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福島綾香

国内2つ目の「母乳バンク」が誕生。年間5000人の“小さく産まれた赤ちゃん”を救うために【日本財団母乳バンク発表会レポ】

  • 福島綾香

2022.04.01

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2022年4月1日「日本財団母乳バンク」が開設

昨今、少しずつ認知が広がっている「母乳バンク」そして「ドナーミルク」

「母乳バンク」とは、早産・極低出生体重児(体重1500g未満の赤ちゃん)が、自分の母親から母乳を得られない場合に、寄付された母乳「ドナーミルク」をNICU(新生児集中治療室)の要請に応じて提供する施設のこと。

【提供:日本財団】グループフォト

提供:日本財団

昨秋、日本で唯一の施設だった「日本橋 母乳バンク」開設1周年記念イベントをレポートしましたが、このたび国内2施設目となる「日本財団母乳バンク」がオープン。記者発表会にオンライン参加させていただきました。

まさに妊娠・出産・育児世代であり、ドナーミルクを利用する側にも、提供する側にもなり得るLEE世代。1人でも多くの方にこの情報が届くことを願って、今回もレポートいたします。

年間約5000人の「ドナーミルクが必要な赤ちゃん」すべてに届くことを目指して

小さく産まれた赤ちゃんにとって、壊死性腸炎とよばれる腸の病気や感染症から守り、健康や発達面での成長を助けるために欠かせない「母乳」。
この母乳を経腸栄養として与えることは、できれば生後6時間以内、遅くとも12時間以内には始めたいとされています。

しかし、早産で体調が整わない、死去、抗がん剤治療、感染症による隔離などで、実の母親の母乳をもらえない場合も。
年間約7000人もいる早産・極低出生体重児のうち、理想的な生後時間で経腸栄養を始めるために、母親以外の母乳を必要とする赤ちゃんは約5000人とされています。

これを解決するために必要なのが「母乳バンク」そして「ドナーミルク」。

しかし既存の「日本橋 母乳バンク」1ヶ所のみでは、低温殺菌処理や冷凍保管の能力上、最大でも年間約1000人分の提供にとどまっており、施設の拡充が急務でした。

【提供:日本財団母乳バンク(撮影:和田英士)】 バンク室内のクリーンルーム

バンク室内のクリーンルーム 提供:日本財団母乳バンク(撮影:和田英士)

そんな中で今回、子どもを支える施設を数多く運営する日本財団の支援により「日本財団母乳バンク」がオープン。
最大で年間4100人分のドナーミルクを提供できるため、2施設合わせると5100人分に。5年後を目途に、必要な赤ちゃんすべてに届くことを目指しています。

【提供:日本財団母乳バンク(撮影:和田英士)】研究室の実験風景

研究室の実験風景 提供:日本財団母乳バンク(撮影:和田英士)

さらに、赤ちゃんの成長を促すドナーミルクの栄養価などを測定・分析することで、世界初の“オーダーメイドのドナーミルク”を作る研究体制も整えていくそう。
最新の設備でドナーミルクを安定的に提供できる、とても頼もしい施設が誕生しました。

最大の課題のひとつは「ドナーを10倍以上に増やすこと」

そこで次の課題となるのが、ドナーミルクを提供する病院を増やすこと、そしてドナーを増やすこと

現在、全国に超早産児を預かるNICUのある施設は250~300ほどありますが、ドナーミルクが届いている病院はごく一部、50ほどに留まっているとのこと。全施設に行き渡ることを目標としています。

そしてドナーについては、現在登録者は260人ほどですが、年間5000人の赤ちゃんを助けるためには、1人2ℓを想定・搾乳から6カ月で廃棄となることも考えると、2900人もの協力が必要なのだそうです。

ドナー登録のステップは、まず公式サイトから申し込み、登録施設での問診・血液検査を受診。OKとなれば、搾乳・保管方法を学んだ後、自宅で搾乳し、母乳バンクへ着払いで送付します。ドナー側の費用負担は一切ありません。

印象的だったのは「献血などと違い、母乳の寄付は期間限定。仕事復帰のタイミングなどで、約1年で卒業される方がほとんど。毎年新規の方を得なければならない」という言葉。ドナーの期間制限はないものの、そもそも授乳期間が限られているため、継続的なドナー確保が必要不可欠なんですね。

もし、少しでも興味のある方がいたら……公式サイトやインスタグラムでの情報発信がスタートしているほか、今後は「日本財団母乳バンク」オフィスでのイベントなども開催予定とのことなので、ぜひチェックしてみていただけたら、と思います。

【提供:日本財団母乳バンク(撮影:和田英士)】 オフィス内観

オフィスの様子 提供:日本財団母乳バンク(撮影:和田英士)



母乳を寄付した方、ドナーミルクを利用した方の声

記者発表会では、ドナーミルクを寄付した方と利用した方、両者からのビデオメッセージも放送されました。

まずは、母乳の寄付を経験した方から。

『2人目の育児中に記事を見て「母乳バンク」を知り、1人目も2人目も母乳がよく出ていたので、3人目の時はドナーになろうと思っていました。私自身、3回の妊娠中すべて切迫早産になり、中でも2人目は36週で早産。わが子が小さく産まれて辛い思いをしたので、それより小さく産まれた子のためにと思い登録しました。「育休中は今しかできないことに挑戦しよう」と思ったのもあります。

搾乳は、まずは自分の子どもに満足に母乳をあげるため、授乳の直前・直後はできないなど、時間を確保するのが難しかったです。それでも夜間授乳~朝子どもが起きる間や、子どもが少し育ってきてからは昼寝の間にもできるようになりました。自分の体調が優れない時や、寒い時期は母乳が思うように出ないこともありましたが、無理のない範囲での寄付でも大丈夫でした。

「母乳の寄付」って誰でもできることではありません。また、育児中は社会から孤立した感覚になりがちですが、母乳バンクは母乳を送ると感謝状をくれるので、社会から必要とされている感があってうれしかったです。』

【提供:日本財団】日本財団母乳バンク理事長 水野克巳先生

日本財団母乳バンク理事長 水野克巳先生 提供:日本財団

「自分の子が必要とする以上に母乳が出るお母さんから、余った母乳を寄付してもらう」という、まさに善意で成り立っているドナーミルクの制度。

日本財団母乳バンク理事長・水野先生からは「わが子を育てるだけでも大変なこの時代に、母乳を提供してくださるドナーの皆さんの協力があってこそ。心から感謝します」との言葉もありました。本当にその通りですよね。

そして、昨年12月に出産し、母乳バンクを利用した方の声も。

『予定日より2カ月以上早く、体重約1000gで出産。新生児仮死の状態で、蘇生措置を受けてNICUへ入りました。私自身は緊急帝王切開の負担が大きく、すぐに母乳を与えることはできませんでした。NICUで管に繋がれたわが子を見たとき、ただでさえ早産してしまい申し訳なく思っていたのに、母乳を与えられないことでさらに心苦しく、不安でした。

そんな時、ドナーミルクだと様々なリスクが減ると聞き、心が軽くなったのを覚えています。安心して自分の体調回復に努めながら、子どもの成長を信じてNICUに通うことができるようになりました。

母乳バンクについては、ネットニュースなどで言葉を見たことがある程度でしたが、こうして利用する立場になってみて、本当に救われました。今子どもは生後3ヶ月、おかげで大きな病気にかかることもなく、順調に育ち退院できています。』

ドナーミルクには、赤ちゃんを守るのはもちろん、お母さんの肉体的・精神的負担も軽くしてくれるというメリットも。両者の予後を改善してくれる働きがあるんですね。

「献血と同じくらいの認知度」になることを目指して

【提供:日本財団母乳バンク(撮影:和田英士)】クリーンルームでの作業風景

クリーンルームでの作業風景 提供:日本財団母乳バンク(撮影:和田英士)

このテーマを考える時、頭に浮かぶのはいつも「小さく産まれたのが、もしもわが子だったら」ということ。
私自身、2度「母乳バンク」を取材させていただいた今では、もし自分がその立場になったら迷わず利用を決断できますが、もし何も知らないままだったら……早産後の不安定な状態で、ゼロから考えるのはどれほど大変なことでしょう。

日本財団母乳バンク常務理事・田中麻里さんからは「献血と同じくらいの認知度を目指したい」という言葉がありました。
たとえば母子健康手帳の交付時や、産院での検診時、プレパパ・ママ学級の際などに「母乳バンク」「ドナーミルク」についての説明を加えるなどして、より認知が広まっていったらいいなと思います。

ちなみに、LEEweb編集長のHT子さんも、実は自身が早産児だったというエピソードが。

都内の産院で1980gで産まれ、当時最新の設備が整っていた広尾の日本赤十字社医療センターへ。NICUで保育器に入っていた1ヶ月半の間、お母さまが必死で搾り出した数十mlの母乳を、お祖父さまが毎日氷漬けにして運んでくれたおかげで、健康な今があるといいます。当時は、2000g未満で産まれて何も不自由なく育ったのは奇跡に近かったとか。

こうした苦労を軽く、助かる可能性も高くしてくれるのが今の「母乳バンク」「ドナーミルク」の制度なんですね。

もっともっと多くの人に知ってもらい、利用もドナー登録もハードルが低くなりますように。
恵まれた時代であることに感謝しつつ、「母乳バンク」「ドナーミルク」が今以上に広まり、助かる赤ちゃんが1人でも多く増えることを心から願います。

「日本財団母乳バンク」公式サイト日本母乳バンク協会

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福島綾香 Ayaka Fukushima

ライター

宮城県仙台市出身。夫、息子(2018年9月生まれ)と3人暮らし。これまでフリーペーパー、旅行情報誌などの編集を経験。趣味は食べること、旅行、読書、Jリーグ観戦。

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