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映画ライター折田千鶴子のカルチャーナビアネックス

【草彅剛さん×市井昌秀監督】『台風家族』の銭ゲバ家族大バトルに泣いて笑って感動!?

  • 折田千鶴子

2019.09.03

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祝!『台風家族』公開!!

待っていました(LEE副編集長、嬉し泣き)!! 遂に快作『台風家族』が、嬉しいことに公開されます!! 主演は、役者としても常々高く評価されてきた草彅剛さん。草彅さんが演じるのは、なんとクズ男の小鉄。どれくらいクズかと言えば、兄弟姉妹で遺産相続争いを繰り広げ、弟や妹を出し抜こうと下手な芝居を打ったり、それがバレるや開き直り、娘にまで見下されるような銭ゲバ男なんです。ところが最後には、ほろっと涙があふれ出てくる展開が待ち受けるのです。その感動の正体とは一体!?

自身のオリジナル脚本で、そんな“奇蹟”をまたも起こしてくれたのは、『箱入り息子の恋』『ハルチカ』など、長~く根強い人気を誇る作品を撮って来られた市井昌秀監督です。

いかに“世界一クズ一家”の物語を、“奇蹟の感動”に持ち込めたのか、主演の草彅剛さん、監督の市井昌秀さんに、現場・裏の裏話を教えていただきました!

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左:草彅剛
1974年7月9日、埼玉県出身。91年にCDデビュー。主な映画出演作に『黄泉がえり』(03)、『ホテルビーナス』(04)、『山のあなた 徳市の恋』(08)、『あなたへ』『任侠ヘルパー』『中学生円山』(全12)など。ドラマにも多数、出演。17年9月に「新しい地図」を立ち上げ、活動を開始。映画『クソ野郎と美しき世界』(18)の中の一篇『光へ、航る』にも主演。最新映画出演作は『まく子』(19)。舞台でも精力的に活躍。

右:市井昌秀
1976年、4月1日、富山県出身。漫才グループ「髭男爵」元メンバー。自主映画『隼』(04)、第2作目の『無防備』がぴあフィルムフェスティバルで数々の賞を受賞。『無防備』は釜山国際映画祭のコンペティション部門グランプリ受賞。商業映画第一作『箱入り息子の恋』(13)で主演の星野源は日本アカデミー賞新人俳優賞受賞。他に『僕らのごはんは明日で待ってる』『ハルチカ』(共に17)。連続ドラマ「サウナーマン~汗か涙かわからない~」が放映中。

写真:菅原有希子

――まずは『台風家族』の撮影舞台裏は、どんなことになっていたのでしょう?

草彅「とにかく暑くて過酷な現場でした。民家を一軒、借り切っての撮影でしたが、冷房もきかず、氷で首を冷やしながら、みんなで助け合って撮影して。一転、森でのシーンは、熱中症になりそうな暑さが嘘のように、いきなりストーブを炊いて(笑)。そういう暑さ寒さ、苦楽を共にすると、人間、すごく仲良くなるんですよ。役者同士も台詞のキャッチボールが出来るようになったというか、自然とお互いの間が取れるようになっていて、それが作品に出ているな、と思います」

市井「民家の門のあたりにテントのような屋根を張ったのですが、俳優部もずっとそこに居てくれたんです。技術部と俳優部の距離が、こんなに近い現場は初めてでした。実際には風も吹かず暑かったですが、関係性の風通しはすごく良くて。しかも、借り切った民家が主な舞台なので、順撮りが容易に出来たのも大きかったですね。すごくいい現場だなぁ、と思いながら撮影をしていました」

 

『台風家族』
監督・脚本:市井昌秀  原作:市井点線「台風家族」(キノブックス)
出演:草彅剛、MEGUMI、中村倫也、尾野真千子、若葉竜也、甲田まひる、藤竜也ほか
配給:キノフィルムズ
ⓒ「台風家族」パートナーズ
9月6日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開

銀行から2000万円を強盗し、失踪したままの両親の“仮装”葬式をするため、鈴木家の兄弟姉妹が10年ぶりに帰省する。なぜか現れない末っ子・千尋(中村倫也)不在のまま、空の棺桶を前に葬式を済ませる。ところが相続について話し合いを始めた矢先、長男・小鉄(草彅剛)の発言で、遺産争いが勃発する! そこへ長女・麗奈(MEGUMI)の彼氏という若い男・登志雄(若葉竜也)が現れ、さらに千尋も現れたことで別の珍騒動が始まる――。

――12年も温め続けた作品ということですが、小鉄役に草彅さんをアテ書き(役者を想定して脚本を書くこと)されたそうですね。

市井「これまでたくさん草彅さんのドラマや映画を観てきて、意外と小鉄みたいな“日常に転がっていそうな小狡い男”ってやられていないな、と思ってたんです。その人間臭さを草彅さんがやったら面白い、僕が観たい、という思いが筆を進ませてくれました。実際には、想像以上に小鉄というキャラクターを膨らませてくれました。その“はみ出した部分” がすごく素敵で、草彅さんで、良かったなぁと思っています」

アドリブは……ほぼ全てです(笑)!(by草彅)

――兄弟姉妹、その連れ合いも含めて丁々発止を繰り広げる、テンポの良い掛け合いが、ライブ感もあって、でもどこか緩くて、すごく面白かったです。結構、アドリブの多い現場だったのでしょうか?

市井「アドリブというより、僕自身の演出も現場でどんどん変わりますし、現場で生まれたものが多かったですね。例えば殴り合いのシーンで、一鉄(鈴木家の父/藤竜也)が、“あ、ちょっと待って”と隙を見せておいて小鉄を殴る、というのも現場で生まれました。父・一鉄にも小狡いところがあって、それを小鉄に対してやったら面白いんじゃないかなと、段取りやリハーサルで2人を見ているうちに浮かんできたんです」

草彅「また藤さんのパンチが、いきなりで速いんですよ。しかも横からくるかと思っていたら、真正面に縦に入って来て」

市井「そういう風に、常に現場で生まれるものを大事にしたいな、と思ってやっています。画面に映っていないところで兄弟げんかをしていたり、海でのシーンは台詞も決め込んでいなかったり。それらはほぼアドリブで撮っていて、面白かったですね」

草彅「僕は基本、台詞を読んでいないので、周りの人の台詞の後にちょっと間が空いたら、あれ、俺の番だったかな?と思って、こんな風なこと言うんじゃなかったっけ、と言う感じなんです。ただ熱中症で倒れる前に1発で決めたいから焦りもあって、すごいキョドっちゃって。それが絶妙に小鉄になったというか(笑)」

監督「(爆笑)!!」

草彅「だから、僕はほぼすべてアドリブです(笑)。小鉄が踊り出すシーンも、監督が事前に打ち合わせを求めて来たのですが、暑くて早く帰りたいから、“考えておきます、大丈夫です”と言って誤魔化して。でも、監督がすごく楽しみにしていて、何度も聞いてくるから段々プレッシャーになってきて……。焦りながら本番を迎えたのですが、焦りながら踊る小鉄っていう小鉄っぽさも、偶然が招いた産物です」

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美味しい役をいただいた幸福感

――観ながら“もう、本当に嫌!”と顔をそむけたくなるくらい、小鉄のクズっぷりが現れているシーンも多々ありますが、こんなクズ男を演じるのは、どんな感じでしたか?

草彅「すごく楽しくて。いろんな面を持つ人間の、“クズ”な面が誇張されている役、そのクズさが人間っぽくて共感できたりもするので、演じる分にはすごく面白い。パンツの中に必死で小銭を入れようとしたり、お坊さんにいきなり“檀家からお金を巻き上げてるんだろう”と言い始めたり。もう、メチャクチャ笑いそうになっちゃって(笑)!! 美味しい役をいただいた、という幸福感もありました」

 

――最後の感動を大きくするためにも、クズである、を徹頭徹尾守り抜かなければならない役でもありますよね。

草彅「そこは監督が厳しかったですね。1円でも多く遺産をぶんどってやる、という小鉄の姑息なプランを、上手くやり過ぎてもちょっと違うよ、剛君、と言われたこともあって。もう少し普通な方が、嫌な感じに逆に見えるとか、その辺にすごく気を遣われていました」

市井「当然、登場するキャラクターみんな大好きなんです。僕自身に最も近いのは小鉄だけれど、末っ子の千尋も僕にすごく近いな、とも思っていて。全員にキャラクター表を渡したのですが、やっぱり小鉄と千尋の2人は、過去が容易に想像できちゃうので、すごく多くなっちゃって(笑)。でも他のキャラクター、それこそネットに書き込んでいるような人々も含めて、なんやかんやみんな僕なんだな、と思っていて。汚い部分やダークな面もひっくるめて自分だし、人間ってそういうところがあるじゃない?と、すごく愛おしく思うんです」



小鉄の妻≒監督の奥様!?

――小鉄のクズっぷりに対して、妻の女神っぷりがステキ過ぎますよね! そこには、監督自身というより、監督の奥様が投影されているのでは?

草彅「小鉄のことを好いてくれていて、娘に屋根裏で“でも、あの人はブレないのよ”って言うシーンとか、本当にすごい、いいよね。また監督の奥さんが、美人で。ゾンビ役で出演されていて。絶対に小鉄の妻は、監督の奥様と似てるな、と思います」

市井「確かに、なんだかんだ動じない妻というのは、うちの妻の話でもあり、すごく妻の感じが出ているのかな。自主映画の最初の頃から一緒にいて、支えてきてもらっているので、本人には言ってないですが、何かしら投影されているな、とは思います」

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草彅「あんな美人な奥さんと一緒に居て、同じ夢に向かって走っている監督が羨ましい。僕、奥さまからお手紙をもらっちゃって。“うちの主人が、この映画をどれだけ温めて来たか”、“夫がすごく愛している作品を、一緒に作ることができて、ありがとうございます”って。本当にいい夫婦ですよね。また真千子ちゃん(妻役の尾野真千子)も、すごく可愛くて。真千子ちゃんがこの映画に出るって聞いて、脚本読まずに僕も出るって決めたからね。真千子ちゃんとは『クソ野郎と美しき世界』でも共演したんだけれど、居るとすごく安心できて。夫婦役で良かった!」

――家族って面倒だけれど、根っこの部分で離れられない、やっぱり悪いものじゃないな、と思わされます。

草彅「撮影現場は暑かったけど、この家族愛も熱いぞ、ってところを観て欲しいな(笑)。小鉄は父・一鉄に対して、ずっと許せない、でもなんか気になっている。弟や妹に対しても、昔とは違う関係性になっていたり、大人になってそれぞれ家庭を持って立場があったりするけれど、一人一人に対する気持ちも、じんわり伝わって来て。家族のごく日常にありふれた小さないざこざ、互いに感じるコンプレックスとか。そういうものをひっくるめて、じんわり伝わってくるのが面白くて、微笑ましくて、良くて。最後はホロッとしますから」

雨の中の小鉄。この辺りから、少しずつ小鉄の別の面が見え始めます。草彅さん、渋い!

市井マジック、炸裂!

――終盤の展開は、もう、ハチャメチャですよね! でも、それが妙に清々しい。

草彅「みんなで一生懸命“あるもの”を追いかけるシーンが、僕は本当に好きで。やってる時は、“え~!?後でCGかけるのかな?”って思ってたら、そのまんまかよ!と(笑)」

市井「ハハハハハ(爆笑)!」

草彅「でも、そんなの知ったこっちゃないぞ、という市井監督の気持ちが、マジックかけているな、と。みんなで海にたどり着く――リアリティとファンタジーが混じっていて、人が海に還っていくという、すごく深いものを分かって欲しい。昼間はあれだけ遺産争いをしていたのに、みんなで朝陽を見ている、あの気持ちね。順撮りだったからこそ、みんな気持ちが入っていて」

市井「うん、うん(ニコニコ)」

草彅「僕も45歳で、実際に、父ちゃん母ちゃんに会うたびに“年取ったな”って思うから、最後のああいうシーンが、すごく響いてきて。いい映画だなぁ、としみじみ思いました。やっぱり、監督の緻密なホン(脚本)が、人の心を動かすんですね! 公開までに、監督にいただいた原作も読まなくちゃ(笑)」

市井「読まないで観て欲しいけれど、やっぱり小説も読んで欲しい! 映画を観てから、ぜひ、小説も読んでください!」

『台風家族』(市井点線著 1620円/キネブックス)は、監督+妻の市井早苗さんの市井点線名義で公開待機中に出版。 「『箱入り息子の恋』をLEEの映画欄で紹介したのをきっかけに市井監督のファンに。何度観ても泣ける青春映画の佳作『ハルチカ』以来、しかも監督オリジナル脚本の本作を心待ちにしていたので、小説版は予約開始と同時にポチって、届いたその晩に読破しました。小鉄のクズっぷりに呆れて、泣いて笑って一気読み。本当に、本当に公開が決まってよかった…(泣)」とLEE編集部HT子。ちなみに公開が決まった今、ストーリーを知らずに映画を観る楽しさもたまらないだろうなぁ……とも。小説版には、よりディテールが書きこまれている部分も多いので、読んでから観るか、観てから読むか。映画も小説も両方必須なのは変わりませんが、おおいに悩んでご堪能くださいね。

 

 

一気読み必死の原作本も、おススメです!

お話にも出てきましたが、草彅さんの“クソミソダンス”も、必見です! しかもかなり長い時間、踊らされているのも、監督がそれを気に入ったからだろうな、と思いつつ、その舞台裏を知ると余計に楽くなってきませんか(笑)!?

そして何が感動に結びつくのかは、ネタバレになるので言いたいけれど、言えないのですが、本当にこの家族が愛おしくなってしまう!! 俳優陣の絶妙な掛け合いも最高です!

笑ってほろりと泣けて感動が待ち受ける、映画『台風家族」、ぜひ劇場で大いに声を上げて楽しんでください!

折田千鶴子 Chizuko Orita

映画ライター/映画評論家

LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。

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