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前川喜平さん×谷口まゆみさん対談!社会へのモヤモヤした違和感を声に出す方法を、痛快コンビが教えます。

  • 中沢明子

2019.06.09

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痛快対談本『ハッキリ言わせていただきます!』のお二人がLEEwebに登場!

昨今、「あれ? それ、何かがちょっとおかしいような?」と疑問に思いつつ、多忙な日常にまぎれ、やり過ごしてしまう問題が社会にあふれている気がしませんか。暮らしや教育といった、本来、生活に密着した分野で次から次へと起こる諸問題に関心はあっても、なかなかその件について話す場もなく、「おかしい」と批判の声をあげようものなら、逆に誰かに批判されるかもと委縮し、つい黙ったままでやり過ごしてしまう。でも、本当にそれでいいのだろうか――。

7月には参議院選挙が行われます。令和最初の大型選挙。いつも以上に「政治」や「社会」に思いを巡らせる時期になりそうな今だからこそ、しっかり考えたい。

そこで今回は、改めて私たち自身のモヤモヤした思いを「声」にするための心構えや方法を、先ごろ、痛快対談本『ハッキリ言わせていただきます! 黙って見過ごすわけにはいかない日本の問題』を上梓した、元・文部科学省事務次官の前川喜平さんと大阪国際大学准教授で“全日本おばちゃん党”の谷口真由美さんに教えていただきました。

 


左:谷口真由美 大阪国際大学准教授。全日本おばちゃん党代表代行。1975年、大阪府生まれ。国際人権法、ジェンダー法などが専門分野。非常勤講師を務める大阪大学での「日本国憲法」講義が人気で、一般教養科目1000科目の中から学生投票で選ばれる“ベストティーチャー賞”を4度受賞。TBS系『サンデーモーニング』、朝日放送『おはよう朝日です』『キャスト』、ABCラジオ『伊藤史隆のラジオノオト』をはじめ、TV、ラジオ、新聞のコメンテーターとしても活躍。2012年、おばちゃんたちの底上げと、オッサン社会に愛とシャレとを目的に、Facebook上のグループ「全日本おばちゃん党」を立ち上げ、代表代行を務める。著書に『日本国憲法 大阪おばちゃん語訳』(文藝春秋)、『憲法って、どこにあるの?』(集英社)などがある。
右:前川喜平 元・文部科学事務次官。現代教育行政研究会代表。1955年、奈良県生まれ。東京大学法学部卒業。’79年、文部省(現在の文部科学省)入省。’94年、文部大臣秘書官。’10年、大臣官房総括審議官。’12年、大臣官房長。’13年、初等中等教育局長。’14年、文部科学審議官。’16年、文部科学事務次官。’17年、退官。現在、自主夜間中学のスタッフとして活動しながら、講演や執筆を行っている。著書に『面従腹背』(毎日新聞出版)、『これからの日本、これからの教育』(寺脇研氏との共著、ちくま新書)などがある。

自分のためではなく、誰かのためなら、声を出しやすい

――お二人の対談本、「そうだったのか!」と「そうそう!」という発見と共感がたくさんありました。ただ、お二人のように、ズバリと問題に斬り込むのは、なかなか難しいとも感じています。

谷口:LEE読者さんは社会の動きに敏感で、マジメにいろんなことを考えている方が多いというイメージを持っています。そのぶん、内にストレスを抱えていらっしゃるかもしれませんね。空気を読むのも上手でしょうし、おかしいな、という思いがあっても、こらえてしまう場面があるのでは、と想像します。でも、自分“だけ”のためなら、いわゆる同調圧力に従う選択もアリかもしれないけれど、子供や友達のためなら、声を出しやすいのではないでしょうか。「これを今、言うことが誰かのためになる」と信じられたら、声を上げたり、行動を起こしたりすることができる人たちだと、私はLEE読者さんをとらえています。

――まさにそうだと思います。もちろん、ファッションや料理、暮らしといった特集が軸となる雑誌ですが、集団的自衛権について考える記事や自分にできる社会貢献といった記事にも、大きな反響があります。

前川:へえ、そんな記事もあるんですか。それに反響があるというのも、素晴らしい。

谷口:でしょう? きっとLEE読者さんはマジメで、コミュニケーション能力が高いんですよ。違和感が脳裏をよぎっても、自分が主張することによって誰かをしんどくさせるのではないか、と相手の気持ちを慮るからこそ、大きな声で意見を述べるのを躊躇するのではないですか。だから、こんなふうに考えてみたら、どうでしょう? 静かな水面にコトンと小石を落としたら、もしかすると自分の子供、友達の子供、隣の家の子供、大切な家族や友達にとって良い結果をもたらす可能性がある。可能性がゼロでないなら、少し勇気を出して小石を落としてみよう、という気持ちになりませんか。誰かのためなら頑張れる人が、たくさんいるはず!

前川:私は2年前に文部科学省を辞めて以来、交友関係がガラッと変わり、広がりました。2割くらいは以前の交友関係が続いていますが、8割、変わったかもしれない。たとえば、こうして谷口さんともご縁ができました。新しく出会った人々の中に、それまでまず付き合うことがなかった、30代、40代の女性グループがあります。彼女たちはモヤモヤ感をハッキリした意識に変えた人たち。憲法を勉強するために、憲法カフェで集まるとかね。別に憲法に限らないですよ。さまざまな社会問題を考えるサークルが、探すと結構あちこちにあるんです。私も驚きました。ですから、関心のあるテーマのグループに、ちょっと顔を出してみてはどうでしょう。同じ違和感を持つ、知らない誰かに出会えるかもしれません。そうすれば、自分だけがモヤモヤしているんじゃなかった、と勇気づけられると思います。ただ、僕の講演会などはまだ、60代以上のご年配が多いんですけど(笑)。

谷口:あ、ご年配が多いって、わかります! 50歳から60歳ぐらいになると、何かを脱ぎ捨てられるというか、気を遣いすぎることもなく、「声を出していいんだ」としっかり主張できるようになる。人生半分生きて、これからは好きに生きたらええんちゃうか、と楽に、自由に、発言できるようになる。逆に言えば、30代、40代は悩み多き世代なんですよ。隣の家が子供にそろばん習わせているならうちも習わせないといけないかな、なんて、周りが気になるでしょうから。だから、悩みが尽きない。

 

 

疑問形で話しかけ、思いの共有をはかる

 

「水面に小石をコトン、と落とすように、モヤモヤした思いを疑問形で、誰かに語り掛けてみてください」(谷口さん)

 

――LEE世代は悩み多き世代……。本当にそうだと思います。

谷口:社会や政治の諸問題にハッキリ物申す私に「おっしゃることはよくわかりますが、疑問に思うことを、私はうまく友達に伝えられません」と言う方が多いんです。それにはいい方法があります。疑問形で訊ねるんです。たとえば、「ねえねえ、最近、先生が減っているみたいね? あれ、なんで?」と訊ねる。仮に理由を知っていても、です(笑)。訊ねられたほうは「あ~」とか「ふーん」といった反応も含めて、何か答えようとしてくれる。「そうなの? 減ってるの?」と疑問形で返してくれるかもしれない。「そうなのよ、実はね……」と持っている情報を開陳してくれるかもしれない。開陳してくれたら、こちらも開陳すればいい。「なんや、あんた理由知ってるやんってなるかもしれないけれど(笑)、「どう思う?」と自然に会話につながります。ささやかであっても、お互いの反応や情報をシェアできる。これが、「水面に小石をコトン」です。そのやりとりが、さざなみとなって、広がっていく。疑問形は使えますよ! ぜひ、試してみてください。

――なるほど! 自分の意見を押し付けず、疑問形で「水面に小石をコトン」!

谷口:私が住んでいる大阪では学校の先生が本当に足りていません。先生方があまりにも忙しすぎて適応障害など、心身に負担がかかり、お休みされるケースも多い。たとえば実際に、5クラスある学年で3人の担任の先生が学校に来られなくなった、というケースがありました。「それ、どないすんねん!」ですよ。だから大阪市の教育委員会に親たちが相談したところ、補充を待たれている先生の数が79人だったそうです。先生が最低でも79人、足りていない。私はその話を聞いて、ドッヒャーとなりました。そんな事態になっているのは、先生が悪いわけではもちろんなく、別の条件がさまざまに重なっているわけで、絶対におかしいですよ。もはや学校の問題ではない。地域の問題であり、大阪市の問題です。だから「じゃあ、どうする?」「なぜそんな事態になってるの?」と、小出しと疑問形で問題をコミュニティで共有したほうがいい。そして、この話も女性たちの口コミで私の耳にしっかり届きました。女性の伝播力はすごいです。コミュニティの中で反応のある人、ない人、そりゃあ、いろいろな人がいるでしょう。でも、教育で食いつきのいい人、憲法で食いつきのいい人、安全保障で食いつきのいい人、つまり、マターごとに、少しずつ、必ず新たなコミュニティが生まれていくものです。同じ関心事や心配をしていたママ友と「立ち話もなんやし、今度うちくる?」なんて関係性が生まれるかもしれない。どうせ何も変わらない、と諦めない気持ちは大切です。

 

「素朴な、ちょっとした違和感というのは、実は大切です。それは本質的な問題に関連しているケースが多いからです」(前川さん)

 

――モヤモヤを一緒に話せる人を少しずつ増やしていくための、小さな行動が肝要なんですね。

前川:対話を通じて学んでいく。いやあ、まるでソクラテスのようですね。素朴なちょっとした違和感って、実はものすごく大事なんですよ。本質的な問題に突き当たっている可能性がある。だから、自分を無理におさえつけなくていいと思います。

谷口:おかしいと思っているのにおかしいと言えない背景には、なんらかのパワーが働いている。白ということになっているけれど、私には赤に見える。でもそれを怖くて言えない社会にしてはいけない。私は今の政治がまるでDVのように感じます。たまに良いことを言ってくれて盛り上がる時もあるけれど、たまだからこそ、特別にすごーく良いことを言ってくれた気がしてしまう。そうこうしていると、借金がたくさんあるのに、海外でお金をばら撒き、誇らしげに「この道しかない」とか言い始める。その前にあんた、借金、どうするつもりなん? ギャンブルで勝ってくるから大丈夫、みたいな話なん? そんなん、めっちゃ心配やわ。それで私は、今の政治は国家的DVである、と原稿に書いたことがあります。

前川:ドメスティック・バイオレンスのドメスティックは家庭と訳すけれど、ドメスティックとは国内という意味もあるからね。トランプさんのご機嫌をとるために、莫大な額の武器を購入する一方で、国内ではお金が全然足りていない。なるほど、国家的DVかもしれません。ところで、昨年はできるだけお引き受けしようと思って、230回も講演をさせていただいたんですが、聞き手の方は女性が多いんです。そして、「夫は安倍さんを支持しているけれど、私は違います」なんておっしゃる方もかなりいる。先ほど申し上げた通り、60代以上のご年配が多いんですが、言ってみれば、夫のある種の支配から脱出し、完全に「個」としてのご自身を強くお持ちになった方々だと感じています。

 

 



今の社会を「心地よい社会」だと思っていますか?

 

「あなたが関心を持っているテーマを共有できるグループがきっとあります」(前川さん)
「今、起きている事象をとらえて、考えてみる姿勢を持つといいのでは、と思います」(谷口さん)

 

――そうはいっても、下の世代であるLEE世代は、そのような「声」を大きく出すことができません。無力感に苛まれる気持ちもあります。それでも今、意志を示し始めないと間に合わないというか、待ったなし、といった状況のような気がしますから、ジレンマを抱えていらっしゃるLEE読者も少なくないと思います。

谷口:無力感に苛まれる気持ち、よくわかります。でも、ダイエットしたいのにダイエットする前から諦めてしまったら、1㎏も痩せないでしょう? 甘いお菓子ばっかり食べていたら、身体を悪くします。大人として闘わなくてはならない時があるし、物事を直視する力をつける必要だってある。何かモヤモヤとした違和感があるなら、できる範囲で現実を勉強して、水面に小石を落としましょうよ。

前川:最初の話に立ち返ると、「自分たちの子供の未来が危うい」という感覚を持つ親は多くいるはずです。「このままでいいのか?」という違和感があるなら、子供たちの「ため」に考え、行動しなければ、と思えるのではないでしょうか。少なくとも実際、学校の現場は今、危うくなっています。先生が足りないのも困りますし、教科書の中身についても賛否両論ありますし、問題が山積しています。最近の道徳の教科書は、一度、目を通されたほうがいいと思います。まるで減私奉公を奨励するように、全体のために我慢して自分を役立てなさい、といった内容です。私は極めて危険だと思っています。近現代史を遡ると、日本の教育は1930年頃を境にガラッと変わりました。大正時代は「大正自由教育」という教育方針であったのに、あっという間に軍国主義に傾いていった。急激に変わったんですよ。

――過去から学ぶ姿勢は大切ですね。

谷口:好き嫌いで一刀両断するのではなく、事象をとらえることが肝要です。今、起こっていることを見つめないと。今、起きている事象から感じる社会は「心地よい社会」ですか? そんな「そもそも論」をすっ飛ばしたり、軽んじたりするのはダメだと私は思います。

前川:保育園や学童が足りない、といった、まさにLEE世代が直面している問題だって、政治の責任が大きい。最近、「小さい政府」が良いと言われていますが、仮にそうだとしても、人をあまり大切にしない政治が続いている印象があります。「それはおかしい」と声を、やはりあげていくべきだろうと思います。高齢者たちに、もっと子供たちの未来を考えてもらわないといけませんしね。選挙投票に行くのは高齢者が多いというのは、LEE読者さんもご存じでしょう。高齢者の人生も大事ですが、子供たちの未来については、意識しないとこぼれていく危険があります。だから、まず、親世代に訴えていくのも良い方法です。孫の問題は政治の問題なんだ、と。もし、ご両親に時間があるようだったら、陳情しにいってほしい、と頼むとかね。これまでのPTA制度では限界がきていますから、コミュニティのCを加えPCTAで取り組む必要があるのではないでしょうか。そのCの中におじいちゃん、おばあちゃんも入ってもらう。PCTAで子供たちを見守っていけるようになったらいいと思います。みんなで少しずつ力を合わせて、社会を変えていきましょう。

 

たくさんのヒントをくださった、前川さんと谷口さん。私たちそれぞれが、少しずつでも動けば、社会はきっと変わる。これからの未来をみんなでより良く変えていく方法は、身近なところにありそうです。

 

取材・文=中沢明子 撮影=齊藤晴香

 

 

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中沢明子 Akiko Nakazawa

ライター・出版ディレクター

1969年、東京都生まれ。女性誌からビジネス誌まで幅広い媒体で執筆。LEE本誌では主にインタビュー記事を担当。著書に『埼玉化する日本』(イースト・プレス)『遠足型消費の時代』(朝日新聞出版)など。

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