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がんと暮らす

がん治療と仕事の両立は?心身の状態変化、支援、復職相談先

  • LEE編集部

2020.11.03

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がんになったら、治療のために仕事を辞めなければいけない、というのは大きな誤解! 心がダウンしたときに退社を決めてしまって、後悔するケースも。

では、がんになっても仕事を続けるうえで、大切なことは?どんな問題点が出てくるの?

知っておきたい、心身の状態変化と対処法を、キャンサー・ソリューションズ 桜井なおみさんに聞きました。
この記事は2020年7月7日発売LEE8月号の再掲載です。


キャンサー・ソリューションズ 桜井なおみさんが解説
がんになっても仕事を続けるということ

教えてくれたのは・・・
キャンサー・ソリューションズ(株)代表取締役 桜井なおみさん

37歳で乳がんになり治療と仕事の両立が困難に。経験を元にがん患者の就労を支援するCSRプロジェクトを開始。その後キャンサー・ソリューションズを設立。著書に『あのひとががんになったら―「通院治療」時代のつながり方』(中央公論新社)。

がんになっても仕事を続ける3つのポイント

Point1|検査~診断直後に退社を決める
「びっくり退社」で後悔する人が多い

Point2|治療しつつ、または回復傾向にあるときの
張りきりすぎで「燃え尽き退社」も

Point3|がんの種類などすべてを報告しなくてもOK。
誰にどこまで知らせるかは自分で決めて

退社が多くなるタイミングをあらかじめ知っておいて

がん患者が活躍できる社会を目指して、企業のがん患者雇用についての情報発信や、実際に相談にも応じるキャンサー・ソリューションズ。
代表の桜井さん自身、37歳で乳がんに罹患し、当時勤めていた設計事務所を休職。復職したものの両立が難しく、退職を選んだという経験が。がん患者が仕事を続けることは、やはり難しいのでしょうか?

「決してそんなことはありません。でも、がん告知を受けてから、仕事を辞めようと思ってしまいがちなタイミングがあるので、これには注意が必要です。

多いのは、がんの診断から1〜3カ月以内で退社してしまう“びっくり退社”。がんにショックを受けすぎてもう無理だ、となって退社を決めてしまう。実は、この傾向は要精密検査が決まったあたりから始まり、検査をして結果を待つ間に決断してしまう人もいるんです。

いわゆる患者になりきれていない期間が盲点で、ここで動揺しすぎないようにということは、がんになる前からぜひ知っておいてほしい。診断後に、治療方針が決まり、治療をしながら仕事をしてみてからでも判断は遅くありません。まずは落ち着くことです。

また、診断から1年ほどで会社を辞めてしまう“燃え尽き退社”も。治療が落ち着いて復職したものの、治療前の自分を目指して息切れしてしまう。皆さんまじめなので、ハードルを上げすぎてしまうんです。

“〜しなくちゃ”を自分に課す人ほどしんどくなって辞めてしまうので、私のところに相談に来る方には『全部ひとりで頑張らなくていいんですよ』とお伝えします。肩の荷が降りるのか、辞めずに済む方も多いです」(桜井なおみさん)

心身の状態変化:精密検査後と通院治療中に気持ちがダウン

心身の状態変化

平成30年度 労災疾病臨床研究事業費補助金分担研究報告書 「働くがん患者の心と身体の変化に関するインターネット調査」より

心が最もダウンするのが、実は要精密検査と言われてから確定診断が出るまでの間。その後、入院をして医師、看護師などのサポートを受けると少し回復するものの、自宅での治療中に孤立してまた落ち込む。
この2つのタイミングでの離職が多く、がんでの離職全体の3割ずつを占める。



仕事を続けて社会とつながることで、がん患者にはこんなメリットが

「人は人とのかかわり合いの中で生きているものなので、社会の中で役割がないとどんどんつらくなってきます。がん患者といえども、今は入院期間も短いですし、治療しながら生活していくことが一般的に。生きる意味を見いだすという観点でも大事です。

主婦なら仕事にこだわらず、主婦業を通して社会参加をするのもいいと思います。それを卑下しないで、家のこと、地域のことなどをしっかりやっていけば価値を見いだせますよね。

ただ、現実問題、がんは内容やステージにもよりますが、治療費がかなりかかります。

自分で働いて稼ぐことで、心にゆとりを持って治療ができることも。もし今正社員であれば、社会保障も充実していると思うので、辞めてしまうのは正直もったいない。お金の問題を頭に入れておくのも大切なことです」(桜井なおみさん)

がんの種類やステージではなく何ができるのかを伝えよう

桜井さんが思う、がんと診断されても仕事を続けるために必要なこととは?

「まずは、周りの人とのコミュニケーションについて。がん告知後、誰に何をどこまで言うかは考えておいてほしいですね。直属の上司にはがんの種類や進行具合について報告しても、クライアントにまで言うのか。

患者になると慌てて言わなきゃモードに入ってしまい、私自身も『がんになりましたので、ご迷惑をおかけします』というメールを300人ほどに一斉送信した経験が……。

相手の立場になって考えると、どんながんでステージⅢでという情報よりも、仕事をするうえで、これはできるけどこれは難しいというような、業務のことを具体的に伝えるほうが仕事をしやすいはずです」(桜井なおみさん)

桜井さんは告知の後、がんを知らせるメールを仕事相手に一斉送信してしまった過去が。受け取る相手は困ってしまうので、相手の立場に立ったコミュニケーションを心がけて。

「次に必要なのは、しっかりと情報収集をすること。会社によって病気をした際の対応やルールは違うので、就業規則はまず確認。制度をフルに使えば1年ぐらい休職できることも多いのですが、意外に知らないものです。

また、規則にはなくても、同じように闘病中の社員がいて配慮されていることもあるので関係部署に聞いてみましょう。

仕事内容が大変であれば、希望すれば営業から事務、外勤から内勤など異動をさせてもらえることも。すぐにあきらめないで、いろいろな道を探ってみて」(桜井なおみさん)

ただし、これらすべてのことは、上司や同僚など周りの理解が必須だと桜井さんは言います。

「がん患者への会社の理解はもっと進むべきだと考えています。一般社団法人CSRプロジェクトでは企業にセミナーをしたり、今後はがん経験者が同じがん患者を支える“ワーキング・ピアサポーター”を養成していく企画を進めています。

同じ会社や業種に経験者がいれば、境遇が似ていて相談がしやすいことも。同じがん患者を支えたいとピアサポーターを希望する人に向けて、患者への接し方や話し方の講習、育成を行っていきたいと思っています」(桜井なおみさん)

職探しでは患者であることで条件をせばめすぎない

がん患者の社員への対応は、企業によって大きな差があるのもまた現実。
新型コロナウイルス感染症拡大による雇用情勢の悪化で、やむを得ず離職するケースが増える恐れも。心機一転で職探しをすることも視野に入れて。

「がん治療をしながら職探しを行う際は、自分で制限を設けないことが大切です。

ハローワークなどで仕事を探す際も、体調が心配なのでリモートだけで仕事できる、通院のために平日が休みなど、がん患者自ら入口をせまくしてしまうことが多い。がんを前提にしすぎてしまうと、自分のこれまでのキャリア、やりたいことが見えなくなってしまいます。

治療といっても今は20年続けるわけではないし、最初こそ頻繁に通院しても、落ち着けば3カ月や半年に1回と減っていく。テレワーク拡大で可能性は広がっていくと思うので長い目で見た職探しが必要だと思います」(桜井なおみさん)

今の会社で仕事を続ける場合も、辞めて職探しをする場合も、自分だけでは判断を誤ることもあるし、今は緊急避難的な助成金もたくさん出ています。辞め方も辞め時も重要なので、ぜひ周りに相談をしてほしいと桜井さん。

「人は対話の中で自分を見つけていくので、家族、友人、同僚などいろいろな人に相談して。

がん患者はどうしても負い目を感じて『時短で3時に帰るなんて申し訳ない』などと思いがちなのですが、そういう思いも打ち明けることで軽く。

周りに話す相手がいないと孤独を感じることも多いので、いざというときのための相談窓口を知っておくのも得策です」(桜井なおみさん)

いざというときの相談先は?

一般社団法人CSRプロジェクト

http://workingsurvivors.org/
がん患者の就業支援や情報発信を行う。予約制で、がん患者が無料で電話相談できる「就労セカンドオピニオン~電話で相談・ほっとコール~」も。
相談者の7割が女性、3割が男性で、比較的相談窓口が少ない地方在住の患者も多く利用している。現在の相談日は第1土曜日と第4火曜日。

社会保険労務士、相談支援センターなど

最近では病院に労働規則や社会保険の専門家である、社会保険労務士がいるケースも。
自分の会社の就業規則を持ったうえで相談すると、休み方や休み中の手当などについて具体的なアドバイスをもらえる。より気軽に話が聞ける相談支援センターを設置している病院もあるのでぜひ利用を。


イラストレーション/二階堂ちはる 取材・原文/野々山 幸(TAPE)
この記事は2020年7月7日発売LEE8月号『がんと暮らす』の再掲載です。

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