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中沢明子

ダブバンド「TAMTAM」Kuroによる、初ソロ作品『JUST SAYING HI』が最高なんです!

  • 中沢明子

2019.10.07

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リラックスして聴いてもらえる作品になったと思う

 

8年前に「青山 月見ル君想フ」というライブハウスで初めて観たバンド、TAMTAM。なんてかっこいいダブバンドだ!と、一発KOされた。以来、自主制作盤の『Come Dung Basie』からずっと、TAMTAMの音楽は私のそばにあった。これまで期待を裏切られた曲は一曲もないバンドだ。そのTAMTAMで歌い、トランペットを吹き、シンセサイザーを弾いて、今は曲も手掛ける中心人物のKuroさんがソロ作品『JUST SAYING HI』をリリースと聞き、楽しみにしていた。8曲トータル31分。思った以上に、質量ともに良い意味で軽やかで、誰もが聴きやすいアルバムに仕上がっていた。これはぜひとも、一人でも多くの人に聴いてほしい。というわけで、Kuroさんに登場していただきました!

 

Kuro●北海道出身。早稲田大学の音楽サークル、中南米研究会の部員を中心に、2010年結成したダブバンド「TAMTAM」でボーカル、トランペット、シンセサイザーを担当し、現在は作詞作曲も手掛ける。2011年に自主制作で『Come Dung Basie』を発表。すぐに音楽好きの間で評判となる。翌年、mao よりHAKASE-SUN(元フィッシュマンズ、現LITTLE TEMPO)プロデュース『meteorite』で全国流通盤を初リリース。同年、フジロックフェスティバル「ROOKIE A GO-GO」ステージに出演し、観客投票1位に。ミニアルバム『Polarize』を発表後、2014年にスピードスターレコーズに移籍し、ミニアルバム『For Bored Dancers』でメジャーデビュー。『Strange Tomorrow』等をリリースした後、2016年に大手インディレーベル、Pヴァインに移籍。フルアルバム『NEWPOESY』、『Modernluv』をリリースし、来春にも新作リリースを予定。今年は久しぶりのフジロックフェスティバル出演やカナダツアーを開催するなど、精力的な活動が続くなか、待望のソロアルバムも発表。エンジン全開で突っ走っている、実力派の女性アーティスト。11月24日にソロアルバムのリリースパーティーをサウンドプロデュースで参加したShin Sakiura、君島大空を率いて、恵比寿BATICAで予定している。

TAMTAM公式サイト

Kuro(Pヴァイン)

 

――初めてのソロアルバム発売、おめでとうございます。先行配信された『PORTLAND(Prod.EVISBEATS)』と『VIDEO(Prod.ShinSakiura)』の2曲がどちらも「すごく良い……これは絶対紹介せねばなるまい!」と思ったので、勢い込んでインタビューを申し込ませていただきました!

Kuro:あはは、ありがとうございます。

 

――『PORTLAND(Prod.EVISBEATS)』は、心地良いループアニメのMVもすてきでしたが、MVを先にリリースしたということは、こちらがリード・トラックですか?

Kuro:特にリード・トラックは決めていないんです。両A面というイメージで。ラジオなどでは、どちらをかけていただいても構いません、というスタンス。ただ、『PORTLAND(Prod.EVISBEATS)』がJ-WAVEでトップ10入りしましたし、こちらをまず、聴いていただく機会が多いかもしれないですね。

 

PORTLAND (Prod. EVISBEATS)

 

――TAMTAMは音楽性が非常に高いバンドですし、Kuroさんはヴォーカリストであり、コンポーザーであり、トランぺッターであり、曲も作る、というマルチ奏者。いくらでも“音楽的に難しい”作品を作れると思いますが、今回のアルバム『JUST SAYING HI』はシンプルというか、ゆらゆらと“たゆたう”というか、気楽に聴けるチルアウトな作品に仕上がった印象を受けました。

Kuro:そう言っていただけて、すごくうれしい。というのも、今回はリラクシングなアルバムを作りたかったからです。実は今、家でリラックスできるような音楽ばかり聴いています。ベタですが、ハワイアン・ミュージックとか。ビートのない音楽を聴き、部屋にアロマを炊き、こだわりの入浴剤を入れたお風呂でゆっくりと半身浴して、ひたすらリラクゼーションを追求する日常を送っています(笑)。部屋をスパのようにしたいくらい! だから、今回はソロ作品というのもあり、最近の自分を反映させるリラクシングな方向に自然と向かったのだと思います。

 

――なるほど、確かにかなりリラクシングな肌触りがありました。お風呂で聴くのも良さそうです。

Kuro:TAMTAMもだんだんトロピカル調の音になってきていますし、全然難しくないので、バンドのほうも構えず、気楽に聴いてほしいですが(笑)。

 

瞬間、瞬間の感情を切り取りたい

 

 

 

――歌詞で私が注目したのは、レンズ/映像/スマホ/映した、といった直接的な言葉もそうですが、瞬間を切り取る表現が多かった点です。

Kuro:そうですか? そこは意識していなかったですね。でも、そうか、私は歌詞を書くときに、あまり長いスパンのことを書かないんです。時間にして3分以内ぐらいの出来事や思いを一曲にするのが得意な気がします。だからこれも自然と“瞬間を切り取る”表現が多くなっているのかもしれません。先のことを考えない性格だからですかね(笑)?

 

――先のことを考えない性格なんですね(笑)。

Kuro:はい(笑)。ただ、改めて考えてみると、たとえば今お話ししながら気になった言葉や感情を掘り下げたい、というタイミングで「あ、詩を書きたい」と思います。今のこの瞬間はどういう瞬間だったんだろう?と立ち止まるというか。誰と、何を、話して、こう感じたんだろう、と。長いスパンで考えたり、時間が経ってしまったりすると、なんだかウソを言っちゃいそうな気がする。もちろん、歌詞の中身が全部“事実”ではないけれど、こう思ったよ、という核の部分はウソじゃいけない。少なくとも私は、そこは本当でありたい。だから、日常生活で感じた一瞬をとらえた歌詞が多いんじゃないかな、と思います。

 

――LEE世代になると、親と過ごせる時間や子供が子供である時間には限りがあることを実感しますから、Kuroさんの瞬間、瞬間を残していく歌詞はグッとくると思います。瞬間はどんどん過去になっていくけれど、“今この時”を永久保存したい感じ。

Kuro:ああ、なるほど。

 

――特に『VIDEO(Prod.ShinSakiura)』の歌詞が泣けます……。

Kuro:あの曲は、たとえば旅行先で、些細なことにも感動しやすくなって何でも写真に収めたいと思うこと、ありますよね。でも一緒にいる友人は案外冷静に見えて、もしかして自分だけ舞い上がってるんじゃないだろうかと思う瞬間ってありませんか? それって恋愛でも似たような構造になることがあるんじゃないかなと思ったので、恋愛の描写を織り交ぜ、飛行機の窓から夕暮れ時の空を見ながら書いた歌詞です。

 

――せっかくカメラ性能の良いスマホを持っているんだし、そりゃ、瞬間を写真に収めておきたいですよね!

Kuro:ですよね(笑)。

 

――それから、Kuroさんは「僕」という一人称を使っている曲がありますが、「僕」を選ぶのはなぜですか?

Kuro:「ぼく」は2文字で歌えるので、それが良かったというのもありますが、女性の私が「僕」を使うのはジェンダーフリーな感じがするのも好きなのかもしれません。本当は英語の「I」がいちばんしっくりくるんですが。

 

――TAMTAMはざっくり紹介するとダブバンド、と表現するのかな、と思いますが、R&Bやヒップホップ、レゲエ、アンビエントといったさまざまなジャンルを取り込んだ、音楽通もうなるバンドです。そうしたバンドでKuroさんはマルチ奏者としてやってきたわけですから、一人で全部できるはず。でも、ソロアルバムは作詞・作曲以外、意外にも、他のアーティストに委ねた部分が多いですね。

Kuro:おっしゃる通り、一人で作れないことはないんですが、たぶん、すごく大変だし、時間もかかります(笑)。という現実問題もありますが、最近、バンド以外の場に一人で行き、歌う現場が増えていました。バンド以外で活動するなかで、自分やバンドメンバー以外のトラックも演ってみると楽しいな、と思っていました。だから今作では、自分で全てやる曲は2曲にとどめ、曲によっては信頼のおけるトラックメーカーさんと共作してみたり、歌以外のアレンジをお任せしたり、いろいろ試してみました。

 

TAMTAM – 夏のしらべ (Official Video)

TAMTAM / “CANADA” live – NEWPOESY Release Tour Final

 

欠かせないものは、現代短歌とマンガとお笑い。

 

 

 

――Kuroさんがトランペットを吹く姿は超かっこいいのに、トランペットまで他のミュージシャンに任せていたのはびっくりしました。

Kuro:彼はジャズ・トランぺッターで、センスが素晴らしいソリストです。こちらが何の指定もをせずとも、いい雰囲気のソロを何パターンか披露してくれ、トラックが華やかに柔らかくなって、さすがだなぁと思いました。アルバムではもう1人、TAMTAMのサポートギターYuta Fukai君にも参加してもらっていて、彼も同様に最高です。

 

――今年のTAMTAMはカナダツアーや久しぶりのフジロックフェスティバルなど、ますます活発に活動していますが、海外進出は今後、積極的にやっていく予定ですか。

Kuro:どんどん海外でもやりたいです。カナダでは、私たちの曲を初めて聴くお客さんも多かったですが、みんな、本当に楽しそうに乗ってくれるので、とても楽しかった! アジアも台湾や上海など、もっと行きたい都市はたくさんありますね。それから、来年の早い時期にTAMTAMの新作も準備しています。

 

――TAMTAMはコンスタントに作品を発表しますよね。意外と(?)勤勉!

Kuro:そうですね。レーベルが変わっても、作品を出すペースに変わりはなく、ほぼ一年に一作は出していますね。

 

――最後に、最近のKuroさんの趣味や大切なものを訊かせていただけますか?

Kuro:さっきも話しましたが、家をスパのようにしたい(笑)。リラクゼーションを追求したい。良いスパやいい香りの入浴剤があったら、教えてください。あとはお笑いを観ることと本を読むこと。お笑いは今、若手なら「かが屋」が大好きです。

 

――なんと、かが屋! かが屋、すごいですよね! 私も今、特に注目しています!

Kuro:ですよね、ですよね。めっちゃ面白いですよね。

 

――最近の若手ミュージシャンと若手芸人さんはセンスの親和性が高いと思うので、ミュージシャン&芸人の対談連載をどこかでやりたいんですよね。でも、読んでくれる人はいるだろうか……。

Kuro:少なくとも私は絶対読みますから、ぜひ実現してください(笑)。

 

――私もお笑い好きなので、つい話をそらしてしまい、申しわけありません。本はどんなジャンルを読むんですか?

Kuro:マンガも好きで、『凪のお暇』のドラマ化は嬉しかったです。作詞には現代短歌が影響しているかも? 穂村弘さんや枡野浩一さんといった有名な方の歌集を読んで、そこから気になった歌人の方を知るっていうライトな感じですが。カジュアルな言葉選びや少ない単語で情景を伝えるワザが詰まっていて、目から鱗という感じです。文字数が限られているという意味で、小説より歌詞に近い気がします。小説では、ちょうど昨日から『82年生まれ、キム・ジヨン』を読み始めました。話題作ですよね。

 

――素顔のKuroさんの一面が伺えてよかったです。今日はお忙しいなか、ありがとうございました。

Kuro:こちらこそ、ありがとうございました。では、インタビューも終わったことだし! お笑いの話、もう少し続けましょうか(笑)。

 

 

ライター中沢がとりわけ好きな過去のTAMTAMの曲はこちら!

TAMTAM – クライマクス(Music Video (short ver.))

TAMTAM – 星雲ヒッチハイク (Official Video)

 

取材・文=中沢明子 撮影=齊藤晴香

 

 

 

■Kuro 『JUST SAYING HI』発売記念ライブ

 

2019年11月24日(日)

東京・恵比寿BATICA

開場 16:30 / 開演 18:00

公演詳細

 

中沢明子 Akiko Nakazawa

ライター・出版ディレクター

1969年、東京都生まれ。女性誌からビジネス誌まで幅広い媒体で執筆。LEE本誌では主にインタビュー記事を担当。著書に『埼玉化する日本』(イースト・プレス)『遠足型消費の時代』(朝日新聞出版)など。

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