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コロナ禍の教育格差をなくしたい!行政を動かしたママたちにインタビュー【オンライン授業】

  • 田辺幸恵

2020.12.29

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新型コロナウィルス感染の再拡大が続き、いつ休校になるかわからないこの冬。オンライン学習が当たり前になってほしい! そんな希望を抱きつつ、現実では、公立小中学校でのタブレット率は、全国平均1台あたり4.9人(令和元年度学校における教育の情報化の 実態等に関する調査結果、文部科学省より)。文科省が「1人1台の端末は令和の学びのスタンダード」と掲げるものの、現実とはまだまだかけ離れています。

しかし、10月15日に東京都狛江市で公立小中学校に通う全生徒に電子端末配布がスタート。夢の実現へ動いたのは、ママたちでした。「行政が動くのを目の当たりにした」というママたちは、どんなことをしたのでしょうか? そして、端末配布の次の問題とは?

 

コロナ禍で広がる教育格差

安倍前首相による全国の小中高校への休校宣言により、3月2日より一斉休校に。

狛江市内の公立小学校に娘を通わせ、自宅で自営業を営む高木悠凪さんは、一気に子どもと過ごす時間が増えた。

「学校も対応が大変なのは重々承知ですが、家に勉強を丸投げされたように感じ、先生からもフィードバックはなくて。子供にドリルをやらせるのは楽だけど、まだ学校で習っていない新しいコンセプトを子供に説明するのが難しいし・・・。お母さんがみて当たり前なの!?って」(高木さん)

私学ではオンライン授業を提供していたり、休校分を塾で補う子どもたちも。

「それだと、余裕がある人はいいけど、そうじゃない場合はどうしたらいいの?って。よく経済格差が教育格差に繋がってると言われてますが、このままだと教育格差が広がるだけじゃないですか」。24時間子供と過ごす慣れない生活でのストレスもあり、憤りを感じていたそう。

勉強が遅れるのでは、という不安もあったが、まずは娘と過ごす毎日の濃い時間をどうにかしようと、近所のママ友に声をかけ、交代で子供を預け合うようにした。

預けあい仲間のママ友、奥田さんも、「子どもの学習に対する不安をどこに向けたら良いか分からず、個人的に学校や教育委員会に電話したというママもいました」という。

 

他地区の保護者アンケートを真似て作成へ

ちょうどその頃、「子どもたちの学びを止めない」として中央区の保護者たちが「中央区立小中学校オンライン教育を考える有志の会」を結成。保護者1567名からオンライン教育に関する声を拾い、noteに公開(https://note.com/chuo_sfh/n/n988e8e2b28c9)。

高木さんが、奥田さん、同じく子どもを預けあっていたママ友の福岡さんに、「こんなのあるよ!うちらもやってみない?」と働きかけたのが始まりだった。

「狛江に子どもを持つ親による有志の会」の(左から)福岡さん、高木さん、奥田さん(高木さん提供)

福岡さん、奥田さんともに「休校時に子どもの勉強を見るのにケンカになりがちで、親子でとてもストレスを感じていました」。少しでもオンライン授業へ道が開けるならという思いで、「狛江に子どもを持つ親による有志の会」を発足。

中央区の保護者にもコンタクトを取り、同じように緊急アンケートを作成した。

 4月24日から30日の間に、口コミやSNSで広まり、944名から回答を得る(狛江市のホームページによると2020年12月1日現在、市の日本人世帯数は4万2245)。

狛江市では既にユーチューブでの授業配信が始まっていたが、アンケートでは学校によって視聴実態にばらつきがあること、聞き取りにくい、わかりにくいなどの保護者が感じている問題点も浮き彫りに。オンライン学習への希望として「双方向であること」「コミュニケーションが必要」などの要望もはっきりした。

 

「議員さんを仲間にしよう」作戦

アンケートは集めたものの、次はどうしたらいいのか。

「中央区の動きを知り、数日の間に1000件を超える声が集まったのを目の当たりにしたので、思い切ってやってみました。狛江市のような人口が少ない自治体にもかかわらず944名の回答があり、この声を必ず具現化させる提案をしないと、という思いで市議さんの助けを乞いました」(高木さん)

そこで、有志の会で話題に上ったのが、市議会議員の三宅まこと氏だった。全く知り合いでもないし、ツテもないが、三宅氏のホームページからコンタクト。アンケートをとったことを伝えたら、なんとびっくり。「即レス」だったという。

「そんなことになってるんですか!とすぐに相談に乗ってくださって、他の議員さんを巻き込んでくれたんです。困ってるっていう文句よりも、より協力してもらいやすいように提案をしなきゃダメだと、いろんな方と協力して要望書の作りかたを指南してくださったんです。

普段、政治や行政は遠い存在で、接する機会なんて考えてもみなかったのですが、とても身近なものになりました」(高木さん)。

せっかく多くの保護者に答えてもらった緊急アンケート。その後の動きを「見える化」しようと、「狛江で子どもを持つ親のアンケート」というホームページ(https://komaeschoolyushi.wixsite.com/komae)を作成し、教育委員会からの回答ややりとりを、全ての人が見ることができるようにした。

三宅氏は、政治評論家として数多くのテレビ番組に出演し、お茶の間の人気者だった故・三宅久之氏の三男。広告代理店で27年間のサラリーマン生活を経験したのち、2015年4月の市議会議員選挙で初当選。2019年の選挙では「トップ当選」を果たし、名前はママたちの間でも広まっていたのだ。

 

狛江市の「1人1台端末」配布に尽力した市議の三宅まこと氏(左)と高木さん。(狛江市議会本会議場にて、高木さん提供)

 5月11日に、高木さんら「有志の会」で集めた保護者の声アンケートを元にした要望書を、教育委員会に提出。すると、6月には狛江市教育委員会が約3.7億円の関連補正予算案を議会に提出。議会でめでたく承認され、市内10校の小中学校へ端末配布の見通しが立った。

 さらに、アンケートを元により改良したユーチューブによる授業動画配信、登校日にデジタル図書にアクセス可能なIDを配布することが決定と、一気に事態が好転。コロナ休校で放置状態だった家庭学習に、光がさすことになった。

 



山あり谷あり、次の課題は家庭のWi-Fi環境の差

短い夏休みが明け、10月15日に生徒1人1台配布が実現。学校でプログラミング授業を行ったり、ITリテラシーを学んだりと、今までにない内容に子供たちも意欲的に取り組んでいるそう。

「不安や焦りだらけの自粛期間中、声を掛け合い共に協力し合った友人達は正に戦友です。タブレット授業が始まり楽しいと話す娘の様子に、この活動に参加して本当に良かったなと思いました」と福岡さん。

子どもたちの学びに有効なコンテンツの充実もお願いしたい」(高木さん)と先を見据えられるようになった。

ただ、配布されたタブレットは学校内での使用がメイン。家庭に持ち帰り、学習のサポートとして使うにはまだ「家庭内のWi-Fi環境の差」という課題もある。

狛江市では、東京都からルーターを借りあげていたりするものの、まだ全家庭への無償提供などには至っていない。

 

オンラインとリアル授業、これからの理想は

教育格差を減らすオンライン授業を求めて、自ら一歩を踏み出したママメンバーたち。願いは、コロナ休校のような事態でオンライン授業へのスムーズな移行で、「学ぶ機会」が失われないことだ。

「市議さんが即レスで困った市民に手を差し伸べてくださったことは、驚きと共に感謝の念でいっぱいです。このプロセスを我が子にも日々話していくことで、行政の役割や政治に対して関心を持ってもらえるいい機会になったのではないかと思います。

急な休校時に備え、ネット環境を整えて、教育機会の損失にならないような準備はどんどん進めて頂けたらと願ってやみません」(高木さん)

「タブレットを授業で活用しつつ、休校や学級閉鎖時にすぐオンライン授業が対応出来るように進めて頂けたらと思っています」(福岡さん)

「私たちも何もわからず走り始めましたが、中央区の例をモデルにできたことと、市議の方々にご協力いただいたことで教育長までスムーズに要望を届けることができ、とても感謝しています。

 アンケートの回答では、IT系・教育関連企業に勤める保護者を中心に、オンライン教育の具体的なアイディアが多数集まったことに驚きました。『子どもたちのため、皆で協力して何とかしよう』という熱意が感じられました」(奥田さん)

学校任せにするだけでなく、親の「熱意」が学校と行政を動かした1つのパターン。子供にしわ寄せがいく前に、学校や行政にも柔軟さが求められそうだ。

 

 

田辺幸恵 Sachie Tanabe

ライター/ライフコーチ

1979年、北海道生まれ。スポーツ紙記者を経て2006年にアメリカへ。2011年にニューヨークで長女を出産。イヤイヤ期と仕事の両立に悩みコーチングを学び、NPO法人マザーズコーチジャパン認定講師に。趣味は地ビール探しとスポーツ観戦。夫と娘(8歳)の3人家族。

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