映画ライター折田千鶴子のカルチャーナビアネックス

傑作ドキュメンタリー『ビッグ・リトル・ファーム』からドキュメンタリー装う笑撃作『エキストロ』まで激推し!!

観なきゃ損!心洗われる『ビッグ・リトル・ファーム』

実はLEE本誌4月号でもご紹介しているのですが、小さな枠では感動を伝えきれていないような、居ても立ってもいられない気持ちに急き立てられて……。『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』という傑作ドキュメンタリーを改めて、激推ししたいのです! ということで、この時期またも続々公開される面白ドキュメンタリーを集めてみました。

きっとLEE読者にもファンは多いと思いますが、実は私もその一人。敬愛する作家・三島由紀夫さんのドキュメンタリーで、これまたクスクス笑いと驚きと鳥肌が立つほど刺激的な『三島由紀夫vs東大全共闘50年目の真実』という、かの伝説の激論模様を捉えたもの。

次に、貧富の格差がどんどん広がっている、という事実を著した300万部の同名ベストセラーを映画化した『21世紀の資本』。難しそうで読破は難しそう……を易しく教えてくれるので、世界の仕組みを理解する好機です! そして最後にドキュメンタリーならぬ、モキュメンタリー映画『エキストロ』。なんとこれ、エキストラさんが主役のドキュメンタリー風のフィクション映画。でも、知らないで観たらドキュメンタリーという、これも“めっけもん!”という感じの面白さです。

では、まずは『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』から。

『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』
(C) 2018 FarmLore Films, LLC
2018/アメリカ/91分/配給:シンカ/監督:ジョン・チェスター/出演:ジョン・チェスター、モリー・チェスター、愛犬トッド、動物たち
2020年3月14日(土)シネスイッチ銀座、新宿ピカデリー、YEBISU GARDEN CINEMA他、全国順次ロードショー

全シーンを載せたいくらい、いや、もう本編そのものを載せたいくらい息を飲むほど美しく、魅力的なショットの数々が溢れる本作は、ある夫婦の8年の“究極の農場づくりの”軌跡をたどったドキュメンタリーです。と言っても、甘~くキレイなだけの映画ではないのがミソ。苦闘の8年でもあるわけですが、その間の劇的なドラマの数々に、溜息を付いたり、驚愕と胸の痛みに襲われたり、目頭が熱くなったり……。

映画の冒頭では、夫は動物写真家、妻は料理家として、大都会ロサンゼルスで暮らしています。ところがある日、殺処分寸前の犬を保護し、飼い始めることで2人の運命は大きく変わりはじめます。2人が仕事で外出してしまうと、愛犬トッドが寂しさからかずっと吠えまくり……なのです。周囲からは苦情の嵐。2人は色んな対策を講じますが、どうしても上手く行きません。

料理家のモリー・チェスターさん。カメラが捉える愛妻の……つまり動物写真家の夫ジョン・チェスターさんが監督なのですが、愛情がたっぷり感じられるモリーさんの生き生きとした姿にも魅せられます。夫婦の意見の相違などもリアルですよ。

やがてアパートを追い出される事態に陥りますが、既に大切な家族になっていたトッドを手放すなんて到底、無理な話。そこで2人は、郊外に移り住むことを決断します。実は料理家の妻は前々から、“究極の農園で、本当に体にいい食べ物を育てたい”という夢を持っていたのです。“こりゃいい機会だわ”と、思い切った決断をするのが、また本当にステキですよね!!

友人知人に“究極の農園を作る”と吹聴し、営業し、面白がるスポンサーを見つけるというのもパワフル! 200エーカー、東京ドーム約17個分という広大な土地――荒れ果てた農地を購入し、究極の農場を作り始めるのですが――。

もちろん愛犬トッドは大喜びですが、“美味しいお野菜作りますよ~”なんて生易しい話じゃないんです。まずは荒れた農地を生き返らせるための土壌づくりから。妻がこだわる“伝統農法”をよく知るベテランの農業従事者を相談役として迎い入れ、ミミズを大量に育てることから始まるのです。夫は、相談役に入れ込み過ぎる妻を、何か違うのではないかと心配したり……。確かに、観ている私たちまで、相談役のオジさまの言うことを、そこまで信じるなんて、洗脳に近いんじゃないかとか考えてしまったりもするわけです。だって、おっしゃることが無茶に聞こえるんですもの。

見てください、この素晴らしい生命のサークルの美しさ!!

最初の一歩の土づくりの段階から、人を何人も雇わなければ、この広大な土地は耕せません。その際もネットで共鳴者や協力者を募るという、現代ならではの方法に「なるほどな!!」と嘆息してしまいました。集まってくれた仲間たちと理想を共有し、ゆっくり絆を育んでいくというサイドストーリーも、サラリとですが楽しめます。

数年を掛けて(それだけでも、すごい忍耐と根性と信念がないと無理!!)やがて豊かな土壌が蘇り、色んなお野菜や果実が育ち始め、牛やら鶏やらブタやら羊やら、牧羊犬やら、いろんな動物を放牧しはじめ、農場が上手く行きかけます。

でも、一つうまく行くと、ひとつ天敵が現れるという、まさかの展開にビックリ仰天! 芽吹けば虫が現れ、実がなれば鳥が現れ、作物が育てばイタチやネズミやもぐらが現れ、家畜を狙うコヨーテが現れ……と、もう、終わりが見えないくらい。そのたびにみんなで打ちのめされながら、迷い、悩み、苦悩し、でも、例のオジさまの言葉を信じて、立ち上がっていくわけです。しかも、その言葉どおり、信じて待てば、やがて自然が解決してくれるのです。

その結果、8年後には見事な生態系、命のサークル(循環)が出来上がっていました。まさに目が覚めるような感覚!! 自然ってスゴイ。その神秘の力強さに胸を打たれ、ただもう陶然としてしまいます。夫婦の絆、信じあう力、支え合う姿にも感動必至。動物との愛情交歓あり、家畜との別れあり、優しいだけではない自然の惨い仕打ちあり、と、すべてが詰まっているこの映画。是非というより、絶対に観ていただきたい作品です!

 

タイトルはハードですが、目はハートに!?

次なるおススメ作品は、『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』。タイトルはハードに聞こえますが、これがどうして、意外や、予想外に思わずクスクス笑ってしまうような感じなのです。

多分、高校あたりの思春期、特に「仮面の告白」「金閣寺」あたり、1冊でも三島文学に触れてしまうと、共感というより“自分だけが理解できる”的な屈折した興奮と喜びに震えてハマってしまう……みたいな体験をされた方も、少なくないのではないでしょうか。私もその口で、それから全てとは到底言えませんが、三島作品を貪るように読んだ時期がありました。

そうすると、どうしても三島由紀夫本人に興味を抱かずにはいられなくなるわけです。何しろ、色んな伝説をお持ちのカリスマ作家ですから。そして最期は自衛隊で自決という事実も、嫌でも知っているわけで……。本作は“三島ってどんな人だったのかな!?”という疑問を、ある面ではありますが、気持よく感じさせてくれます。早い話、“動く三島”を目にするだけで大興奮ですが、嬉しい新鮮な驚きの連続でもありました!

『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』
©SHINCHOSHA
2019/日本/108分/監督:豊島圭介/出演:三島由紀夫、芥正彦、平野啓一郎、瀬戸内寂聴ほか/配給:ギャガ
3月20 日よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開
©SHINCHOSHA

1969年5月13日、1000人を超す学生が集まる東大駒場キャンパスの900番教室。“三島を論破し壇上で切腹させる”と学生たちが息巻いていたという物騒な空気の中、三島由紀夫は警護を断り、単身で現れます。そして、どこか楽し気にマイクを掴むと、スピーチを始めるのです。ウィットに富んだトークに観客が大いに沸くという展開にも驚きますが、大講堂の空気にはそこはかとなく緊迫感も孕んでいるわけです。熱気と緊迫感!

学生らが次々と三島に疑問を投げかける(でも、実は尊敬している本音が漏れちゃう言動がまた面白い!)ていきます。東大全共闘随一の論客と言われた芥正彦さんという方が、なんと赤ちゃんを抱っこしたまま登壇する姿にも、思わずビックリ!! 討論の内容は難しくて、微妙に分からなかったりもするのですが、常に三島の受け答えがユーモラスで、観ていて楽しいから不思議。

若者らの挑発にはドキリとしますし、三島も時折タジタジとなったりもしますが、常に若者との激論を楽しんでいる風でありつつ、とても真摯な三島の姿勢がステキで、後半、フっと感動がこみ上げるのです。あぁ、こんなに真っ直ぐ、次代を担う若者たちに対峙しようとする大人がいたのか、と。作家の平野啓一郎さん、瀬戸内寂聴さんらの解説や逸話も面白くて、見逃せない1作です。

 

21世紀をどう生きるべきか!?

次のドキュメンタリーは、今世紀最大のベストセラー経済書を映画化した『21世紀の資本』です。原作本は700ページを超える超大作だそうですが(全く読もうとしていないことがもろ分かりですね……)、本作は、映画『ウォール街』や『プライドと偏見』『レ・ミゼラブル』などを、映像付きで引き合いに出して解説してくれるので、経済音痴の私がそうであったように、誰もが楽しく観ることが出来ると思います! 他にもアニメ『シンプソンズ』や、宇宙に作られた理想郷に住む富裕層と、荒廃した地上に住む貧困層という分断世界を描いたSF映画『エリジウム』(マット・デイモン主演)なども登場します。

@「 『21世紀の資本』
©2019 GFC (CAPITAL) Limited & Upside SAS. All rights reserved 
2019年/フランス=ニュージーランド/103分/配給:アンプラグド/監督:ジャスティン・ペンバートン
原作:トマ・ピケティ「21世紀の資本」(みすず書房)
出演:トマ・ピケティ ジョセフ・E・スティグリッツ 他
3月20日(金)より新宿シネマカリテ他全国順次公開

原作者トマ・ピケティが解説者となり、「現代は第一次世界大戦前の不平等な社会に戻っている」と警鐘を鳴らします。……なるほどなぁ、と数々の例を示して教えられながら、うわ、マジですか~っ、と何度も心の中で叫びました。

冷戦が終了した後、共産主義国が次々と終焉を迎え、世界は「資本主義こそ最高!」と信じるようになりました。でも、それこそが、“社会経済システムの崩壊の始まり”だったそう。ピケティによると、現在の世界は、18世紀ヨーロッパにおける貴族社会と同じ状況なのですって。「なるほど確かに」と、ゾワッとしますよ。

今の日本でも、格差社会問題があまりシャレにならない状況になりつつあるのを感じている方も少なくないのではないでしょうか。そんな危機感を体感するだけでも、また私たちが今後何を念頭において行動していくべきかを知るためにも、本作はとっても有益な“優しい教科書”。子供世代以降にこれ以上のツケを回さないために、本作の鑑賞をおススメします!

 

楽しんで騙されて欲しい『エキストロ』

今回の企画のトリ、いやオチ!?を飾るのは、ドキュメンタリーを装った“モキュメンタリー”作品『エキストロ』。モキュメンタリーとは、フェイク・ドキュメンタリーと言えばわかりやすいでしょうか。これがもう、最高におかしいんです!!

『エキストロ』
(C) 2019 吉本興業株式会社
2019年/日本/1時間29分/配給:吉本興業/監督:村橋直樹/脚本:後藤ひろひと/出演:萩野谷幸三、山本耕史、斉藤由貴、寺脇康文、大林宣彦ほか
2020年3月13日(金)より新宿シネマカリテ他全国順次ロードショー!

山本耕史さんや斉藤由貴さんなど、豪華出演者はなんと本作の中では脇役! 主演は、単なるエキストラの一人であるハズの、荻野野幸三さん、64歳です。はぁ!?と思いますよね。私も最初、試写状を読んだ瞬間は、なんのこっちゃ!?と思いました(笑)。ところが観たらメチャクチャ引き込まれ、噴き出し笑いの連続なんです。まんまと、してやられました!

普段は歯科技工士として働きながら、男手一つで息子を育ててきた荻野谷さんには、もう一つ、エキストラとして様々な映画やドラマに出演することに最大の情熱を傾けている、という顔があります。そんな荻野谷さんに密着するドキュメンタリーが作られることになるのですが……。

どこまでがドキュメンタリーで、どこからが“いわゆるヤラせ”なのか分からないのが、本作最大の“罪な”面白さ。例えば冒頭では、山本耕史さん主演の時代劇の現場にやって来た荻野谷さんが、とんでもない失敗を次々とやらかします。他のエキストラさんたちは「??」「??」の顔で荻野谷さんを盗み見たり、思わず噴き出したり。監督から怒られ過ぎて、遂に腹痛を起こした荻野谷さんが現場から連れ去られていくのですが…。

もちろん、すべて“ヤラせ”、つまり作られた笑いです。ところが他のエキストラさんたちは、本当に一人のエキストラがバカみたいな失敗をしていると思い込んでいるわけです。つまり、本当の“生の反応=ドキュメンタリー”と“計算された笑い=フェイク”が混在して、独特の笑いを生み出している、というわけです。

また別の現場では、監督(これも偽ドラマのフェイク監督)から「もっと驚いて!」と言われたエキストラさんの一人が、ご覧の写真のように“パ~ッ”という手のフリを付けて驚きを表現し、「カット~!!」と監督に怒られたり。でも、こういう信じられないような反応って、実は『女城主直虎』など大河ドラマの演出も手掛けて来た村橋監督が実際の現場で、いろいろと体験してきたことだというから(もちろん誇張しているそうですが)、驚くやら笑えるやら!

こんなピリついたご時世だからこそ、心に余裕をもって楽しみたい、愛に満ちた恐るべき笑撃作『エキストロ』。既に公開が始まっていますので、コロナ感染せぬよう万全の注意を払いつつ、是非、心に栄養を与えてください~。

 

 

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