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映画ライター折田千鶴子のカルチャーナビアネックス

これぞ究極のアンチエイジング映画! 松坂桃李さんが『娼年』で“妖艶な娼夫”を熱演!

  • 折田千鶴子

2018.04.03

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小説から舞台、そして映画へ

LEE読者の皆さんの中にも、朝の連続テレビ小説「わろてんか」を、ヒロインの“包容力のある優しい夫”を演じた松坂桃李さん目当てで楽しみにされていた方も、かなり多かったのでは!?

そんな松坂さんが爽やかな朝の顔から夜の顔へと大変身し、文字通り体当たりで熱演されている映画『娼年』が公開になります。

1988年10月17日生まれ、神奈川県出身。
09年、「侍戦隊シンケンジャー」に主演で俳優デビュー。主演映画『ツナグ』『今日、恋をはじめます』(共に12) などで注目され、同年の連続テレビ小説「梅ちゃん先生」でお茶の間でもブレイク。『マエストロ!』『エイプリルフールズ』『日本のいちばん長い日』(全て15)、『湯を沸かすほどの熱い愛』(16)などで演技派俳優の地位を確立する。他の代表作に、ドラマ「視覚探偵 日暮旅人」(15~)「ゆとりですがなにか」(16~)、映画『キセキ -あの日のソビト-』『ユリゴコロ』『彼女がその名を知らない鳥たち』(全て17)、『不能犯』(18)など。公開待機作に『孤狼の血』(5月公開)がある。  ヘアメイク・高橋幸一(Nestation)/スタイリスト・ 伊藤省吾(sitor)/撮影・梅村駿

ご存知の通り原作は、01年に直木賞候補となった石田衣良氏の同名小説。その小説が何と15年の時を経た一昨年、舞台化され、大きな話題を呼びました。

だって人気俳優の松坂桃李さんが、女性たちの欲望の世界へ踏み込んでいく“娼夫”リョウを、一糸纏わぬ姿で演じたのですから!! もちろん話題は大沸騰、チケットは即時完売となりました。

残念ながら私自身は舞台を観る機会を逃しましたが、観劇したLEEの副編集長は、「とにかく松坂くんの体の張り具合いがスゴかった、息を詰めて見守ったわ……」と呆然としていました。その反応が示す通り、評判が評判を呼び、連日当日券を求める人々が長蛇の列をなしたそうです。その伝説の舞台が、監督・三浦大輔×主演・松坂桃李のコンビ続投で、完全映画化されたのです!

 

『娼年』
4月6日(金) TOHOシネマズ新宿ほか全国ロードショー
企画製作・配給:ファントム・フィルム
©石田衣良/集英社 2017映画『娼年』製作委員会

http://shonen-movie.com/

 

監督と再び“共犯関係”になろうとしました

当時の舞台を松坂さんは「無の境地になった」と振り返りますが、そこまで突き詰めて演じた役を、再び映画として再構築して演じるというのは、とてつもない作業に違いありません!

「僕も三浦さんも、舞台で全てを出し切った後の脱力感がすごくて、映画化に当たってもう一度“ヨッコラショ”と掘り起こすのは、非常に難しかったですね。でも2人で飲みにいって、“映画、やるよね?”“監督もやりますよね?”“ふむふむ”みたいな感じで、“お互い、もう一度共犯関係になろう”というところから、再度モチベーションを作り上げていきました」

――激しいラブシーンもあるリョウという役がオファーされた当時は、戸惑いましたか?

「映画で続投できるのは、もちろん純粋に嬉しかったですが、舞台の時も、こんな役が来てくれてラッキーだと思いました。この年齢で、今しかできない役、そんな作品が、自分に回って来るなんて、なんて運がいいんだ、と。30代になるに当たり、色んな色の作品に踏み込んで行くことが必要な時期だと思っていましたし。お陰様でこの舞台以後、いただくお仕事が少し変わったな、と自分でも思いますね。すごい挑戦を担う重みも感じましたが、 “重圧は監督と半分こで”と思いながら監督を信頼し、臨みました」

――そして撮影の約3週間、渋谷のビジネスホテル暮らしをされていたそうですね?

この作品の集中の仕方は、それくらいして丁度いいかな、と。自分のオンオフのスイッチを、普段は家に帰ることでオフにするのですが、ほんのちょっとだけオンにしたままで居続けるのが丁度いいかな、と」

 

“リョウ”として映画でこだわったもの

女性にも恋愛にも興味が持てない大学生の“リョウ”は、投げやりな日々を送り大学へも行かず、バーテンのバイトが生活の中心となっていた。ある晩、その店に、ボーイズクラブを経営する静香が訪れます。彼女から“ある試験”を提案されたリョウは、それを受け、娼夫として働くことになります。そして女性たちの様々な欲望に触れるうち、その奥深さに気づき、少しずつ変わっていくのです。仕事に遣り甲斐を感じ始めたリョウは、瞬く間にトップクラスの娼夫となるのですが――。

――舞台と映像の違い、今回の映画でよりこだわった点、目指したものは何だったのでしょう?

「映像になると、より監督の意図するところをフォーカスすることになる。つまり繊細な部分をより深く掘れるので、リョウが女性と出会ったことによる微妙な変化、舞台では表現し切れなかった女性に対する思い、優しさ、それらがどんどん大きくなっていく、という表現にこだわりました」

「僕の中でリョウは大きな海みたいな男、だと思っていて。自分でもそれに気づかずに泳いでいくうち、海の広さを知っていくというか。同時に深いところへも潜って行く。それが大きな優しい器になっていくのだ、と。その変化、その気づきの感覚を大切にしながら、今回の現場に臨みました」

映画ではアンニュイな表情が多いですが、この日の撮影では、クルクルと色んな表情を見せてくれました!

――実際のラブシーンは、どのように撮影が進められたのでしょう?

「例えば絡みのシーンがアドリブになってしまうと、ただの絡みになってしまう。でも本作が目指したのは、そこでのコミュニケーション、会話のないセリフのやり取り。絵コンテも作ってあったので、リハーサル段階で入念に、この感情のときはこう動く、ということを三浦さんと話し合いながら作っていきました。本番でそこに感情を乗せる、という作業でしたね」

――例えば、『彼女がその名を知らない鳥たち』でのラブシーンとは、どう違いましたか?

「あっちは性欲で動く濡れ場ですが、本作は、自分の柔らかいものをお互いにさらけ出した上でのコミュニケーション、という感覚に近いので、全く違いました。お芝居に最も嘘が付けないシーンでもあるので、何度もテイクを重ねていくと、“あ、今、お芝居の感情が75%くらいだったかな”という瞬間もあり、それを絶対に三浦さんは見逃さない(笑)。1日中、濡れ場シーンに費やした日もあって、精神的にも体力的にもすごくハードで疲れました。」

「確かにお互い触れ合うことによって、他のお芝居とは違う距離感、感情の高まり方、生まれる空気感はあると思います。別の感情の湧き出方、というか。その鮮度を保つのが、精神的に大変な部分でもありました」



リョウを通して、女性観は変化した?

――女性と肉体的な関係を持ち、女性の様々な欲望を知ることで、リョウ自身も変化していきました。“欲望”を見せるって大事ですよね。

「言うなれば、リョウ君のパターンとして、きっかけはセックスだったということであり、別に性行為を通さずとも、ものの考え方や受け止め方に変化が生じる瞬間はあると思います。ただ欲望を出す/示す、というのは非常に大事なことだと思いますね」

リョウとボーイズクラブのオーナーの静香さん。演じるのは、真飛聖さん。リョウと静香さんの関係が、物語の大きなキーとなります。

――リョウを演じたことにより、これまで気づかなかった女性の魅力に、松坂さん自身が気付いたものは何かありますか?

「改めて、どんな女性にも可愛らしい部分、ステキな魅力があるんだな、ということを本当に再認識させられました。リョウ君がなぜ、それに気づけたかというのは、セリフにもある“それは、リョウが普通だからだよ”ということに集約されている、と。リョウは普通だからこそ、気づくことが出来たのだと思います」

――もしも、描かれているような欲望を、松坂さん自身が女性に求められたらどうしますか?

「登場する女性たちは、自分の欲望をきちんと自覚し、必死で叶えようとする、その素直さがいいし、その姿が魅力に繋がっていると思います。だから僕が女性から、そうした欲望を示されたとしても、驚きはしないですね。全然、受け止められると思います。元々姉と妹の間で育ってきたという免疫もあり、色んな女性のタイプがいるんだぞと叩き込まれて来たので(笑)」

 

これは究極のアンチエイジング映画!

さて、「娼年」「逝年」という原作を読んだときも感じましたが、映画を観ながらも同じように感じたことがあります。それは……松坂さん演じるリョウが、主に年上の女性(30~40代を中心に70代まで!)の欲望に耳を傾け、その欲望を叶えていくという姿を見ていると、自分自身がどことなく癒されていく感覚を覚える、ということです。

“こんな欲望を恥ずかしくて他の人には言えない”というようなことをリョウに受け入れてもらえた安心感、ずっと年下の男の子にセックスを通して肯定してもらえる歓び、みたいな感覚がすうっと胸に落ちて広がるような……。

リョウは静香さんに母の面影を重ねながら、惹かれていきます。

そう、本作はまさしくアラサー以降の女性にとって、究極のアンチエイジング映画になっているのです! 若さ=女性の魅力ではないと、優しく諭してもらえるような気がしてくるのです。そんな呟きをキャッチされた松坂さんが一言、「そうですね、とっても優しい映画だと僕も思います」。

こんな窮屈な時代だからこそ人には言えぬ欲望をリョウによって満たされ、肯定される女性たちの姿に、観る私たちが癒されても良いのではないでしょうか?

もちろんスキャンダラスな要素もたっぷりですよ! だってステキな松坂さんが体当たりでいくつものラブシーンを演じられているのですから。それ目的で観に行くのも、もちろんアリだと思います! その先に何を感じるかは、貴女次第ですから!!

さて、映画『娼年』は4月6日より全国ロードショーされます。是非、劇場の大スクリーンに映し出される松坂さんの妖艶な姿をご堪能ください!

 

今の、そしてこれからの松坂桃李さん

さて、最後にオマケです。色んな女性たちの欲望が登場しますが、現在の松坂さんは、何か<欲望>はないでしょうか?

「う~ん、自分ではガツガツしているつもりなんですが、あんまり欲望を覚えるものがなくて。物欲もあまりないし……。20歳の頃の方が、まだ欲がありましたね。別に満たされているわけではないのですが、自分の中で執着がなくなり、20代とは別のスタンスになっている気がします」

「でも頑張って滅茶苦茶仕事をして、その年の末にマネージャーと、“いやぁ、今年もやりましたね!”って会話をしたい欲ならたくさんあります(笑)。とにかく今は色んな監督や作品に、とにかく触れていきたい時期。仕事欲はありますね。30代に差し掛かった今は、次に待ち受ける40代に繋がる30代にしたいな、と思っています。矛盾していますが、でも休みたい欲は普通にあります(笑)」

このクシャッとした笑顔に、誰もがほだされてしまいます!

――もしもお休みが転がってきたら、どんな風に過ごしますか?

「もう、とにかくダラダラ、グダグダしたい。ゴロ寝願望です。できれは少なくとも3日は、ずっと家に居続けて、出前を取って家でダラダラし続けていたいですね」

多忙ゆえの<欲望>は、とってもささやかな松坂さんでした!! 松坂さんのこれからの30代が、今から益々楽しみですね!

舞台・映画とはまた一味違う原作もオススメです! 舞台・映画の原作『娼年』、娼夫の世界に入って1年経ったリョウを描いた『逝年』、そして4月5日に発売となるシリーズ最新作『爽年』。 映画のあの登場人物が、こんな重要な役割を担っていたのか……など驚きも満載です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

映画『娼年』完成記念!集英社女性誌7誌が松坂桃李に迫る「ハピプラワン」特設ページ

★第1弾はこちらから

★第2弾はこちらから

折田千鶴子 Chizuko Orita

映画ライター/映画評論家

LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。

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