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飯田りえ

親も子も深く考え、対話することでつながる大切さ。映画『ぼくたちの哲学教室』は思春期ママ必見!

  • 飯田りえ

2023.05.30

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僕たちの哲学教室_画像子育てをしていると、親としての成長を試される瞬間がいくつもあります。

わが家の子どもたちも学童期から青年期(思春期)にさしかかり、まさにその時が訪れ始めています。
とりまく社会が広がり、第二次性徴が訪れ、(成長自体はとても喜ばしいことですが)子どもたちの身体的・精神的変化についていけず、言動にも驚かされることが増えてきました。

「あぁ、ついに来たか…」と落胆する瞬間も、正直ありますが、どうにかこの時期を親子で成長しながら乗り越えたい。
大人の考えを押し付けるのではなく「どう考えているのか」「自分はどうしたいのか」を話して欲しい。

そうモヤモヤしていた時に、『ぼくたちの哲学教室』という映画のお知らせが届きました。

北アイルランド・ベルファストという都市にあるホーリークロス男子小学校では「哲学」の授業を主要科目とし、校長自らが常に子どもたちと対話を続けている、そんな日々を追ったドキュメンタリー映画だそう。

男子小学校×対話というキーワードに興味津々。ひと足お先に鑑賞させていただきました。

北アイルランドにある平和と紙一重の小学校、そこで育つ子どもたちと「哲学」で向き合う

第一印象はというと、日本も北アイルランドも小学生たちは同じだなぁ、と。

日々の関わりの中で、なにか小さなきっかけから「やった」「やられた」「やりかえす」みたいないざこざが日々勃発していました。

しかし、描写が進むにつれて、ベルファストという町が暗い歴史のある町だと知りました。
1960年代の北アイルランド紛争によりプロテスタントとカトリックの対立が長く続き、今でも町が大きく分断されているそうです。
未だに武装化した一部組織が、武器を捨てていない状況で、平和を維持するのが困難な環境にある小学校なのです。

大人たちの怒りや恐れは、間違いなく子どもたちへ伝わります。

そんな平和と紙一重な日常を送っているホーリークロス小学校の子どもたちを、毎朝、ケヴィン・マカリーヴィー校長は笑顔とユーモアとハグで出迎えます。

そして、なにかトラブルが起きた時には、どんな子どもにも共感をしめしつつ、やさしく問いかけます。トラブルの背景にはなにか「不安」や「衝動」があるので、それが落ち着いてから対話を進め、子どもたちの思考を整理させるのです。

その手法たるや!お見事!

こういう対話ができたら本当は一番いいのに、どうしてもただの説教になってしまう…と、自分を省みつつケヴィン校長の対話余韻に浸っていると、なんと校長が北アイルランドから来日するとの情報が。

これはもう会いに行くしかない!ということで、早速お話を伺いに行きました。

学びに対する興味を取り戻すために、模索しながら取り入れた「哲学」

──わが家にはちょうどホーリークロス小学校と同じ世代の男の子が2人います。映画を見て、言葉のかけ方や寄り添い方がとても勉強になったので、今日はお話しを伺いにきました。

ケヴィン校長(以下、校長) 哲学を始めるのにぴったりの年齢ですね。私がいればもう安心ですよ。なんでも聞いてください。

──まず、ケヴィン校長が小学校の授業で「哲学」を導入しようとしたきっかけを教えてください。

校長 僕は今の学校に26年間勤務しています。副校長になった2008年、学校の学びから遠のいてしまう子どもたちが大勢いました。「どうにかして子どもたちが学ぶ意欲を取り戻したい」と思い、いろいろ試しました。

「シックスハット法」という企業経営者がアイデア出しの時に使うような、既成概念ではなくクリエイティブに考えるための方法を取り入れたりもしました。そんな試行錯誤をしている中、前校長から校長を引き継ぐ時に「哲学的なことを取り入れたらどうかな」と提案されたのです。

──ケヴィン校長はどこで哲学は学んでこられたのですか?

校長 大学の時に学んでいましたが、長い間離れていたので少し不安はありました。これからは自分が校長になるし、思い切って自分も学び直し取り入れることにしました。今は本当にうまくいっています。

子どもたちの本当の声を聞きたい。前に進めるようになるまで対話する

──子どもたちへの向き合い方が常にやさしく、声の掛け方も素敵でした。

校長 僕は相手が子どもでも親でも訪問者でも、常に同じです。笑うことも大好きだし、ユーモアも大好き。子どもだから、大人だから、と態度をかえることはありませんし、誰にでも敬意をはらって接しています。

──映画の中でも校庭でケンカをした子どもたちに対して、冷静に語りかけていました。大人が寛容でなければなかなかできないなぁと。

校長 ケンカをした子どもの体内って、ストレスホルモンと言われる「コルチゾール」など化学物資が体内から出て、汗は出るわ、涙は出るわ、心臓もバクバクして怒りがどんどん増しているんです。そうなった時に落ち着くためにも「思索の壁」に向かわせて、そこでいろんなことを語りかけます。

「友達とはなにか」「相手に敬意を払うとは、どういうことか」。最終的に「どうしてそういう行動をしてしまったのか」を考えたときに「相手に悪いことをしてしまった」と自分で気づいて欲しいんです。さらに、「次に前進するために何をしたらいいのか」というところまで考えてほしいと思っています。

──いや、まさにそれが理想なのですが、どうしても大人の意見を先に言ってしまいます。

校長 私は子どもたちの本当の声を聞きたいんです。それに、良いことをした時には褒めたいし、良いところをもっと見たいといつも思っています。だから、悪いことをした時にだけ私のところに来るようにはしたくないんです。



哲学的対話には親の協力が必要、そして、子どもの話を最後まで聞く

ぼくたちの哲学教室_画像──子どもたちだけでなく、保護者を集めて哲学的対話の講習をされていましたね。あのシーンも印象的でした。

校長 私が教育しているのは学校ではなく、その先にある家族や地域、コミュニティ全体に対して行っています。保護者の協力が必要ですし、家族が全員関わることで初めて実現すると思っています。

映画の中にもありましたが、毎週保護者の皆さんに集まってもらって、哲学的な質問に考えてもらう時間をとっています。保護者のウェルビーイングにもつながりますよ。

──私も教えていただきたいです…! ちなみに哲学的対話は家庭でもできますか?

校長 ご飯を食べている時に、まずは食卓で会話をしてみてください。スマホもテレビもゲームも消して、家族みんなが心と体を向き合って、昔ながらの「伝統的な話し合う時間」が必要です

その会話の中で大切なのは、両親がきちんと子どもの話を最後まで聞いてあげることです。親が話の腰を折って話し始めてしまうと、子どもの話ではなく自分の話になってしまいます。

まずは、子どもの今日あった出来事や、言いたいことをひと通り最後まで聞いてください。そこから、自分の話をしてもいいですよ。「いろいろ大変なこともあったけど、今日は頑張れたね。お母さんも今日1日大変だったけど、そういうのがあるからこそ人生なんだと思う」と、これこそが守るべき「価値ある時間」なのだと思います。

──人に話すことで自分のやりたいことが見えてきたりしますからね。

校長 そうです。今の僕がそうであるように、人との対話から人間関係がうまれて、新しいチャンスがうまれることって本当にあるんです。誰かと会話したことで知り合いになり、そこからチャンスがうまれて映画ができて、こうして世界中を紹介して飛び回ってる。以前なら考えもしなかったことが、実際に起きていますから!

自分たち親も、大胆に変わっていかなければならない

僕たちの哲学教室 ケヴィン校長

──とはいえ、現代の家族は何かと慌ただしいです。

校長 そうですよね。親も子も忙しい中、帰ってきてすぐにご飯を食べて、お風呂に入って「早く寝なさい…!」としていると、その日の子どもの話を聞けないで終わってしまいます。これが3日続き、1週間、2週間…と、あっという間に過ぎてしまいますよ。

子どもの人生の重要な一部になるには、親もやはり大胆に変わる必要があるかもしれません。子どもが幼い場合には、すこしご褒美的なものがあってもいいかもしれません。あとはワクワクするようなことを考えるとか、とにかく会話に引き込んでいくことも大切です。

──ありがとうございます。最後に日本の方々にメッセージをお願いします!

校長 他人がどういう意見を持っていても、違う意見や違う考え方をもつ勇気を持ってください。そして怖がらずに、自分の意見を言ってください。
子どもたちは未来ですから。声を聞いて、自分の信じる未来に歩いていけるようにサポートしていきましょう。

 

インタビュー中もユーモアたっぷりで、話しやすい雰囲気を作りながら相手の話を聞き、伝えたいことを伝える、映画通りの心の温かなケヴィン先生でした。

映画の中には哲学的対話だけでなく、自分の怒りとの向き合い方や、親の間違った意見との向き合い方など、親子共に気づきの多い映画ですので、ぜひ多くの家族に観てほしいです。

「ぼくたちの哲学教室」公式サイト
■『ぼくたちの哲学教室』
2023年5月27日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開
監督:ナーサ・ニ・キアナン、デクラン・マッグラ
出演:ケヴィン・マカリーヴィーとホーリークロス男子小学校の子どもたち
2022/アイルランド・イギリス・ベルギー・フランス/英語/102分/カラー/16:9/5.1ch/ドキュメンタリー 原題:Young Plato

© Soilsiú Films, Aisling Productions, Clin d’oeil films, Zadig Productions,MMXXI

人物撮影/山崎ユミ

飯田りえ Rie Iida

ライター

1978年、兵庫県生まれ。女性誌&MOOK編集者を経て上京後、フリーランスに。雑誌・WEBなどで子育てや教育、食や旅などのテーマを中心に編執筆を手がける。「幼少期はとことん家族で遊ぶ!」を信条に、夫とボーイズ2人とアクティブに過ごす日々。

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