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ポッドキャストが本になった!『ホントのコイズミさん YOUTH』小泉今日子さんインタビュー

  • 武田由紀子

2023.01.02

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「読書は心が満タンになる時間。新しい扉が開きます」

歌手、俳優、プロデューサーと多岐に渡り活躍する小泉今日子さん。小泉さんが2021年4月にスタートしたSpotifyオリジナルポッドキャスト『ホントのコイズミさん』は、本や本にまつわる人と小泉さんが語らう番組です。そのポッドキャストが本になり、発売されました。タイトルは『ホントのコイズミさん YOUTH』(303 BOOKS)。小泉さんにポッドキャストを始めたきっかけから読書の楽しみ方、年齢を重ねてもよりしなやかに生きる秘訣について聞きました。



音声だけれど立体的な広がりのあるコンテンツ。最初から本を出す計画があった

――ポッドキャストから本を出す、珍しい動きのように見えますが、本を出す計画は最初からあったのでしょうか。

「“ポッドキャストをやりませんか?”とオファーをいただいた時、私はまだポッドキャストにあまり馴染みがなかったんです。ラジオとの違いはなんだろう、どのくらい自由に作れるんだろうと、プロデューサーにたくさんの質問を投げかけました。その中で、2ついいなと思えることがあって。一つ目は、ポッドキャストの番組では既存の曲がかけられないけれど、オリジナルの曲はかけられる。だからまず、上田ケンジさんと一緒に音楽ユニット「黒猫同盟」を結成してオリジナル曲を作ったんです。もう一つは、本をテーマにしてたくさんのゲストのお話をうかがったとき、音で聞くのと活字で読むのとでは受け取るものが違うだろうと思って。だから最初に“書籍化できますか?”とお願いしました」

――ポッドキャストは、ゲストが毎回多彩で面白いですね。作家、映画監督、俳優、脚本家、翻訳家、個人書店の店主。ゲストの選定はどのようにしていますか。

「ディレクターとプロデューサー、私。ミニマムなユニットで制作しているので、割とスムーズなんですよ。3人でグループラインを作って、“ゲストどうする?”みたいな話から、アイデアが欲しい時は、303BOOKSさんに相談したりもして。ホームページからメッセージを送る機能を作ってくださったので、リスナーからのリクエストにも助けられています」

――週1回配信は、割とハイペースな気がします。

「ゲストにお会いする前に、情報を集め本を読んでおいたり事前準備もあります。舞台やツアーが入っていることもありますから、正直大変な時もあります(笑)。だけどリスナーさんが毎週楽しみにしてくれている、という思いから、頑張れるところまでは頑張ろうと思って。もう1年半以上続けているのですが、迎えたゲストは50人を超えました」

――リスナーからのおすすめ書店に訪れるというのが新鮮で、ポッドキャストの新しいコミュニケーション方法だと感じました。

「番組のホームページ制作や映像制作、今回の本の制作も担当してくださっている303BOOKSさんのおかげですね。最初はtwitterのタグで募集する案もあったのですが、長い文章を書きたいリスナーもいるだろうということで、メッセージフォームを使う方法になりました。そこでリクエストのあった書店を訪れたり、おすすめの本を読んだり。おかげで番組がすごく立体的に成り立っている気がします」

外の静けさと内の爆発、ギャップが面白い。読書はエキサイティングな時間

――本『ホントのコイズミさん YOUTH』ですが、タイトルに“YOUTH”と入っているということは、続編もあるということですかね。

「シリーズにしていくことは決まっています。本を並べた時に、何かわくわくするような仕掛けは計画しています、そこから先はお楽しみに……で(笑)。本を出すに当たって、本だからできることは何かを考えて作りました。『双子のライオン堂』さんと読書会をやったり、『SNOW SHOVELING』さんが元々されている本の提案に私も参加させてもらったり。江國香織さんとは、忘れられないペットの話をしています」

――映画、音楽、本。さまざまな楽しみの中で、本の好きなところ、本が特別だと感じるところは。

「本を読んでいる時間は、他者から見たらとても静かな時間にも関わらず、頭の中は、すごくエキサイティング。過去にも未来にも宇宙にも、どこにでも行けるっていうのも良いですよね。外の静けさと内の爆発とのギャップがすごく楽しいなと思います。あと、読んでいる時間に、心の中にある森の木の枝葉が、ムクムク!と伸びていくイメージがあるんです。それをすぐに誰かに伝えるでもなく、1人で受け止めなくてはいけないという時間が、すごく必要なことな気がしています。

この時間は、ダイビングやシュノーケリングにも似ているなと思って。シュノーケリング中、海の中にいると『あ! 亀さんだ』『すごく珊瑚がきれい!』みたいな感想を伝えたいのに、言えないじゃですか。言えない分だけ、伝えたい気持ちが膨張して、心が満タンになる。本もそんなところがある気がします。“心が満タンになる”、その感覚を知らない人も結構多いんじゃないかと思って」

――音楽や映画は、そもそも人と共有するような場所で鑑賞することが多い上、感想を伝えやすいですよね。一方、本は一人で読むものというのが大前提ですよね。

「ライブは見ている時は発散できるような作用もあるでしょうし、映画も映画館で観れば笑い声を共有したりできちゃう。でも本は、ちょっとだけ修行のように、読み終わるまではどうなるかわからない。そういうのがやっぱりいいのかなと思います」

空っぽのただの15歳。10代の頃は、大人に追いつくために読書をした

――本は、読む人・読まない人がはっきり分かれているなとも感じます。小泉さんは、どんなふうに読書を楽しんでいますか。

「10年近く読売新聞の書評を担当していたのですが、その時に、ちょっと違う読み方を覚えたんです。効率がいい読み方というか、きちんと書くために記憶するというか。そのやり方で身についたものもあるし、それはどこかで自分の糧になっているなとは思います。そうすると、ただ普通にただ楽しむための読み方を忘れてしまって。戻したいなと思いつつも、なかなか戻らない時期もあって。

昔はベッドに入ってから薄暗い照明の中でも本を読めたんですけど、老眼になるとともに全然読めなくなって。だから朝一番、お風呂に入る時に本を読みます。うちはお風呂の日当たりが良くて、空間が真っ白な感じで明るくて、本がとても読みやすいんですよ。ぬるめのお湯にゆっくり浸かりながら、本を読む。これが私の本時間です」

――確かに、私も夜の読書が厳しいです(笑)。著書の中で、「強制的に、山積みになった本しかない牢獄のような所に入れられて、何日も閉じ込められたい」とおしゃっていました。

「軟禁されたい(笑)ですね。今度、それを別のお仕事でやってみようと思ってるんです。どうなるか不安もありますが、とても楽しみです」

――著書の中で、松浦弥太郎さんとの対談で、若い頃に「本を読むと不安が治まるし、役に立つ」と書かれていました。

「心が満たされる読み方とはちょっと違うとは思いますが、私は15歳でデビューして、大人ばかりの世界(芸能界)に入ることになりました。知識も経験も何もない、空っぽの10代の女の子。でも周りの人は、なんでも知っている。例えば、ビートルズを例に挙げると、何も知らない私はビートルズの会話についていけない。そうこうしていくうちに、自分のことが自分の関係ないところで決まっていくんじゃないかと不安があって。追いつくしかなかったんですよね。だから、本を読むし、音楽を聴くし、映画を観る。ビートルズは一例ですが、まわりに追いつくために、懸命に本を求めていたんだと思います」

 

どんな時も“第六感”を大切に。目に見えないものも信じていたい

――著書の中の一問一答で、「自分の感覚の中でいちばん鋭いと思うものは」という質問に「第六感が働いた時はいつも物事がうまくいくんです」と答えていました。第六感は、いつも感じますか。

「いつもありますね。仕事でも、ちょっと迷いがある時は、その場で決めないようにしています。“お返事まで一晩いただけますか”とか“週明けまで待ってもらえないか”とか。どこかで、ピンとくるタイミングがあるので、それを待ちますね。それが来ない時ももちろんあって、無理に選んだ時も失敗ではないけれど、ちょっと精神的にきつい仕事になることが多いですね(笑)。流石に、百発百中ではないですから。

そんな時も、経験する必要があったんだなと思うようにしています。これを経験できたおかげで、これが分かるようになったとか。基本は、楽観主義なんですよ。修行ではないけれど、知るべきこと経験すべきことだったと思うようにしています。ただ、ピンときた時には、物事がババッとつながっていったり、人がどんどん集まってきたりしますよね。

そんな意味での第六感は大切にしています。見えないものと見えるものがあって、見えるものだけを信じていると、新しい扉は開かない。自分が知らない世界があって、そこには無限の世界が広がっている。それを怖がらずに、どんどん広げていきたいと思っています」

――以前に読んだ本『相米慎二という未来』(東京ニュース通信社)で、相米監督が亡くなられた後、「小泉さんはプロデューサーが向いている」とメモを残していたエピソードに驚きました。実際に今プロデュース業などもされていますが、そのアドバイスを意識していた部分はあったのでしょうか。

「私が師としている方は、演出家であり小説家でもある久世光彦さん、編集者の淀川美代子さん。数名しかいないのですが、相米さんもその一人です。久世さんには本を読むことや文章を書くこと、女優として何を知っておくべきかを学びました。淀川さんには連載をもたせていただいて、エッセイやユーモアを描く楽しさを学びました。

相米さんは、出会ってすぐに亡くなられてしまったのですが()、映画のプロモーションの時に一緒に取材を受けている中で、“長生きして今まで見てきたものを伝えるべきなんじゃないですか”と監督に言ったら、“俺はそんなのまっぴらだよ。お前がやれよ!”って言われたことを思い出します。

相米さんって、いまだにファンを生み続けていると思うんです。直接出会えた人はすごく少ないし、私も本当に最後の最後、ご一緒させてもらって。みんな何かを“バトン”的なものを受け取ったと思っています。その中で(中井)貴一さんにも、そんなことをおっしゃってたみたいで、相米さんの中では、私と貴一さんがそんなふうに見えていたのかなと思って。それで“じゃあ、やり始めないと!”と動き出したのもあります。相米さんと関わった俳優さんと一緒に仕事すると必ず“相米さん、見てるかな?”と話すんですよ。貴一さん、柄本明さん、佐藤浩市さんともそう。覚えている人たちにしか語れないものがありますからね。繋げていきたいと思います」※小泉さんは相米監督の遺作『風花』で主演を演じている

 

小さなチャレンジで扉が開かれることに気づいてほしい。扉はそばにある

――年を重ねていくと、年々新しいことに挑戦しづらくなっている人も多いと思います。LEE世代もまさにそうで、小泉さんのように年を重ねてもより活動的にしなやかに生きるには、どうしたら良いでしょう。

「会社では、私含めて3人しかいなくて、舞台をやることに長けている人、デスク兼マネージメントをしてくれる人、そして私。車を運転できるのが私だけだったりして、体を動かす担当みたいなところはあるんですよね(笑)。

40代50代、私もそうだったのですが、ずっと忙しいサイクルが普通だと思っていました。ハムスターが回し車でくるくる走っているみたいに。だけど、ふと止まった時、“これ違うんじゃない?”と気づくことがあると思って。ステイホームがそのいい例で、いつもはビジネススーツを着ていた人や、制服で仕事をしていた人が、私服で仕事をするようになって“あれ? 私服をアップデートできてなかったかも”と気づいて、新しいパンツやニットを買うとか。たったそれだけで、違う世界が広がるんじゃないかと思います。お料理にハマるのもそうですよね。一つ器を買うと、それに合う料理を作りたくなるじゃないですか。

1つチャレンジすると、それについてくるものが必ずある。本も同じで、一冊読むとその人の過去の作品を読んだり、作中に出てくる小説を読みたくなったり。新しい扉を見つけるって、難しくない。そばにあるよってことを伝えたいです」

――確かに、『ホントのコイズミさん YOUTH』を読んだ後、小泉さんや書店の方が進めてくれている本を読みたくなりました。久しぶりに本を読むぞという人、ポッドキャストファンという人も、新たな視点で楽しめる一冊だと思いました。ありがとうございました!

撮影/藤澤由加

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『ホントのコイズミさん YOUTH』

編著・小泉今日子

発売:12月5日

価格:1650円(税込)

出版社:303BOOKS

書籍サイト:

https://303books.jp/hontonokoizumisan/

Spotify オリジナル ポッドキャスト 「ホントのコイズミさん」

https://open.spotify.com/show/1DwTm7vb6AFLcKQuSCLWuB?si=91bf523747754c77

 

武田由紀子 Yukiko Takeda

編集者・ライター

1978年、富山県生まれ。出版社や編集プロダクション勤務、WEBメディア運営を経てフリーに。子育て雑誌やブランドカタログの編集・ライティングほか、映画関連のインタビューやコラム執筆などを担当。夫、10歳娘&7歳息子の4人暮らし。

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