飯田りえ

ウーマン・リブを知らない私が、心をわしづかみにされた映画『この星は、私の星じゃない』インタビュー

突然ですがウーマン・リブをご存知ですか?

1970年代初頭、「女らしく生きるより、私を生きたい」と女性たちが立ち上がった解放運動です。私も教科書程度の知識しか持ち合わせていませんでしたが、これが当時の日本社会にどれだけのインパクトを与えたことでしょう。SNSはおろか、ネットも携帯もない50年も前に#Me Tooと同様の運動が日本各地で巻き起こったのです。(しかし悲しいかな、未だ日本のジェンダーギャップ指数は149カ国中110位という情けない数字ですが

そのウーマン・リブを強く牽引したカリスマ的リーダーである田中美津さん。あの上野千鶴子さんをして「フェミニズムの原点。時代を表す固有名詞」と言わしめた女性です。76歳の今でも鍼灸師として多くの患者さんと向き合いつつ、執筆活動や沖縄の基地問題の活動をされています。

そして今秋、4年にも渡って彼女を密着したドキュメンタリー映画が公開されるとのこと。タイトルは『この星は、私の星じゃない』

これだけを聞くと、厳しくて難解で、終始重たい気分になるドキュメンタリーなのかなと、身勝手な私はそう捉えてしまいました。しかし、実際に映画を見ると、強固なフェミニスト像から一変、なんてキュートな女性なのでしょう!

今も多くの人の苦しみや悲しみ、生き辛さを”自分ごと”として捉えていらっしゃいます。何よりも小柄で華奢な体から発せられる強い言葉、着かざることなく語られる等身大の言葉の数々が、容赦なく私の心をわしづかみにしたのです。

彼女の言葉は今の時代の閉塞感、生きづらさにも応えてくれるかもしれない。

これはもう会いに行くしかない、と田中美津さんご本人と吉峯美和監督にインタビューをお願いしました。

今の世に、田中美津を残しておきたかった理由

__吉峯監督は4年近く密着され、自主製作のためクラウドファンディングで資金調達もされたそうですが、どうして今の時代に田中美津さんの作品を撮ろうと思ったのですか?

田中美津さん(以下、田中):ハハハ、もうすぐ死ぬから(笑)。

吉峯美和監督(以下、吉峯):いやいや、そんな気配、全然ありませんけどね(笑)。

2015年にNHKEテレで戦後70年の女子解放史をたどる番組を担当し、歴史を切り開いてきた諸先輩方を取材させて頂きました。その数十人いたキラ星の中でも、田中さんのお話が断トツ面白かった。大体、昔ばなしになっちゃうのですが、田中さんの話はまさに”今”の話だったのです。「女性解放よりも “私”の解放を大事にしろ!」と。今だからこそ刺さる言葉だ、と思ったのです。

__この方の”今”を記録しないといけない、と。

吉峯:そう。そこから色々調べてみると『フェミニズムの名著50』という世界の中から選ばれた50冊の中に、日本から5人選ばれていて、平塚らいてう、与謝野晶子、高群逸枝、山川菊栄、そして田中美津ですよ。平塚らいてうを撮るようなことだから、これは自腹でも撮らないといけないでしょう。

__それでカメラが回っていない時もマイクを付けて言葉を拾い続けた?

吉峯:そうです。急に面白いことをおっしゃたりするので。カメラが回っていない時にも録音できるよう、音声だけは全て拾いました。

自分のためになるかどうか、それが意思決定の主軸

__監督からの取材依頼を4度も断られた、と伺いました。

田中:今までドキュメンタリー映画に出てよかったと思ったことが少ないから、またか、面倒だなと思った。あと辺野古への活動も始まったところだったので、忙しかったのよ。

監督:それでも初めてお会いした時「あなた、どこかで会ったことあるわね?」って言われて。「これは運命だ!」って私は思いましたが、覚えていますか?

田中:全然(笑)。でも、彼女の第一印象は良かったですよ。目が綺麗な、開かれた感じの人だなぁって。

__監督は諦めず懇願しましたね。田中さんが最終的に受け入れたのはなぜ?

田中:断るのが面倒くさくなったの(苦笑)。これだけ熱心だから、今までのドキュメンタリー番組よりはいいかもと思って。

監督:私も教科書みたいな歴史の紹介ではなく、今まさに生きて、考えて、行動して、生活している美津さんを撮りたかったのです

田中:その辺りの視点に惹かれたのだと思う。教科書的なのものって、人の役には立つかもしれないけど自分のためにはならない。もう76歳なんだから、残された時間とエネルギーを自分のためになる事に使いたいって思うのねだいたいこういう触覚で生きていると、そう人生間違えないですよ。「人のために頑張る」とか「良いことをやろう」とすると、つい自分らしくないことをやってしまうでしょ?それが嫌なのです。

__”自分”のために。だからいつも自然体なのでしょうね。

田中:自分は小さな生きもので大したことのない人間だから、その大したことない自分もひっくるめて映画にしてくれるといいなぁって、思ってました。だって何か成し遂げた人の映画って、見ない前からわかっちゃうような、、「偉い人の話」になりがちでしょ。

「この星は、私の星じゃない」に込められた思い

沖縄の久高島にて ©パンドラ+BEARSVILLE

__実際に出来上がった作品を見られていかがでしたか?

田中:最初の3回ぐらいは「あっちのズボンにすれば良かった」とか、つまらないことばっかり気になって、よく映画のことはわからなかったの(苦笑)。4回目、あいち国際女性映画祭の時にじっくり見て「いい映画じゃない」と、初めて思いました。

__なんと!(笑)

吉峯:ひどいでしょ?

田中:撮っている吉峯さんも肩に力が入っていなくて、そこが一番気に入りましたね。

__3~4年も密着されていたのですものね。その間、吉峯監督はずっと映画に専念されていたのですか?

吉峯:毎日ロケではないのでその間は仕事もしていましたが、昨年、編集作業に入ってからはこの一本に専念していました。編集を進めて、テーマがより明確に見えてきて結局、今年の4月まで撮影していました。

__タイトルにもある『この星は、私の星じゃない』という言葉ですが、幼少期から田中さん自身、常に感じていたそうですね。

田中:生き延びるためには”諦め”も必要でしょ。「私ってかわいそう」という被害者意識は持ちたくないから、うまくいかないのは「この星は私の星じゃないからだ」と思うことで諦めをも力にしてきたのね。映画でもチャイルド・セクシャアル・アビューズ(子どもへの性的虐待)に遭った事を少し触れていますが、「なぜ私の頭に(だけ)、石が落ちてきたのか」と幼い時からずっと考えていたから、悲しくなると「この星は〜」と思って落ち込みすぎないようにしてきた。そうでないと、遂には生きていたくないと思ってしまうから。

吉峯:引きずっちゃいますよね。私ってかわいそうって。かわいそうな私を抱きしめながら、ずっと生きて行かないといけない。

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