映画ライター折田千鶴子のカルチャーナビアネックス

今春必見のドキュメンタリー映画、世界の才能に驚嘆、感動、癒される5選!

全世界が魅せられ騙された、謎の美少年作家の正体はーー

『作家、本当のJ.T.リロイ』
新宿シネマカリテ、アップリンク渋谷ほか絶賛公開中
c 2016 A&E Television Networks and RatPac Documentary Films, LLC. All Rights Reserved.
【監督】ロジャー・ロス・ウィリアムズ
2016年 アメリカ / 111分/配給:アップリンク 
http://www.uplink.co.jp/jtleroy/

みなさんは、J.T.リロイという作家をご存知ですか⁉ 96年に彗星のごとく文壇に現れた、少女のような華奢な美少年。16歳のときに書いた自伝「サラ、神に背いた少年」――母親とその恋人から虐待を受け、男娼となった過去を綴る――で、一躍時代の寵児となりました。

彼の早熟な才能にほれ込んだガス・ヴァンサントは、カンヌ映画祭でパルムドール(最高賞)を獲った『エレファント』(03)の脚本を依頼し、「賞の半分は彼(J.T.リロイ)に奉げる」とまで言ったのです。彼の第2作はアーシア・アルジェント(イタリアの巨匠ダリオ・アルジェントの娘で女優)に惚れこまれ、『サラ、いつわりの祈り』(04)として映画化されました。

彼の才能は、マドンナやウィノナ・ライダーやトム・ウェイツ、U2のボノら、トンがり系の著名セレブに絶賛され、世界中で天才だともてはやされました。

ところが10年後の2006年、突如、ニューヨークタイムズ紙が、“J.T.リロイは存在しない”という暴露記事を載せたのです!!

存在しないって、“じゃ、あの金髪サングラスの美少年は誰!?”、“じゃ、一体だれが小説を書いていたの⁉”と、当然ながら世間は騒然とします。そりゃ、そうですよね。狐につままれたような話ですもの。

左が広く世間でJ.T.リロイとされてきた……実はなんと少女。右がローラ・アルバート本人。

なんと小説を書いていたのは、マネージャー的存在として常に彼と行動を共にしていた40代の女性ローラ・アルバートでした。本作は、その張本人がコトの顛末をこと細かに、思いのたけをぶつけるように、思い切り語りつくしたドキュメンタリーです。

つまり、完全に一方的な独白。本当の本当にすべてが真実なのか、彼女の勝手なフィルターを通して語られているかもしれない、という、真実をあぶりだす通常のドキュメンタリーと違って、それこそが面白い点でもあります。

詐欺罪として訴えられてもいる彼女ですが、その告白が、かなり仰天の事実がてんこ盛り。彼女自身の変質狂的な面や人格が破綻している部分を、自ら告白してもいるわけで……。

同時に、16歳が書けば評価されるけれど、年配の女性が書いたら価値がないのか、あるいは詐欺と言えなくもないけれど、そこまでの罪だろうか……と、色々な自問自答を頭の中でせずにいられないのです。

彼女の仰天告白や金髪の少年の正体などについては、ぜひ劇場で驚きつつ楽しんでください。異色の面白さが味わえるドキュメンタリーです。

 

ドイツで異例の大ヒットを記録した夫婦と家族の物語

『わすれな草』
4月15日(土)より渋谷ユーロスぺースほか全国順次公開   © Lichtblick Media GmbH
【監督】ダーヴィット・ジーヴェキング   2013年/ドイツ/88分/配給:ノーム  http://www.gnome15.com/wasurenagusa/

最後にご紹介するのは、認知症になった母親を、自宅で献身的に介護をする父親の様子を、息子である監督が記録したドキュメンタリーです。いえ、全然、辛気臭くない、むしろユーモラスな映画なんです。認知症と聞いて二の足を踏むのは、ご法度ですよ!!

監督のダーヴィットが、母グレーテルの世話を手伝うため実家へ帰ってくるところから映画は始まります。日々の介護生活の撮影に、とても知的だった母の過去の写真や映像が挿入され、まさに“時代の戦士”ともいうべき、波乱の人生が浮かび上がってきます。自由恋愛を認め合った、かなり進歩的というか、一風変わった夫婦関係にも驚かされます。

一方で、今では欲望の赴くまま、眠ければ「嫌だ、ここで寝る!」と周囲の誘いや軽い叱咤に完全無視を決め込む母の姿に、ちょっと笑ってしまったり。過去を後悔しながらも、記憶を失っていく妻に愛情を注ぐ父の姿は、別版『きみに読む物語』とも言えなくもない恋愛映画でもあるのです。

今や誰にとっても無縁ではない、介護問題。介護の困難も捉えながら、決して衰えていくことを否定せず、家族のありのままを受け入れ、認める。お手本にしたい力強い家族のドラマとして、構えず軽い気持ちでご覧いただきたい佳作です。

 

さて、書けば書くほど、書きたいことが溢れて来た“愛すべき5作”。ドキュメンタリー映画にしかない面白さもきっと感じていただけると思います。

ぜひ、お土産をたくさん持って帰れる、豊かな時間を堪能してください!!

 

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Writer Profile

折田千鶴子

映画ライター/映画評論家

Chizuko Orita

栃木県出身。LEE本誌で映画&DVD紹介ページやインタビューを担当。その他、各種雑誌やWEBメディア、映画パンフレットなどで映画コラムや批評、取材記事を執筆。夫と10歳の双子男子の4人暮らし。愛犬を亡くし、家族でペットロス中。

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