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飯田りえ

【非認知能力】「森のようちえん」は、SDGs時代に必要なセンスの宝庫です【おおたとしまささん著者インタビュー】

  • 飯田りえ

2021.10.15

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おおたとしまささんインタビュー「ルポ 森のようちえん」書籍画像 

青空の下で朝の会がはじまるのも、森のようちえんならでは(書籍より転載)

突然ですが、「森のようちえん」をご存知ですか?

なんとなく存在は知っていましたが、大自然のなかで行われる幼児教育で、北欧とか教育先進国で行われていた教育法を取り入れた…?ぐらいのあやふやなイメージしか持ち合わせておらず。都市部に住む者にとっては、縁遠い存在だと思っていました。

その森のようちえんが、いま「非認知能力」がぐんぐん育つと、教育ジャーナリストのおおたとしまささんが大注目。しかも、そこまで縁遠い存在でもなく、意外と身近なところにもあるのだとか。

おおたさんと言えば、中学受験やこれからの時代の子育てに関する書籍を数多く出版され、時に厳しく、時に優しく、まさに悩める母たちの頼れる兄貴的存在(私もいつも勇気づけられています!)。この度『ルポ 森のようちえん SDGs時代の子育てスタイル』(集英社新書)を出版されたと聞き、どうして今、「森のようちえん」なのかお話をうかがいました。前後編でお届けします。

教育界の重鎮たちが、みんな「自然」を取り入れていた…!

おおたとしまささんインタビュー画像「森のようちえん」

おおたとしまさ
教育ジャーナリスト。1973年東京生まれ。株式会社リクルートから独立後、数々の育児誌・教育誌の編集に携わる。育児や教育の現場を丹念に取材し、斬新な切り口で考察する筆致に定評がある。全国紙から女性誌にまで連載を持ち、テレビやラジオにもレギュラー出演中。著書は『なぜ、東大生の3人に1人が公文式なのか?』(祥伝社新書)、『世界7大教育法に学ぶ才能あふれる子の育て方 最高の教科書』(大和書房)、『いま、ここで輝く。~超進学校を飛び出したカリスマ教師「イモニイ」と奇跡の教室』(エッセンシャル出版)など多数。

──おおたさんが「森のようちえん」に注目されたのがとても新鮮でした。どうして、いま森のようちえんを取材しようと?

おおたとしまささん(以下、敬称略):森のようちえんって、知っている方も意外と多いようですが、僕自身、まったく知らなかったんです。初めて知ったのは2019年に『世界7大教育法に学ぶ 才能あふれる子の育て方』という本で、イエナプランの小学校を取材した時でした。「日本は『森のようちえん』など、良質な幼児教育は充実していますが、小学校以降が不足していて」と話題に出てきたときに「そうなんだ、面白そうだな」と印象に残っていたのです。

その後、僕が最も信頼している教育者の一人であるイモニイ(神奈川・栄光学園のカリスマ数学教師である井本陽久先生)が、主宰している私塾『いもいも』で昨年から「森の教室」を始めたので見学させてもらいました。森の中の河原で、半日過ごしているだけなんですが、最初は意味が分からなくて「えっ?これでいいの?」って(苦笑)。

──わかります(笑)!最初、戸惑いますよね!

おおた:イモニイに「なんで森の教室をしようと思ったの?」と聞くと、教育界の大家である汐見稔幸先生と対談をしたときに、汐見先生も八ヶ岳の麓で『ぐうたら村』を始められていて。「知り合いのつてで『野外保育 まめのめ』を紹介してもらい、見に行くとすごくよかったので、自然を生かした教室をやろうと決めたんだ」と。僕もイモニイの森の教室を何度か見るうちに、教育的な意義がだんだんわかってきたので「これは言語化しないと!」と思い立ち、編集者に相談し、すぐに企画を通してもらいました。

──そう言った経緯があったのですね。汐見先生に、イモニイにと聞くとより一層気になります!

通年だけじゃない、森のようちえんには多様なスタイルがあった

おおたとしまささんインタビュー「森のようちえん」画像

田植え前の田んぼで泥遊びをする子どもたち(書籍より転載)

──コロナ禍で取材も大変だったと思いますが、いつごろから取材を?

おおた:今年の2月から、緊急事態宣言中の合間をぬって取材しました。通常5〜6月はいつも学校取材をしている時期なのですが、今回それが一切できず、連載もストップしていましたから。森のようちえんだったからこそ、実現できた取材でした。

──それにしても2月に取材スタートして10月に出版、すごいスピードですね! 日本各地の森のようちえんを紹介されていますが、取材先はどのように?

おおた:取材先で聞きながら数珠繋ぎ的に決めていきました。まずは個人・団体合わせて300ほど加盟している『森のようちえん全国ネットワーク加盟』理事長である内田幸一さんの『野あそび保育みっけ』と、あとイモニイに紹介してもらった『まめのめ』さんに行き、そこからも紹介してもらって…、慎重に選んで進めていきました。

──通年、森の中で過ごすものだと思っていましたが、フィールドもスタイルもいろいろあるなんて知りませんでした。

おおた:そうなんです。森のようちえんというのは、自然体験活動を基本にした子育て・幼児教育の総称で、フィールドも森だけでなく、川や海、野山や里山、畑や都市公園など、広義にとらえています。スタイルもいろいろあり、毎日森で過ごす「通年型」やお母さんたちによる自主保育のスタイル、あと通常の保育に取り入れている「融合型」や週末などに取り入れている「行事型」など、バランスを取りながら、それぞれのジャンルで取材しました。

──いま思うと、わが子が通っていた幼稚園も毎月里山をフィールドにして活動し、子どもの自発的な遊びや興味を伸ばすという方針でしたので「融合型」に近いんじゃないかな、と。なので本を読んでいて、共感するポイントが多くありました!

森のようちえん×SDGsというキーワードが絶妙

おおたとしまさインタビュー画像 「森のようちえん」

──「SDGs時代の子育て」とタイトルにもあるように、森のようちえんは持続可能性があり、社会が抱える課題解決の糸口につながる、という視点も驚きました。

おおた:全国ネットワーク連盟で副理事をされている関山隆一さんに、「森のようちえんの活動は地方創生とすごく親和性が高いと思います」という話をうかがい、その時に社会的意義や構造的なヒントをもらいました。

──その可能性を特に感じられたのは、どういった観点で?

おおた:実践者たちはみなさんワイルドで自由な発想の方々ばかりです。現場で園の組織や運営のあり方を見ていると、いわゆる市場経済的な原理とは違う力学で動いています。資本主義に限界が近づいていると言われている今、規模は小さいけれども社会として回っているなら、「この発想が世の中に拡大していけば、社会は変えられる」というイメージがついたのです。

──なるほど。今回の書籍は、これまでと違った層にも森のようちえんという存在が届きそうですね!

おおた:これまでの書籍は、実践者か教育学者が書かれていていましたが、今回、教育ジャーナリストとして、いまの日本における教育の全体像を把握し、一般のお母さんたちが抱く切実さを理解した上で一歩引いたところから書いている、という点では、これまでの書籍とは違うと思います。



都会にいながら、森のようちえん的視点を持つということ

──本の中で、都市部で暮らしていて、実際に通えなくても「森のようちえん的視点」をもてばいい、とありましたが具体的にはどうしたら良いのでしょう?

おおた:僕が唯一、自分の子育てについて書いた本で『パパのネタ帖』という2009年に出した本があります。その中で、どんな都会の小さな公園でも、子どもにとっては怪獣のような存在が見つけられる、そこにはセンス・オブ・ワンダーがある、ということを書きました。

今回の本の中でも「自然の力を借りないと子育てできないでしょ」というニュアンスのお話が出た時に、「都会の中でも子どもたちには、たくましく生きる力が備わっているんです」と持論を展開するシーンがあったと思います。それがまさにこれなんです。

──ありました!都会で子育てする親として、非常に救われました。

おおた:もちろん、知床とか奄美とか行けば、とてつもない大自然がありますよ。でも年に1回、お客様としてその大自然に行くのではなく、自分の身近にある小さな自然があることに気づき、そこに四季の移ろいや愛おしさを感じる方が、本質的に自然に触れていると僕は思います。そういった感受性は、身近なところにある幸せに気づく感覚につながっていくので。

──子ども自身は知っていますよね!先日も、虫好きの次男がスーパーの前の小さな植え込みで、カマキリを捕まえたので「よく見つけたね!」って。

おおた:そうなんです。都会に自然がないと思っているのはあくまでも大人の勝手な思い込みですよ。大人が描いている自然像に捕われないで、身近な小さな自然に気づいて楽しむ。こういうところが、森のようちえん的視点をもつ入り口なんじゃないかな、と。

──自然がないという思い込みを捨てる、大事ですね。おおたさん自身の子ども時代は?

おおた:めちゃめちゃシティボーイなんですよ(笑)。渋谷育ちでしたけど、自然は大好きで、都会のど真ん中でもカブトムシやクワガタが取れるのを知っていました。それに、子どもにとっては、スター的存在の昆虫じゃなくても、コガネムシの幼虫で十分楽しめるんです。釣りしたいって言われたら、大人は「釣竿買わないと…」と思いますが、子どもにはザリガニ釣りで十分楽しめるんです。割り箸とスルメイカでも事足りるんですから。そういうところだと思います。

森のようちえんにだけにとどまらず、親の視点という意味でもハッとする部分が多くありました。「都会には自然がない」という勝手な思い込み、確かにあります。それでも虫や生き物を見つけてくる子どもたちを、改めて誇らしく思えましたし、まずは自分たちの置かれている状況の中で、いかに身近な自然を見つけて楽しむか。森のようちえんには通えなくても、その視点なら実践できそうです。(このあたりの寄り添い方がさすがおおたさんです!)

後半は森のようちえんに通わせる本当の意味や、いま話題の教育移住について、そして認知能力と非認知能力、両方の鍛え方など…いま知りたい教育にまつわる疑問・悩みにお答えいただきました。こちらもぜひ、お楽しみに。

ルポ 森のようちえん SDGs時代の子育てスタイル

写真提供/おおたとしまさ 人物撮影/富田一也

飯田りえ Rie Iida

ライター

1978年、兵庫県生まれ。女性誌&MOOK編集者を経て上京後、フリーランスに。雑誌・WEBなどで子育てや教育、食や旅などのテーマを中心に編執筆を手がける。「幼少期はとことん家族で遊ぶ!」を信条に、夫とボーイズ2人とアクティブに過ごす日々。

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