ジェンダー教育/言ってませんか?「男の子だから」「女の子だから」

犬山紙子さん・劔樹人さん夫妻インタビュー「世間のジェンダー観、子育てへの想い」

LEE編集部

「夫が家事を担当しているのでヒモと言われることが。女性なら主婦と認識されるのに……」(犬山紙子さん)
「仕事もしてるのに、僕を無収入にしたい世間の空気を感じます」(劔 樹人さん)

妻の犬山さんが外で働き、夫の劔さんが家事全般を担当。

世間のジェンダー観とは相反する夫婦像を築くお二人に、その本音や、ジェンダー教育、娘さんへの思いを聞きました。
この記事は2020年1月7日発売LEE2月号の再掲載です。


犬山紙子さん・劔 樹人さん夫妻インタビュー
「女なんだから」の負の連鎖は断ち切りたい!

犬山紙子さん
コラムニスト、エッセイスト。女性の本音に鋭く切り込み、最近では児童虐待の問題にも積極的に取り組む。『アドバイスかと思ったら呪いだった。』(ポプラ文庫)など著書多数。2013年に結婚、2017年に女児を出産。

劔 樹人さん
ベーシスト、マネージャーなど音楽活動を経て、最近では漫画家、イラストレーターとしても活躍。著書に『今日も妻のくつ下は、片方ない。妻のほうが稼ぐので僕が主夫になりました』(双葉社)。ウェブ連載も多数。

新幹線で警察に通報……予想以上に反響が大きかった

2歳の娘と新幹線で移動中、警察に通報された――。犬山紙子さんの夫、劔樹人さんのこんな体験談が昨年SNSで話題に。「父親が娘と二人きりで新幹線に乗る」ことがまだ一般的ではない、世間の価値観が浮き彫りになりました。

犬山 男性が育児することへの問題意識や、男性自身からの共感など、想像以上に反響がありました。これが考えるきっかけになるのはいいけど、分断とか対立を生まないといいなと思いましたね。

 だから男が育児するのはダメだ、とかね。

犬山 反対だよね。男性が普段から育児をしていれば、こういう問題は起きにくくなるから。わが家は、夫にほぼ家事をお願いしていて、3年前に子どもが生まれてからは育児もかなりを担当してくれています。

 だから今回「慣れないのに子どもと新幹線に乗るからだ」みたいな声があって、それは「慣れてるのに」と少し不満(笑)。

犬山 両親や友達など、身近な人たちは私たちのやり方を理解してくれているのでいつもは何も感じないのですが、世間の声にモヤモヤすることはあるよね。例えば、女性が家事育児を担当していたら専業主婦なのに、男性だと“ヒモ”という位置づけをしたがる。夫は仕事もしているのに、家事育児を多くやるだけでヒモ扱いはうーん……と考えてしまいます。

 確かに、なぜか僕を無収入にしたい空気をメディアとかからは感じますね。

犬山 不安なんだろうね。キャラとか役割とかを決められない人がいると。自分の想定外のことをする人が怖くて、枠にはめようとするんですよね。でも本来なら、こういう役割分担は性別で決められるものじゃない。今後はジェンダーロールから解放された夫婦はどんどん増えると思います。

 僕は、当時の田舎では珍しく両親が共働きで、男とは、女とはがそんなにない家庭で育ったんですよ。だから、今の状態もあまり違和感はない。

犬山 義理の母は本当にリベラルで、私が家事できないと伝えたら「息子に料理を教えておくわ」と言ってくれる人なんです。夫の壁のなさは、ご両親の影響が大きい。私は反対に、母が専業主婦だったこともあって「女の子なんだから台所に行きなさい」と言われるのがめちゃくちゃいやで。すごく反発していました。

 自分が育った家庭の影響はどうしても大きいよね。

犬山 ジェンダー意識の強い義父母から「後継ぎの男の子が欲しい」とか心ないことを言われる方も多いですよね。上の世代の人たちはジェンダーバイアスどころか、結婚相手も自分で決められない時代を生きてきたからある程度は仕方ない。なぜそういう言葉が出るのか俯瞰で見つつも、言うことは聞かないことです。
一番の問題は、義父母の言葉を内面化してしまって「自分が悪いのかな」と思ってしまうこと。そう思うと、今度は自分の子どもにも同じことをしてしまい、負の連鎖が断ち切れません。まずは、自分の心を守ることを意識してほしいな。

 僕自身は、両親や家庭のいい影響はありつつも「男は我慢」「男は弱音を吐かない」みたいなジェンダー意識に縛られていたことも実はあったんですよ。気持ちをため込んで妻に怒られたこともありました。妻と結婚して、いろいろな雑談とあわせて、とにかくよくジェンダーの話をするので、それでより考えが変わってきたかなと思いますね。

外見を人と比べて傷つく娘につらい思いはさせたくない

もともとジェンダーに対する意識が高いお二人。特に劔さんは娘さんが生まれたことで、さらに意識が変化したのだそう。

犬山 娘が生まれたら、フェミニストになった!

 それはやっぱり、娘がこれからこの社会を生きていくと思うとね……。

犬山 私たちはよく話すこともあって、ほぼ同じぐらいの意識で、ジェンダーギャップはないほうがいいと思ってるんですね。あるとき、夫が娘にマニキュアを塗られていたんです。「男」はマニキュア塗らないんだよって言わずに受け入れていて。そうしないのがすごくいい!と思いました。

 男性でもマニキュア塗る人もいますから。ここで娘の行為を否定するのは違うかなと。後で必死に落としましたけどね(笑)。

犬山 親がどんなにジェンダーギャップがないようにと思って育てても、いやでも外から受けますからね。家の中だけは聖域ぐらいの感じにしたい。

 僕は娘の洋服を選ぶときも、かなりスポーティになってしまうんです。でも母親と父親が選ぶものは違ってもいいかなと思うし、女の子らしいとされている服装じゃなくてもいいと思います。

犬山 あと、娘に対しては、ルッキズムとエイジズムをなくしたいと強く思います。誰かと比べてかわいい、かわいくないということで、思春期ぐらいの日本の女の子ってすごく傷つくんですよね。でも欧米だと個性を大切にという考え方が多く、年齢を重ねることが残念ではなくて知識が身についてもっと魅力的になるという意識がある。この考えは夫にも何度も話して共有していて、娘に絶対継承したくないなと思っています。

 娘の時代でこういう考え方を変えるのって、僕らの世代からの後押しが必要ですよね。

犬山 ルッキズムは、親が謙遜で言ってしまうこともあるんですよ。「うちの子は美人じゃないから、いつも笑っているように伝えてる」とか……。これって子どもは傷つくし、呪いの言葉になりかねない。

 呪いはかけたくないね。

犬山 20〜30代の女性と話していると、母親に「おめめはかわいいのに鼻はブサイクね」とか言われたことをずっと覚えてる。親は何気なく言ったことでも、外見について言われたことは心に残るし、一生の傷になってしまうと思います。

 娘にはできるだけ、自分が好きな子に育ってほしい!

犬山 そのためにも、いらぬジェンダーの呪いをかけないこと。テレビ番組の外見いじりとかも多いので、そういうものを目にしても親が「気にしないで」と耳打ちしてあげることが必要なのかなと思いますね。


撮影/フルフォード 海 イラストレーション/劔 樹人 取材・原文/野々山 幸(TAPE)
この記事は2020年1月7日発売LEE2月号『言ってませんか?「男の子だから」「女の子だから」』の再掲載です。

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