ライター中沢明子のお気に入り★文化系通信

叙情派インスト・バンド「あらかじめ決められた恋人たちへ」が”沈黙”をテーマにした傑作『……』をリリース!

時代との距離感を推し量りかねていた数年間

 

「あらかじめ決められた恋人たちへ」(略して、あら恋)はキャリア22年のインストルメンタルバンドだ。リーダーの池永正二さんが生み出す、独特のエモーショナルな音楽から、“叙情派インストルメンタル・ダブ・バンド”と紹介されることも多い。最近は映画『宮本から君へ』への作品提供をはじめ、劇伴作家としても知られる池永さんだが、3年半ぶりに“あら恋”の新作が届いた。それが震えるほど、素晴らしかった。ヘッドフォンから流れてくる音に吸い込まれ、いつの間にか涙がこぼれていた。全7曲60分と長い作品だが、長さを感じない。かといって、あっという間でもない。濃密な時間を堪能した、といったらいいか。これまでの作品ももちろん素敵だが、これはとりわけ傑作なのでは……!?と感動した。ここ数年「スランプだった」と語る池永さん。悩みを乗り越えて作り上げた『……』(リーダー、と読みます)は新境地を拓いたといっていい。円熟したスキルと40歳を越えてなお、ナイーブでフレッシュな感性を持ち続ける池永さんならではの世界観だ。これはぜひともお話を伺いたいと思い、お会いしてきました。DUB PAとしてバンドを支える石本聡さんも撮影後、加わってくださり、和やかにお茶を飲みながらのインタビューになりました。

 

あらかじめ決められた恋人たちへ●池永正二をリーダーとするシネマティック・インストDUBユニット。1997年、池永のソロユニットとして大阪で活動を開始。2008年に上京し、以降はバンド編成で活動している。現在は池永正二(鍵盤ハーモニカ、エレクトロニクス)、劔樹人(ベース)、クリテツ(テルミン、パーカッションetc)、オータケコーハン(ギター)、GOTO(ドラム)、ベントラーカオル(キーボード)、石本聡(DUB PA)の7名に、PAを加えた8人がコアメンバー。鍵盤ハーモニカやテルミンといった楽器が奏でるノスタルジックでメロウな音色と轟音ギターやダイナミックなキーボード、変則的かつ現代的なビートが絡み合う音楽は唯一無二の世界観を持つ。池永は映画『宮本から君へ』や『ブルーアワーにぶっ飛ばす』など、劇伴作家としても活躍。他のメンバーも多彩な個人活動をしており、スキルの高いプロ集団として、ミュージシャンの間でもリスペクトされている。

あらかじめ決められた恋人たちへ 公式サイト

 

――本当に! マジで! 新作の『……』(リーダー)、素晴らしかったです。最初に先行シングルの『count』を「お、あら恋、新曲出たのか」となにげなく仕事中に聴き始めたら、キーボードを打つ手がピタリと止まりました。耳が釘付けになってしまって。なんて美しい曲でしょうか……。

池永:いやあ、そうした感想いただけると、うれしいですね。

count

 

――それで、「これはアルバム全体すごいことになっていそう!」と音源サンプルをいただいたら、とてもドラマチックで、エモーショナルで、期待以上にすごいことになっていたので、慌てて10月の新宿区のフェス『-shin-音祭』に足を運び、久しぶりにライブも拝見しました。高い熱量と浮遊感が会場全体を包み込む、これまたすさまじいライブで感動しました。

池永:あ、いらしていただいていたんですね。ありがとうございます。

 

――あら恋はインストルメンタルで歌詞はないのに、アルバムからもライブからもメッセージが雄弁に伝わってきた気もしました。前回のアルバム『AfterDance』は曽我部恵一さんなどのゲストボーカルや詩人の和合亮一さんの朗読といった「言葉」にフォーカスした作品でしたが、今回の『……』はあら恋の原点に返った、完全なるインストルメンタルでありながら、まさに新境地を拓いた印象を受けています。この3年半の間に何があったんですか?

池永:僕はいつでも迷っている人間ですが(笑)、ここ数年はとりわけ迷っていました。前作は新メンバーでバンドっぽい音をやりたくて、次に20周年で再録音のベスト盤を出して一旦「。」が付くと曲ができなくなった。まさかのスランプ。作るんですが以前と一緒だったり今にマッチしない。音楽的にも社会情勢的にも、“時代との距離感”を推し量りかねるといったらいいのかな……。なんか今、世の中がちょっと嫌な感じがしませんか? みんなが必要以上に「キーッ」となっている気がするんです。僕、SNSがあまり得意ではないんですが、自分の思った事や感じたことを短い言葉でネットにアップして、それがフォロワー数やビュー数とか人気度が数値付きで公開されて、日々視聴率競争みたいな。そんなツールが日常に入り込んでるからなんだかしんどいなあ、と思うんです。すごく窮屈な空気が蔓延するこの時代との距離感をどうとったらいいんだろう、惑わされずにいられるんだろう、そうしたなかで自分はどんな音楽をやりたいんだろう、と迷ってしまった。

石本:そうだね。池永くんはここ数年、悩んで、もがいているように見えました。あら恋のメインコンポーザーは池永くんだから、池永くんのペースで作ればいいと思ってたけど、今年になって、「曲が出来た!」と連絡きたときは、やっぱり、うれしかった。それも、本当にすごくいい曲で。池永くんとのつきあいは長いですが、キャリアを重ね、40歳を越えて、こんなに新しいものを生み出せるって素晴らしいなあ、と僕も感動したくらいです。

池永:とはいえ、バンドのメンバーには「ここはこうしたほうがいい」とダメ出しされたところもありましたけどね(笑)。

 

――あら、そうなんですね。池永さんが絶対君主かと思っていました(笑)。

石本:池永くんも丸くなって(笑)。

池永:1997年に僕ひとりで「あらかじめ決められた恋人たちへ」という名義で活動し始め、いろんなメンバーとやってきました。2015年に今のメンバーになってから、個々の個性が表現できるような楽曲作りになりました。当て書きのような感じです。個性の強い面白いメンバーばかりなので。だから“バンド感”は今が一番強い。それから、『宮本から君へ』もそうですが、映画などの劇伴を手掛けるようになったのも影響していると思います。映画は本当にたくさんのスタッフが関わるチーム仕事だから、人の意見に自然と耳を貸せるようになったのかもしれません。

 

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