LIFE

経験を重ねた今こそ響く、人生の処方箋!

30代・40代の「心に効く」恋愛小説/小説家 綿矢りささんの場合

  • LEE編集部

2018.11.12

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Romance novel

人生の大イベントをひととおり経験し、慌ただしい中にも充実感がある私たちLEE世代。そんな今、少しだけできたゆとりの時間で、手にとってみたいのが恋愛小説。恋に胸を焦がしていたあの頃とはまた違うときめきや奥深さを、私たちに与えてくれます!

綿矢りささん 小説家

人生にある、一瞬の輝き。
その瞬間を感じるために、恋愛小説を読みたいし書きたいんです。

1984年生まれ。京都府出身。2001年『インストール』でデビュー。’04年『蹴りたい背中』で第130回芥川賞を受賞。19歳での受賞が大きな話題に。プライベートでは’14年に結婚し、’15年に出産。

恋の持つ強烈な熱量が今だからこそしみ渡る

私たち女性が感じる心の揺れや人間関係の機微を、繊細かつ的確な言葉で表し物語を紡ぐ綿矢さん。作品には恋愛を扱ったものもたくさんあります。そしてご自身も「書くだけではなく、恋愛小説は読むのも大好き」なのだとか!

―綿矢さんにとって恋愛小説とは、どんなものなのでしょうか?

“一瞬の熱さ”を感じさせてくれるものだと思います。“今、これだけのすごいことが起きている!”という、ライブ感と言ってもいいかもしれません。私が恋愛小説を書いているときは、主人公たちには幸せになってほしいと願う一方で、物語が終わったら関係としては穏やかになっていくだろうなとも思っているんです。だからこそ、一番熱くなっている瞬間を書き留めたいし、読み手としても、できるだけ高い熱量を感じさせてくれるものを求めてしまいますね

―さらに年齢を重ねるほど、読み方の幅も広がってきたそう。

結婚と出産を経験し、子育てに向き合う身となってからは、過去の出来事の鮮烈さが薄れ、すべてがひとつにつながっているような感覚になりがち。でも恋愛小説の強烈な熱さに触れると、私の人生にもこういう特別な瞬間って確かにあったな、とあらためて胸が高鳴るというか……。その興奮を心の中で捕まえることに、恋愛小説という文学の余地がある気がしています

―もちろん若い頃から変わらずに惹かれてしまう部分もあるそう。

現実的なお話よりも、小悪魔系の女性が登場したり、ありえない世界を舞台にした、少し壊れかけの恋愛みたいな話が好きです。読むと心がぐっと傷つく感じも、私は恋愛小説に求めているのかもしれません。そして最初に読んだときの感動を、さらに重ね塗りしながら、何度も読みたいタイプです

―30代・40代が読む恋愛小説については「大人だからこそ、まぶしく見える世界がある」とも。

30代前半という自分の年齢を考えると、安定した家庭に飽き、ドロドロの不倫をして……みたいな物語を読んでもいいんでしょうけれども、なぜかそちら方向には興味がいかなくて。むしろ遠い世界になってしまった10代・20代のきらめく青春の恋みたいなものが、昔よりもしみてくるようになりました(笑)。自分が真っ只中にいた頃には、苦しさを感じることのほうが多く、その瞬間の輝きにまで思いを馳せることができなかったんですけれども。振り返るとわかる、きわだつ何かってあるんだと、若い人が出てくる恋愛小説を読むと思ったりしますね。
2歳になる息子を育てながら小説を書いている今は、やがてくるであろう、彼の初恋や青春も気になっています。これから一体、どんなドラマがあるのだろうかって。こっそり想像して、ドキドキしてしまうんです(笑)

 

 

綿矢さんがおすすめ
LEE世代が読むべき3冊

  • 何歳になっても恋の鮮やかさが蘇る一冊! 『落下する夕方』江國香織/¥560 角川文庫 「ヒロインがゆっくりと恋を失っていく過程を描いた長編小説ですが、いつ読み返しても彼女の恋敵・華子の強烈な存在感が色あせません! 華子は、その振る舞いはもちろん、着ているもののすべてまでもが、いちいち“恋愛を極めている”人。女性が感じてしまう、恋への憧れや切なさみたいなものが華子にギュッと詰まっている気がします」
  • 南の島と男女の肉体。官能に圧倒される! 『熱帯安楽椅子』山田詠美/¥420 集英社文庫 「不倫にピリオドを打つためにバリ島を訪れた女性小説家の、めくるめく愛の話。山田さんの小説は10代の頃から好きでしたが、この作品は20代半ばになり、濃厚な恋愛モノにも触れようと読みました。舞台となるバリ島の湿気や登場する男女の体の熱さが伝わってくるような、圧倒的な熱量。山田さん独自の、男性への美学にもときめきます」
  • 恋に殉ずるしかない、深い悲しみが胸に響く 『にごりえ』樋口一葉/¥370 新潮文庫 「明治に書かれた古典名作ですが、読んだのは30歳頃でした。恋愛を売る職業に就かざるをえなかったヒロイン、彼女を愛する男と、その男から無下にされる妻と子ども。今の時代とは比べ物にならない、切実な貧困を背景にした恋愛模様が、とにかく悲しくて、悲しくて……。LEE世代の方にも読んで、何かを感じてもらえたらと思います」
綿矢さん最新作
しなやかに生きる女性たちの短編物語
『意識のリボン』綿矢りさ/¥1300 集英社
母親が亡くなったばかりの20代の「私」は、父親と共に生きていこうと思った矢先に、交通事故にあってしまう――。表題作『意識のリボン』をはじめ、娘、妻、母親と、社会の中でさまざまな立場におかれている女性たちを主人公にした短編集。綿矢さんの作品らしい、しなやかで生命力にあふれたキャラクターたちと、温かい世界観が魅力の一冊。


撮影/戸松 愛(綿矢さん) 富田 恵(ブック) ヘア&メイク/木下 優(ロッセット)(綿矢さん分) スタイリスト/今田 愛 取材・文/石井絵里
この記事は2018年9月7日発売LEE10月号『30代・40代の「心に効く」恋愛小説』の再掲載です。

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