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河崎環

親の夏休み推薦図書!『最強の子育て』を読む【ママの詫び状 第9回】

  • 河崎環

2018.07.20

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夏休みが来る……けど

子供の夏休みを前に親が憂鬱になるなんて、やっぱり日本ってちょっとおかしい。

「ふと気づいたらもう7月よ。ここから9月まで、毎日お昼ご飯作って宿題させて、どこか連れて行って……夏休み明けまで解放されないわ」(小4生と幼稚園生の母)

「うちは幼稚園だけど、お受験する子たちは夏期講習で忙しそう。でもかえって『やることがあっていいなぁ』なんて思うのよね。40日以上も、子供と毎日どう過ごそう……? 遊びも行く場所も、ネタが尽きちゃうよね」(幼稚園年長・年少生の母)

「うちの子は中学受験するから、この夏が天王山よ。毎日の塾弁作りと集団塾への送り迎え、もちろんお盆休みにも個別教室と志望校対策ゼミが入ってる。一息もつけない! 私痩せるかも(笑)」(小6生の母)

——「河崎さんのところはお子さんたちがもう大きいし、愛する息子さんの中学受験も終わったから、すっかり自由ですよね〜」と若いママ友たちに話を振られて、「そんなこともないんですよ……」と思わず頭を抱えてしまった私である。

上の子の出産以来、20年以上も子育てをしてきて、私はとにかくずっと「学校」に忙しかった気がする。目も覚めるような優秀極まりない子供に恵まれてみたかったけれどそんなわけはなく、節目節目の受験やその準備、学校選び、入学してからも学校のペースに遅れない努力、(子供が学校に日々”ご迷惑”をおかけしているという自覚のもと)PTA役員を務めるなどして学校に恩返し。2箇所の海外赴任先では日本以上の言語的・文化的プレッシャー下で同じことを子供2人分行い、「教育サバイバル」してきた。物書きとしては子育てや教育現場はネタの宝庫だし、たくさんの人にも物事にも触れて刺激的な反面、やっぱり忙しかった。

上のしっかり娘は、さすがに大学4年生なので親は衣食住のテキトーな提供以外完全にハンズフリー。でも中1の息子にはなんだかんだ日々お弁当を作っていて、とにかく毎日制服や体操着をせっせと洗濯している。デキがよろしいとは言い難い息子の中間・期末試験のたびに親の血管がぶっちぎれ、身長もグングン伸びて「かさばる」息子が夏休みじゅう家で自堕落に過ごすのが鬱陶しいので、母は夏のキャンプや部活動スケジュールを入れて家から放り出す。進学モードの学校は学校による夏期講習や夏の課題も多いので、その辺のスケジュール感も親がさりげなく把握し、来たるべき夏休み最後のカオスに向けて心の準備をする。

いつも忙しく追われていて余裕がなくて「教育が貧しい」日本

中高生の子育てでは「手は離しても、目は離さないで」なんてフレーズをよく聞くけれど、本当にその通りだと実感する。もう送り迎えの必要はないし、食事だってある程度放っておいても自分で適当に食べられるようになった。あの毎日(心配すぎて)手をぎゅっと繋いで歩いていた保育園・幼稚園や小学校低学年時代からすれば、確実に手は離れたものだと遠い目で過去を振り返る。

でも中高生の母たちに聞くと、やっぱりみんな子供に対してアンテナはまだビンビンに張っている。だって、目を離すとずっとスマホを握りしめてLINEするかYouTube見るかゲームするかで、貴重な10代をスマホの上だけでダラダラ消費してしまうから。すべきことを放って、年齢の割に幼い人間関係や電子刺激にばかり、時間と柔らかい脳細胞と鋭敏な神経を使ってしまうから。

ゆとり教育からの揺り戻しで学習量もドンと増えた中で育つ彼ら、2020年にはさらに「このままじゃダメだ」と大学受験制度だって変わる、大きな潮目のど真ん中にいるというのに……。

日本って豊かな国のはずなんだけど、「日常からの解放」の代名詞で楽しいはずの夏休みが憂鬱に感じられたり、いつまで経っても親が子離れできず、子も親離れできず、家庭教育の責任感や負担感が重くのしかかったり、どうも「教育が豊か」とは当事者たちには感じられない。むしろ、いつも忙しく追われていて余裕がなくて「教育が貧しい」感じだ。

 

「戦後最大級の大学入試改革で、日本社会のOSが大きく変わる」⁉︎

 

LEE読者の皆さんは、2020年度の大学入試改革を、どれくらいの温度感で受け止めているだろうか。

今年高3生の子を持つ母は苦々しげにこう言った。「子供には『1浪でギリギリ(現行制度だから)、2浪だけは絶対させられない(新制度だから)』って、宣言してあるわ」

高2生の母は頭を抱えた。「絶対に現役(現行制度)で合格してもらわないと! 旧制度と新制度、両方勉強することになるなんてうちの子には無理。この数年、少子化に合わせて私大が合格者数をグッと絞ってきたし、親の世代の受験の感覚が全然通用しないのよ。もう親が情報収集に必死!」

今年の春に子供の高校受験を終えたばかり、高1生の母はこう言った。「うちの子の大学受験年度にドンピシャで来るのよ。うちの子は2020年度の大学入試改革には対応できそうにないから、大学受験しなくていいように大学付属校ばかり狙って受けたの。受かってくれて本当にホッとした……これでもう受験に付き合わなくていいわ」

どうしたのか、まるでアポカリプスかハルマゲドンか、この世の終わりでもくるかのような空気である。確かに、いきなり大学入試制度の切り替えが「降ってきた」当該年度の受験生は気の毒で、「大変だね……頑張ろう」との言葉しかかけられない。でも受験生本人よりも親たちが2020年度の大学受験を必死に回避させようとする努力、「うちの子は対応できそうにない」と湧き出る不安は、親たちが、自分たちの経験したことのない評価基準の到来を恐れる気持ちから来るものかもしれない。なぜって、たぶん親の多くが知識偏重型の共通一次やセンター試験で大学受験をくぐり抜け、試験結果や出身学校の偏差値評価で人をも評価するような世間の価値観に反感を覚えながらも、長い間その社会で生きてきて、その評価基準がバッチリ染み付いてしまったからである。

そこのあなた、「東大」と聞いた瞬間に「へぇ」って思ったり、ムカッとしたりするような様々な感情にみじんも覚えがないわ、なんて言わせませんよ……。私たちは残念ながら、旧社会(偏差値教育)の見事なたまものなのだ。

そんな風にして私たちがこれまでの人生を浸してきてしまった日本社会のOSが、この戦後最大級の大学入試改革によって変わると断言しているのが、『不安な未来を生き抜く 最強の子育て』(佐藤優・井戸まさえ共著、集英社)という本。変わる社会を子供が生き抜けるようにどう育て、どんな教育を選んで行けばいいのか、わかりやすく読みやすく具体的に教えてくれている。

国も「本気」。だから親も子も「本気」で迎え撃つ

 

政治家・社会活動家であり5児の母でもある井戸まさえさんが、2020年の大学入試改革で何がどう変わり、親はどう備えればいいのかを「知の巨人」と呼ばれる作家・佐藤優さんに聞く、この本

LEE読者の皆さんも、これから子供に大切なのは「論理の力」だとか、「アクティブ・ラーニング」の導入が進むらしいとか、AO入試や推薦入試が拡充されるとか、語学教育も自分たちの時代とは段違いに本格的になるらしいとか、耳にしたことはあるかもしれない。それらがなぜ大事で、どのような能力が求められ、親は(旧社会で育った生き物なりに頭を切り替えて)どんな教育の地図を描いて準備し、子供たちはどのような姿の大人になるのか。今まで不安を煽られるばかりで見えづらかった未来から、霧が晴れて行くような感覚を覚えさせてくれる本だ。

例えば身近な話題でいうと、小さいお子さんをお持ちのLEE読者さんの中には日々取り組んでいる人もいるかもしれない「英語の早期教育」。以前から賛否両論あるけれど、それは果たして意味があるのか、そして意味がある活動にするにはどう取り組むべきなのか、かつて外務省に在籍した佐藤優さんのバシッとした指摘に、「そうか!」と迷いがなくなるはず。

人間はAIに駆逐されるだとか、私たちは自分の子供を世間があおるようなディストピア(理想郷の逆)に送り込みたいなんて、1ミリも思っていない。地図があれば行く方向も、行き先も決められる。信頼のおける書があれば、心も方針も決まる。夏休み、学校推薦図書で読書感想文を書く子供たちの横で、親もぜひこの夏の読書に『最強の子育て』でパワーを補給して欲しい。

河崎環 Tamaki Kawasaki

コラムニスト

1973年、京都生まれ神奈川育ち。22歳女子と13歳男子の母。欧州2カ国(スイス、英国)での暮らしを経て帰国後、子育て、政治経済、時事、カルチャーなど多岐に渡る分野での記事・コラム執筆を続ける。2019秋学期は立教大学社会学部にてライティング講座を担当。著書に『女子の生き様は顔に出る』(プレジデント社)。

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