南果歩さんの絵本『一生ぶんの だっこ』が発売!「コロナ禍で希薄になってしまった人間関係をもっと近づけたい。愛情はバトンリレーのように続いていく」

武田由紀子

映画、舞台、テレビと幅広く活躍する女優の南果歩さん。南さんがコロナ禍を経て、読み聞かせをしてきた詩が絵本になって発売されます。タイトルは『一生ぶんの だっこ』(文:南果歩、絵:ダンクウェル)。カラフルな色彩とダイナミックなイラストで描かれる、くまの子どもの物語。絵本のもとになった詩が生まれたきっかけから、南さん自身の幼少期や子育て経験から生まれたストーリー、絵本を通じて伝えたい思いを聞きました。

 

息子への絵本の読み聞かせを毎晩3冊。同じ本でも、毎回新鮮な反応が楽しかった

――絵本の元になった詩は、どのような経緯で生まれたのでしょうか。

「昔から絵本の読み聞かせが好きで、息子が大きくなった今もボランティアで被災地を回っていました。コロナ禍でそれができなくなり、リモートで読み聞かせをやる機会が2度ほどあったんですが、リモートだと不特定多数の方が見るということで絵本の使用許可がおりなかったんです。

その時、10年以上前に書いた“一生ぶんの だっこ”という詩があったと思い出して。引っ張り出してみると、コロナ禍の今、ぴったりの内容だなと思って、それをリモートの時に読み聞かせをしたんです。そうしたら、『絵本にしてください』『読みたいです』と反響があって。それで絵本にしてみようと思いました」

――息子さんが小さい時、どのように絵本の読み聞かせをしていましたか。

「毎晩3冊と決めて、息子に好きな絵本を選んでもらい読んでいました。テレビやゲーム、当時はスマートフォンがまだなかったのですが、それらをなるべく遅い段階で見せたいと思って。そうすると遊べるものが、おもちゃか絵本しかなかったんですよ。私もまったく苦痛ではなかったので、楽しんでやっていました」

――毎晩絵本を読むことで、何か気づいたことや変化はありましたか。

「子どもがセレクトするので、毎日同じ絵本を選んできたりすることもあるんです。1ヶ月くらい同じ絵本だったこともあって、読む前から展開が分かってるじゃないですか。でも読むたびに息子の反応が新鮮で、まるで初めて読んだみたいで。その新鮮な反応が驚きで、こちらが楽しんでいたところもあります」

――毎回リアクションが違うとはいえ、1ヶ月同じ絵本は少し辛い気も(笑)。

「ものすごく飽きますよ。だからこっちもノリで、いろいろと変化をつけていました。元気な時は元気いっぱいに、眠い時は眠いままで。しかも文章をきちんと守っていなかったですね。脱線したり、文章を好きに変えて読んでいましたね」

――自由に読むのは面白いですね。こちらも気分が変わって、続けられそうです。

「それが一番大事です。こちらが苦痛だったら、聞き手も楽しくないはず。互いに楽しくないと長続きはしませんから。だから、この絵本を作りました。子供にはもちろん、大人にも楽しんで欲しいと思っています」

 

子どもが離れてしまう前に一生分の抱っこをしてあげたい。それが親としてできること

――絵本について教えてください。『一生ぶんの だっこ』という言葉とともに、主人公・くまくんのエピソードが綴られています。友達と衝突したり、人を好きになったり、勇気が出なかったり。

「ストーリーには自分自身が幼少期に経験したことが断片的に入っていると思います。あと、自分自身の子育て経験、子供の姿を通じて感じたこと、気づいたことも。日々悲しいことや辛いこと、色々なことがあっても、また新しい日々がやってくる。だから泣きたいような気持ちも素直に受け止められる。私としては、それが一番伝えたいことではあったのかなと思います。

弱い自分、勇気のない自分。全てがその人自身。それが恥ずかしいことでもダメなことでもないんですよね。例えば、男の子だからとか、女の子だからこうあるべきみたいなものも同じ。もっとありのままの自分を受け入れていいという思いもあります」

――親からの普遍的な愛によって、子供は育つ。改めてその大切さを感じました。主人公のくまくんが、男の子でもあるみーくんと手をつなぐことで「どきどきする」というシーンが描かれていました。

「このシーンは、絵本にする段階で変えました。自分の性別を認識できるのは、くまくんのような年代より、実際はもっと後になってからなんじゃないかと思って。まわりが性別を決めるのではなく、自分で性別を決めていいというメッセージでもあります」

――タイトルにもなっている『一生ぶんの だっこ』という言葉がとても印象的でした。なぜこのタイトルを選ばれたのでしょうか。

「詩を作った時、すでに『一生ぶんの だっこ』という言葉ができていたんですよね。

子どもが独り立ちするまでに、どういうものをその子に残してあげられるか、支えとなるものを残してあげられるか。子育てしながらそんなことを考えていました。

心を支えるものは、もう愛情しかない。ただし、大きくなったら、そんなに抱っこをしてあげられるわけでもない。大きくなって離れてしまう前に、一生分の抱っこしてあげたい。そんな思いから、このタイトルにしました」

――LEE世代でも、子どもが反抗期でうまくコミュニケーションが取れない親もいると思います。南さんは、子どもの反抗期で悩んだことはありますか。

「分かりやすくそういう時期はなかったんですよね。ただ小学校5、6年生の時かな、手をつないで買い物をしていたら手をパッと離されたんです。ちょうど向こうから友達が来たんですよね(笑)。たまに小さい声で『うっせーな』とか反抗はしていたと思います。だけど、かわいいなあ、そういう年頃なんだ、思春期なんだと実感しました。人間は、いろいろな時期がありますから。

思春期のホルモンバランス、性の目覚めから、母親を拒否したくなることも健全なことだと受け入れて、微笑ましく見ていました。もし激しく反抗されていたとしても、『あんなに可愛かったんだから、同じ人間だからそんなに変われるものじゃないはず』と思って、大きな心で受け止めるのかな。自分だって、そんな時期があったはずですからね」

人生の転機になった大病。それからは、やりたいこと・会いたい人を最優先に

――ストーリーの終盤に出てくる、母親から与えられた愛を大切な人に渡していくという部分。そして「母親をだっこしてあげる」というラストには、ある意味泣かせられますね。

「誰かに何かをしてもらって、幸せを感じたことや心地よいことは、他の誰かにもしてあげたくなるんですよね。例えば、小さい妹や弟が生まれると、親の真似をしてお世話をしてあげるとか。自分が子どもに分け与えた愛情は、バトンリレーのように続いていくのかなとも思います」

――絵を担当されたダンクウェルさんの世界観にも魅了されました。カラフルな色彩とダイナミックな構図は、絵本の中から飛び出してくるような迫力でした。

「ありがとうございます。ダンクウェルさんは、元々好きなアーティストではあったのですが、絵に躍動感があるんですよね。絵本を作ることになった時、目に見えるところはもちろん、目に見えないもの、物語に描かれていない部分も表現して欲しいなと思い、ダンクウェルさんにお願いしました。彼は企業とのタイアップやコラボレーションなど、いろいろな仕事をしていますが、絵本は初めて。躍動感も、ページごとの世界観も、好きなシーンがたくさんあります」

――絵本とはいえ、大人にも楽しんで欲しいとおっしゃっていましたね。

「大人も絵本が必要だと思います。この絵本を読むと、自分の大事な人を抱っこしたくなるんじゃないかな。そういう意味では、スキンシップのきっかけになればいいなと思ってます。親子だけじゃなく、家族でも、友達でも動物でもいい。

コロナ禍を経て、そういったふれあいが無くなりましたからね。本当は、みんなに会いたいのに、なかなか会えないし、会っても距離を保たないといけない。人に会う時はマスク、距離を保つ、それが習慣になっていますから。希薄にならざるをえなかった人間関係を、絵本を通じて、改めて近づけて触れ合う。そんなきっかけになればと思います」

――お話を聞いているだけで、南さんのエネルギッシュで、ポジティブなメッセージが伝わってきました。いつもそれだけパワフルでいられる元気の素は、どこから来るのでしょうか。

「大きな病気をしてからは、人生の優先順位を変えました。やりたいことからやる、食べたいものから食べる、会いたい人から会う、ということですね。ノルマとか義務とか、そういったことはさておき、まずは自分がやりたいことからやるようになりました。仕事も自分がやりたい仕事しかやっていません。あとは、ずっと夢見ていますね。私は、ずっと乙女の気分なんですよ。“もっと面白いことが起こるはず”“面白い自分になれるはず”とか、そういう発想が止まらないんですよね。

いつも色々な種まきをしています。その中の、温めてきたことの中から、何か芽が出たり。その結果が今になっていると思います」

――日々何か続けていること、健康のためにやっていることはありますか。

「体力をつけるために、筋トレとパワーヨガをやっています。元々体が丈夫なタイプではなかったのですが、健康がいつも目標にあります。日本最高齢のインストラクター、タキミカさんみたいになりたいんですよ。週に何回とかルールは決めていませんが、時間がある時には通うようにしています」

(撮影/野口貴司) 

南 果歩さん/兵庫県生まれ。女優。舞台、映画、テレビなどで活躍中。エッセイ『乙女オバさん』など著書 多数。被災地での絵本の読み聞かせをライフワークにしている。本作は、コロナ禍でリモ ート朗読をしていた作品がもとになっている

スタイリスト:坂本久仁子 ヘアメイク:国府田圭
ニット/三喜商事(アリュード)tel:03-3470-8233
ネックレス・リング/ヴァンドーム青山本店(ヴァンドーム青山) tel:03-3409-2355
イヤーカフ/ヴァンドームブティック 伊勢丹新宿店(ヴァンドームブティック)tel:03-3351-3521 

『一生ぶんの だっこ』

(文:南果歩、絵:ダンクウェル、講談社刊)

武田由紀子

編集者・ライター

Writer Profile

Yukiko Takeda

1978年、富山県生まれ。出版社や編集プロダクション勤務、WEBメディア運営を経てフリーに。子育て雑誌やブランドカタログの編集・ライティングほか、映画関連のインタビューやコラム執筆などを担当。夫、10歳娘&7歳息子の4人暮らし。

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