内野聖陽さんの役作りに肉迫インタビュー!実話の衝撃作『M.バタフライ』の外交官が恋した相手とは!?【堀江純子のスタア☆劇場】
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堀江純子
2022.06.24
“堀江純子のスタア☆劇場”
VOL.14:内野聖陽さん
『M.バタフライ』…… 文化大革命前夜の北京。 フランス人外交官であるルネ・ガリマールが生涯をかけるほどの熱い恋をした相手は、京劇のスター女優、ソン・リリン。 しかし、彼女にはとてつもない秘密があった…… 実際に起こった驚愕の事件を元に、劇作家・デイヴィット・ヘンリー・ファンが書き上げた本作。
1988年にトニー賞最優秀演劇賞を受賞し、1990年、劇団四季で日本初演。 この衝撃作が令和の今、内野聖陽さんと岡本圭人さんによって世に放たれます。 まだ学生だった頃、NHK連続テレビ小説『ふたりっ子』で初めて内野聖陽さんをお見かけしてから、ずーっとファンである堀江です。
なぜなら、内野さんの出演作には間違いがないから! ちょっとばかり私の好みじゃない物語かも…… と感じても、内野さんのまた新しい芝居を見ることができた喜びがまるっと凌駕してしまう。 『モンテ・クリスト伯』のエドモン・ダンテス、『レ・ミゼラブル』のジャベール… 私は特にこの2役が大好きで、エドモンとジャベール自体にもハマり、台詞や歌詞に描かれてないところまで人物研究してしまったほどです。
内野聖陽が演じるから見たいと思う作品が多々
──ということで、内野さんご本人に、エドモン好き! ジャベール好き!! と告白ができて光栄です。 ライター冥利に尽きます。 ありがとうございます。
内野「いやこちらこそですよ。ジャベールとエドモン・ダンテスね…… 嬉しい~(笑)。 ジャベールは、泥水のような場所で育ってきた過去があるからこそあそこまで厳格になれた人なんですよね」
──10代ではジャベールの魅力に気付けなかったんです。 “内野聖陽さんがジャベール!? これは見なきゃ”と帝劇へ… ジャベールに注目して見て、彼の生い立ちも調べ… ハマりました、ジャベール!
内野「でしょう!! すごく魅力的な役で僕はジャベールだからやりたいって思ったんですよね。 僕にとっても出会えてよかったと思える、いい役でした。 エドモン・ダンテスもお好きと聞いて嬉しいなぁ。 もう亡くなられたんですけど、(脚色・演出の)高瀬久男さんが聞いたら喜ぶな」
──『M.バタフライ』も劇団四季の日本初演を見たんですけど、内野さんのガリマールを、そしてこの物語を、今の自分がどう感じるか、楽しみにしています。
内野「そうか……見てらっしゃるんですね。そのときの印象……よかったら教えていただけませんか?」
──当時は小娘で、まだ多くの作品に触れる前だったせいか、前評判からのワクワクも含め、ショッキングで刺激的でした。そして、単純明快な物語よりも私は見終わったあとに、考えされられる何かが残る物語が好きだなと自覚しました。ガリマールはなぜ、ソン・リリンが男性であることに20年以上も気付かなかったのか……その謎もすごく考えました(笑)。
内野「どうでした? どんな結論が出ましたか?」
──まず、恋って怖いなと(笑)。見えているはずのものを自分に都合よく見ないでいられるのが、特別な恋なんだろうなと。……とはいえ20年ですから、時代におけるファンタジーもあったんでしょう。現代ほど灯、照明も明るくはっきりと照らすものではなく、イメージ的にはアジアの薄ぼんやりした行燈のような灯のなかで恋する2人は隠したままでいられるものも多かったのだろうと。いろんな意味で刺激的でした。
内野「なるほどね~! 陰翳礼讃ですよね。あと、時代背景的に60年代の熱狂もあるんじゃないでしょうか。この作品は実際に起きた事件を題材にしているだけに、そういう興味も湧きますね。プラトニックでもなく肉体関係もあったのに気付かないなんて、僕も衝撃を受けましたし。ガリマールにとって、そう在りたかった理想を脳内の劇場で描いていくんですが、それが現実の声に浸食されていく……これは見事な戯曲だと。とてもクオリティの高い戯曲だと思いました。
確かに、人を好きになるときって、こうであってほしいという理想や幻想の投影が…特に恋愛初期の頃ってあるじゃないですか。そういう心理って特殊なようで、誰にでも在り得るお話でもあるよね、って思いましたね」
恋が崇拝まで行くと、人は目を瞑りたくなる
──女子が好んで読んできたマンガですと、実は女性だった、実は男性だったみたいな衝撃展開、わりと王道なんですよね。『ベルサイユのばら』のオスカル然り。
内野「ああ、そうか。英語の戯曲を読んでると“adore”……崇めるって単語がよく出てくるんですよ。崇拝する、敬愛する……人が恋するのにそこまでいっちゃうとやはり目を瞑りたくなることあるよなぁと。美しい局面ばかり見つめてしまって、汚いところは見たくない心理が働いてしまう。そういう心理が『M.バタフライ』という物語に惹かれるところでもあります」
──内野さんがリリースで出されていたコメントに、“ガリマールのなかにある普遍性”とありましたが、その誰にでも起こり得る心理だったり?
内野「そうですね。ガリマールはとても微妙な男ではあるんですけどね。男性、女性に振り分けられない、ちょっと不安定なところにいる人なんです。でも、彼がやらかしてることは、僕らにもあり得る失敗を大きくしたようなところもありますね。僕は今回だまされる側なので、圭人くんと一緒に喧々諤々していきたいですよね」
すべて解説はしませんよ、背負った空気から想像してね
──魅惑の女スパイ、ソン・リリンを演じるのは岡本圭人さん。
内野「まだ初々しくもあり、けど演劇の英才教育を受けていて。ロンドン、パリ、ブロードウェイで勉強し、あり得ないぐらいの演劇オタクですね(笑)。向上心が強い彼のガッツと探究心があれば、難しい役ですけれど……やってくれるんじゃないかな。とても感性が豊かだし、役に対する気持ちとかひしひしと伝わってくるんですよね。瑞々しい感受性を持つ圭人くんから僕が教えられることもあるはずなので楽しみです。
キャリアがあることがいいわけじゃなく、キャリアがあるから失ったものあると思うんでね。圭人くんと向き合って、僕が襟を正す瞬間がありそうです。とはいえ……僕は料理でも何でも熟成させたもののほうがおいしいと思うほうで。化学調味料にはないような芳醇な広がりだったりね、そういうものが僕の演技のなかにもあったらいいなって想いがあって。一朝一夕ではなく時間をかけて熟成させた味を提供できたら、って志はあります。口当たりのいい演技ばかりしていてもいかんのだよね、と(笑)。
“すべて解説はしませんよ、どこか僕が背負ってる空気から想像してね”っていうような。そんな表現がしたいですよね」
仕事部屋のこだわりは防音扉と……!?
──ご自宅でもずっと役のことを考えてるんですか?
内野「ずっとではないですけど、書斎にいる時間が長いですね。その気になればいくらでも籠っちゃう(笑)。こだわりはね、書斎にあるデスクですね。スイッチが付いていて、ウィーンって上がったり下がったり高さが変えられるんですよ。座って台本読んでいて、ちょっと疲れたなってときは高さを上げて、立って読んだりね」
──IT企業とか、立って仕事したほうが仕事がはかどると、スタンディング用デスクが用意されているところもありますよね。
内野「そうなんですね。動きながら覚えたりもしますよ。掃除機かけながらとか(笑)。書斎というよりは、集中して台詞を覚えたりする仕事部屋って感じですね。書斎じゃないな、本はあまり溜めないタイプなので。台詞は大声出して覚えたりもするので、近所迷惑にならないように防音扉になってます」
役の生きてきた時間、匂い……いろんなこと想像しながら演じたい
──お宅での作業といえば、内野さんが以前、山本勘助役で主演なさったNHK大河ドラマ『風林火山』(2007年)のとき。現場取材でスタッフの方から伺ったのですが、衣装をご自身に馴染ませたいと……“自宅に持ちかえってできるだけ長時間着たい”とお願いをされたとか。
内野「ずいぶん前の話ですね~! ……やったかも?(笑)。僕ね、基本的にテレビドラマで用意されている役衣装がきれいなままっていうのが好きじゃなくて。特に働いている男が長年も着ている仕事着なんて、きれいなわけないから。その人の体に沿ってヨレていたり、汗を掻いていたり。そういうものが染みこんでクタクタになっていていいはずなんですよ。新品のような役衣裳はつまんないな、って。
もちろん、衣装さんも用途に応じてすごく上手に汚してくださるんですけどね。やっぱり着古した感じっていうのは、その人が着ないと出ないんですよ。『風林火山』の勘助は、なかなか仕官先が見つからず、同じ着物を何年も着続けて、襟なんか汗と脂でボロボロになっちゃっててね。そういう男が武田信玄の軍師になるのが感動的なんだろう!!と」
──そういうこだわりも内野さんのおっしゃる芝居の“熟成”のひとつなんですね。
内野「なかなか、そこまでやれる時間の余裕がない現場が多いですけどね。出来る限りその役の生きてきた時間、匂い…いろんなこと想像しながら演じたいですよね。本来は、魂や生き方と…内部のほうが大事なんですよ。
基本、坊主頭でTシャツでどんな役をやっても成立しなきゃおかしいって僕は思う。そこに衣装やメイクが加わってより良い効果が生まれ、ビジュアルからして信じられる演技になる。その、ビジュアルが助けてくれる効果は大きいと思っています」
──『きのう何食べた?』のケンジは、ビジュアルからして別人でしたよね。また、新しい一面を見せていただき、楽しかったです。
内野「だから本当は、メガネをかけていないケンジでも成立してなきゃダメなんだよね。……けどね、ケンジはメガネかけないと……なれないんだ(笑)。どっちなんだよ、って話しですよね(笑)。ケンジは外側から内部を充実させたところもあるかな」
強い表現とはつまり、説得力のある表現
──そう考えると、稽古から本番に至るまで、ひとつのシーン、ひとつの台詞を何度も何度も繰り返せる舞台は、映像よりもさらに内部からの熟成の時間がありそうです。
内野「何度も何度もトライしながら、これはナシだな……次!ってどんどん塗り替えていくほどに強い表現になっていくと思うんですよ。強い、つまり説得力のある表現にね」
──『M.バタフライ』も、稽古で熟成し、さらに本番でも芳醇な香りが広がっていくことを楽しみにしています。
内野「ガリマールという役は、僕にとっても難しいチャレンジになると思います。簡単にはいかず、たぶん苦しみのほうが多いだろうと覚悟は持てたので、お客さんに納得していただけるガリマールを目指して頑張りたいと思います」
ナンバー1と言っても過言じゃないほど大好きな役者さんに、作品や役への想い、細かなこだわり、台詞の覚え方までお伺いすることができて、エンタメオタクとしては非常に幸せな時間でした。
“こういう志がある”、“こうでありたい”とその時は確固たる意志があっても、“いや、この場合は違うな?(笑)”と気付けば、一本の道に固執することはなく、おそらく無限のチョイスから最良の道を選ぶ内野さん。これこそが、どんな役もモノにする“俳優、内野聖陽”なのだと思いました。
より良い演技をするために、役を魂から掴むために、土台には変わらぬこだわりがあっても、状況や作品、役が違えばその都度判断をして、違う道を行ってみたりもする。頑固さや決めつけはなくフレキシブル。こうして、実は軽やかな感性で、重厚な役もユニークな役も生まれ続けていくのだと。
内野さんファンの私は、生涯無限の楽しみを得たも同様!! これからもファンでも気付けないほどの、新しい顔を見せ続けていただきたいです。
『M(エム).バタフライ』“M. BUTTERFLY” By David Henry Hwang
出演: 内野聖陽 岡本圭人 朝海ひかる 占部房子 藤谷理子 三上市朗 みのすけ
原作: デイヴィット・ヘンリー・ファン
翻訳: 吉田美枝
演出: 日澤雄介(劇団チョコレートケーキ)
■東京公演
日程: 2022年6月24日(金)~7月10日(日)
会場: 新国立劇場 小劇場
料金: S席10,500円 バルコニー席8,500円 (全席指定・税込) ※未就学児童入場不可
主催: 梅田芸術劇場
お問合せ: 梅田芸術劇場 0570-077-039(10:00~18:00)
■大阪公演
日程: 2022年7月13日(水)~7月15日(金)
会場: 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
料金: 10,500円(全席指定・税込) ※未就学児童入場不可
主催: 梅田芸術劇場
お問合せ: 梅田芸術劇場 06-6377-3888(10:00~18:00)
■福岡公演
日程: 2022年7月23日(土)、24日(日)
会場: キャナルシティ劇場
料金: 10,500円(全席指定・税込) ※未就学児童入場不可
主催: キャナルシティ劇場/サンライズプロモーション東京
お問合せ: キョードー西日本 0570-09-2424(平日・土日11:00~17:00)
■愛知公演
日程: 2022年7月30日(土)、31日(日)
会場: ウインクあいち 大ホール
料金: 10,500円(全席指定・税込) ※未就学児童入場不可
主催: メ~テレ、メ~テレ事業
お問合せ: メ~テレ事業 052-331-9966(祝日を除く月-金10:00~18:00)
企画・制作:梅田芸術劇場
『M.バタフライ』公式サイト 『内野聖陽』公式サイト
撮影/富田一也 ヘアメイク/柴崎尚子 スタイリング/中川原寛
堀江純子 Junko Horie
ライター
東京生まれ、東京育ち。6歳で宝塚歌劇を、7歳でバレエ初観劇。エンタメを愛し味わう礎は『コーラスライン』のザックの言葉と大浦みずきさん。『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』『エリザベート』『モーツァルト!』観劇は日本初演からのライフワーク。執筆はエンターテイメント全般。音楽、ドラマ、映画、演劇、ミュージカル、歌舞伎などのスタアインタビューは年間100本を優に超える。