トランプ続投か、バイデンか。ご存知の通り、2020年のアメリカ大統領選は歴史に残る大接戦となりました。
4年に1度、国のトップを決める投票ですが、今年のアメリカは大揺れ。新型コロナウィルス拡大が広がると、「ブラック・ライブズ・マター」運動が各地で起こりマンハッタンでは暴動も。10月にはトランプ現大統領自らが新型コロナウィルスに感染し、ホワイトハウスでクラスターが発生しました。さらに、最高裁のリベラル派、ルース・ベイダー・ギンズバーグ判事の死去に伴い、トランプ現大統領が保守派判事を指名したことで、最高裁判事の保守・リベラルのバランスが崩れ不均衡に・・・。
一体、私が住むこの国はどうなっちゃうの?と不安を覚え、今年ほど見入った大統領選はありませんでした。
将来「有権者」となる子供にどう伝えるか、子供はどう大統領選を見たのか、身近な取り組みをお伝えします。
中学生は模擬大統領選、選挙活動は「インスタ」で
友人の息子さんが通うニューヨーク市内の公立中学校では、8年生(アメリカでは基本1〜5年が小学生、6〜8年が中学生です)が社会科の授業の一環として、毎年「大統領選」を行うそうです。
本物さながら、大統領候補と副大統領候補がコンビを組み、「宿題をなくす!」など公約を掲げて選挙活動。現在、生徒はリモートラーニングと対面授業を組み合わせたハイブリッドか、フルリモートかが選べるため、「ポスターを学校に貼っても、みんなリモート学習だから見ない。SNSが効果的」とインスタで選挙活動をする候補もいるんだとか。
友人の息子さんは「最高裁判事」候補に選ばれたそう。ギンズバーグ判事の死去で俄然注目を集めた最高裁判事。中立な立場でいられるか、中学生なりの「ジャッジ」も求められそうです。
候補者の政策が自分にどう影響するのかを考えながら体験する授業。将来「選挙」への関心を育むのではと思います。
9歳は本で学び、ソーダで身近に
9歳の娘の場合は、選挙の約1か月前「大統領選挙って何?」(What is a Presidential Election?)という本を読みました。娘が通う公立の小学校は、11月3日の投票日は投票所になるため全生徒がオンライン授業になりました。先生からは、選挙システムがまとめられた子供向けユーチューブのリンクが送られて来たので、それを見ただけ。授業でディスカッションすることはなかったので、本を読んだのが役に立ちました。
本では、大統領ってどんな仕事をするのか、選挙の歴史や選挙システム、選挙権・被選挙権など基本的なことを学べる内容でした。「街中にある候補者のバナーを見つけてみよう!」というお題もあり、街中で色々観察したなかで見つけたのが、「バイデン・ベリー」というソーダ。
似顔絵が書かれており、民主党の党カラー、青いソーダです。「トランプ・ソーダ」もあるはず、と思ったのですが、なんと売り切れ! 熱狂的といわれるトランプ支持者のアツさを感じましたし、波乱の選挙を暗示させるものでもあったのかなぁと。。。
混沌とする今のニューヨーク
授業や本、ソーダで子供でも身近に感じられる大統領選ですが、民主党候補のジョー・バイデン氏が、投票から5日目に「勝利宣言」を行い、カマラ・ハリス氏が史上初めて女性であり、有色人種の次期副大統領となりました。すでに50州全てで集計が終わり、バイデン氏が選挙人306を獲得し、過半数の270を大きく超えています。が、トランプ大統領は選挙での不正を強調し、慣例となっている「敗北宣言」を行っておらず、政権移行がちゃんと進むのか、混沌とした状況になっています。
民主党が強く「ブルー・ステート」と呼ばれるニューヨーク。バイデン陣営の勝利宣言翌日、8日付「NEW YORK POST」紙面には、「It’s Joe Time」(さあ、ジョータイムだ!)と新たなショーの幕開けを祝うような見出しとともに、経歴を紹介する記事も。ハリス氏は、初の女性副大統領ということもあって、「2つ目に高いガラスの天井が破られた」と歴史が塗り替えられたことを好意的に報じていました。
お祝いムードの一方、五番街にあるトランプ現大統領の以前の住居「トランプ・タワー」にはいつにも増してNYPD(ニューヨーク市警)の車両が多くとまりに、物々しい雰囲気に。
五番街のお店の多くは、暴動を恐れてショーウィンドウに板張りをしたまま。「トランプ・タワー」の斜め向かいにある老舗デパート「Bergdorf Goodman」も入口がどこかわからないほど。
ちょうどこの下にある地下鉄の駅「5th Avenue」も、平日の昼間なのにひっそり。駅構内の売店はしまったまま。観光客がいない今は、寂しい光景になっています。
4年前は「お通夜」のようなニューヨーク
9歳の娘にどうして選挙を意識して欲しいと思ったのか。それは4年前に遡ります。
共和党候補のトランプ氏が民主党候補のヒラリー・クリントン氏を破り大統領に就任。当時、娘は国連が運営するインターナショナルスクール、UNIS(United Nations International School)に通っていましたが、選挙翌日の朝のドロップオフでは「政治と宗教の話はしない」という保護者どうしが無言で抱き合い、雰囲気は「お通夜」そのもの。学校からも「この選挙結果を子供に説明できない保護者へ」というメールが届き、対応の早さに驚きました。
学校から保護者宛のメールで書かれていたのは、大統領選のシステムを正しく子供と理解するのが大切だということ。4年前は、史上初の女性大統領を目指したヒラリー・クリントン氏が総得票数では勝ちながら、選挙人をトランプより多く取ることができずに敗れました。そしてトランプ氏に不安を覚えた高校生の多くが、ニューヨーク市の各地でデモも多く行っていたんです。
若い世代の票が選挙結果に影響、1票の重み
ニューヨーク・タイムズ紙の2020年大統領選出口調査では、18〜29歳の60パーセントがバイデン氏に投票。トランプ現大統領に投票したのは、わずか36パーセントでした。65歳以上では、バイデン氏が47パーセント、トランプ現大統領が52パーセントと逆転しています。4年前は選挙権がなく、デモに参加したり悶々としていたZ世代(2000年以降生まれ)や、ミレニアル世代(1980〜2000年生まれ)が投じた票が、選挙結果に大きく影響しました。
今年のような大接戦になると、余計に「1票」の重みを感じます。子供が、将来自分の国で何が起こっているかに目を向けられるきっかけになればと思います。
田辺幸恵 Sachie Tanabe
ライター/ライフコーチ
1979年、北海道生まれ。スポーツ紙記者を経て2006年にアメリカへ。2011年にニューヨークで長女を出産。イヤイヤ期と仕事の両立に悩みコーチングを学び、NPO法人マザーズコーチジャパン認定講師に。趣味は地ビール探しとスポーツ観戦。夫と娘(8歳)の3人家族。