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ママの詫び状

中野ジェームズ修一さんに聞く!医師の「運動しなさい」に、大人の女が最初にすべきこと【河崎環・ママの詫び状 第11回】

  • 河崎環

2019.02.07

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オトナ女子会、「なにか健康にいいことしてる?」が合言葉になってきた……

40歳を過ぎた頃からだろうか。ワインと国内外の美味しいものが満遍なく大好きな、舌も目も耳も肥えた大人の女たちで集まると、ワイングラス片手にひとしきり自分たちや世間のあれこれの話に花を咲かせ、4杯目くらいのまったりとした空間に小さな沈黙が過(よ)ぎる。すると誰かしらがふっとため息をついて、「ねえ、そう言えば、なにか健康にいいことしてる?」なんて聞くようになった。

さすが「お年頃」ならでは、ぽつぽつと告白が出てくる。
「実は私、こないだ健康診断で引っかかっちゃって……」「私は○○が見つかったわ」「経過観察? ならまだどうにかなるよ、私は血糖値がヤバくて、糖尿病予備群の予備群って言われちゃった」。

「運動しなきゃね」「うん、運動しなきゃだよ」と、皆でテーブルの上の美酒と美食の残骸をじっと見つめるのだ。

そうは言いつつ大皿に残ったピンチョスなどをさらに1つ2つつまみながら、ときどき女性専用ジムでマシントレーニングやってるよ私、私は岩盤ホットヨガ、ピラティスもいいよね、などとライトな運動の情報交換。そこに「私、実は走ってるの。目標はハーフマラソンなんだ」なんて人が登場すると、「やだっ、道理でさっきからあんまり飲まないよね!」「ちょっと、どういうこと! そのへん詳しく!」と大騒ぎである。

 

医師に「運動しなさい」と言われたら最初に読む本(中野ジェームズ修一/日経BP社)

運動しなきゃ、は、もうよーく分かっている。数値的にもそろそろヤバい、いや、人によっては待ったなしということもあるだろう。でも時間が、仕事が、子育てが。私お酒好きなのよね、美味しいものもやめられない。スポーツするとアウトドアで肌とか髪とか痛みそう、筋肉つくと太くなりそう、そもそもスポーツ苦手だから続かなそう(以上全て「イメージ」)……など、まったく、世知に長けたオトナ女子は言いわけ上手だ。

でも、その上手な言いわけで先送りした結果、徐々に削られていくのは、自分の健康である。そして、その結果を引き受けるのも、自分である。食べれば問題を解決してくれそうな健康食品やサプリはせっせと摂るし、塗れば問題を解決してくれそうな化粧品は買うし、着ければ問題を解決してくれそうな下着にも投資する。なのに一番大事な自分の体という土台の問題解決は先送りしちゃう、それが私たちだ。

平成最後だし、オトナなんだから、もう言いわけを並べる人生はやめようと思う。ていうか、高齢化社会の医療・介護のパンクを下から見ている私たち世代に、もう言い訳してる時間はない……。いま始めなきゃ。

でも、じゃあまず、何をしたらいい? そう思っていたらドンピシャの本を見つけた。『医師に「運動しなさい」と言われたら最初に読む本』。まさに私たちのためにあるような本じゃない!? 著者は多くのトップアスリートや青山学院大学駅伝チームのフィジカル強化指導も担当するフィジカルトレーナーの第一人者、中野ジェームズ修一先生。それは絶対に教えを乞いに行かねば!

ダイエット至上主義で低筋力化のスパイラルにはまる現代女性

青山学院大学駅伝チーム、卓球の福原愛選手など、多くのアスリートから絶大な支持を受けるフィジカルトレーナー、中野ジェームズ修一さん

健康というと、私たちは肥満の解消、ダイエットのことだと思いがちだ。運動しなくても食べる量さえ減らせば細くはなるから、太ってさえいなければそれで健康なのだと勘違いしている。でも「食事制限をすると確かに体重が減りますが、筋肉量も落ちるということを意識できている女性は少ないかもしれません」と、中野さんは話す。

東京で会員制パーソナルトレーニング施設の技術責任者も務める中野さんは、アスリートだけでなく、俳優やモデルなどのフィジカルの調整も数多く担当してきた。体重を減らしたい、体を絞りたいというクライアントの希望があると、必ず食事指導も合わせて行い、まず筋肉量を維持しながら体脂肪を落とし、そして数値としての体重が落ちていくよう指導するそうだ。

「1ヶ月で体重が3kg以上落ちた場合、私たちトレーナーは『失敗』としてとらえる場合が多い」と言うから、体重が少なければいいという痩せ信仰の刷り込まれた私たちには驚き。「これだけ急激に体重が減るということは、体脂肪だけでなく筋肉量が落ちてしまっている可能性が高いからです。すると基礎代謝量が減少し、リバウンドしやすくなってしまいます」と、中野さんは続ける。

食べ過ぎなどによる体脂肪は、男性はほとんどが内臓脂肪、女性は皮下脂肪として蓄積される。有酸素運動によって効率的に体脂肪を燃焼させるためには、筋肉量が重要。筋肉量の少ない人が有酸素運動を行っても脂肪燃焼量は低いので、筋力トレーニングで筋肉量を上げ、リバウンドしない体のために基礎代謝量も上げる必要があるのだ。「運動を始めたら、体重ではなく体脂肪の減少で成果を判断してください」。

女性がダイエットを意識して極端なカロリー制限をすることにも、ハンサムな中野先生は渋い顔をする。「野菜ばっかりや単品ダイエットなど、バランスの悪い食生活による極端なカロリー制限をすると筋肉量が下がって、基礎代謝も下がります。体は、必要なエネルギーが足りないとため込もうとする反応を起こし、体脂肪率はかえって上がってしまう。だからカロリーのみに着目したダイエットを続けてきた主婦などが、一見痩せて見えるけれども筋肉がなく、体脂肪率45%などの異常値を出しているケースも多いのですよ」。

次々とくつがえされる「女子的健康の常識」

うーん、では改まって筋トレなどしなくても、日常の動作で筋肉を育てることはできないのか? 例えば掃除や洗濯をしながら膝を曲げてみましょうなんていう「ながら運動」などもメディアで紹介されているのをよく見かけるし、小型犬を散歩させながらウォーキングウェアで優雅に歩いているマダムもたくさん見るから、犬の散歩などはどうだろう?

「運動を全くしない人が運動を意識するための切り口として、そういうのを提唱したいのはわかります。でも脂肪を燃焼させるにも、ある程度の運動強度で心拍数を上げることが必要です。ながら運動なども、その動作量で筋肉量が増加するかどうかは、証明されていないんです。筋肉を作る設計図となるのは男性ホルモンですが、男性ホルモンの少ない女性が筋肉量を増やすのは大変なこと。私たちトレーナーでも、なかなか女性クライアントに筋肉がつかなくて苦慮するんですよ。例えば筋肉を伸ばす運動であるホットヨガでは、汗はかいても筋肉はできない。強度の低い日常のちょっとの動作で筋肉がつくのなら、苦労はないのです」(中野さん)。

では同じ日常の運動量でもプロテインを飲んで筋肉をつきやすくさせるのは? 脂肪の燃焼を助けるサプリなんてのもいろいろ売ってますし。あっ、EMSで電気ピリピリ通して筋肉育成、なんてのも流行っていますよね! 「先ほども言いましたが、脂肪を最も効率よく燃焼させることができるのは有酸素運動で、筋肉量が重要です。そして運動を避けて筋肉量を上げることはできません。筋肉を作るのは筋トレだけ、EMSの電気刺激だけでは筋肉はできませんよ。それから、プロテインは飲めば筋肉がつくのではなくて、筋トレをしたあとの筋肉の修復を助けるのです。信じている女性が多いようですが、ソイプロテインは細い筋肉、ホエイプロテインは太い筋肉になるというのも誤解です。日本人に多い乳糖不耐症で乳製品由来のホエイプロテインが苦手という人は大豆由来のソイプロテインに切り替えるという、選択肢の問題だけですよ……」と、中野さんは河崎の質問攻勢にちょっと困ったようにため息をついた。

正しい運動法を選ぶ3原則

いろいろじたばたと質問してみたけれど、やっぱり医師に運動しなさい、と言われたら、素直に運動するのが一番ということ。でも、その運動も自己流ではなくて、正しい運動を続けたい。中野さんによれば、自分に合った運動法を考える時、以下の3点に気をつけるといいそうだ。

1 習慣的にできる運動か

運動は、イベントであってはいけない。「運動? しているよ」と言っても、それが季節の登山やピクニック、スポーツイベントや体験会に参加したりということではなくて、毎日の歯磨きと同じように毎週何曜日何時に何をするかという具体的な習慣になっていなければ意味がない。

2 正しい選択種目か

着目するのは、消費カロリーの適正さと、筋肉量を増やすプログラムかどうか。筋肉は強い負荷を加えなければ育たないし、過剰に摂取した糖や脂肪を消費するには「ややきつい~きつい」と感じる程度の強度で長時間行うことが必要で、本人が「楽かも」と思える内容では効率良く消費されない。

3 楽しいか

最低でも3ヶ月は継続する必要があるため、楽しくなければ続かない。3ヶ月すれば何かしら結果が出て、自分にも成果が出せるとの実感が持て、モチベーションが維持できる。その際、体重ではなく、体脂肪が落ちていることで評価すること。

実は「健康維持のための運動」の中身も、30年前と今ではだいぶ違ってきた。以前、私たちは「有酸素運動は20分以上行わないと脂肪が燃焼されない」と聞かされていたけれど、今はそれは間違い。1日に10分の運動を3回行うことでも十分に脂肪の燃焼と健康の維持が期待できるのだそうだ。

「医学やスポーツ理論が進化する一方で、私たちを取り巻く社会が変わり、生活の強度も下がりました。インターネットやAIの発達で、快適な反面、人によっては丸一日ほとんど動かないような恐ろしい時代になってくる。運動習慣のある人とない人では大きな違いが出ます。そういう社会状況だからこそ、自己流で誤った方法を続けたり挫折したりするのでなく、運動指導の専門家が教える医学的に正しい運動法を知ってほしいのです」(中野さん)。

美味しいものは食べていい。「過去をなかったことにする」のはサプリじゃなくて正しい運動

糖尿病対策エクササイズの一例(『医師に「運動しなさい」と言われたら最初に読む本』より抜粋)

中野ジェームズ修一さん、冒頭で紹介した著書が発行部数10万部突破の大好評で、先日はとうとうTBS系バラエティ番組「中居正広の金曜日のスマイルたちへ」(金スマ)でも血糖値を下げるエクササイズ紹介で出演、さらなる反響を呼んだ。出演者からも「わりとキツいね!」とのコメントが出た、しっかりとした全身運動だ。

「食事をすると血糖値が上がる。その血糖値が高い状態が続くと糖尿病になり、血管がダメージを受けてやがて動脈硬化などの合併症を起こすのですが、現在日本には予備群も含めて2000万人以上も糖尿病を患う人がいると推計されています。ケーキなどの美味しいものは我慢せずに食べてもいいから、代わりにすぐ体を動かして糖を使えば、過去を後悔することもないし、筋肉もついて代謝が上がる。食べ過ぎても消費してくれる体を作れるのです」と、中野さんは女性ももっと運動に積極的になってほしいと訴える。

痩せ信仰のせいで体重の数値にばかり目が行き、車で言えばエンジンとなる筋肉が不足している現代の日本女性。筋力低下を放置すると最終的に待っているのはロコモティブシンドローム(運動器症候群)で、自分ひとりで日常生活を送ることが難しくなる。さて、運動しよう、と思いますよね? 私は痛切にそう思いましたよ!

まずはぜひ、中野さんの著書で正しい運動知識を。糖尿病やメタボ予防エクササイズ、肩こり、腰痛、ロコモ対策エクササイズなどが1冊にまとまっていて、読者特典でスマホ・Webでエクササイズ解説動画も見られます。

河崎環 Tamaki Kawasaki

コラムニスト

1973年、京都生まれ神奈川育ち。22歳女子と13歳男子の母。欧州2カ国(スイス、英国)での暮らしを経て帰国後、子育て、政治経済、時事、カルチャーなど多岐に渡る分野での記事・コラム執筆を続ける。2019秋学期は立教大学社会学部にてライティング講座を担当。著書に『女子の生き様は顔に出る』(プレジデント社)。

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