峰典子

焼津へかつおぶしの作り手を訪ねて。身近なのに、知らないことがいっぱい。

ふわっと、いい香り。
昔ながらのかつおぶしができるまで。

お味噌汁に、お好み焼きに、おにぎり。日本の食卓に欠かせない保存食といえば、かつおぶし。昔ながらの製法でかつおぶしを作り続ける、静岡県焼津市「山七」を訪ねました。

カツオと日本人の、古いお付き合い

「山七」があるのは、カツオの水揚げ量、日本一を誇る静岡県焼津市。「かつおぶしにするカツオは、赤道直下の海域でとってきたものです。そのあたりのカツオは脂が少なくてさっぱりしている、かつおぶしにちょうどいい。まき網漁だけでなく、昔ながらの一本釣りもやってますよ」。 山七(やましち)の代表取締役社長、鈴木隆さんは話します。パートナーとして、共にかつおぶしの文化を守ってきたのが、1699年(元禄12年)創業の「にんべん」。山七は60年以上にわたって、にんべんの商品をつくっているのです。

カツオと日本人の歴史は、切っても切り離せません。縄文時代の貝塚からは、カツオの骨が多く出土していますし、弥生・古墳時代には堅魚(かたうお)なるものが登場しています。室町時代には、カツオを乾かし、それを煮出した汁を飲んでいたようです。江戸初期には、今とほぼ同じ製造法でかつおぶしが作られていたとか。

株式会社山七 代表取締役社長 鈴木隆さん

カビをつけたか、つけていないか。
かつおぶしには2種類ある。

かつおぶしには2種類あるのをご存知でしょうか。カビ付けをほどこした「枯節(かれぶし)」と、カビ付けしていない「荒節(あらぶし)」。それぞれに魅力があるのですが、上品な枯節、力強い荒節、といった風合いです。実は、一般に出回っている削り節の大半が、短期間で作れる荒節を削ったもの。にんべんでは、あえて手間ひまのかかる枯節を作り続けています。ここ焼津でも、昔のやり方で枯節を作るのは、山七だけになってしまったとか。

生切りの包丁は3本を使い分ける。頭は肥料や飼料に、内臓は塩辛に。余すところなくいただく。

山七の朝は、大きなカツオを手作業でさばく(生切り)ことから始まります。「獲れたカツオは特殊な凍結をして焼津に運ぶんです。それを前日から外に出して中までしっかり解凍させてから使います。だいたい1日に4トン、200匹くらい。この冷凍するっていうのが意味があって、新鮮すぎるとかつおぶしには向かない。凍らせて解凍させて、鮮度をちょっと落とすことで旨みがでてきて、味が安定します」

サクサクと刃がはいり、みるみるうちにさばかれていく。その手際は迅速かつ、丁寧。「切ればいいというのではない。ここで節の形がほぼ決まってしまいますから。内臓を取り除き、三枚におろし、背中と腹に分けます。これを相断ち(あいだち)というんです。これで1尾のカツオから4本の節ができます。背を雄節(おぶし)、腹を雌節(めぶし)と呼びます」。

背中とお腹で、かつおぶしの味わいが変わる。かつおぶし上級者になると、指定買いする人もいる
生切りを見せてくださった、工場長 鈴木慎二さん

じっくりことこと煮る

カゴに丁寧に並んだカツオ達は釜湯の中へ。「90℃の湯で、90分から120分ほど煮ますが、これはカツオの大きさ、脂肪分、季節や気温などで変動します。それから風通しのよいところで熱をとって、身を引き締めてから、骨を抜く。ここで急ぐと身が崩れてしまうので、ほどよく冷ましてからやる。骨抜きは一番手のかかる作業です」。

鎖をかけ、機械で吊り上げて釜へ運ぶ。うまみたっぷりの煮汁は凝縮させてから、つゆ商品に使う
美しく整列させているのは、身崩れを防ぐため
トゲヌキを使い、一本一本の骨を抜いていく

縁起物だから、美しさも重要

最近では目にすることが少なくなりましたが、自宅で削りたてを味わいたいという人には、一本売りの節も根強い人気です。かつて戦国時代には、勝男武士といってゲン担ぎのかつおぶしを飾ったそう。また、雌節と雄節を対にし、二本がぴったり合わさる=夫婦円満のイメージから、引き出物や結納品としても人気のアイテムでした。「姿売りは縁起物なので、味だけでなく形も大事なんです。骨を抜いたところの身が破損したら、カツオのすり身をつかって形を修繕するんですよ」。すべての手順が、節の美しさにつながっている。そのために手間暇を惜しまない様子が印象的です。

災害食にもなる、保存性の高さ

かつおぶしを栄養面で見ると、特に注目したいのが、肉や卵と並ぶ、たんぱく質の多さ。でも、かつおぶしだけが持つ魅力があります。それは優れた保存性。節なら(削る前の状態で)約2年、常温で保存可能。動物性たんぱく質で、これほど保存性が高く、しかも調理なしで食べられるものは、世界でも類をみません。常備しておけば、忙しい時に、ご飯にふりかけるだけで栄養がとれ、災害食としても役立ちます。

なぜ、こんなに保存性が高いのしょう。それは、何度も燻して徹底的に乾燥させているから。「香りをつける目的もあるので、ガス火ではなく薪を使います。山梨、長野のコナラが多いですね。あとは、ブナ、シイ、サクラ、火持ちのいい広葉樹を選んでいます。燻して、寝かせてを25日から一ヶ月くらい繰り返します。一気に熱を入れても、中心部分の水分が抜けきらないんですよ」。

常に手で熱をはかり、火を調整していく。それで「手火山式」という名前が付いたとか

山七では、姿売りする本枯鰹節を伝統製法「手火山(てびやま)式」で作っています。節を並べた木製せいろを炉の上に載せて燻す。「直火なので、目が離せない。とても手間がかかるので、これをやっているのは焼津ではうちだけになってしまったんじゃないかな。すべての商品を手火山でつくるのは無理なので、薪の煙をファンで循環させる焼津式乾燥機も併用しています」。

鰹節の産地である焼津で生まれた乾燥機、焼津式。
ラベルには、漁船名と焙乾した日付が記入されていた。一ヶ月に及び、火入れが繰り返されている。
力強く香る、荒節の完成だ。

太陽とカビの力を借りて、
もっと美味しく

荒節はここで完成となり、にんべんの「花かつお」や「厚削り」「つゆの素」といった商品に姿を変えていきます。一方、ここからカビをつけていくのが、枯節です。日本の法律では、カビ付けを天日干しを2回行ったものを枯節と規定していますが、にんべんでは4回以上も繰り返し行うことで、深みのある味に仕上げています。「カツオブシカビをつける部屋は、湿度50%くらいで、梅雨のようにジメジメしています。天日干し、常温での寝かせ、カビ付けを繰り返すので、本枯鰹節の完成まで半年かかります」。

日本全国をみても、枯節の作り手は減りつつあるという
カビをまとった節は格別に美しい。最高級のものは、明治神宮や伊勢神宮などに奉納される

最後かつ、最大の肝。
本枯鰹節の選別作業。

半年もの時間を経て、無事に完成した本枯鰹節ですが、そこからさらに品質を守る選別職人の存在があります。にんべんでは納品された節を並べ見て、4つのランクに分けていきます。この作業を担当するのが、ほぼ一人だというから驚きです。「表面がなめらかかどうか、傷がないか。脂が浮いていないか。あと、軽く叩いてみると中に空洞があるかどうかがわかりますね。良いものほど、まっすぐで分厚い。あとは削りやすい形であるかも大事なんです」。 40年間この作業を担当してきたという練達の士から技術を引き継ぎ、12年目になるという選別士、河本博之さんが答えてくれた。

選別士の河本博之さん。 焼津に生まれ育ち、子どもの頃から身近にカツオの存在があったという

継承していきたい、かつおぶしの味

私たちの食に欠かせない存在でありながら、かつおぶしを手にする人は減ってきています。 にんべん日本橋本店には、各種かつおぶしがずらり。山七でつくられた本枯鰹節も並んでいます。毎日は難しくても、ハレの日や週末にちょっといいかつおぶしを使って料理するのもいいものです。もうすぐ年の瀬。美味しいおだしの利いた年越しそばやお雑煮で、よい年を迎えましょう。

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