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峰典子

春の暮らしにとりいれたい。パレスチナ女性による伝統の手刺繍。

  • 峰典子

2019.02.09

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まだまだ寒い日が続きますが、ずっしり重いコートも飽きてくるころ。天気の良い日には軽やかなコートでお出かけしたくなりますね。こんな季節には、鮮やかな手刺繍を施したファッションアイテムをプラスワン。とたんに春が待ち遠しくなりそうです。実はこの刺繍、パレスチナの女性たちが一針ひと針、手作業で刺したものなんです。

母から娘へ。受け継がれてきた伝統の刺繍。

パレスチナと聞くと、ニュースでは耳にするけれど実態がつかめない場所、と感じる方も多いかもしれません。アジアの端に位置し、ヨーロッパ、アジア、アフリカに通じる場所として、多様な外国文化から影響を受け、古くから栄えてきた豊かな土地です。

パレスチナの手刺繍は、母から娘へと受け継がれてきた伝統文化。アフリカンテイストを彷彿とさせる鮮やかなカラーリング、ギリシャやヨーロッパから技法を取り入れた金糸刺繍や繊細なクロスステッチ。模様も色も素材も手が込んでいて、作り手が一針ひと針、手間を惜しまずに作ったのがよくわかります。かつては、花嫁衣裳やクッションカバーなど、祝い事や日々の暮らしに彩りを与えてきたそうです。

(C)Osama Silwadi 民族衣装の技は世界的にも有名で、大英博物館にも収蔵されている

 

パレスチナのこと、知っていますか?

古代この辺りに住んでいたユダヤ教徒(人)は、ローマ帝国によりパレスチナから追放され、約2千年の間、中東地域やヨーロッパで離散し、生活することになりました。一方、この地域に残った人たちは、様々な戦争をくぐり抜け、キリスト教徒もユダヤ教徒も共存してきました。

時は流れ19世紀。ヨーロッパで迫害が広まるなか、多くのユダヤ人がかつての住処であるパレスチナに移り住みます。当初は、この土地に長年住んできたアラブ人とも共生し平和に暮らしていましたが、「ユダヤ人国家をパレスチナにつくりたい」と考える人たちの勢力が強まって、武力衝突が起こるようになりました。

第二次世界大戦後、この土地を分割しアラブ人国家とユダヤ人国家をつくるようにと国連で決議があがります。しかし、元から住んでいた多数派のアラブ人がそれを拒否。ユダヤ側は一方的にイスラエルの独立を宣言したため、戦争が勃発します。

587万人のパレスチナ難民、
過半数が子どもたち。

4度にわたる中東戦争で、70万ものユダヤ人がパレスチナを追い出され「パレスチナ難民」となりました。故郷と家を失い、ヨルダン川西岸地区、ガザ、ヨルダン、レバノンなどに逃れました。それからなんと70年が経過。現在は約587万人(世界の難民の4人に1人)いると言われているパレスチナ難民は、過半数が子どもたちだそう。パレスチナの独立や和平に向けた話し合いや交渉は続けられていますが、解決のめどは立っていません。国連や海外の援助も減っており、難民たちには厳しく制限のある生活が続いています。

電線と配水管が絡み合う難民キャンプ。子どもの姿も多い。

難民はすでに3世代、4世代に及び、キャンプは老朽化し生活環境は悪化する一方。しかし、そんな中でも、粛々と母から娘に受け継がれていたのが、伝統の手刺繍。国連開発計画(UNDP)により立ち上がったのが「パレスチナ刺繍プロジェクト」。刺繍でパレスチナ女性の自立を支援しようという働きかけです。



難民キャンプで暮らす女性を、刺繍で支援。

「パレスチナ刺繍プロジェクト」は、1千年前から続くパレスチナの伝統刺繍の職人を育成し、女性の自立を応援しよう、というもの。たび重なる戦争で男性を失った家族、夫がいても失業して収入が安定しない家庭…。そんななか、子どもたちを抱え、特別な技術を持たない女性たちが生計を立てるのはたやすいことではありません。家にいながら自由に作業ができる刺繍は、女性の収入源にぴったりなのです。

色や模様には作者の個性が活かされていて、一点ものも少なくありません

黒地に多色の糸を用いるビビッドな刺繍は、触ってみると肉厚で重厚。細密なクロス・ステッチ技法で模様を浮かびあがらせているんです。花や木、星や月といった身近にあるモチーフが多く見られ、同じモチーフでも、町や村によって少しずつ異なり、衣装の刺繍を見れば、出身地がわかるとも言われています。

(左上から時計回りに) カリフラワー、鳩、ヘビ、月、ランプ、ヤシの木、はしご、石鹸、燭台

パレスチナ刺繍を楽しめるショップ、タトリーズ

手にするだけでウキウキする、鮮やかなポーチ

パレスチナの伝統柄を復刻したクッション

パレスチナ刺繍ショップ「タトリーズ」は、アラビア語で「刺繍」を意味する言葉。タトリーズは、子どもたちや家族を支えるすべての女性たちを応援しています。国連開発計画(UNDP)とパートナー契約をして、伝統刺繍を小物にアレンジし、日本市場で販売。販売金額の4分の1が女性の手間賃となります。

刺繍商品は、1点1点手作業により制作しているため、同じ製品でもサイズ違い、色違いなどの多少の個体差が。それがまた愛らしく、パレスチナ女性の愛情や手間を感じさせてくれます。パレスチナで育つ子どもと家族の生活を支える手刺繍、みなさんのお手元にも、ギフトにもオススメの逸品です。

パレスチナ刺繍『タトリーズ
※金額の約4分の1が女性たちの手間賃となります。
その他は、材料費、刺繍プロジェクトの運営費、輸送や梱包費用、輸入関税や販売経費として使われます。

タトリーズの母体である『パレスチナ子どものキャンペーン
※刺繍以外でのボランティアや寄付などの受付をしています。千円があれば、15食の給食を子どもたちに用意したり、お母さんが産婦人科検診を受けることができます。

峰典子 Noriko Mine

ライター/コピーライター

1984年、神奈川県生まれ。映画や音楽レビュー、企業のブランディングなどを手がける。子どもとの休日は、書店か映画館のインドアコースが定番。フードユニットrakkoとしての活動も。夫、5歳の息子との3人家族。

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