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ライター中沢明子のお気に入り★文化系通信

次世代を引っ張るカルチャー界の新星、Mega Shinnosukeの新作『東京熱帯雨林気候』

  • 中沢明子

2019.12.04

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2017年から曲を作り始めた19歳

 

メガシンノスケ●2000年生まれの19歳。本名。 東京生まれ福岡育ち。2019年4月より東京在住。作詞、作曲、編曲を全て自身で行う。2017 年秋よりオリジナル楽曲の制作をスタート。00年代生まれならではのフットワークの軽さと、時勢をキャッチするポップへの嗅覚を武器に、 どこか懐かしさもある印象的なメロディーをロック、シティポップ、ガレージ、オルタナ、ヒップホップなど、 ジャンルを横断したサウンドに乗せる。音楽以外にも、アートワーク、映像制作に携わるなど、全てをセルフプロデュースで行う新世代のクリエイター。好きな食べ物はジェノベーゼと牛タン。どちらかというとジェノベーゼの方が好き。

メガシンノスケ 公式サイト

 

2018年末。ドライブ中に流していたSpotifyから、やけにキャッチーでメロディアスな曲が流れてきた。スイートな声で歌い上げられる、♪桃源郷とタクシー 曖昧ドライビング 配信者~♪という変わった歌詞もひっかかった。彼の名前はMega Shinnosuke(メガ シンノスケ)。全く知らなかったが、当時、弱冠18歳の新人アーティストだった。音楽を始めたのは2017年からだという。ついこの前じゃないの……。しかし彼はすでに、この短期間に次から次へと多彩な感触の曲を生み出している。私立恵比寿中学のアルバム『MUSIC』には、人生5曲目の楽曲「踊るロクデナシ」を提供するなど、まったくもって、大人と青年の1年間の濃密さの違いを痛感させられてしまう。12月には早くも5曲入り2枚目のミニアルバム『東京熱帯雨林気候』を発売。これがまた、インディーポップ、ヒップホップ、ガレージ、オルタナティブ、パンクなど、ジャンルを横断したトリッキーな作品に仕上がっていた。おそるべし、Mega Shinnosuke。というわけで、春に福岡から東京に引っ越し、本格的にアーティストとして活動を開始した彼に、いち早く、お話を聞いてまいりました。

 

――「桃源郷とタクシー」から1年経ちました。この間、変化がたくさんあったと思いますが、どうでしたか?

Mega Shinnosuke(以後、メガ):作品を作る環境がすっかり変わりました。作品作りに集中できるし、とにかく動き回って、積極的に人と出会い、友達を作っています。やっぱり東京は福岡と比べると出会える人の数が多い。アルバムのアートワークや演奏のサポートをしてもらった若い子たちも、そうした出会いの中で見つけた人たちです。

――今、19歳のメガくんにとって「若者」って何歳くらいまでをイメージしています?

メガ:うーん、25歳くらいまで、かなあ。

 

――そういう出会いの中で「この人は合うなあ、この人はあんま気が合わないなあ」といった選り分けはしていますか。

メガ:それが、感性が全く合わない人とは、ほぼ出会わないんですよ。面白い人ばっかりで。クリエイターとして、何かを一緒に作りたいと思える人に出会えているし、これからも出会いたいと思っています。というのも、僕、モチベーションを自分で作り出せないから……。

 

――ええ? こんなにどんどん曲を作っているのに?

メガ:いや、それはそうなんですけど(笑)。高校はいわゆる進学校だったんですが、人と違うこと、自分にしかできないことをやりたい、という気持ちがすごく強くて、音楽を始めた理由もそれなんです。もちろん、音楽は大好きですよ。でも、ただただ音楽が好き、ただただ絵が好き、だからやり続ける、みたいなタイプではない。こういうジャンルの音楽面白いな、あのクリエイターの作るものって面白いな、といったきっかけがないとモチベーションを保てなくて。

 

 

 

僕は花束を作っているんだと思う

 

 

――モチベーションの種を見つけると曲を作りたくなる、という感じですか。

メガ:あ、そうそう、種です。種がないと作れない。ただただ音楽が好き、という人は例えると、花にずっと水をやり、できるだけきれいに長持ちするように面倒を見る人。僕は咲いたら、面倒見るのは終わっちゃう人(笑)。咲いた花を世に放ったら、もう次にいきたい。だから、種がたくさんないと僕は咲き続けられない、みたいな?

 

――今回のミニアルバム『東京熱帯雨林気候』もいろんなジャンルの曲をメガ流に落とし込んで彩り鮮やかですが、つまり、メガくんはきれいで新鮮な切り花を束ねた花束をどんどん作るタイプなのでしょうか?

メガ:そうそうそう、花束(笑)。その時にすごくきれいだと思った花を集めて花束にしている感じ! アートワークやミュージックビデオなんかもすべて含めて、アルバムひとつひとつが僕の花束なんだと思う。

 

――なるほど、身軽に動くメガくんの全体像をとらえるのは難しいけれど、その説明はすごくわかりやすいので、今後積極的に使ってください(笑)。

メガ:ははは、そうですね、花束を作っている。うん、わかりやすいかも。

 

――前作の『HONNE』も「桃源郷とタクシー」のようなシティポップ寄りのキャッチーな曲から、「狭い宇宙、広いこの星」のように10代ならではのキラキラした一瞬を閉じ込めたキュンとする曲まで、バラエティ豊かな5曲でした。で、今度の『東京熱帯雨林気候』も、かなりいろんなジャンルを横断していますね。やりたいことを全部やってみたぜ!という勢いがみずみずしかったです。

メガ:福岡時代はサポートしてくれたミュージシャンたちがきちんとしていたから、拍をぴったり合わせるとか、きれいにまとめようとしていたかもしれません。でも、今回は下手でも勢いに任せて人間味が出ればそれでいい、というスタンスで作りました。

 

――確かに前作は10代にして、とてもウェルメイドな作品だな、と思いましたが、今回は良い意味で粗い部分をあえて残している印象を受けました。

メガ:僕はご存知の通り、キャリアが浅いので(笑)、スキルはまだまだ。だから、適当にやってもかっこいい曲を作りたかった。適当っていうのも語弊があるけど、たとえば、最近は直感とセンス一発ですごくかっこよくなるヒップホップのような世界観に惹かれます。ヒップホップって何言っているのか全然聞き取れない曲ってたくさんあるじゃないですか。だけど、ほんの一言、めっちゃかっこいいフレーズがあれば、もうそれで全然いいんですよ。野原を駆け回ってボン!と爆発する、みたいなかっこよさ。そういうかっこよさを追求したかった。

 

――全部の曲がヒップホップの文脈やセオリーに沿った曲調という意味ではなく、粗削りのかっこよさ、みたいなことでしょうか。その意味でいうと、パンキッシュとも言えそうですが、最後に持ってきた「甘ったるい呼吸」というバラードはまた、オルタナティブなサウンドにスイートな歌詞を載せたエンディングにふさわしい重厚感がある曲で、よく考えられた曲順になっていると思いました。

メガ:曲はアルバムの流れを気にせずに作っていますが、「甘ったるい呼吸」は4曲目の「蔓延る」でいったんリセットしてもらってから、じっくり聴いてほしくて。

 

FACE to FACEを大切にする理由

 

 

――短くてチャーミングな曲の「蔓延る」の後にもってきたのは、さすがでした。どちらの曲の世界観も際立ちますから。ところで、メガくんは気軽に人と会ったり、連絡とり合ったり、本当に積極的に人と出会おうとしますが、なぜなんですか?

メガ:一緒にパンケーキ食べましたもんね(笑)。

 

――「桃源郷とタクシー」の時、メガくんの情報はどこに聞けばいいのだろうと思ったのにわからなくて、メガくんのツイッターアカウントに「どこに連絡すればいいんですか」って訊ねたんですよね。そうしたら、ちょうど東京に行くから会いましょう、とすぐに連絡が来て、ふらっと一人で現れたからびっくりしました(笑)。相手が悪い人だったらどうするんだと、おばちゃんとしては心配にもなりました。

メガ:今ってSNSの時代だとか言うでしょう? 特に若い人たちはSNSでつながっている……ように見えるけど、つながっているようでつながっていない気がする。間接的につながってはいますが、直接つながってはいない関係性、といったらいいのか。だから、こんな時代だからこそ、FACE to FACEが大事だな、って思うんです。ライブもそう。ライブでは盛り上がってくれるお客さんも増えたんですけど、たまに、下北沢のライブとかは盛り上がりにくかったりするんですよ。大きな音を出すと「うおー!」って拳を振り上げてくれるけれど、基本的にあまり盛り上がらない。でも、ライブが終わってからSNSを見てみると「すごく良かった!」って何人も書いてくれている。日本人の気質かもしれないけれど、良いと感じたなら、もっと盛り上がってくれるといいのになあ、と思います。

 

――なるほど、せっかく生身の人間であるミュージシャンが目の前で演奏しているんだから、生身の観客として応えてほしい、と。SNSでのやりとりとは違うんだぜ、と。メガくん、そんな熱い男だったとは知らなかったです(笑)。

メガ:僕はせっかく音楽をやるなら、ちゃんと人の心に届くリリックを書いて、聴いてくれるその人の生活にちゃんと入っていきたい。良い曲書く人なんて、正直言って、本当に山ほどいるんですよ。その中で、大がかりなプロモーションだとか、別の要素があって、売れたり売れなかったりする。これからだってそうでしょう。だけど、別の要素のひとつとして「人間を見せる」ことがこれから重要になってくると思う。人間が見えづらい時代だからこそ、ひとりの人間として持つ核なる部分を伝えていく姿勢が大切じゃないかなあ。当たり前の話ですけど、改めて今はそう思っています。

 

――おお、なんかすごくいいこと言い始めた……。最後の締めにふさわしい返しをありがとうございます!

メガ:なんすか! すごくいいこと言い始めたって(笑)。

 

――いやいや、本当にそうだなあ、と思いました。FACE to FACEも、自分自身の核を見せて誠実に人と向き合うのも、とても大事ですね。私も改めて肝に銘じます。今日はありがとうございました。これからの活躍も期待しています。

メガ:こちらこそ、ありがとうございました。ライブ、観に来てくださいね。

 

取材・文=中沢明子 撮影=齊藤晴香

 

 

■Mega Shinnosuke(メガ シンノスケ)

『東京熱帯雨林気候』

(PCI MUSIC/Mega Shinnosuke)

  • Wonder
  • 明日もこの世は回るから
  • 電車
  • 蔓延る
  • 甘ったるい呼吸

CDのほか、各音楽サブスクリプションサービスにて配信中

 

■『東京熱帯雨林気候』発売記念ライブ

MEGA ONE MAN SHIBUYA 3300

会場:Shibuya WWW

開催日:2020年3月8日(日)

OPEN/17:15 START/18:00

TICKET:前売¥3300 当日¥3800

 

中沢明子 Akiko Nakazawa

ライター・出版ディレクター

1969年、東京都生まれ。女性誌からビジネス誌まで幅広い媒体で執筆。LEE本誌では主にインタビュー記事を担当。著書に『埼玉化する日本』(イースト・プレス)『遠足型消費の時代』(朝日新聞出版)など。

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