LIFE

経験を重ねた今こそ響く、人生の処方箋!

小島慶子さん、岩永有理さん、菊池亜希子さん、それぞれの「心に効く」恋愛小説

  • LEE編集部

2018.11.24

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Romance novel

第一線で活躍する、同じLEE世代女性たちが、心に効いた恋愛小説を紹介してくれました。

小島慶子さん(エッセイスト、小説家)の場合

経験と知性で読める、美しい世界がある

私たちLEE世代が、なぜ今になって恋愛小説に心打たれるかというと、すでに現実という名の砂漠の果てを十分に見ているからです(笑)。

20代の頃、恋愛は砂漠にある蜃気楼のような存在で、私たちはそこへと迷わず駆け出していました。しかし30代・40代になると、もはや私たちは砂漠の中をたくましく生き抜く部族へと進化。蜃気楼が幻であることを知っていて、駆け出しはしません。でも恋愛小説を紐解くと、かつての自分に見えていた理想郷がふわあ~っと立ち上ってくる――。砂の中に消えたはずの女がまだ自分の中に生きていたと知るのです。それが30代・40代で恋愛小説を読む醍醐味。

蜃気楼を別の角度から味わえる今だから、私も小説の読み方が変わったし、経験と知性を蓄えたLEE世代が理解できる美しい世界が詰まった作品を、おすすめしたいと思います。

 

小島さんの「心に効いた」恋愛小説

右:淡々と描かれる禁忌の恋
『水声』 川上弘美/¥600 文春文庫
姉と弟の愛という、タブー中のタブーを描いた長編小説。この手のテーマはポルノか、神話化されることが多いですが、本著はそのどれでもない。最も近い異性だけど、やっぱりわからないという二人の絶妙な距離感が美しいし、大人ならではの世界観だと思います

中央:極限まで高まる純度に泣く!
『曾根崎心中』 角田光代/¥1400 リトルモア
あまりの純度の高さに涙せずにはいられない名作。なぜ泣いてしまうかというと、主人公が純粋な恋愛とは最も遠い場所にいる、廓の女性だから。古典作品も、角田光代さんの手にかかるとまるで目の前に起きているかのごとく、鮮やかな感情を掘り起こしてくれます

左:愛に惑う女たちの共闘物語
『女神記』 桐野夏生/¥590 角川文庫
自分を裏切った男を許せない神様と、男に哀れみをいだく人間の女、そして仕事に生きる女のシスターフッドの物語。女性が社会で背負わされる怒りを、この作品は代弁してくれていますし、女性の理不尽な思いの受け皿になってくれるのが桐野さんの文学だと思います


小島さん最新作
『幸せな結婚』小島慶子/¥1600 新潮社
2組の夫婦それぞれの幸せを追求した長編物語。

岩永有理さん(「OEUVRIE(ウヴル)」フローリスト)の場合

人生に必要な感性を高めてくれる、大事な存在

普段から“花”という生きているものを扱う仕事をしているので、感性を磨くことはとても大切だと感じていて。恋愛小説は、ただ読むのを楽しむだけではなく、そういう意味でも自分に必要なものです。

登場人物の揺れ動く心にドキドキしたり、切なくなったり、幸せを感じたり。生きていく中で必要な感情を思い起こさせてくれることが、自身の感性を高めることにつながっていると思うんです。

今は花の仕事が楽しくて毎日本当に夢中なのですが、ともすれば仕事一色になってしまう私に、新鮮な気持ちを吹き込んでくれるので、小説を読む時間もできる限り大切にしたいです

 



岩永さんの「心に効いた」恋愛小説

右:独特の高揚感が胸に広がる
『ジヴェルニーの食卓』 原田マハ/¥560 集英社文庫
結婚2年目、アートへの関心が高まっていた頃に読んだ、大好きな原田マハさんの短編集です。この中の『うつくしい墓』は、画家のアンリ・マティスと家政婦・マリアの淡い関係を描いた話。花を絡めた、二人の運命的な出会いを表す場面の描写は、読むたびに恋のような高揚感が胸に広がります

中央:ときめきが進化し続ける一冊
『きらきらひかる』 江國香織/¥460 新潮文庫
最初に読んだのは、働き始めた20代前半。その頃はヒロインを含めた登場人物たちの、自由でまっすぐな恋愛観に心惹かれました。年を重ね、結婚した今になって読み返すと、昔とは別の場面にも感じ入ってしまい……。私にとっては、恋愛小説が持つおもしろさ・奥深さに気づかせてもらえる作品です

左:純粋な二人の関係が切ない!
『すべて真夜中の恋人たち』川上未映子/¥640 講談社文庫
30代の今、久しぶりに手にとり、心が潤った恋愛小説です! 不器用なヒロイン・冬子と彼女に真摯に寄り添う三束さん。こんなにロマンティックで純粋な二人がいていいのだろうかと、仕事モードの私に、新しい世界を見せてくれました。作中にちりばめられる美しい言葉にも、胸がキュッとなります

菊池亜希子さん(モデル、女優)の場合

新しい季節に心が動いたら、それが恋愛小説を読む合図

私にとって恋愛小説は“季節の変わり目”みたいなもの。秋風の冷たさ、マフラーを出したとき、卒業式や入学式に遭遇したときなど、新しい季節の気配を感じると、なんだか胸の奥がきゅっとなって、恋を思い出したりする。そんなときに、恋愛小説を手にとりたくなるんです。

 

昨年娘を出産したのですが、“ゴールではなくて始まり”と聞いていたけれどもまさにそのとおりで。出産直後は常に眠たくて、あんなに好きだった読書もとても無理だったものの、約半年がたった今、短い物語を楽しむ時間が作れるようになってきました。子どもが寝た後に、お風呂で好きな本を読む時間が至福です

 

菊池さんの「心に効いた」恋愛小説

右:静かな熱量が心地よい名作!
『泣かない女はいない』 長嶋 有/¥490 河出文庫
自分なりの暮らし方が見えてきて、心穏やかに過ごしていた28~30歳頃に読みました。物流会社の倉庫という、派手さとは離れた世界で、淡々と人が人に惹かれていく様子が心地よくて。郊外を車で走っていると、いつもこの作品の登場人物たちを思い出します

中央:恋愛関係の寂しさがこみ上げる!
『しずく』 西 加奈子/¥500 光文社文庫
夫の本棚から拝借。表題作は同棲した恋人同士の猫2匹が主人公の短編。実は私の夫も猫を1匹連れてやってきました。もう1匹は前の恋人が引き取り、2匹は別れて暮らしています。うちの猫も昔の相棒を覚えてるかな。想像すると寂しさと愛しさがこみ上げます

左:恋の渦中も冷静さも味わえる
『袋小路の男』絲山秋子/¥400 講談社文庫
微妙な距離感の人がいた25歳のときに手にとった一冊。表題作は12年にも及ぶプラトニック恋愛の話で、実際にあればとても美しい世界だなと感じました。でも続編は、同じ話がまったく違う視点で書かれていて。いつだって自分の恋愛は、美化しすぎるものだなと痛感!


撮影/露木聡子(小島さん) 富田 恵(ブック) スタイリスト/今田 愛 取材・文/石井絵里
この記事は2018年9月7日発売LEE10月号『30代・40代の「心に効く」恋愛小説』の再掲載です。

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LEE編集部 LEE Editors

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