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食物アレルギーの子どもと暮らす

食物アレルギーの子どもと暮らす【その1】〜減感作療法への道〜

  • 藤原千秋

2016.09.25

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「毒物は確認されない殺人」

それは今から10年くらい前に観た、ある映画のワンシーンでした。

お菓子の缶の底に溜まった、砂糖混じりのボロボロのかけらを、意図してターゲットの飲みさしのコーヒーカップに注ぐ犯人

気づかずコーヒーを飲み干してしまったターゲットは、間もなく苦しみ絶命してしまいます。しかし警察の捜査で“毒物”は確認されず無罪放免になるのです。

スクリーンを観ながら、私の身体には嫌な汗がどっと吹き出ました。なぜかと言えば、映画内で殺されたターゲットと同じ食べ物の「食物アレルギー」を、そのとき3歳に満たなかった私の娘も持っていたからです。

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アレルギーっ子のママ、15年目

わが家には今年(2016年)14歳、10歳、6歳になる三姉妹がいます。そのうち長女と三女に「食物アレルギー」があり、長女と次女に「喘息」があります。ちなみに長女には「花粉症」もあり(三冠)、アレルギーとの付き合いはかれこれ15年目になります。

今でこそ「うちの子アレルギーで」と苦もなく言えますが、正直なところ、だいぶん子どもにアレルギーがあるということを認められずにいました。「これ、風邪なんじゃない?」「お腹、壊しただけじゃない?」だなんて……。

じっさい、消化器に症状が出るタイプの食物アレルギーの場合、一見「お腹の風邪」のような出かたをします。腹痛や下痢嘔吐などが起こることが多いのです。

よく大人でも花粉症?だろうに、「違う! 私は絶対、ただの風邪だから!」ってグシュグシュしながら認めない人がいますけれど、ああいう感じで、とっさに見分けがつきません。

そもそも私にとっては、自分の子どもが生まれて初めて見た「食物アレルギー」の人でしたので、それがどういう症状を呈するものかなども全然知らなかったのです。

余談ですが「喘息」の特徴的な喘鳴(ぜんめい)も聞いたことがないため分からずに、子どもの最初の気管支喘息の発作の際には、悪化して救急車を呼ぶことになってしまいました。

子どもの命を脅かす「食べ物」

いろいろと「知らない」というのは怖いものですね。件の映画の、「あれ」と同じことをされたら、あんなふうにショック症状を起こして死にかねない。それなのに私の娘の命を脅かすのは「毒」なんかではなく、皆が普通に食べている当たり前の食べもので、農薬のあるなしも、オーガニックも有機も関係ありません。

重篤な「食物アレルギー」を持っているということは、「そういうこと」なのだ、と映画で改めて思い知らされ、「いったいどうしたらいいんだろう」「どうやってこの子を守っていけばいいんだろう」、寝つけない夜が続きました。

その頃、かかりつけ医の指導で行っていたのは、アレルゲン(アレルギー症状を引き起こす原因となるもの)となる食べ物いっさいを食べない、食べさせないといういわゆる「除去」だけでした。

これは簡単な対処法のようでいて、厳密に行うことを考えるとものすごく難しい営みでした。およそ、「ふつう」の食生活は送れません。そしてその必要性は、現在ほど当時の「ふつう」の人には知れ渡っていませんでした。

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LEE2014年3月号のアレルギー特集。当時のLEE100人隊メンバーとアレルギーっ子ママの悩みと知恵を語り合いました



 「ママが神経質になるのは良くないよ!」

「ちょっとぐらい食べさせてみたら?」「ママが神経質になるのは良くないよ!」

善意のアドバイスもちょくちょく受けました。善かれと言われているのは分っていたのですが、その「ちょっとぐらい」が命取りになることを、そう言ってくる人は、まったく分かっていないことも分かっていました。

後に、大きくなった長女から「ありがとう、お母さんがあの頃モノスゴク神経質だったおかげで私は今、生きていられるんだよ!」と言われ、「神経質にしていて良かった」と心底思いました。

当時「ちょっとくらい大丈夫でしょ」とアドバイスしてくれた人たちからは随分と嫌われてしまったものですが、子どもの命と天秤にかけたらどうでもいいことです。

さて、アレルゲンを完全に除去するためには、その食材そのもののみならず、原材料を全て詳らかにしていない外食一切、個人商店などにおけるお惣菜の類、お菓子や菓子パンその他が暮らしの選択肢から外れます。

申し訳ないことですが、知り合いや身内による手作りのおかずや、お菓子の類も警戒の対象でした。悪意?をもって混入されることなどないにしても、食物アレルギーに対する、基本的な注意を払わない無意識的な調理のプロセスでは、いつどのようにアレルゲンが混入するか分かりません。

「かくし味」が怖い

とりわけ、当時、恐ろしかったのが「かくし味」の類でした。「かくし味」だけに、たいてい食べる人には内緒にすることを良しとされるもので、そこには悪気の片鱗もないからです。

また、基本的に原材料を明らかにし、店頭ではアレルギー表示を行っているはずのチェーン店の食べ物ですら、気を抜けないという現実もありました。

あるとき何度か訪れていた外食チェーン店でアレルギー表示を確認し、大丈夫だと判断したものを食べさせた後で、子どもがぐったりしてしまうことがありました。ただ熱を測ってみても平熱以下で、風邪のようにも思われません。

まさかと思って、そのチェーン店のインターネットサイトから詳細な原材料表を探して辿ると、なんと「かくし味」として少量のアレルゲンが混入されていたことが分かったのです。量が少ないために店頭では表示していないことも書かれていました。

ショックでした。いかに分かりづらかったとはいえ、そこまでちゃんと確認しておかなかった不手際。このときは幸い、微量なだけに重篤なことにはならず済みましたが、目の前でぐったりしている子どもを見つめながら、泣けて泣けて仕方がありませんでした。

「緩徐特異的経口耐性誘導療法」との出会い

こういった「微量の(誤)混入」に怯えながら、「除去」の食生活を送り10年近くが経過した頃のことです。かかりつけ医の後輩という先生が、比較的近くにある医療センターで「緩徐特異的経口耐性誘導療法」(経口減感作療法ともいう)という食物アレルギーの治療を始めたということを伺いました。

まだ新しい療法で、実験的な要素が強いということ。これまで懸命に避け続けていたアレルゲンを、あえて摂取させるという(親子共に恐怖を伴う)治療であること。でも、これが「食物アレルギー」の根治には一番近い道であるように考えられていること。

数日かけた家族会議の末、かかりつけ医に紹介状を書いていただき、この治療を受けることを決めたのです。

当時、長女は卵、牛乳、ピーナッツ。三女は卵、牛乳、ピーナッツ、小麦、大豆、コメ、バナナが食べられない状態でした。

ただ離乳食を前にした三女に関しては、こう多品目となると除去するにも除去のしようがない、それはせっぱ詰まった状況だったのです。

 

……さて、このような内容で、以後何回続くかわからないのですが(!)、不定期連載でこの「食物アレルギーをもつ子どもとの暮らし」を綴っていきたいと思っています。どうぞお付き合いくださいませ!

 

*この記事は、あくまで藤原さんの個人的な記録であり、この対策や治療がどなたにでもあてはまるというものではありません(LEE編集部)

 

藤原千秋 Chiaki Fujiwara

住宅アドバイザー・コラムニスト

掃除、暮らしまわりの記事を執筆。企業のアドバイザー、広告などにも携わる。3女の母。著監修書に『この一冊ですべてがわかる! 家事のきほん新事典』(朝日新聞出版)など多数。LEEweb「暮らしのヒント」でも育児や趣味のコラムを公開。

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