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飯田りえ

理屈なしに美味しそう!オーガニック野菜のイメージが一変するドキュメンタリー映画『いただきます ここは、発酵の楽園』公開

  • 飯田りえ

2020.01.06

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©いただきます事務局

最初「オーガニック野菜のドキュメンタリー映画」と聞いて、若干、後ろ向きな自分がいました。

オーガニック野菜が体に良いのはわかっているけど、手軽に買える野菜をつい選んでしまうし、ドキュメンタリー映画となると、課題意識がある良質な内容だとはわかるけど難しそう…と、勝手な印象を持ってしまいました(すみません!)。

しかし、そんな印象がガラリと変わったドキュメンタリー映画に出会いました。1月24日から公開の『いただきます ここは、発酵の楽園』です。

発酵をテーマに、保育園・オーガニックファーマーに密着

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畑保育を実践し野草給食にこだわる保育園や、無農薬・無化学肥料栽培にこだわるオーガニックファーマー、それを科学的に立証している大学教授の研究のドキュメンタリー映画です。ここでキーワードになるのが『発酵』。特に驚きなのが、三人のオーガニックファーマーが実践する、”土” を発酵させる有機農法。微生物を活かした土作りをすると、虫も寄りつかず立派な作物が安定して育つ=農薬や化学肥料を使う必要がなく、美味しくて体に良い作物が収穫できるのだそう。有機農法ってとにかく虫がついて大変で手間暇かかり、大変な農作業だとばかり思っていました…。

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しかも難解なドキュメンタリー作品とは違って、映像が自然の美しさや光が柔らかさに溢れていて。見ているだけでもとっても癒されるのです。イラストレーションも多用していて、子どもと一緒に見ても楽しめる内容に。そして、出てくる人たちの笑顔が豪快、何よりも食べ物が美味しそう!オーガニック野菜の良さが理屈ではなく、やっぱり体にいいものって美味しいし食べたいな、と素直に思えました。

今回の作品はシリーズ2作目。1作目の「いただきます みそをつくるこどもたち」は4年前に公開され、全国600箇所で自主上映され総観客数は4万人以上。そんな食に敏感な人たちの中で、草の根的に広まっている「いただきます」シリーズ。愛される秘密を、オオタヴィン監督に伺ってきました。

『はなちゃんのみそ汁』で出会った保育園がすごかった

__美味しい野菜が無性に食べたくなる映画でした。『いただきます』シリーズはどういったきっかけで企画されたのですか?

オオタヴィン監督(以下、敬称略): 4年前に作った1作目は、九州の高取保育園が取り組む医食同源給食のお話でした。安武信吾さんの書籍『はなちゃんのみそ汁』ってご存知ですよね。元々、映像の仕事をしていて、はなちゃんとお父さんのミニドキュメンタリーを作ったのですが、書籍などを呼んでいるとそのはなちゃんが通っていた高取保育園が気になって。見学させてもらうと、想像以上にすごかった。毎月100kgずつ子ども達が味噌を仕込むような保育園で、玄米・みそ汁・旬の惣菜が中心。昔ながらの和食給食を続けることで、アレルギーが改善されるお子さんも多いとか。とにかく園児が元気一杯、裸足で駆け回る保育園だったので「映像化したい!」と思いお願いしました。

__なるほど。そういう繋がりがあったのですね。

オオタ:ありがたいことに1作目は全国各地で自主上映してくださいました。講演して回っていると「こんな保育園がある」「こういう農家さんがいる」など、食や食育にまつわる様々な情報が集まってきて。次は食べ物を作っている人を取材したいな、との思いが募り2作目を製作しました。

__監督も大病をされて、医食同源を実践されていると伺いました。

オオタ: 30代の時に西洋医学で治らない病気になり、色々試した結果、自分にあったのが食べ物を改善する「食養生」と「ファスティング」でした。それ以降、本当に医者知らずで、僕が実践している食事療法と高取保育園のメニューが同じような内容だったのです。

__ご自身の実体験と高取保育園との出会いが重なったのですね。

オオタ:そうですね。そこで ”you are what you eat” 「食べたものが私になる」と言うメッセージに思いを込めました。2作目で登場している長崎の吉田俊道さんの畑も、はなちゃんがよくニンジンを取りに行っていた畑なんですよ。

目指すはエンターテイメント・ドキュメンタリー

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__この作品でドキュメンタリーの印象がガラッと変わりました。勉強する・学ぶための映像だと思っていましたので。

オオタ:海外のドキュメンタリーは映像も美しくてとっても面白いんです。トップスターが登場していたり、モーションコントロールなどの最新技術を使っていたり…。こういった映像感度の高いものを日本でも作れないかな、と以前から考えていてこの形に。通常のドキュメンタリーで使わないような技法で撮っているので「ポエトリードキュメンタリー」とか「エンターテイメント・ドキュメンタリー」とよんでいます。

__パンフレットにも『腸活エンターテイメント・ドキュメンタリー』とありますね。難解なドキュメンタリーと違って頭で理解するのではなく、感覚的に捕らえられたので、「良いものは良い」と素直にスッと受け入れられました。

オオタ:これまでCMを中心に作っていたので、より広く・よりわかりやすく・より楽しくという考えがあります。ですから、オーガニック野菜のシズルを、子どもたちのシズルを、おじいさんファーマーのシズルを撮りました。

__だからあんなに美味ししそうなのですね!あの色艶のいい立派なニンジン、丸かじりしたくなりました。



『菌ちゃん野菜』=土を発酵させるということ

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__「奇跡のりんご」で知られる青森の木村秋則さん、「菌ちゃん野菜」で登場した長崎の吉田俊道さん、山形の有機栽培を支える菊池良一さん、と3名のオーガニックファーマーが印象的でした。中でも吉田さんのキャラが最高ですね!「菌ちゃん野菜(土を発酵させて作った有機野菜)」の存在を初めて知りました。土そのものを発酵させればいい、という発想には驚きでした。

オオタ:吉田さんはオーガニック界&発酵業界ではとても有名な方です。そして、オーガニックファーマーにとって、土を発酵させることは常識。これまで農業記録映画という教育的な内容のものはありましたが、オーガニックのことをわかりやすく映像化してこなかったですから一般の方には知られていませんよ。

__土を発酵させると、他にどんな特徴が?

オオタ:植物の中に内生菌と呼ばれる微生物が育つので、生きた微生物を体内に取り込める=腸内環境がよくなるのです。昔の日本の野菜って全てオーガニックですし、さらに生味噌や漬物などと言った発酵物と一緒に食べていましたので、日本が長寿世界一なのですよ。

『ここは、発酵の楽園』に込められた思い

__このメッセージは「今、みんなが住んでいる場所が、実は楽園なんだよ」と言う事ですよね。監督がそこに気づかれたきっかけは?

オオタ:以前、引っ越した時に小さな庭がありました。毎日見ていると、植えてもいないのにいろんな雑草が生えてきて。吉田さんや木村さんに言わせると、その土地に必要な栄養分を雑草が地下から吸い上げているのだそう。その雑草が枯れた後、さらに別の雑草が必要なものを吸い上げて枯れて…を繰り返すと土が自然と豊かになってくる。次第に生えてくる雑草の種類が変わり、最終的には映画にも出てくるホトケノザのような雑草が生える、よく肥えた土になるのだそう。このことをオーガニックファーマー達は口を揃えてみなさんおっしゃいます。

__人間が考えて栄養素を入れなくても、自然の摂理で十分成り立つ、と言うことですか?

オオタ:そうなのです。最初、固い土の時は背の高い雑草が生えてきて見かけもよくないですが、何度も繰り返していくと、土自体に必要な栄養素が自然に作られるそうです。畑の土が栄養満点になると肥料も加える必要がなく、内生菌も育つので虫がつかなくなるのです。

科学的に証明し有機=大変という固定観念を変えたい

©︎いただきます事務局

__木村さんは存在自体が“奇跡”みたいなイメージでした。

オオタ:達人ファーマーだからなせる技、みたいな印象ありますよね。もちろん間違いなく達人なのですが、でも奇跡のりんごを”奇跡”にしないで、みんなが作れるりんごにすれば、日本の食全体が向上すると思います。弘前大学の杉山修一先生は『すごい土のすごい畑』という書籍でもあるように、木村さんのりんごを15年ぐらい研究されてます。

__これらの農法に、科学的なメカニズムがあることを大事にしたかった?

オオタ:そうですね。現代の常識でいうと化学肥料を入れて、農薬で殺虫して…という作り方ですが、3人は全く違う農法、かつ、持続可能なスタイル。そんな研究者たちが知らなかった事例を達人ファーマーが実践しているので、その畑について研究して科学的に立証されているのです。そこも今回の作品では紹介したかった。

©いただきます事務局

__有機農法している知人にも見せてあげたい…!

オオタ:ファーマーほど「有機農業は大変」「化学肥料がないと大きく育たない」「農薬がないと虫が来て大変」というイメージが強い。だから有機農法をすると苦労大前提という話になってしまっています。そういう固定概念を変えたいのです。土ができてしまうと農薬・化学肥料代などの経費もかからず、虫もつかず楽に収穫できるのです。

__確かに。そう言うイメージあります。でも吉田さんのキャベツ畑はすごく綺麗でした。

オオタ:あれほど虫が来ないキャベツ畑って見たことがないですよ。通常の農法では農薬を散布するか、ビニールで囲ってしまうところですよね。あと、みなさん農薬の方が危険と思うかもしれませんが、化学肥料の方が作物に入り込んでしまっているので、遺伝的に伝わる可能性もあります。オーガニックはそのあたりも安心できますよ。

世界的に見てもオーガニック後進国である日本

©いただきます事務局

__あの畑を見ると感覚的に食べたいな、と思いました。海外ではどうですか?

オオタ:世界的にみても日本のオーガニックの浸透率は相当遅れていて、政府も消費者も推進していないのが実情です。アメリカではどの都市にも全商品オーガニックの大型スーパーがありますし、ソウルでは1400ある公立小中学校の給食は、まもなく全オーガニックに切り替わります。日本でも収穫量が増えると値段も変わらなくなるのですが、まだまだ割高ですよね。吉田さんは普通野菜とオーガニック野菜の値段を同等にするのが目標とされています。

__消費者としても、やはり割高なのがネックです…

オオタ:年間の食費と医療費をセットで考えてみてください。食費だけで考えると割高ですが、結果的に腸内環境が悪くなると不調が出てくる→不必要な薬を飲む→医療費がかかる。その解決策が”食”なのです。

__予防医学という考え方ですね。

オオタ:栄養学のアインシュタインと呼ばれているコリン・キャンベル博士の『チャイナ・スタディ』という世界規模の大調査によると、動物性食品を減らしてオーガニック野菜を中心に食するのが最も病気になりにくいそう。ですから、本来の野菜中心で発酵食が多い和食は、伝統食でありながらも世界最先端の健康食なのです。

__改めて和食の良さを実感しました。今年はみそ作りワークショップに子どもと一緒に行ってみようと思います。

オオタ:そうそう、味噌も酵母が生きている手作りが一番いいですよ。人によって手の常在菌が違いますから、家族にとって最適な予防食ですよ。

小雪さん、安藤桃子さんも「いただきます」シリーズに賛同

__ナレーションとして参加されている小雪さんも、食に対する意識が相当高いそうですね。

オオタ:小雪さん自身が発芽発酵玄米で育っていますし、三人の子育てをする中で「腸内細菌を育てる食事」を目標にしていらっしゃいます。味噌もいろんな種類作られていて、ほぼ映画と同じような内容の食事をされています。ナレーションをお願いしたところ、1作目を見てくださっていて「ぜひ!」とご快諾頂きました。

__市民プロデューサーとして参加されている安藤桃子さんも?

オオタ:高知で映画館「ウィークエンドキネマM」を運営されていて、1作目を2週間ぐらい上映して頂きました。その時、僕も呼んでいただいて講演し、坂本美雨さんのライブと共に、映画館の前でみそ作りのワークショップも開催しました。映画文化を通して、食育に力を入れていらっしゃいますね。

__今後も「いただきます」シリーズは展開されますか?

オオタ:とりあえず1・2で完結です。次は教育をテーマ考えていて、AIに負けない人材を育てる教育をしている小学校を見つけたので、密着しようかと。

__最近オルタナティブ教育も注目されていますからね。あの保育園にいたキラキラした子どもたちはどこへ行けばいいの?って思っていました。

オオタ:そうなのです。。あのまま小学校生活を過ごせる学校はないものか、と探していたら…ありました!予想以上にすごかったです。

__そちらも興味大です、次回作も楽しみにしています!

既に「発酵の楽園」に住んでいたにも関わらず、その大切さを見失っていたことに気がつきました。改めて、自分たちの食するものを見直してみようと思います。そして、日々の食卓から先人達の考えや教えを大切に、子どもたちに継承していきたいと思います。

1月24日からUPLINKE吉祥寺にて公開予定。詳しくは「いただきます ここは、発酵の楽園」HPをご覧ください!

撮影/細谷悠美

飯田りえ Rie Iida

ライター

1978年、兵庫県生まれ。女性誌&MOOK編集者を経て上京後、フリーランスに。雑誌・WEBなどで子育てや教育、食や旅などのテーマを中心に編執筆を手がける。「幼少期はとことん家族で遊ぶ!」を信条に、夫とボーイズ2人とアクティブに過ごす日々。

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