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飯田りえ

『定形外家族』。当事者の子どもへの取材で見えてきた「大人はさっぱりわかっていない」事実【前編】

  • 飯田りえ

2020.03.29

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定形外家族。

「父、母、血縁の子ども」という、いわゆる「ふつうの家族」とは違った形の家族のこと。昨年末、ノンフィクションライターの大塚玲子さんが著書「ルポ 定形外家族 〜わたしの家は『ふつう』じゃない〜」を出版されました。ひとり親、再婚家庭、里親・養親家庭などのほか、親が同性カップル、AID(提供精子を用いた人工授精)、虐待、精神疾患、牧師…など、様々な事情から”ふつう”とは異なる家庭環境で育った子どもたちのインタビューが掲載されています。

ひとり親の当事者として、多様な家族の子どもたちを取材

大塚玲子さん(ノンフィクションライター) 主なテーマは「いろんな形の家族」と「PTAや学校」。新刊『ルポ 定形外家族 〜わたしの家は「ふつう」じゃない』(SB新書)、ほか著書は『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』『PTAがやっぱりコワイ人のための本』(3冊とも太郎次郎社エディタス)、共著は『子どもの人権をまもるために』(晶文社)、『ブラック校則』(東洋館出版社)など。取材執筆のほか、講演や、TV・ラジオ出演も多数。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。

 

大塚さん自身、産後クライシスが引き金となり離婚され、今もひとり親としてお子さんを育てています。ご自身の中で「いい(ましな)離婚」とはどんなものかを模索する中、シングル家庭で育った経験を持つ人たちに、子ども時代に感じてきた本音を聞く機会がありました。そこで重大な事実を突きつけられたそう。

「大人たちは子どもの考えていることを、さっぱりわかっていない」

そして、世間ではふつうの家族=お父さん、お母さん、血の繋がった子どもたち、というイメージが強く、それ以外の家族のカタチは偏見の目で見られがち。また、その理想とする家族像に親がしがみつくがために、苦しんでいる子どもたちもいるのです。「もっと多様な家族のあり方を受け入れられる社会にしたい」との思いから2014年に『定形外かぞく』という団体を立ち上げました。そして『おとなたちには、わからない。』というWEB連載を2017年にスタートさせ、今回の書籍化に至ります。

また、活動を続けていく中で、定形外でも定形でも、悩み苦しんでいる子もいれば、のびのび育っている子もいる…果たして、この違いは何なのか?子どもにとって本当に必要なこととは。大塚さんにインタビューしてきました。前後編でお伝えします。

子ども達が望むことは「とにかく本当のことを伝えて欲しい」

__タイトルからしてすごいインパクトでした。そして、本当に様々な境遇の方がいらっしゃるな、と。

大塚:「子どもの立場から見た家族」を取材しているので、WEBでは『おとなたちには、わからない。』というタイトルで連載していますが、書籍は『定形外家族』という視点からまとめ直しました。イメージが広がったと思います。

__2017年夏頃から連載を始めたそうですがきっかけは?

大塚: 私も子どもが生まれてすぐに離婚したこともあり、ひとり親家庭の子どもたちと話す機会が多く、そこで驚愕しました。大人が「これは子どもによくないだろう」と思っていることが、子どもには的外れだったり、逆に「子どもによかれ」と思って大人がしていることが、子どもにはむしろ迷惑だったり。子どもたちはしばしば、大人たちの決めつけに困っていたのです。我々、大人が考えることと、子どもの思いはだいぶ違う、ということがわかりました。しかもそれは、ひとり親家庭だけでなく、再婚家庭や里親家庭等々、定形外家族全般に共通する傾向であることにも気付きました。

__なるほど。その共通して見えてきた問題とは?

大塚:たとえば【親が子どもに事実を伝えていない問題】があります。置かれた状況によっては、正しい情報を伝えてもらえない子どもは、ずっと悩んでしまうことがあります。知りたいことが「わからない」という状況は、意外と大きなストレスになりますし、親への不信感にもつながる。自分を責めてしまう子どもも多いですよね。周りから「あなたのせい」と言われた事があったり、子ども自身、わからない不安さから因果関係を求め、「自分のせい」にして話の辻褄を合わせてしまったりするのです。

__教えてもらえないから自分を責めるなんて…。

大塚:それに、親から説明してもらえないとその話はタブーになり、口にしてはいけない事柄になります。自分の中に閉じ込めてしまうと、子どもにとって相当な負担になってくることもあります。

__小さくてもきちんと説明しなければ、親もタイミングを逃してしまう。

大塚:そうなのです。「まだ小さいからわからない」と大人は決めつけがちですが、小さい子どもなりにわかるレベルで説明することも大切でしょう。私も子どもには小さな頃から離婚のことを伝えていて、「いっしょにいると喧嘩するから、別の場所に住んでいるよ」「お父さんとは、こんなことでよくぶつかってね。でもその時はお互い大変だったんだよ」とか、事実を簡単に話しています。

__親子の中で隠し事があると、日常から自然な会話が困難になる時も出てきますよね。幼い頃から素直に伝えている方が、スムーズでいいですね。

気づかないうちに傷つけている、周囲の「かわいそう」のひと言


__ほかにも問題点はありますか?

大塚:もう一つよくあるのが【かわいそう問題】です。ひとり親、再婚家庭、LGBTも里親も、定形外家族はみんな、関係のない周囲の人たちから「子どもがかわいそう」などとよく言われます。そのため、定形家族であることにしがみついて、親子が苦しむパターンも見てきました。「とにかく親が二人揃っていればいいでしょ」と離婚せず子どもの前で争いを続けていたり、本当は親自身も望まない再婚したり…。逆に、ステップファミリー(子連れ再婚家庭)の子どもが、周囲の人から「まるで本物の家族みたいだね!」と言われて「本物って何よ?!」と傷ついた話も。当の本人たちは満足しているのに、周囲の勝手な同情が傷つけることもあるのです。

__周囲からの悪気のない、何気ないひと言ですよね…。世の中の人たちは、この事実を、もっと知らないといけない。

大塚:私もうっかり言ってしまうことはあるので、えらそうなことは言えないんですが、みんなもうちょっと想像力をもてるといいのかなと思います。私もかつて、わが子が学童の先生から「お母さんを幸せにしてあげて!」と言われる現場に居合わせて、「ひとり親は不幸」という決めつけに苦笑したことがあります。何の悪気もない、100パーセントの善意なのはわかっているのですが、やっぱり後でモヤモヤが残りますよね(苦笑)。

__こう言う何気無い言葉を、周囲から少しずつ言われてしまうと、確かにストレスですよね。それは生きづらさ繋がってしまいます。もっとみんなが様々な価値観に触れることが大事?

大塚:そうですね。知らない人は想像つかないのも仕方がないと思うので、まずはこういうことを、たくさんの人に知ってもらえたらうれしいです。



大人の考えで決め付けないで、まずは子どもに聞いてほしい

__大塚さんが当事者である子どもに聞こうと思われたきっかけは?

大塚:ひとり親を支援するNPOを手伝っていた時に、代表の娘さんが、親の離婚や再婚で子どもが迷惑したこと、嫌だったことなどを話してくれました。それを聞いた時は衝撃でした。「こんなにも親が考えることと、子どもの思いはずれているものなのか」と。親はどうも、子どもによかれということを、決めつけてしまいがちです。

__決め付けられることとは?

大塚:例えば、離婚して離れて暮らす親に、子どもが会いたいかどうか。いっしょに暮らす親はよく「会いたくないに決まっている」と決めつけ、離れて暮らす親はよく「会いたがっているに決まっている」と決めつけますが、子どもは「それぞれ違うんだから、勝手に決めないで、本人に訊いてくれ!」と思っている。今でこそ子どもの権利として、離婚時の面会交流や養育費の取り決めが重視されてきましたが、以前は離婚の時に子どものことを考える発想は、社会全体として非常に薄かったです。

__親同士の感情のもつれや権利争いになっているので、子どものことを中心に考えるなんて余裕がなさそうですよね…。

大塚:そうですね。一番知ってほしいのは、「他方の親の悪口を、子どもに聞かせないでほしい」ということです。親はつい他方の親の悪口を言いがちですが、子どものDNAには半分入っている訳ですから、自分を否定されていると感じてしまいます。両方の親からそれぞれ言われてしまうと、もう全否定ですよね。

__ご本人も、いろんな感情がたまっているのでしょうが、子どもの前では…。

大塚:事実は言っていいんですよ。悪口と事実の境目って難しいですが、感情をのせない、人格否定をしないことが大事かなと思います。逆に、事実にすら一切触れないでいると、他方の親の話がタブー化して、それも子どもの負担になってしまうので、ほどほどがいいですね。

「ふつう」がいいって思ってしまう子どもたち、その背景には


__もっと日常的に家庭環境のことをオープンに出せばいいですよね。そうすると色んな境遇の人がいるってわかるのでは?

大塚:難しいなと思うのが、下手に話すと周囲から同情されてしまう点です。私も離婚した理由を聞かれた時は「私が鬼のように怖かったから、しょうがないですよね〜」って言わないと、へんに同情されてしまったりするので(苦笑)。

__また、周囲の良からぬひと言ですね。

大塚:子どもにもありますね。例えば、「お父さんって何しているの?」って友達に聞かれて、「うち離婚していていないの」って答えたら「あ、ごめんっ」って言われると。その「ごめん」で傷ついてしまう。いけないことなんだって。その方がショックでみたいです。子どもはよく「ふつう」がいいって言います。それは「ふつう」じゃなくても許容される世の中になっていないからですよね。世の中の価値観を変えていかないと、と思います。

__これまで画一的な家族像だったので、多様な家族像に慣れてない…。

大塚:本当に積み重ねですよね。同性カップルなんかもまさにそうですが、言いづらいから言わないでいると、存在しないことにされてしまう。そういう意味では、やっぱり可能な人は姿を現すということも大事かもしれません。ひとり親も以前は強い偏見の目で見られる存在でしたが、いまやマイノリティー界のマジョリティ。これだけひとり親だらけの世の中になれば、みんな差別的な発言はしにくくなります。それと同じように、さまざまな定形外家族が世間で可視化されていけば、偏見も減っていくと思うんですよね。 (後半に続く)


自分が考えもしていないさまざま家族の状況が世の中にはあるということ。そして、知らないがために子どもたちを無意識のうちに傷つけてしまっていること、まずはそこを多くの大人が知ることから始めなければならないと思いました。それにしても、当事者である子どもたちがこんなにも親や無意識の大人たちによって、生き辛くさせていたなんて…。すごく考えさせられるインタビューでした。後半は「定形家族、ふつうの家族ってなに?」という観点を中心にお話を伺いました。お楽しみに!

 

大塚玲子さんウェブサイト

 

飯田りえ Rie Iida

ライター

1978年、兵庫県生まれ。女性誌&MOOK編集者を経て上京後、フリーランスに。雑誌・WEBなどで子育てや教育、食や旅などのテーマを中心に編執筆を手がける。「幼少期はとことん家族で遊ぶ!」を信条に、夫とボーイズ2人とアクティブに過ごす日々。

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