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堀江純子のスタア☆劇場

地球ゴージャス『星の大地に降る涙』。“反戦”がテーマの舞台に、母となった笹本玲奈さんが考えたこと【堀江純子のスタア☆劇場】

  • 堀江純子

2020.03.20

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“堀江純子のスタア☆劇場”
VOL.5:笹本玲奈さん

5代目『ピーターパン』に選ばれ、その後は『レ・ミゼラブル』エポニーヌ、『ミス・サイゴン』キム、『ミー&マイガール』サリー、『マリー・アントワネット』マリー・アントワネット……と、世界的大人気ミュージカルのヒロインを欲しいままに、歌姫として活躍し続けている笹本玲奈さん。女性の本能を優しく強く歌ってきた彼女が、地球ゴージャス二十五周年祝祭公演『星の大地に降る涙 THE MUSICAL』ステラ役で期待されるのが母性。少女のようなあどけなさと笑顔が魅力だった笹本さん自身が、結婚して母になり、近年はしっとりと漂う落ち着きの魅力も増してきたところで、表現にあたっての心境の変化を伺ってみました。

 

ささもと・れな●1985年6月15日生まれ、千葉県生まれ。多くの大作ミュージカルに出演し、特に『レ・ミゼラブル』エポニーヌ、『ミス・サイゴン』キムは、その切なる歌声に魅了されたミュージカルファンも多く、人気キャストに。2019年11月 – 2020年1月『「ウエスト・サイド・ストーリー』では、北乃きいとWキャストでマリア役でも絶賛を得る。映像での活躍も目覚しく、TBS日曜劇場『ノーサイド・ゲーム』佐倉多英役でも話題に。

 

念願の地球ゴージャス出演

――地球ゴージャス作品は初出演なんですね。

笹本「そうなんです。念願の、です(笑)。ゴージャスに出演した方が皆さん“楽しかった”とおっしゃっていて。私もご縁があればいつか地球ゴージャスに参加させていただきたいと思っていました」

――今でこそ、日本の演出家によるオリジナル作品が多く上演されていますが、岸谷五朗さん、寺脇康文さんが手がけてきた地球ゴージャスはその礎のひとつと言っても過言じゃないですよね。

笹本「そうですよね。これまでは客席でカンパニーの一体感のすごさに感動していました。今回、出演が決まって、顔合わせの時点ですでに、岸谷さんには“どういうものを作りたいか”というビジョンが明確にあって。そこに向って、カンパニーがひとつとなって突き進んでいくパワーとまとまりがありました」

――地球ゴージャス作品は毎回、伝えたいメッセージが強く、観客へ届けられていますね。

笹本「特に今回の『星の大地に降る涙』は“反戦”がテーマで、地球ゴージャス、初めての再演と伺いました。そのテーマを直接的に表現している、すごく勇気を感じる作品で。2009年初演ですが、今もまだ“反戦”を伝えなければならない……約10年経っても世の中はまだ変わっていない状況であると……」

――残念ながら、戦争は無くなってはいない……。

笹本「作品の再演を喜んでくださっているお客様もいらっしゃいますが、“反戦”のメッセージは今も伝え続けなければいけない、というのはすごく哀しいことですよね」

未来のために、私に何ができるだろうか

――地球ゴージャスが扱ってきたテーマ、“平和”“環境問題”など、そして“反戦”と……。それらを物語として多くの人に伝えることができるエンターテインメントの大いなる魅力、上演することの意味を強く感じます。

笹本「本当に、環境問題にしても戦争にしても、自分で見つけようとしないと見つからなかったりして。だからこそ、エンターテインメントを通して発信していくことで知る、大きなきっかけになるといいな、って思います」

――日本も、ただ平和な国なだけではなくなってきてますしね。

笹本「そうですよね。世界で起きている哀しい事実が日本にとっても他人事ではなくなっている今だからこそ、上演する意味を考えたいですね。岸谷さんが実際、難民キャンプに行かれたお話や、平和を願う熱い想いも伺って、上演するのは日本でも世界に向けて発信する気持ちで舞台に立ちたいなと思っています」

――笹本さんが演じるステラは、母になる役。ご自身もママの立場だと未来について、より現実的に案じてしまいますよね。

笹本「私も子供が生まれるまでは、今の自分のことで精一杯だったんですけど、子供が自分の年齢になったときに、日本は、地球はどうなっているのか。すごく気になるようになりました。子供たち世代は長生きできるんだろうか。そのために私は今、何ができるだろうか」

――簡単に解決はできなくても、せめて問題提起だけはしておきたいですよね。岸谷さんを始め、地球ゴージャスのスタッフは、そういう意識を持つのがすごく早かったんでしょうね。

笹本「そう思います。大事なメッセージを物語にして、しかもコメディ要素までプラスしてエンターテインメントに仕上げるところが、地球ゴージャスのすごいところだと思います」

我が子がマネする発声方法

――ご自身の人生と共に、作品や役に対する思考が深まる、また新たな考えが芽生えるのも演じる女性のステキな生き方ですね。ご結婚されて、お子さんが生まれてからの生活は?

笹本「今、2歳過ぎたところなんですけど、言葉も徐々に話すようになったりとか、毎日本当にいろんなことを吸収していくのを感じますね。私の言うことを理解しているし、すぐマネするので言葉の選び方とか気を付けてます(笑)。あと、私がよくコップの水をこぼすんですけど……もちろんミスで(笑)。その様子を何度も見ているせいか、コップの水はこぼしていいものだと覚えてしまっているらしく、自分からコップを倒して笑ってます(笑)」

――子供の感性、着眼点って宇宙ですよね(笑)。

笹本「本当に(笑)。いろいろ気を付けよう!って思わされます。私、あくびをするときに、ついでによく発声をするんですけど、最近それもよくマネをするんですよね」

――あくびからの発声って、喉が開くから、とかですか!?

笹本「そう(笑)。喉がよく開いて、いい声が出るんです。それがクセになってて私がよくやるので、子供がマネして、あくびしながら“ファアアア~”って」

――ミュージカル女優の母からの、発声の教えですね(笑)。やはり、歌姫、笹本玲奈さんのお子さんは、歌の素質アリですか!?

笹本「素質はわかりませんけど(笑)、よく歌うんですよ。歌うの大好きですね。最近、イヤイヤ期でもあって、“イヤイヤイヤ”“ノンノンノン”をよく言うんですが、それにメロディが付いてます。♪ノーンノーンノーンって(笑)」

――それはママのマネではなく?

笹本「私は、“ノンノンノン”で歌ってみせたことはないです。自発的にメロディ付けて歌ってます(笑)」

――これは今から未来のミュージカルスター教育を!

笹本「いやいや(笑)。自分から“やりたい!”って言ってきたら、どうぞ、って言いますけど」

 



子育ては想像以上に大変で想像以上に楽しい

――伺ってると、笑いが絶えない微笑ましい図が浮かびますが、稽古中や公演中は家を空ける時間も長くなりますよね。

笹本「最近、それもわかってるようで、私が仕事に行こうとすると、ひどく泣くんですよね。母親を求めてくれてるんだなぁと、毎度、後ろ髪引かれる思いでいます。嬉しくもありツラい(笑)」

――お仕事は変わらず充実されて、子育てもあって。ご自身の時間はありますか?

笹本「う~ん……今はいらない…かな。自分の時間って何だっけな?って思ってますね。読書大好きだったのに読まなくなったし、子供が寝たら観ようと買っておいたDVDも封を開けてないままで」

――日に日に変わっていくドラマが目の前に、腕の中に……ありますからね。

笹本「そうなんですよ。子育ては想像してた以上に大変なことも多いですけど、想像してた以上におもしろいし楽しい。1人で映画を観に行きたいなって思うこともありますけど、おそらく行ったら行ったで、子供のことが気になって、寂しくなりそうです」

――映画は後からでも観れますものね。

笹本「それより私、子離れできるのかな?って心配のほうが(笑)。順調に成長してくれたら、一緒にいられるのって18年か、長くて20年か……もしかしたらもっと短いかもしれないじゃないですか。それ考えると、ベタベタしすぎだよ、って言われるぐらい今は一緒にいたいです」

――まずは、自転車に装着していた子供用の椅子を外すときに、母は泣くらしいですよ。

笹本「ああ~! 私、そういうのイチイチ泣くと思います」

 

ステラは今の自分にしかできない役

――お気持ちはわかりますが、鬼になって言います。ミュージカルファンのためにも、舞台には立ち続けてください!

笹本「はい。母になったことで生まれた新しい感情もありますし。最初に『星の大地に降る涙』の台本を読んだときも、出産のシーンとか“私のときはどうだったっけな”って思い返したりしましたね。今の自分と重なるシーンがたくさんあるんですよ。我が子を抱きながら、未来の子供たちが生きる世界へ向けて歌うナンバーがありますが、笹本玲奈の感情がかなり入ってしまうと思います。今の自分にしかできない役だと大切に演じたいと思います」

笹本さんが長年演じた、我が子のために命をかける母『ミス・サイゴン』のキム。「今はもうツラくて演じられないと思います」と眉をひそめ、一瞬にして哀しい表情になりました。女優として『星の大地に降る涙』を、ステラという役をしっかり理解し語る眼差しは強く、凛々しかったのに、お子さんの話になった途端に、表情はクルクルと動き出す。母になったことで彼女の人生の幅は何倍にも広がったんだろうと思わずにはいられません。これからも、人生の経験が増えていくごとに、ステージでも新しい表情を見せてくれるでしょう。まずは、『星の大地に降る涙』で見せるであろうリアルを楽しみにしたいと思います。

 

堀江純子 Junko Horie

ライター

東京生まれ、東京育ち。6歳で宝塚歌劇を、7歳でバレエ初観劇。エンタメを愛し味わう礎は『コーラスライン』のザックの言葉と大浦みずきさん。『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』『エリザベート』『モーツァルト!』観劇は日本初演からのライフワーク。執筆はエンターテイメント全般。音楽、ドラマ、映画、演劇、ミュージカル、歌舞伎などのスタアインタビューは年間100本を優に超える。

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