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子供も大人もハマる絵本作家インタビュー完全版

ヨシタケシンスケさん「『もうぬげない』誕生はスタバの一角から」

  • LEE編集部

2017.01.10

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全国の本屋さん3000人が選ぶ「第9回MOE絵本屋さん大賞2016」でなんと、3回目の第1位受賞、さらに『もう ぬげない』が1位、『このあと どうしちゃおう』が2位に輝いたヨシタケさん。異例の大ヒットを出し続けている、今、人気No.1の絵本作家の素顔は『絵本作家』のイメージとちょっと違う!?
でもだからこそ、新たな読者が増え続けているのかも。

今回はLEEの2016年11月号特集のインタビューの、なんと文字数にして4倍超となる完全版を、特別にお届けします。ヨシタケさん自身の子育ては? どんなお父さん?本誌特集では2ページにおさめるために泣く泣く削った楽しいお話しをぜひご堪能ください。読者の子供からの質問の答えとして描いていただいたイラストも必見です!

撮影/米谷 享 イラストレーション/ヨシタケシンスケ 取材・原文/原 陽子
この記事は2016年10月7日発売LEE11月号掲載のインタビューの完全版です。


絵本好きの間ではすっかり有名なヨシタケさんですが、普段絵本を手にしない人の間でも、大きな話題となった絵本が『もうぬげない』(ブロンズ新社)。表紙のいきなりのおもしろさがSNSなどで人気を呼び、国内だけでなく海外出版も予定されているそうです。

絵本とは無縁の層にも大人気
『もうぬげない』
もう ぬげない
お母さんが急いでぬがそうとするから、ぼくの服がぬげなくなっちゃった。でも、工夫すればこのままでも生きていけるかも? いきなり笑える表紙で、SNSなどでも大きな話題に。
¥1058 ブロンズ新社

「『もうぬげない』はもうほとんど出落ちで、最初のひとコマがいちばんおもしろい、それをどうにかこうにか28Pのストーリーにするのが、自分の中で大きなハードルでした」

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「内容が薄くなっては意味がないし、出落ちだとしても中味も別のおもしろさがあるとお得じゃないですか。

そういう二重三重におもしろいお得感は大事だと思っていて、質より量というか、どこか一カ所でも気に入って頂けたら幸いでございますという、貧乏性な部分がありますね。子供からお年寄りまでいろんな読者の中に、どこかああわかるわかる、なんか納得できるという部分をうまいこと入れていけたらと。

この本のいちばん最初のきっかけは、スタバでコーヒーを飲みながらネタを考えていたら、向かい側の席にいたお母さんが3、4歳くらいの男の子をかかえていて、お母さんはゆっくりコーヒーを飲みたいけど、お子さんはあきちゃって遊び回りたいから、なんとか抜け出そうとして服がひっくり返っちゃって。

街の中のスタバの一角でその場面という違和感、お互いの事情がああいう形になって表れた、そのビジュアルがすごくおもしろくて」

「もともと、服がひっかかってぬげない絵は前から定期的にスケッチしていたけど、そのときにストーリーにすることができるんじゃないかとひらめいて。自分がおもしろいと思うものってそんなに変わらなくて、それがあるときにあれは使えると、つくり出すというよりは、集めていたものを思い出したり編集する作業に近い気がします。

そういうふうにいけそうなものを見つけたときには、『これだよー』って、スタバとか電車の中で、まあ気持ち悪い顔でひとりでニヤーッて、不審者っぽい状態になるときがあって。

でもそれが実際おもしろいものになるかどうかは全然違う話だったりして、実際に絵本のラフにしてみると『あれー? もっとおもしろいはずなんだけどな……』と、あの作業は結構つらいんですよね。『もっとおもしろかったんですよ』と、夢の話を人にするみたいな」

――2児の父であるヨシタケさん、プライベートでは一体どんなお父さんなのでしょうか

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「うちでは素敵なお父様なんでしょう、と思われがちなんですけど、真逆なんですよ。今朝も子供たちに『早く食べなさい』『遅れるよ』『いいから食べなさい』、それしか言ってないですから。

3冊目の絵本『りゆうがあります』(PHP研究所)で、お母さんが最後まで子供のウソをちゃんと聞いてつきあってあげるんですが、『その姿勢がいいと思う、私もそういう母親でありたい』みたいなご感想を頂くんですけど、ぼく自身もそんなこと全然できてない。

『りゆうがあります』はぼくの中でのいちばんのファンタジーなんですよね、自分ができていないからこそ、理想の状態が描けるわけで。

ただ、できればちゃんと子供につきあって話をきいてあげられた方がいいよね、という理想が頭の中にあるかないかで結構違いがあって、10回怒る内の1回くらい、ちょっと今日は聞いてあげてもいいかもな、という、要はその1回につながるかどうか。

大人も子供もお互いに妥協していかなければいけないわけで、子供側でも話を聞いてもらえないことで『今はやめておいた方がいいな、大人にも事情と体調があるんだな』という想像力にもつながるだろうし、その部分をうまいこと言うのが大事なのかな、って」

子育てってできないことだらけ だからできたときはうれしいはず

「子供の疑問って実はすごく的を射ているというか、確かにそうだということだらけ、もっとおもしろがれたらいいんですけど、大人は忙しいんでね、なかなかそうもいかないんですが、できたら10回のうち1回くらいは、つきあえたらいいんですけどね。

絵本の読み聞かせも全然やらないんですよ、『また今度ね、短いのだったら読んであげる』と、7割8割拒否。自分の本は時間がかかるので読まない。だから不評だし、『そんなにいやならいいよ』と子供から言われるくらいで、父親としてはまあ失格です。仕事と家庭はそういう意味では乖離していますね。昼間のパパは別人です、ほんとごめんなさい。

実際子育てってできないことだらけで、できないからこそできたときうれしいはずで。

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目標が高すぎて全然達成できないと、こっちに罪悪感とかコンプレックスだけ残っちゃう。教育の仕方がよくても悪くても子供は勝手に育つし、もっと言えば『ああいう親にはなりたくない』という反面教師の方が案外長持ちするんですよ。変にものわかりのいい親よりも。

いくら子供を慮ると言っても親の意見を押しつけるだけの話だし、とはいえ自分の気持ちでしか教育はできないし、つきつめると『そのままでいいんじゃない』というしかなくて。無理しないように、適当でいいんじゃないんですかね、となっちゃうんですけど。

育児書とかもみんなバラバラのこと言ってるし、子供自身の個性も違えば、おばあちゃんがいるかいないか、お父さんの仕事は何か、全部条件がバラバラの中で、あの人のうちがこうだからうちも真似しようとしても、その通りには絶対ならない。うちはこうです、とするしかない、それが正解か成功か、何十年しないとわからない中で、それをいちいち合ってる間違ってるで考えたら、まあつらいですよね。

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みんな『すぐ明日使える子育て便利ことば』みたいなのを求めたがるわけですよ、すぐ、明日、その方がありがたいわけで、でもそんなにこの日のほんの一言でなんでもかんでもかたづけられないよ、という当たり前のことを、どう学んでいくか。

明日使えても明後日は使えないよ、明日には役立たないけど一年後じわじわきいてくるよ、という言い方ももちろんあるわけで。AかBかいきなり二択でせまられたら、ついつい『うん、じゃあBで』と言っちゃうけど、本来はそういうものではないよね、というのを、どう言えばいちばんわかってもらえるか、というのはすごく考えます。

結局、まあできないよね、ということを力強く言うしかないんですよね(笑)。難しいところなんですけど」

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PROFILE
ヨシタケシンスケ
’73年、神奈川県生まれ。筑波大学大学院芸術研究科総合造形コース修了。絵本デビュー作『りんごかもしれない』で第6回MOE絵本屋さん大賞第1位、第61回産経児童出版文化賞美術賞などを受賞。2児の父。

 

子供から出てくる、たくさんの「不思議」「疑問」・・・意外すぎる問いに、思わず口ごもってしまうこともありますよね。そんな時は、どう答えたらいいの?
読者モニターLEE100人隊から寄せられた質問に、ヨシタケさんが特別描き下ろしで回答しちゃいます!

LEE100人隊から寄せられた
子供からの素朴な質問

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次回はヨシタケさんの子供時代を伺います。

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LEE編集部 LEE Editors

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