私の「出産」リアルストーリー

【綿矢りささん】出産して余裕がないからこそ、書きたい世界がはっきりした/私の「出産」リアルストーリー

LEE編集部

「出産」は幸せなことだけれど、実際に経験してみると、それだけではないのも現実。
環境や生活の変化に心が落ち込んだり、子どもへの愛情不足を感じたり、仕事との両立に悩んだり……。
LEE世代を代表する4名が、出産を経て感じた心の揺れやリアルな本音を、余すところなく語ってくれました。

この記事は2019年5月7日発売LEE6月号の再掲載です。


私の「出産」リアルストーリー 02
出産して時間も余裕もないからこそ、本当に好きで、書きたい世界がはっきりした

綿矢りささん[作家]

PROFILE
わたや・りさ●’84年、京都府生まれ。’01年『インストール』で第38回文藝賞を受賞しデビュー。’04年『蹴りたい背中』で第130回芥川賞、’12年『かわいそうだね?』で第6 回大江健三郎賞を受賞。新作『生のみ生のままで』(集英社)が6 月発売予定。

出産リアルDATA

 妊娠中つわりはありましたか?
ありました。けっこう苦しかったですね。食べづわりで、トマトとフライドポテトを交互に食べてしのいでいました。ポテトが本当においしくて、中学生のような気持ちで食べていました(笑)。

 出産のスタイルは?
産院での無痛分娩でした。とんでもない痛みを軽くする麻酔ってどんなものだろうと、麻酔への興味がわき、経験したいと思いました。

 夫は立ち会いしましたか?
立ち会いました。私の陣痛が始まったときに魚介を解凍してパエリアを作ろうとしていて、病院に着いた後も、パエリアのことばかり気にしていてイライラ(笑)。今では笑い話ですね。出産の生々しさや血にもひるむことなく見届けてくれて、産後も家事・育児ともやってくれて、感謝しています。

 仕事にはいつ復帰しましたか?
産後5 カ月ぐらい。体がしんどいのに頑張りすぎてしまい反省。今は、もう少し休んでもよかったかなと思っています。

産後の不調な時期には詩を書くことで救われた

3年前に男の子を出産した綿矢りささん。出産直後は、自治体からの情報で知った産後ケア施設で1週間ほど過ごし、心と体を休ませることができたそう。

「妊娠中に、出産や育児にまつわるコミックエッセイをたくさん読んだんですね。そこに再三書いてあったのが、『産むのがゴールじゃなくて、すぐにマラソンが始まる』『満身創痍の中から全力で走らないといけない』ということ。そういうものなんだ……!と思い、もともと体力にそこまで自信もないし、借りられる手はとことん借りようと。両親学級でその存在を教えてもらい、産後ケア施設を利用することにしました。

出産のための入院から一度帰宅した後に、産後ケア施設へ。助産師さんや、私と同じように出産したばかりのお母さんが一緒に過ごしているので、何かあっても大丈夫だという安心感があるし、ごはんのときは助産師さんが赤ちゃんを抱っこしていてくれて、ゆっくり食事をとることもできる。

実家が遠くてあまり頼れないこともあって、本当に助かりましたね。自治体の補助があり、そこまで費用がかからないのも、大きなポイントでした」(綿矢りささん)

実際に、産後はなかなか体が回復せずに、不調な時期が続いたと言います。

「常に視界がせまく、目を開けても薄暗い感じで、サングラスをかけているみたいな状態だったんです。今考えると授乳しているし、出血もしばらく続いたので、ずっと貧血ぎみだったのかなと思うんですけどね。

骨盤もガタガタで骨盤ベルトをしないと歩きにくいし、体が戻らないと考え方もすぐ悲観的になったりして、ふとしたきっかけでもういやだ!と泣いてしまうことも。産後半年間ぐらいは、けっこうボロボロでしたね。

当然、起き上がって小説を書く気力も体力もなかったのですが……当時は、寝転がりながら、携帯電話のメモなどに、詩を書いていました。『ここは血の海だ』みたいなグロテスクな内容の詩(笑)。

普段は、詩を作ることはしないんですよ。でも、私はやっぱり書くことで自分の思いを吐き出せるし、書いたものを2〜3回読み返すと自己完結できて、すっきりするんです。産後の大変な時期も、もしかしたら書くことに救われていたのかなと思いますね」(綿矢りささん)

徐々に体調が回復して、1歳前に子どもが保育園に通い始めてから、ようやく新しい作品に取り組めるようになったのだそう。日中にまとまった時間を仕事に費やせるのが、貴重なことだと実感!

「私は、思いついたときに作品のキーワードになる言葉や思いついたシーンをパラパラと書きためているのですが、それらをまとめる作業を、子どもの保育園の日に集中して行いました。

子どもが生まれると、ごはんを食べさせたり、お風呂に入れたりと、生活に重きをおくことが必要になる。産後しばらくは、子どもが『バナナが食べたい』とグズったり、泣いてしまったりすると、作品に向かっていた気持ちが霧散して、書く意欲がだんだんと薄れていく感覚があったんです。

時間がたつと、断片的に記録していたシーンなどもつながりにくくなるので、忘れてしまわないうちにまとめたい、と思う気持ちもあって。限られているからこそ、以前よりもずっと、焦燥感を持って仕事に取り組んでいるかもしれません」(綿矢りささん)

仕事への意識だけでなく、作品として書きたい世界観も、出産前とは大きく変化したのだと言います。

「慌ただしい現実とは違う、ゆったりとした生活のことを書きたいと思うようになりましたね。

出産前は、作品と現実がそこまで乖離していなかったのですが、今は作品と現実がどんどん離れていっているなと感じます。書くことで現実逃避しているかのような……。描写ひとつとっても、ごちゃごちゃした部屋で生活していながら、片付いた整然とした部屋を描きたいと思ったり(笑)。

世界観も、青春時代のことや恋愛についてなど、今の自分の生活にはまったくない要素を書きたいなと強く思います」(綿矢りささん)

妊娠中に読んだのが、谷崎潤一郎の『卍』。私ならこう書く! と心が動きました

そんな中で生まれたのが、人との付き合いやコミュニケーションが苦手な大学生の女の子が主人公の『オーラの発表会』と、女性同士の濃い恋愛を描いた『生のみ生のままで』。特に後者は、妊娠中の読書が創作のきっかけに。

「もともと同性愛の映画や小説はよく観たり読んでいて、耽美な世界観の作品が好きで、自分も描いてみたいなと思っていたんです。

妊娠中に、谷崎潤一郎の『卍』を読んだんですけど、主人公の女性が憧れの女性に激しく迫るシーンがあって『これは、私だったらもう少し違う書き方をしたいな』と思った。

谷崎潤一郎はすごく好きだし、普段は文豪の作品に対して、こんなことを思わないんですよ。でも、今回は自分の熱い思いを感じて、こだわりに気づくことができた。もしかしたら妊娠中に読んだことで、受け止め方が鋭敏になっていた、ということもあるのかもしれません。

『生のみ生のままで』は、昨年の夏から秋ぐらいにかけて一気に書き上げました。私は、前から男性の描き方が難しいなとよく感じていて、いつも理想の男性像を投影してしまったり、細部の描写がぼやけたりしたんです。

でも、女性のことは当然ながらすごくよく知っているし、こういうことを言うときはこう考えているとか、会話の内容とか、女同士の友情とか、想像がしやすいし書きやすいんです。女性同士の濃密な関係を描くのは本当に楽しくて、書き上げた後に、やりきった爽快感がありました」(綿矢りささん)

今後も「好きな世界を書き続けていきたい」と綿矢さん。

「こだわりや愛情を感じられる主題に向かって、これからも書いていけたらいいなと思います。好きな世界を描いて現実逃避をしつつも、子どもと一緒に過ごす実際の生活でも、集中を絶やさず暮らしていきたい。

書くことはアウトプットなのですが、読んだり見たり聴いたりのインプットをしているときと同じぐらい、娯楽や癒しにしていければいいな、と思っています」(綿矢りささん)


撮影/名和真紀子 ヘア&メイク/千葉智子(ロッセット) 取材・原文/野々山 幸
この記事は2019年5月7日発売LEE6月号『私の「出産」リアルストーリー』の再掲載です。

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