を作るので、120度で4分間以上か100度で6時間以上の加熱をしないと死滅しないんです。

藤原 「100度で6時間」の加熱って、家庭の調理環境ではちょっと無理ですね。念のためですが「芽胞」ではない、「毒素」だけの汚染対策は、どうしたらいいんでしょうか?

川口 「ボツリヌス毒素」は「80度30分間」か「100度で数分以上」で失活します。

「ボツリヌス菌」が嫌気性菌だということを先ほどお話ししましたけど、空気のないところで多く繁殖するので、家庭での料理でというより、レトルト(高熱高圧)加工していないパック製品で、ほんらい冷蔵保存しなければいけないのに間違って常温保管してしまった場合などに食中毒が発生しやすいんです。

藤原 そのへん、大雑把だったり、ズボラな人は要注意ですね……。

我が家にはもう赤ちゃんはいませんが、食品の保管状態には気をつけていきたいです。ありがとうございました!

藤原千秋 Chiaki Fujiwara

住宅アドバイザー・コラムニスト

掃除、暮らしまわりの記事を執筆。企業のアドバイザー、広告などにも携わる。3女の母。著監修書に『この一冊ですべてがわかる! 家事のきほん新事典』(朝日新聞出版)など多数。LEEweb「暮らしのヒント」でも育児や趣味のコラムを公開。

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